第28夜 悪魔の街
夜。
街は、いつもと変わらない夜を迎えていた。
その時――
――ドンッ!
遠くで大きな爆発音が響いた。
「きゃあああ!」
悲鳴が上がる。
人々が一斉に逃げ始める。
その先に現れたのは――
白い悪魔のマスクを被った男たちだった。
「逃げろ!」
「助けてくれ!」
白い悪魔たちが街中を襲っていく。
さらに――
数匹のドーベルマンが放たれる。
「行け!」
犬たちが人々を追いかける。
街は一瞬にして混乱に包まれた。
そして――
その中心を、ゆっくりと歩く男がいた。
デビル。
「ヒャハハハハハハ!」
デビルは笑いながら街を見渡す。
「もう誰も救わせないぞ……ノワールナイト!」
「この街は、俺のものだ!」
近くにいた警察官たちが無線を取る。
「こちら中央通り! 応援を要請する!」
しかし――
白い悪魔たちが襲いかかる。
「ぐあっ!」
警察官が倒れる。
別の警官もドーベルマンに襲われる。
「くっ……!」
街のあちこちから悲鳴が響き渡る。
――その頃。
高層ビルの屋上。
神崎隼人とノワールナイトは、街を見下ろしていた。
「……ひどいな」
神崎が呟く。
ノワールナイトは何も言わない。
ただ、街を見つめている。
「行くぞ」
ノワールナイトが屋上から飛び降りる。
ワイヤーを射出。
そのまま街へ向かう。
神崎も後を追う。
――街。
デビルが笑いながら歩いている。
その時だった。
「動くな!」
神崎が銃を向ける。
デビルが笑う。
「ヒャハハ……!」
――パンッ!
銃声。
「ぎゃあああ!」
デビルの肩に銃弾が当たる。
「な……!」
デビルが倒れ込む。
神崎が銃を構えていた。
「動くな!」
ノワールナイトも近くの白い悪魔たちへ飛び込む。
――ドンッ!
一人を蹴り飛ばす。
――ガッ!
もう一人の腕を掴み、地面へ叩きつける。
その間に神崎が倒れたデビルへ駆け寄る。
「正体を見せてもらうぞ」
神崎はデビルのマスクを外す。
そこにいたのは――
まだ青年と呼べるほど若い男だった。
男は怯えながら、なぜか笑っている。
「ふっ……ふふふ……」
「何がおかしい!」
神崎が銃を向ける。
「お、おれは……デビルじゃない……」
「何?」
「デビルのふりをしろと……命令されただけだ……」
「じゃあ本物はどこだ!」
「知らない……」
男は震えながら答える。
「あの方の考えていることは……誰にも分からない……」
「どういう意味だ!」
しかし男は、それ以上何も答えなかった。
――その頃。
どこかの高層ビル。
屋上。
デビルが立っていた。
その隣には――
両手を縛られた美咲。
「……!」
美咲は怯えながら、デビルを見つめる。
デビルは街を見下ろしていた。
そして――
街中の大型モニターや携帯電話に、一斉に映像が流れ始める。
デビルの姿が映し出される。
「ノワールナイト……聞こえているか?」
「この女を見ろ」
画面に、美咲の姿が映る。
「そうだ」
デビルが笑う。
「お前が何度も救ってきた女だ」
そして画面が切り替わる。
街の各地。
拘束された大勢の市民。
その周囲には、銃を持った部下たちが立っている。
彼らは、死ぬ覚悟を決めていた。
「この街には、まだまだ人質がいる」
「さて……選べ」
デビルは笑いながら言う。
「白石美咲は、グランタワー屋上」
「市民たちは、旧中央駅地下駐車場」
「距離は約八キロだ」
「10分で両方を救えると思うか?」
「選べ、ノワールナイト」
「そこの女一人か――」
「大勢の市民かーー」
「どちらかを爆発させる」
美咲が目を見開く。
「やめて!」
「10分後だ」
デビルが時計を見る。
「さあ、選べ……ノワールナイト!」
「ヒャハハハハハハ!」
――その頃。
ノワールナイトと神崎は、映像を見つめていた。
「……どうする、ノワールナイト?」
しばらく沈黙。
(美咲……。)
やがて――
「市民を救う!」
神崎はノワールナイトを見る。
「……分かった」
