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ノワールナイト  作者: Dai
第二章 地獄のデビル編

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26/47

第25夜 暴走

朝。

美咲は、通勤のためいつもの電車に乗っていた。

車窓から流れていく景色を眺めながら、美咲は小さく息を吐く。

蓮くん……。

もう一週間以上も会社に来ていない。

上司に聞いても、体調が悪いとしか聞いていないらしい。

何度メッセージを送っても、返事は返ってこない。

社宅を訪ねても、誰もいなかった。

次の休みになったら、相馬モータースに行ってみようかな……。

そう思っていた、その時だった。

「きゃああああああ!」

車内に悲鳴が響き渡った。

「な、何!?」

美咲が顔を上げる。

電車の先頭車両。

そこでは――

運転士が血を流して倒れていた。

「運転士さん!」

乗客たちが騒然となる。

そして、そのすぐそばに一人の男が立っていた。

額から伸びる、小さく鋭い二本の角。

口元だけが黒く開いた、不気味な白いマスク。

黒いコート。

黒い手袋。

その姿は、まるで――

「……悪魔……」

誰かが呟いた。

男はゆっくりと乗客たちを見渡す。

そして、

「ヒャハハハハハ!」

狂ったような笑い声を響かせた。

「それでは――」

男は窓ガラスに近づく。

「地獄のジェットコースターを、ご堪能あれ」

ガシャァン!

窓ガラスが砕け散る。

男は腕からワイヤーを射出した。

建物へ引っ掛けると、そのまま窓から飛び出す。

一瞬だった。

「なっ……!」

男は電車から離れ、建物の間を軽々と移動していく。

その姿を見て、美咲は震えた。

その瞬間。

ゴォォォォォォン!

電車が大きく揺れた。

「きゃあっ!」

乗客たちが一斉に倒れ込む。

電車の速度が、異常なほど上がっていた。

「止まらない!」

「ブレーキは!?」

「運転士がやられてる!」

「誰か止めてくれ!」

車内は完全なパニックになった。

美咲もバランスを崩し、床に倒れる。

「痛っ……!」

何かに必死に掴まる。

電車はさらに速度を上げていく。

ガタンッ!

ガタンッ!

車体が激しく揺れる。

「いや……!」

恐怖で身体が震える。

「助けて……」

美咲の口から、かすかな声が漏れた。

そして――

「蓮くん……」

なぜか、その名前が頭に浮かんだ。

その時だった。

車窓の向こうに、黒い影が現れた。

「……え?」

電車と並走する、一台の大型車両。

黒い装甲に覆われた、戦車のような四角い車体。

ナイトタンク。

「まさか……」

車体が唸りを上げる。

ジェットモード。

ナイトタンクが一気に加速した。

電車を追い抜く。

そして――

電車の先頭へ回り込んだ。

線路へ進入。

キィィィィィィッ!

ナイトタンクが急停止する。

激しい火花が散る。

電車の前方で、ナイトタンクが緊急ブレーキをかける。

タイヤが線路を削りながら、必死に車体を押し止める。

「緊急ブレーキ装置、発動!」

車体から、何本ものワイヤーガジェットが射出された。

ビュンッ!

ビュンッ!

周囲の建物へ次々と突き刺さる。

ガンッ!

ガンッ!

