喚ばれた剣聖ー98
「・・・まいったね。」
敵への宣戦布告を終え、里へ戻っていたユリジャの元に結界が破られたとの報告があった。
ただ結界といっても律兎がおまじない程度といっていた魔除けの結界で、里を囲っているミリアさんの強固な結界は破られていない。
しかし、その開けられた結界の外から、人と魔が混ざり合う混成軍が押し寄せてきた。
外へ多くの戦力を割いている分、中の兵は少ない。
ただ抵抗しないわけにもいかないので、最低限の人数で奇襲をかけていた。
森というアドバンテージのお陰で何とかなっているだけだね。リフィーナと分担し、商会にゲリラを仕掛ける。
木の上で魔法を放ちながら様子をうかがっていると、全身ゴツイフルプレートに身を包んだ兵士が現れた。
その兵士は巨大な戦斧を振りかぶり力を貯め始める。
嫌な予感を感じ、すぐにエルフ達を後退させた。
「ぬおおおおおおおぉ!!」
腹のそこに響く雄叫びを上げながら振り抜かれた戦斧は障害となる大木がまるで無いものかのように全てを吹き飛ばす。
断たれた大木は崩れ落ち、こちらの足場を失くしていく。
「・・・冗談でしょ。」
すぐに対処するよう指示を出し、距離を保ちながら弓を撃たせる。
しかし、その矢は鎧と大きさに見合わない細かく動かされる戦斧に弾かれていく。
そして流れるようにまた戦斧を振りかぶられた。
「鎧の隙間を狙え!」
矢が殺到しても動きが止められない。刺さっても微動だにしない兵士は再び戦斧を振り回す。
そして今度はこちらにも被害がでた。
足場を壊され大木に巻き込まれ地に落ちるもの、落ちた先で敵に討たれる者もいる。
このままではまずいとすぐに鎧の兵の前に降り立つ。
「・・・貴様が相手をしてくれるのか?」
低い低音の声を弾ませながら楽しそうに話しかけてくる。
ユリジャは冷や汗をかきながら魔力を満たした。
「我が名は『落陽 ロムドット・テンカギュラム』、我が破壊を止められるか!?」
「・・・うわぁ、怖い。」
また構えられる戦斧が振られる前に走り出す。
青い炎の性質は侵食、当たりさえすれば鎧すら溶かし壊せる。
相手のがら空きな胴体に向かって炎を放つ。
そして青い炎は相手の鎧に燃え移り、、、
「・・・は?」
そのまま消えた。
思わず目を見開く、ロムドットの全身には入り込む余地がないほどの圧倒的な密度の魔力が満ちていた。あれでは体の魔力が流れず、魔法は使えない、しかしその代わりに圧倒的な力と防御力が与えられている。
・・・まずい!
相手に確実に炎を当てようと近づきすぎてしまった。既に相手は動きだし、圧倒的な力が振るわれようとしていた。
ーードッゴオンッ!
しかし、その振るわれた戦斧は透明な壁に止められる。ロムドットが驚き、目を見張っているなかユリジャはすぐに相手から距離をとった。
「ふぅーーーー、間一髪でしたね。」
「助かったよミリアさん、障壁のなかから動いて平気なの?」
「律兎さんの変な道具のお陰で魔法が代わりに維持できてますからね。でもホントは中で障壁に込もってたいです!」
「ぶっちゃけるなぁ。」
頼もしい援軍だとユリジャは微笑む。
攻撃を防がれたロムドットは斧を握りしめて呆然と立ち尽くしたあと、一度空を見上げて高らかに笑った。
「ぐふぉふぉふぉふぉっ! 我が一撃を止めるか!久方ぶりのことだぞ!それは!」
「え、えぇー、知りませんよそんなこと。」
確かにあの破壊力を持つ攻撃を防げる手段は少ないだろう。いくら彼女が防御に長けているとしても平然と防がれるとは思っていなかった。
やっぱ込められてる魔力が段違いだね。
「よい、よいぞ小娘。あと何撃入れれば壊れるのか見物だぞ!」
「殴られ続ける趣味はありませんので辞退します。」
「そうかそうかっ!ではいくぞ!」
「話し聞いてくれませんか!?」
再び振りかぶって振り抜かれるロムドットの戦斧が障壁にぶつかる。大気が揺れ、ビリビリと辺りに衝撃が伝播する。
「ーーっつ!」
「ミリアさん、大丈夫?」
「少しでも魔力を緩めれば壊されますよ。早くなんとかしてください。逃げたいです。」
ユリジャは相手を一瞥し、無茶なと苦笑する。
そもそもの相手の頑強性が高すぎる。突破しようにもこっちの青火は弾かれたしどうしようか、、、。
「まぁ単純に火力を上げるしかないか。」
青火を左手に集め、弓のように引く。
集められた先端の青火はボッボッと明滅するように火花を散らせた。
「摹れ、青燐!」
青い火花が散りながらロムドットに到達。
しかしその火花は軽く当たるだけでロムドットは首をかしげた。
ただ、その火花は消えず、その場に残る。
その末端にユリジャは指をスナップした。
「爆ぜろ」
青い火花をなぞるように青い火は爆発と共に加速していく。
加速と共に火の威力は増し、着弾するときには大爆発を起こした。
「・・・わぁー、こわっ」
「え、頑張ったのにドン引きしないでよ。」
煙が晴れるのを警戒しながら注視していると、ようやく晴れた煙からジャリッとロムドットが踏み出し苦笑する。
「ダメージ無しかぁ。」
「ぐふぉふぉっ、ぬるいぬるいのぉ、攻撃はこうやるのだ!」
ーーミジッ! ミジジジジッ!