「なら俺たちは、彼女のところへ向かう」
二人が走り出す。
その時――
ノワールナイトの携帯が鳴った。
「……?」
ノワールナイトが足を止める。
通信を確認する。
相馬からだった。
『蓮。聞こえるか』
「相馬さん?」
『多くの市民の人質は、俺がなんとかする』
「……!」
『だから、お前は彼女を救ってやれ』
ノワールナイトはしばらく黙っていた。
『心配するな』
通信が切れる。
ノワールナイトは拳を握る。
「……ありがとう」
神崎が振り向く。
「行くぞ」
「ああ」
ノワールナイトは美咲のいるビルへ向かった。
――その頃。
街の別の場所。
相馬は一人、黒いスーツを身につけていた。
黒い警察用防刃ベストを染め直した簡易スーツ。
フードの付いた黒いロングコート。
黒い手袋。
目だけが見える簡素な黒いマスク。
その上からフードを深く被る。
手には警棒とワイヤー。
相馬は、その姿を鏡に映す。
「……借りるぞ」
静かに呟く。
「恒一……」
相馬は街へ向かってバイクで走り出す。
――高層ビル屋上。
美咲は縛られたまま座っている。
デビルは時計を確認していた。
「あと七分か……」
その時。
――カツン。
背後から足音。
デビルが振り返る。
「……来たか」
そこに立っていたのは――
ノワールナイト。
「まさか……」
デビルが笑う。
「大勢の市民より、そこの女一人を選ぶなんてな」
「大切な彼女を優先して、何が正義だ?」
デビルが美咲の肩を掴む。
「やめて!」
「黙れ」
ノワールナイトが低い声で言う。
「彼女を離せ」
「ああ」
デビルが笑う。
「望み通り離してやるよ」
次の瞬間――
デビルは美咲をビルの端へ突き飛ばした。
「きゃああああ!」
美咲の身体が宙へ落ちる。
「……!」
ノワールナイトは迷わず飛び降りた。
――ヒュッ!
ワイヤーを射出。
美咲の身体を掴む。
そのまま別のビルへ飛び移る。
――ドンッ!
二人は屋上へ転がり込む。
「はぁ……はぁ……」
ノワールナイトの荒い息が響く。
「大丈夫か……?」
美咲は震えながらノワールナイトを見る。
「ええ……ありがとうございます」
「……助かった……」
しかし――
ピッ。
小さな音。
ノワールナイトが美咲の身体を見る。
服の下に――
爆弾が固定されていた。
「……!」
カウントダウン。
00:30
「あと30秒……!」
しかも、カウントダウンは早まっていた。
ノワールナイトはすぐに爆弾へ手を伸ばす。
美咲が叫ぶ。
「離れて!」
「君を見捨てはしない……!」
「いいから!」
ナイフを取り出す。
固定具を切る。
――カチッ。
00:20
「くそっ……!」
さらに切る。
――カチッ。
爆弾が外れる。
「よし!」
ノワールナイトは爆弾を掴み、空高く投げる。
「走れ!」
二人が離れる。
――ドォォォン!
爆弾が上空で爆発する。
爆風が屋上を襲う。
ノワールナイトは美咲に覆いかぶさり、爆風から守る。
しばらくして――
静かになる。
「……よかった」
美咲はノワールナイトを見つめていた。
ノワールナイトは立ち上がる。
「……」
そして、その場を去ろうとする。
その時――
美咲がノワールナイトの手を掴んだ。
「待って」
ノワールナイトが振り返る。
「あなたは……一体誰なの?」
「……」
「何度も私の命を救ってくれた」
美咲の目に涙が浮かぶ。
「その人の名前くらい……知っておきたい」
ノワールナイトは黙っている。
やがて――
「信頼されるかどうかは……行動次第だ」
美咲が息を呑む。
「……え?」
「本当の自分が分からないと……君は言った」
ノワールナイトは美咲を見る。
「これが……本当の俺だ」
「……!」
美咲の目が大きく開く。
「もしかして……」
ノワールナイトは何も言わない。
「蓮……くん……?」
沈黙。
そして――
ノワールナイトは美咲の手をそっと離した。
何も言わず、その場を立ち去っていく。
「……蓮くん」
美咲は、その背中を見つめていた。




