喚ばれた剣聖ー97
ついに始まった戦い。
魔王軍の軍勢はおよそ200、それに対してこちらの戦力はエルフ、ジャユ族総勢で60程度、ミスルルからの増援があっても20人だってオババは言ってたし、戦力差は大きいな。
それに八ツ首と言う鬼札に謎の敵か、、、。
うん、不利だ、、、
「でも最悪じゃないか。」
戦場は緑豊かな森で、自然の罠に土地勘のあるエルフ族がいる。数の利を活かせない森だしまだやりようはあるはずだよな。
既に敵が森に入ってから二時間、未だに前線は突破されていない。
「・・・はぁ、こう言うのは剣帝か剣老が得意なんだけどな。」
まぁ剣帝だと一方的過ぎて罪悪感すら沸くんだけどね。前に500の軍勢を50人で破ってたし、それも無傷、戦死者ゼロとか言うチートっぷり。
俺じゃそんな上手く出来る分けない。
若干ナイーブになっていると白箱が震えたので出る。
「はいはい、こちらゴミですが。」
『え、どうしたのよ? 気持ち悪いんだけど。』
「・・・君達は俺のこと嫌いなのかな?」
今度はシルルカにも気持ち悪いって言われて本格的に心折れそう。
『そんなことより、どうしよ、最初は罠とかで上手く撃退出来てたけどもう押され始めてる。』
「・・・さすが、百戦錬磨の魔王軍だな。」
『感心してる場合じゃないから!なんとか幻覚と遠距離攻撃で牽制してるけど破られるのは時間の問題かも、、、。』
森は自然の迷路だが、この世界には魔法だけでなく種族の個体差による能力値も高い。それに相手は数多くの戦場を乗り越えてきてる精鋭達だ、付け焼き刃は意味をなさないだろう。
「先ずはこっちが手札を切るか。」
仕方ないと、ため息をつきながらスイに通話をかけた。
ーーー
「・・・思ったよりも早かったね。」
「うぅ、出来るかなあ。」
森の中でも高くなってる丘の上で通話を受けたスイは淡々と準備を始める。その横でフォロー役として派遣されているミニーが不安そうに手伝っていた。
「・・・大丈夫、ミニーは昔から物覚えが早いから。」
「お姉様ぁ! ホント優しい!大好き!」
「・・・その単純な考えはダメだけど。」
抱きつかれてガクガク揺らされながらスイは眠たそうな目で森を眺める。既に木が倒れたり衝撃で揺れたりしている箇所が複数見受けられた。
すると、森の一角から天に向かって岩が飛ぶ。
あらかじめ決めてあったペリナとの合図を確認して、スイは足元に作られた大量の水を塞き止めている刻印の刻まれた土と木の壁に向かって剣を突き立てた。
「・・・いくよ、ミニー。」
「はい!」
切っ先から魔力を込めると、刻印が瞬く間に壁に走り、爆発するように崩れ去る。
そこから溢れた濁流は予め地面を隆起させておいた段差に沿って流れていく。
「うわぁ、考えること怖。」
「・・・本来私たちミスルルやジャユ族でも一朝一夕でここまでのため池は作れない。」
ミリアの無尽蔵な魔力を貰って、あり得ない速度で作り上げた即席のため池。
敵には甚大な被害を与えられるだろう。
・・・心は痛む、でも躊躇っていたらこちらが殺される。
冷たく、心を鬼にする必要があるのだ。
「・・・やっぱ気分悪いね。」
「まぁそれはそうですね、そんな趣味ありませんし。でもそこまで気にしなくていいんじゃない? 所詮は他人、敵、相手の裏なんて考えても意味ありませんよ。」
「・・・ミニー、冷たい。」
「ええー、だって魔族領は治安が悪いですから。」
ミニーは早くにミストレルを出て世界を旅している。もちろん楽しいこともあっただろうが、苦労したことだって多い筈だ。
魔族には過激な考えを持つものや、過酷な環境を変えようと攻め込むものなど治安が良いとは言えない。
・・・私もまだまだ世界を知らないな。
「・・・気合いいれないと。」
ーーー
「負傷者を上に引き上げろ!」「木の影にかくれるな!巻き込まれるぞ!」「うわぁ!たすけっ、、、」「こんな水量どこから、、、!」
流れていく濁流に巻き込まれた魔王軍は阿鼻叫喚の地獄と化す。多くのものが空を飛んで躱したり魔法を使ったりするが、自然の脅威は簡単には止まらない。既に魔王軍の前線は崩れ去った。
なんとか隆起された地面を登ろうとするものや空を飛ぶものが回避しようとしてもエルフの矢やジャユ族によって撃ち落とされる。
そのあまりな景色に流石のペリナも顔をしかめる。
切り替えは出来てるつもりだが、ここまでの惨状はさすがに思うところがある。
だが、攻撃を止めることはしない。相手の戦意はまだ失われていないからだ。
ーードカアンッ!
