第20夜 悪魔の薬
その頃。
神谷は車に乗り込もうとしていた。
「……今日はここまでですね」
ドアを開ける。
その瞬間――
――ドンッ!!
車の屋根に、黒い影が落下した。
車体が大きくへこむ。
ガラスが割れる。
「なっ……!」
神谷が顔を上げる。
そこに立っていたのは――
ノワールナイト。
「ノワールナイト……!」
ノワールナイトは神谷を見下ろす。
「今度こそ……捕まえに来た」
翌朝。
警察署前。
一台のパトカーが停まっていた。
その前に――
縄で縛られた神谷大地が倒れている。
そして、その横には――
薬物の証拠。
大量の薬。
取引記録。
写真。
すべてが揃っていた。
神崎隼人が資料を確認する。
「……これだけの証拠を?」
神崎は顔を上げる。
「一体、どうやって……」
ーーしばらくして。
廃工場。
警察が中へ入っていく。
そこには――
倒れている男たち。
全員、縄で縛られていた。
神崎は工場内を見渡す。
「……これを一人で?」
誰も答えない。
ただ――
床には、一枚の黒い羽根が落ちていた。
その夜。
白石美咲は、一人で歩いていた。
だが――
その背後から。
一人の男が近づいてくる。
「……白石美咲」
美咲が振り返る。
「え……?」
男は笑う。
「ノワールナイトに助けてもらったんだってな」
「……誰?」
男がポケットから小さな薬を取り出す。
「だったら――」
「今度は、助けてもらえるかな?」
「……!」
美咲が逃げようとする。
だが、腕を掴まれる。
「離して!」
「大人しくしろ!」
男が薬を無理やり口へ押し込む。
「ん……!」
美咲が激しく咳き込む。
「……何……これ……」
数秒後。
美咲の身体が震え始める。
「……あ……」
視界が歪む。
街灯が何本にも見える。
「嫌……」
誰もいない場所から声が聞こえる。
『美咲……』
「……誰?」
『こっちだよ』
「やめて……!」
美咲は耳を塞ぐ。
「誰か……助けて……!」
その頃。
黒崎蓮は、自宅で防犯カメラの映像を確認していた。
何気なく画面を切り替える。
そして――
「……!」
映像の中に、美咲の姿。
「美咲さん……?」
その直後。
美咲が倒れる。
蓮の表情が変わる。
「……!」
椅子から立ち上がる。
「まずい……!」
数分後。
夜の街を――
黒い車が疾走していた。
ナイトタンク。
ごつい黒い車体が、道路を走り抜ける。
「美咲さん……!」
ノワールナイトはアクセルを踏み込む。
信号を無視する。
車を避ける。
それでも間に合わないと判断した時は、進路を塞ぐ車を強引に押し退ける。
「どけ……!」
ナイトタンクは狭い路地へ入り込む。
最短距離を選び続ける。
そして――
現場に到着。
ノワールナイトは車から飛び降りる。
「美咲さん!」
そこには――
倒れている美咲。
「……!」
ノワールナイトはすぐに駆け寄る。
美咲の身体を抱き上げる。
「しっかりしてください!」
「……れん……さん……?」
美咲の目は虚ろだった。
「大丈夫です。すぐ助けます」
ノワールナイトは美咲をナイトタンクへ運び込む。
そして――
解毒剤を取り出す。
「これを飲んでください」
美咲の口へ薬を入れる。
「……う……」
身体が大きく震える。
「大丈夫……!」
ノワールナイトは美咲を抱きかかえる。
「すぐに相馬モータースへ行く!」
ナイトタンクが急発進する。
――キキィィィッ!
タイヤが鳴る。
「……っ!」
ノワールナイトは前だけを見つめる。
「頼む……!」
「美咲さん!しっかりするんだ!」
そして――
相馬モータース。
地下整備場。
ナイトタンクが滑り込む。
ノワールナイトは美咲を抱き上げる。
そのままベッドへ運ぶ。
「相馬さん!」
「こっちだ!」
美咲をベッドへ寝かせる。
ノワールナイトはマスクを外し、投げ捨てた。
相馬がすぐに状態を確認する。
「大丈夫だ」
「本当に?」
「ああ」
「まだ薬が効いている。だが、時間が経てば落ち着く」
蓮は美咲の手を握りしめる。
「……よかった」
翌朝。
美咲がゆっくり目を開ける。
「……ここは……?」
「目が覚めたか」
相馬だった。
「落ち着いて」
相馬は暖かいコーヒーを差し出す。
「まだ無理はしない方がいい」
美咲はコーヒーを受け取る。
「……ありがとうございます」
「蓮は仕事に行ってるよ」
「……え?」
「たまたま君が倒れている現場を通りかかったらしい」
「……そうなんですか」
美咲は少し考える。
「危なかった……」
「確か……私……」
相馬は静かに頷く。
「ああ」
「だが、無理に思い出さなくていい」
「今日は休むように、蓮が会社へ伝えているはずだ」
「今日一日は身体を休めるといい」
「ありがとうございます……」
相馬は笑う。
「その言葉は、蓮に言ってやってくれ」
「もうすぐ帰ってくるだろうから」
美咲は時計を見る。
「でも……まだ昼ですよ?」
「ああ」
相馬は少し笑う。
「半休を取るそうだぞ」
「……」
「何だかんだ、あんたが心配なんだな」
美咲は少しだけ照れたように笑った。
「……そうみたいですね」
窓から差し込む昼の光。
その表情は――
少しだけ嬉しそうだった。
――その頃。
別の場所。
白い悪魔のマスクが、暗闇の中に浮かび上がっていた。
デビル。
「……面白くなってきた」
口元が歪む。
「ヒャハハハハハ……!」
その笑い声だけが、静かな夜の街に響いていた。