軋む程の溜めを作りながら放たれる一撃はまた大きな衝撃となって大地を抉る。
しかしそれでも魔力の込められた障壁は揺るがない。
「ぐふぉふぉ、これはこれは、とても敵わんわい。まるで揺るがないとはな。」
ロムドットは力比べを止めて肩に戦斧を担ぐ。
だがその声音には未だに余裕が感じられた。
不気味な予感を感じていると、ロムドットとは違う別の気配を微かに感じる。
すぐに振り向いて手を向けるが、そこには誰も居ない。
嫌な予感を感じ、ミリアさんに撤退を促そうと声を出そうとした瞬間、胸の辺りを刃で貫かれた。
「・・・え?」
「ユリジャさん?!」
血が垂れ足元に血溜まりを作りながら首だけで振り返ると、全く同じ姿をした自分があくどい笑みを浮かべていた。
なるほど、姿を似せられてミリアさんの認知をすり抜けたのか。
「人は一瞬の視点で状況を判断する。とくに余裕がないときはさ。2人いても同時に存在が写らないと判別は難しいって感じ。」
口から血を垂らしながら地面に倒れ込む。
「おい、ヘムロ! 邪魔をするな!」
「ジジイじゃ何時間かけるか分からないでしょ。早く終わらせて帰りたいんだよ。」
ドロッ
と溶ける様に姿が溶けると中からチャラそうなアクセサリーを身につけた赤いローブの青年が現れる。
「いやぁ、にしても超大当たりじゃん。ねえ君、僕の彼女にしてあげるよ。」
「・・・タイプじゃないのでご遠慮します。」
・・・まずい、ミリアさんの集中力が散ってしまっている。
その隙を突かれて振るわれた戦斧に障壁は砕かれた。
「ぐふぉふぉ、カムラはどこだ?」
「しらねえけど? 興味ねえし、たまたまとびっきり可愛い子がいたから手出しただけだからさ。」
ヘムロと呼ばれた青年は楽しそうに舌舐りする。
ミリアさんはそれに引きながら障壁を張り直す。
そしてヘムロとロムドットの視線がミリアさんに集中してる間に体を手で支えながら持ち上げ、下からヘムロの顎を蹴り抜く。
「ーーかっ!?」
「あっぶなぁ、仕込みしておいてよかったよ。」
唇を切っておいた血を拭い、青火で距離を取る。
手練れが2人、厄介だな。
どうしようかと焦りに汗をにじませていると、「え?」とミリアさんが声を漏らす。
「何か、来た?」
不安そうに揺れる瞳を見て、すぐに判断する。
「ミリアさん、君は里に戻って。ここは僕がなんとかするから。」
「で、でも、、、。」
「大丈夫、死にはしないよ。」
すると、何とか虚勢を返して構えを取ってる僕の横に影が降りる。
「いや、とっとと畳むぞ。」
軽く着地した律兎はそう言いながら僕の横に並び立つ。
気配もなく現れたその存在にヘムロとロムドットはすぐに警戒し構えを取った。
「うわぁ、頼もしいなぁ。」
「急ぐぞ。」
すぐに戦闘は再開される。
余裕はない、急がないとね。
ーーー
里の様子を見ようと戻ってる途中で絡まれてるユリジャとミリアを見つけたのでその場に混ざる。
ミリアには戻るように指示を出して俺はすぐに走り出した。
それに対してすぐに前に出てきたロムドットだったか?は戦斧を地面スレスレに滑らせながらかちあげてくる。
それを幻渡りですり抜け、左手にもったヤクラを刺し込んだ。
「ーーごぶっ!」
「ジジイ! 邪魔だ!」
刺されたロムドットの背中を飛び越えてヘムロは指に挟んだ小さなビー玉のような玉を投げつけてくる。
ボンッ!
