第29夜 決着
夜。
街の別の場所。
相馬は黒いロングコートを身にまとい、黒い手袋。
目だけが見える簡素な黒いマスクを被り、ノワールとして出動していた。
胸元には――
黒い鳥の紋章。
「……」
その前に立っていたのは――
RAVEN。
隊長と、その部下たちだった。
周囲には、倒されたデビルの部下たち。
そして――
解除された爆弾。
相馬がRAVENを見つめる。
「まさか、お前たちまで協力してくれるとはな」
RAVENの隊長が鼻で笑う。
「ふん」
そして、街を見渡す。
「デビルという謎の男に、この街をそうやすやすとくれてやるわけにはいかんのでな」
「これは我々のプライドの問題でもある」
相馬は黙っている。
「泳がせてはいたが……今回は調子に乗りすぎだ」
隊長は背を向ける。
「いずれ、この街は俺たちのものになる」
「ブランのものだ」
そして――
「それまで、せいぜい楽しんでいろ」
RAVENは闇の中へ消えていった。
相馬はその背中を見送る。
そして――
街に残された人質を確認する。
「……よし」
爆弾は解除されている。
市民たちも、次々と解放されていく。
相馬は小さく息を吐いた。
「蓮……」
「お前は、お前の戦いをしろ」
――その頃。
別の場所。
ノワールナイトは、街を走っていた。
美咲は救った。
しかし――
まだ終わっていない。
デビルがいる。
ノワールナイトはマスクに手を当てる。
システムを起動する。
街中の防犯カメラ。
市民たちの声。
それらが次々とマスクへ送られてくる。
大量の情報が、視界に流れ込む。
ノワールナイトは一瞬、動きを止めた。
「……」
そして――
小さく呟く。
「本当は……こんな機能、使いたくない」
このシステムは、街中の情報を集めるためのもの。
蓮自身が好んで使うものではない。
それでも――
今は使うしかない。
「……見つけた」
一つの映像が浮かぶ。
そこには――
デビル。
――その時だった。
――ドンッ!
背中に強い衝撃。
ノワールナイトの身体が前へ吹き飛ぶ。
「……!」
振り返る。
そこに立っていたのは――
鉄パイプを持ったデビル。
「デビル……」
デビルは笑う。
「市民より女を優先したノワールナイトじゃあないか」
「市民はもう助からないな」
ノワールナイトは立ち上がる。
「そんなことはない」
「ほう?」
デビルは楽しそうに笑う。
「まだ爆破までに少し時間があるが……」
コートの中からスイッチを取り出す。
「これで爆発させてやるよ」
「よせ……」
「もう遅い」
――カチッ。
デビルがスイッチを押す。
しかし――
何も起こらない。
「……?」
デビルがもう一度押す。
――カチッ。
さらに押す。
――カチッ、カチッ。
「何でだ……?」
デビルの顔から笑みが消える。
その時――
ノワールナイトの通信が入った。
『任務完了だ』
相馬だった。
蓮は静かに目を閉じる。
「……遅いのは、お前の方だったみたいだな」
「……チッ」
デビルが舌打ちする。
ノワールナイトがデビルを見る。
「お前も、お前の組織もここまでだ」
デビルは笑い出す。
「組織?」
「組織なんて壊滅しようがどうなろうが、俺にとっちゃどうだっていい」
「楽しめりゃ、それでいいのさ」
デビルはスイッチを捨てる。
「組織なんてものは――」
「俺様が楽しむための道具の一つに過ぎない」
そして――
ノワールナイトを見つめる。
「それより、お前は背中に気を付けたほうがいいぞ?」
「……?」
ノワールナイトが振り向く。
――ピッ。
背中には――
小型の爆弾。
「……!」
――ドォォォン!
爆発。
ノワールナイトは吹き飛び、地面にうつ伏せに倒れる。
「ヒャハハハ……!」
デビルが近づいていく。
そして――
ノワールナイトを蹴る。
身体が仰向けになる。
「さあ……」
デビルがマスクに手を伸ばす。
「その顔を見せてもらおうか」
その時――
「そこまでだ、くそ野郎!」
デビルが振り返る。
神崎隼人。
銃を構えていた。
「ノワールナイトからもらったGPSをたどってきた」
「おっと……」
デビルが両手を上げる。
「降参だ」
神崎は銃を構えたまま、デビルを睨む。
「そのまま動くな」
次の瞬間――
デビルが神崎へ飛びかかる。
――ガッ!
銃を奪い取る。
「銃を突きつけたからって、油断しすぎじゃあないか?」
デビルが銃口を神崎へ向ける。
そして――
――カチャ。
引き金を引く。
しかし――
何も起こらない。
「……?」
デビルが銃を見る。
神崎が言う。
「それは空砲だ」
「……あ?」
「時間稼ぎだよ」
その瞬間――
――バシュッ!
背後から――
黒い羽根のような刃が飛んできた。
デビルの首に刺さる。
「何だ……?」
デビルの身体が震える。
「麻酔だ……」
そして――
――ドサッ。
地面へ倒れた。
ゆっくりと立ち上がるノワールナイト。
神崎が駆け寄る。
「大丈夫か?」
「俺なら大丈夫だ」
ノワールナイトはふらつきながら立ち上がる。
「気にするな」
そして――
街を見る。
「それより……」
「この街の人たちを救ってやってくれ」
神崎は頷く。
「ああ」
ノワールナイトは背を向ける。
ふらつきながらも歩いていく。
そして――
ワイヤーを射出。
――ヒュッ!
夜空へ飛び上がる。
闇の中へ消えていく。
その先には――
少し離れた場所に、ナイトバイクが停まっていた。
ノワールナイトはまたがる。
ナイトバイクは静かに走り出し――
やがて夜の街へ消えていった。
――地上。
デビルは麻酔の影響で、完全に動けなくなっていた。
神崎が近づく。
「終わりだ、デビル」
神崎はデビルのマスクへ手を伸ばす。
――カチャ。
マスクが外れる。
「……」
神崎の動きが止まる。
そこにあったのは――
真っ白な顔。
目の周りは薄く灰色で縁取られている。
赤黒い唇。
髪型だけは普通の人間と変わらない。
なのに――
その顔には、異様な違和感があった。
神崎が思わず呟く。
「……こいつ、何なんだ……」
デビルは目を閉じたまま。
しばらく動かない。
そして――
ほんの少しだけ。
口角が上がる。
「……」
神崎が息を呑む。
デビルは薄く目を開ける。
「……ヒャハ」
そして――
「……ハハハ……」
そのまま、意識を失った。
神崎はデビルを見つめる。
そして手錠を取り出した。
「……確保」
遠くから、パトカーのサイレンが響き始める。
こうして――
デビルは逮捕された。
しかし――
その白い顔から、狂気が消えることはなかった。
それは仮面でも、変装でもない。
デビル自身が選んだ――
狂気そのものだった。




