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耳飾り

ライルのピアスホールのお話。ライルがまだ人間。


 毎朝、目覚めるたび「ここはどこだろう」そんな疑問がぼんやりとライルの頭に浮かぶ。ジャンヌに与えられた、私の部屋。すぐに答えが出せる程度にはこの生活に慣れ始めていた。

 時計を見る。まだ6時半。布団をかぶり直す。起床の時刻まではまだ時間がある、もう少し寝たい……たい。痛い。寝返りを打った右耳に尋常じゃない違和感。いや右だけじゃない、左も痛い。なんですかこれ!? 慌てて飛び起きようとしたライルは更なる違和感に気付く。華奢な少女が1人で使うには広すぎるセミダブルベッドの余ったスペース、そこに自分のものではない体温があった。

 勢いよく取り払われた布団の下。まるで黒猫のように、というには些か以上に図々しすぎる肢体を器用に丸めて眠るジャンヌの姿。彼の耳には普段の派手なそれではなく、就寝時髪に絡まらないよう配慮されたシンプルなデザインのピアスがつけられていた。白く光る一粒のラインストーン。それを眺めながらライルは自身の両耳にそっと爪を立てた。カリ、と小さく響く音、爪先の硬い感触、鈍い痛み。現状におおよそ正解の予想を立てたライルはフッと乾いた笑みを浮かべた。——そして、静かな寝息を立てるジャンヌの右頬を、思いっっっっ切りつねり上げた。


「いたたた、お前そんな力あったのな」

「うるせーです私の方が痛いですよ。なんで急にこんなことしたんですか」

「いやあ思い立ったが吉日って言うだろ?」

「答えになってませんが!?」

 赤く腫れた頬をさするジャンヌと叩き起こしたライル。ちゃんと目を覚ました2人はセミダブルベッドの上、並んで座りながら向き合っていた。

 昨夜のこと、思い立ってしまったジャンヌは眠るライルの耳に勝手にピアスホールを開けた。その後、そんなことに気がつく様子もない彼女の寝顔を眺めるうち、自分も寝落ちしてしまい今に至ると言うわけである。

 悪びれる様子の無いジャンヌにライルは呆れ顔でため息をついた。

「はあ、まあもういいです。まったく、許可を取ると言う発想はなかったんですか。……あなたが言うなら嫌がるはずもないのに……」

 だんだんと小さくなる語尾だがジャンヌは聞き逃さなかった。

「おっと待てなるほど? ……うん、うん、そうかそうかそうかいやあこれは悪いことをしたな! お前がそんな風に思ってくれてたなんてなあ! うん、次からは気をつけると約束しよう!」

 急に饒舌になったジャンヌは身を乗り出してライルに顔を寄せる。

「なあ、さっそくで悪いがお前につけられた傷、早朝だからか血が足りないからか治りが悪くてまだ痛いんだ。……血をもらっていい?」

 許可、と言うより確認に近い問い。沈黙を是と取ったジャンヌは傷などどこにも見当たらない顔をライルの首に寄せ、その白い肌に牙を突き立てた。


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