小さな爆発だが火傷を負う程度の熱は感じられる。
だがその爆発を右手に持ったガイアに瘴気を滾らせ吹き飛ばした。
「うぐっ! なにこれ、気持ち悪、、、。」
瘴気にあてられたヘムロは気持ち悪そうによろめく。持っている短剣を取りこぼさないのは流石だが、そんなでかい隙を見逃すわけない。
しかし、真横から感じられた強大な圧に、振り下ろされた戦斧に邪魔をされる。すぐに向き直ってガイアで軌道を逸らす。
隙が出き、首を狙って刃を振るうが跳ねさせた斧の柄で防がれた。
上手い、、、が、、、
すぐに体を前に出して、溜めを作って剣を突き込む。目を狙って放たれた刃は隙間を通って刺し込まれる。
すると、ドロッとロムドットの身体が溶け、地面に溶ける。
その背後から突っ込んできたロムドットは戦斧を振り回して怒涛の連撃を放つ。
俺はそれをガイアでさばきながらヘムロの存在が薄くなってることに気づいた。
すぐに気配に探し、一度斧を弾き上げ、回りながら背後を一閃。
浅いがヘムロに傷を負わせた。
「いってぇ! なんだこいつ!?くそつええじゃん、やってらんねぇ!!」
「ぐふぉふぉふぉ!! 滾る、滾るぞぉ!!」
戦意はロムドットのほうが遥かに高いな。
相手は力自慢っぽいし、一回土俵にのってやるか。
ガイアが軋む程の力を込めながら、相手の斧に合わせて力を抜き、タイミングを見て力を込める。
バキインッ!
ギリギリッと止められた戦斧とガイアの間で火花が散る。
「ぐふおおおおっ!? まさか止められるのか!?」
「気持ちわりぃ奇声上げんなよ!」
ゴインッ!
胴体に刃をあててロムドットを吹き飛ばす。
そして逃げようとしてるヘムロの片足を斬り飛ばした。
「うっ、つああああっ!? くそっ!ジジイの一撃を止められるとか聞いてねえぞ!」
倒れ込んだ男の背中に向けて刃を突き立てる。
だが、横合いから強い殺気を持った存在が突っ込んでくるのに気づいた。
というかこいつは、、、
「見つけたぞ! 律兎、八九楽ぁー!!」
「タイミングわりぃな、、、。」
跳んできたギュリカに対応してヘムロに止めを刺し損ねてしまう。
ユリジャが火を放つが、当たる前に地面に溶けて逃げてしまった。
ギャリリリリリッ!
「・・・よく見つけられたな。」
「くくくっ、この異界に入ろうとする輩を見つけたものでな。後を追っただけだ。」
なるほど、たぶんプラズ商会を追ってついてきたのか。ふらふらしてたみたいだし鼻が良いな。
「ようやく、ようやくだ。今度こそどちらかが死ぬまで殺り合おう。」
「やだよ、おまえズルするんだもん。」
「あー、あれは私も白んだ。悪いな、今度こそ決着をつけよう。」
いや別に望んでないよ?
うざったく感じながら、ギュリカと対峙しているとギュリカに向かって戦斧が振り下ろされる。
ガギンッ
「・・・何だおまえ?」
「ぐふぉふぉ、我はロムドット・テンカギュラム。お相手願おう、金の首 ギュリカ・ライロット。」
「ふん、あまり興はノらんがついでか。」
片手であの一撃を真正面から受け止めるとは、ギュリカもギュリカで異常だね。魔力が腕に濃く込められてるし、単純なパワーと器用さがある。
三つ巴
3人とも武器を構えて牽制する。
魔力を込めて何時でも踏み込めるように睨み合う。
ヒリついた静寂、ビリビリとした空気に誰もが言葉を発っさない。
「「「・・・。」」」
ーードンッ!
同時に飛び出すが、一番に俺とギュリカがぶつかった。ガイアでギュリカの剣を受け回し、ロムドットの戦斧とぶつけさせる。
固まったロムドットにギュリカの剣の腹を蹴り飛ばし、顔面にあて、ギュリカに剣を振るった。
それはもう1本もった剣に防がれたが幻渡りで肩を裂く。
ギュリカは「つっ」と短い声を漏らしたが、剣を上に投げて黒い魔力を地面に投げつける。
トゲが生え伸び、強制的に距離を開けられた。
「鬼纏い、影斬響。」
影が走り、黒い鬼が剣を持ってこちらに殺到する。
ロムドットは戦斧を振り回して鬼を吹き飛ばし、俺は着実に首を飛ばして鬼を霧散させた。
「ゆくぞ!地崩し!」
降ろされた斧に地面が大きく揺れ、バランスを崩しにくる。
転ぶような半端な体幹はしてない。
衝撃と同時に跳んで回りながら剣を投げた。
「ぬぐっ!」
脇腹に剣が刺さり、ロムドットは縫い付けられる。
ギュリカは首を狙ってロムドットを狙うが、魔力を集中させてガインッと肉体で止める。
「くくっ、反射的な魔力操作か。」
お互いに距離を取って仕切り直す。
膠着した戦いはまだ続く。




