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ノワールナイト  作者: Dai
第二章 地獄のデビル編

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22/46

第21夜 神崎と蓮の過去

昼。

相馬モータース。

店の前に、一台のバイクが停まっていた。

相馬が工具を片手に、バイクの状態を確認している。

「相馬さん、これで大丈夫ですか?」

その声に、相馬が顔を上げる。

「ああ。問題ない」

そこに立っていたのは、神崎隼人だった。

「ありがとうございます。いつも助かります」

「お前のバイクは昔から俺が見てるだろ」

「そうですね」

神崎は笑う。

神崎は相馬の後輩で、昔から愛車やバイクの修理、その他の相談などで、時々この店を訪れていた。

その時だった。

店の奥から、一人の青年が出てくる。

仕事を終えた蓮だった。

「相馬さん、今日はもう――」

蓮が足を止める。

「……あれ?」

神崎も蓮を見る。

そして――

「君は確か……蓮くんか?」

蓮が目を丸くする。

「……神崎さん?」

神崎は少し驚いたように笑った。

「ああ。やっぱり蓮くんか」

「お久しぶりです」

「久しぶりだな」

神崎は蓮をじっと見る。

「大きくなったな」

「そうですか?」

「あの時の面影が残ってる」

蓮は少し笑う。

「もう、そんなに経ちましたか」

「ああ」

神崎の表情が少しだけ曇る。

「確か……お父さんの葬儀以来だったかな」

「……はい」

その言葉を聞いた瞬間。

蓮の中に、遠い記憶が蘇った。

――あの日。

父、黒崎恒一の葬儀。

まだ幼かった蓮は、何も分からないまま、ただ静かに泣いていた。

周囲には大人たちがたくさんいた。

けれど――

誰も、自分と同じ高さにはいなかった。

そんな中。

一人の若い警察官が、蓮の前にしゃがみ込んだ。

それが――

神崎だった。

神崎は、泣いている蓮の頭をそっと撫でた。

「……辛かったな」

蓮は何も言えなかった。

神崎は、静かに続けた。

「だが、世界が終わるわけじゃない」

「君の世界は、これからだ」

「前に進み続けるんだ」

その言葉を――

蓮は、ずっと忘れていた。

だが今。

あの日の記憶が鮮明に蘇ってきた。

「……そうだ」

蓮が小さく呟く。

「どうした?」

「いえ……」

蓮は神崎を見る。

「思い出しました」

神崎が首を傾げる。

「あの時……僕に言ってくれましたよね」

「……」

「前に進み続けろって」

神崎は少し驚いたように目を見開く。

「覚えていたのか」

「はい」

蓮は微笑む。

「ずっと忘れていましたけど……今、思い出しました」

神崎はしばらく蓮を見つめた。

そして――

「そうか」

静かに笑った。

「……あの時は、本当に辛かっただろうな」

「はい」

蓮は少しだけ俯く。

神崎が続ける。

「お父さんを救えなくて……すまなかった」

蓮は首を横に振った。

「神崎さん」

「ん?」

「あなたが悪いわけじゃないです」

「……」

「だから、謝らないでください」

神崎は黙って蓮を見る。

そして、ゆっくり頷いた。

「……そうか」

その言葉には、どこか安心したような響きがあった。


昼。

会社。

休憩時間。

蓮が自分の席で仕事をしていると――

「黒崎さん」

声をかけられる。

振り向く。

そこに美咲が立っていた。

「白石さん?」

美咲は少し緊張したように笑う。

「あの……」

「はい」

「この前は……ありがとうございました」

「この前?」

「私が倒れていた時です」

「ああ……」

蓮は少し笑った。

「無事でよかったです」

「はい」

美咲は頭を下げる。

「本当にありがとうございました」

「でも、あの時はちゃんとお礼を言う時間もありませんでしたから」

「そうですね……」

「黒崎さん、半休を取ってくださったんですよね?」

「はい。でも、急なことだったので……結局、すぐに会社に戻ることになって」

蓮は少し苦笑する。

「そうだったんですね」

美咲は少し申し訳なさそうに笑う。

「だから、ちゃんとお礼を言えてなくて」

「そんなに気にしなくて大丈夫ですよ」

「でも……」

美咲は蓮を見る。

「本当に、ありがとうございました」

「……いえ」

蓮は首を横に振る。

「無事だったなら、それで十分です」

「……黒崎さんって、優しいんですね」

「え?」

美咲は少し笑った。

「なんでもありません」

二人は自然と笑い合う。

その後も、二人は仕事の話や最近あった出来事などを話した。

以前よりも――

少しだけ距離が近くなった気がした。

そして。

「黒崎さん」

「はい?」

「今度……」

美咲が少し迷う。

「映画、見に行きませんか?」

蓮が目を丸くする。

「映画?」

「はい」

「……いいですね」

蓮は笑う。

「行きましょう」

「本当ですか?」

「もちろん」

美咲も嬉しそうに笑った。

「じゃあ、また連絡しますね」

「はい」

美咲が自分の席へ戻っていく。

蓮はその背中を見送る。

そして――

小さく笑った。


夕方。

仕事を終える頃。

同僚たちが話していた。

「そういえば、最近またノワールナイトの話題すごいよね」

「この前も誰か助けたらしいよ」

「やっぱりカッコいいよね、ノワールナイト」

美咲が会話に入る。

「私も……かっこいいと思う」

「でしょ?」

「でも私は反対かな」

別の同僚が言う。

「え?」

「だって、勝手に犯罪者を捕まえてるんでしょ?」

「でも警察が間に合わない時に助けてくれるんだよ?」

「だからって危険すぎるよ」

「まあ、それはそうだけど……」

賛成する者。

反対する者。

意見は分かれていた。

その会話を、少し離れた場所で蓮が聞いていた。

「……」

ノワールナイトとして生きる自分。

その存在を、世間はまだ受け入れてはいない。

それでも――

美咲の言葉だけは、なぜか胸に残った。

「かっこいいと思う」

蓮は何も言わず、その場を離れた。


夜。

人気のない建物。

暗い部屋の中。

一人の男が立っていた。

白い悪魔のマスク。

デビル。

机の上には、いくつもの資料が並べられている。

ノワールナイトについて書かれた資料。

これまでの事件。

彼の戦い方。

そして――

黒い羽根。

デビルは一枚の資料を手に取る。

「……ノワールナイト」

低い声。

しばらく資料を眺める。

そして――

「次は……どう楽しませてもらおうか」

デビルはゆっくりと視線を落とす。

その先にあったのは――

黒い金属で覆われた、爆弾のような装置。

デビルはそれを静かに眺める。

そして――

白い悪魔のマスクの口元が、ゆっくりと歪んだ。

「……ヒャハ」

「ヒャハハハハハ……」

暗闇の中。

狂った笑い声だけが響いていた。


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