第30夜 別れ
夜が明けた。
――警察署。
取調室。
机を挟んで、神崎とデビルが向かい合っている。
デビルは逮捕されたにもかかわらず――
顔は真っ白なままだった。
神崎はその顔をじっと見つめる。
デビルは、ほんの少し口角を上げる。
「……」
神崎は資料を机に置く。
「お前がやったことは、全部調べる」
デビルは黙ったまま、ニヤッと笑う。
「……何がおかしい?」
「さあな」
デビルは小さく笑う。
「ヒャハ……」
神崎は目を細める。
――その頃。
相馬モータース。
地下整備場。
蓮は上半身を脱ぎ、相馬に背中を見せていた。
背中には――
赤く残った火傷。
「全く……油断しやがって」
相馬が傷を確認する。
「俺のスーツがなければ重症だったぞ」
「……」
「今回は軽い火傷で済んだが、どんな状況だろうと二度と油断するなよ」
「分かってる……」
蓮は小さく息を吐く。
「それに……相馬さんには感謝してる」
「何がだ?」
「おかげで、美咲を救えた」
相馬は少し黙る。
「……今日、会うのか?」
「ああ」
「そうか」
相馬は蓮を見る。
「無理はするなよ」
「分かってる」
――そして夜。
山の上の展望台。
以前、相馬に連れてきてもらった場所。
美しい夜景が広がっている。
蓮と美咲が並んで立っていた。
美咲が夜景を見つめる。
「まさか……蓮くんがノワールナイトだったなんて」
「……黙ってて悪かった」
「どうして黙ってたの?」
「危険に巻き込みたくなかったんだ」
美咲は少し笑う。
「それ、あまり効果なかったみたいだけど」
「……確かに」
蓮が苦笑する。
――沈黙。
二人の間に、静かな時間が流れる。
やがて美咲が口を開く。
「私が止めても……ノワールナイトを辞める気はないんでしょ?」
蓮は答えない。
そして――
「ああ」
「この世に悪が存在する限り、ノワールナイトは戦い続ける」
「……そう」
美咲は俯く。
「それなら……」
少し間を置いて。
「あなたとは一緒にいられない……」
蓮が美咲を見る。
「あなたにもし何かあったら……私は耐えられない」
「……」
「それに……毎日、蓮くんの無事を祈りながら帰りを待つ生活はしたくないの」
蓮は静かに頷く。
「分かってる……」
美咲が蓮を見る。
「でも……これだけは分かってほしい」
「私はノワールナイトの蓮くんが好きなんじゃない」
「黒崎蓮くんが好きなの」
蓮は何も言わない。
「だから……」
「もし、いつかノワールナイトの戦いが終わったら……」
「また会いに来てほしい」
蓮は静かに答える。
「ああ……」
――その後。
蓮は車で美咲を自宅まで送る。
車を降りる美咲。
二人はしばらく見つめ合う。
「……じゃあ」
「ああ」
美咲は歩き出す。
蓮はその背中を見送る。
美咲も一度だけ振り返る。
そして――
静かに別れた。
――その夜。
相馬モータース。
蓮は相馬に相談していた。
「この世に……悪が存在しなくなることなんて、ないのかな」
相馬は黙って聞いている。
「俺は……いつまで戦えばいいんだろう」
「どうした?」
相馬が蓮を見る。
「ノワールナイトをやめたいのか?」
「別に……そんなんじゃない」
「辞めたきゃ辞めればいいさ」
「俺はもともと反対だったんだからな」
「だから、そんなんじゃないって……」
相馬は静かに言う。
「お前はどうしたいんだ? 蓮」
蓮はしばらく黙る。
そして――
「俺は……」
拳を握る。
「悪が存在する限り、戦い続ける」
「ノワールナイトとして……一生」
相馬は蓮を見つめる。
「そうか」
そして――
「男が一度そう決めたんだったら、黙って続けろ」
「覚悟がないならやめろ」
「ただ、それだけだ」
蓮は頷く。
「……分かってる」




