ライル=フレーズについて
眷属の命名のお話。
「新しい名前、ですか?」
小首を傾げ、いまいち要領を得ない様子の彼女に彼は頷いた。
曰く、吸血鬼の眷属には主から"眷属としての名前"が与えられるらしい。
「といっても、お前がライルであることに変わりはないし、俺もその名前で呼ぶから大きな意味はないんだがな」
はあ、と。羊雲の髪をふわりと揺らす少女、もといライルちゃん。
「その名前だが、実はもう与えてある。眷属の印は吸血と名付けの2つが揃って初めて現れるものなんだ」
よく似合っている、そう言いながら彼——ライルの主にあたる吸血鬼のジャンヌは彼女の左胸を指さした。
彼自身も初めて見たと言うそれは白い肌によく映えるワインレッドで、丸い5枚の花弁とそれを囲う棘が象られていた。
「——フレーズ。それが俺の眷属であるお前の名前、解ったら返事を」
「はい、あるじさま」
即答。ライルは自分の口から反射的に滑り出た言葉に驚いて息を呑んだ。半ば想像していた通りの彼女の様子を見た彼はバツが悪そうに後髪をかいた。
「……あー、うん。やっぱりこうなるか……この言わせてる感好きじゃないな……」
独りごちた後、頭上に疑問符を浮かべる彼女に説明するように付け加えた。
「驚かせてすまん。主が与えた名で眷属を呼ぶとき、言葉に拘束力を持たせることが出来る。まあ俺はそんなに使うつもりはないから、頭の隅にでも入れておいてくれればいい」
「そ、そうなんですね……」
そこで使わないと言い切らないあたりが実に彼らしい。
ふと、聞き役に徹していた彼女が口を開いた。
「フレーズって、何か由来があったりするんですか? それだけ少し気になります」
きょとん、と一瞬だけ素っ頓狂に動きを止めた彼だったが、すぐに楽しそうに口角を上げた。
「ああなんだそんなことか。そうだな、由来というか、俺から見たお前の印象そのままだな! 8割方フィーリングだ。その中でも1番似合うのは花言葉」
——度言葉を切った彼は得意げな表情を消し、代わりにすっと瞳を細め悠然と笑みを浮かべた。ゆっくりと開かれた唇に2本の牙が光る。
「——"お前は、俺を喜ばせる"」