ワイヤーが張り詰める。

電車の勢いが、わずかに落ちる。

しかし――

「……まだだ!」

ナイトタンクの中から、ノワールナイトが飛び出した。

電車へ飛び移る。

そのまま先頭車両へ向かって走る。

制御室へ侵入。

そこには、すでに運転士の姿はなかった。

ノワールナイトは制御盤を確認する。

ブレーキ系統は完全に破壊されている。

「やっぱり……報道通りか」

拳を握る。

「……止めるには、物理的に減速させるしかない」

ノワールナイトは前方を見る。

このままでは――

終点の駅で、大惨事になる。

「この電車を……止める」

ノワールナイトは車両を移動する。

「みんな!」

乗客たちが振り返る。

「一番奥の車両へ移動するんだ!」

「何かにしっかり掴まっていろ!」

「早く!」

ノワールナイトの声に、乗客たちは必死に従う。

そして――

「ノワールナイト……!」

美咲が、その姿を見つめる。

「……」

ノワールナイトも一瞬だけ、美咲を見る。

だが、何も言わない。

すぐに外へ出る。

電車の屋根へ飛び移った。

強烈な風が吹き付ける。

その先に――

男がいた。

白い悪魔のマスク。

黒いスーツ。

デビル。

「来たか」

デビルは笑う。

「お前は所詮、ただの人間だ」

ノワールナイトは黙って睨みつける。

「ドリームランドの時と同じだ」

デビルは両手を広げる。

「お前は誰も救えない」

「……」

「救えるものなら――」

デビルはワイヤーを射出する。

「救ってみろよ、ノワールナイト!」

ワイヤーが建物に引っ掛かる。

デビルは軽々と電車から離れていく。

「ヒャハハハハハ!」

その姿を見送るノワールナイト。

拳を握る。

「俺は……また……」

一瞬、ドリームランドの光景が脳裏をよぎる。

だが――

「……いや」

ノワールナイトは前を向く。

「絶対に皆を救ってみせる」

電車は止まらない。

ノワールナイトは車両の側面へワイヤーを射出する。

ガンッ!

線路脇の設備へ固定。

さらに別のワイヤー。

ガンッ!

建物へ。

一本。

二本。

三本。

次々とワイヤーが張り巡らされる。

しかし――

ギギギギギ……!

電車の柱が軋む。

「くっ……!」

バキィッ!

車両の一部が耐え切れず破損する。

ワイヤーが外れた。

「……まだだ!」

ノワールナイトは再び車内へ戻る。

今度は車両の天井部分へワイヤーを射出し、固定する。

さらに床面にもワイヤーを打ち込む。

そして――

「全員、ワイヤーから離れろ!」

乗客たちが身を寄せる。

ノワールナイトは架線設備へワイヤーを射出。

建物や線路脇の鉄骨、架線設備へ複数のワイヤーを固定する。

周囲の設備を利用し、車体をさらに減速させる。

キィィィィィィッ!

激しい火花が散る。

少しずつ。

ほんの少しずつ。

電車の速度が落ちていく。

だが――

まだ止まらない。

線路脇の構造物が次々と破損。

ノワールナイトは最後の手段に出る。

先頭車両へ戻る。

そして、先頭車両の前へ立つ。

両腕の機械からワイヤーを射出。

ビュンッ!

ビルへ突き刺さる。

ノワールナイトは両腕を伸ばす。

足を踏ん張る。

「ぐっ……!」

ワイヤーが張り詰める。

ワイヤーが一本――

ブツンッ!

切れた。

「まだだ……!」

もう一本。

さらに一本。

車体が揺れる。

「止まれ……!」

さらに力を込める。

何ヵ所にも固定された無数のワイヤー。

そして――

電車の前方では、ナイトタンクがワイヤーを張り詰めさせていた。

緊急ブレーキをかけ、タイヤを線路に食い込ませながら、電車を必死に受け止めている。

そして――

そのすぐ後ろでは、ノワールナイトもワイヤーを握り締め、必死に耐えていた。

ナイトタンク。

無数のワイヤー。

そして――ノワールナイト。

すべての制動力が、一気にかかった。

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

――ギギギギギギギギ……!

電車が軋む。

ワイヤーが悲鳴を上げる。

ノワールナイトの身体も大きく引っ張られる。

それでも離さない。

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

そして――

キィィィィィィィィィッ!

長い長いブレーキ音が、街中に響き渡った。

電車が――

止まった。

静寂。

ノワールナイトは、その場に立ち尽くしていた。

「……止まった……」

その瞬間――

力が抜ける。

膝が、わずかに揺れた。


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