「ぐぉおおおおおおおっー!」
持ち前の巨体を駆使して壁を破壊しながら巨岩族が乗り越えると流れに乗るように他の生き残った魔王軍が侵入してくる。
「迎え撃て! この場での数はこちらが有利だ!決して一対一で戦うな!」
練度で勝る魔王軍にこちらは数で攻める。
決して人数不利にならないように立ち回らせ、ジャユ族が近距離、エルフ族が後方支援と役割を分けて戦わせた。
なんとか状況を保とうと、必死に応戦していると、、、鬼札が切られる。
ーーボアァンッ!
流れゆく濁流を、土壁を、行く手を遮るものを全てを溶かし尽くすほどの圧倒的な熱。
長い銀髪の先に炎をともし、空に立つ彼女は勝ち気に笑う。
「カカカッ! よいカよいカ!いい熱カ、とても昂る! 我が名はカリティ・レッカルオ!相手したまえ森のもの!」
「・・・っ八ツ首!」
ペリナはその強大な存在に歯噛みする。
ただその場にいるだけで辺りは乾き、木は燃える。
水は蒸発し、仲間、敵、もろとも意識を失う。
たった一人で全てを覆す圧倒的な個。
「ん? お前はログロドの近衛じゃないカ? まぁあやつが居るならお前もいるカ。」
「・・・カリティ様、これは仕組まれたことです。私たちを争わせ、得をするものがいます。」
薄い希望にかけて、言葉にする。
それを受けてカリティは少し首を傾げたあとまた笑った。
「そうカ、その可能性もあるカ、でも知らん、我は戦えればそれでいいカ。悲鳴を、恐怖を肴に肉を焼く、戦いを、闘争を、戦争を、、、!」
そう、ペリナは知っていた。彼女がいったいどういう存在なのか。
八ツ首 カリティ・レッカルオ
銀髪に金色の瞳は彼女の種族、『竜族』を表す。
圧倒的な戦闘力を持ち、戦いを好み、気分のままに生きる存在。戦いの熱に当てられた彼女を止める手段なんて存在しない。
「相手はお前カ? ペリナ。」
恐怖で身がすくむ。勝てない存在、無謀な戦い、でも逃げ場はない。
出きるのは命を懸けた時間稼ぎのみ、それなのにペリナはすぐに覚悟を決めて構えをとった。
「・・・えぇ、相手しますよカリティ様。」
「カカッ、良い目カ、失くすにはとても惜しまれるカ、でももう止められん。」
飛んでる彼女の足からは透明な波のようなものが見える。陽炎なのか分からないが、その熱を浴びた地面は赤く赤熱していた。
カリティはすぐに手を上げて飛び込んでくる。
そのあまりの速度を目で追うことが出来ず、気付いたら必殺の掌が目の前に迫る。
ログロド様に心で謝罪をし、訪れる死を待つと、、、
「相変わらず短気な娘さ、少しは頭でも冷やすさね!」
ーードバアッン!
横合いからキンキンに冷えた冷水の塊がぶつけられ、白い煙と衝撃を受けながら後ろへと転がる。
なんとか息を吸いながら、霞む目で前を見ると、カリティに相対する黒い豪奢なローブに身を包んだミスルルの女性が立っていた。
「カカカッ!? オルババじゃないカ!何でこんなところにいるカ!」
その人物、オルババを視界に入れてカリティはとても興奮したように笑みを浮かべる。オルババもそんな様子のカリティに対して笑みを返した。
「彼らを、助けにさ。」
オルババがローブを翻すと、こぼれた水滴からミスルルの戦士達が姿を形成する。彼らはすぐに剣を抜いて、こちらの軍勢に加わってくれた。
「なんと!なんと嬉しいことカ! まさか大戦の英雄と殺し合えるとは!」
「ふん、現役を退いたババアなんぞに負けるんじゃないさよ。」
その言葉を合図に戦闘が始まった。
赤黒く燃えるカリティの突きを、杖の先に作り上げた真っ青な水球で受け止める。
弾けとんだ水滴は、込められた魔力に応え、針のようにカリティに殺到したが、その全ては彼女の熱によって蒸発させられた。
カリティはなにも気にしないで拳を握り、一撃を打ち込んでくる。それだけでその軌道上の森や大地が焼かれ、炭と化す。
水滴になって大きく横に避けたオババは思案げに腕を組んだ。
・・・さて、この娘から発せられる熱はあらゆる小細工を無力化してくる。足場を泥沼にしようが、水魔法で幻影を作ろうが、まとめて吹き飛ばされて終わりだろうさ。
「ならその熱を破ってみるさね。」
水槍激
作られた1本の水の槍は高速で回転しながら幾重の水を纏う、放たれると錐揉み状に回転しながらカリティの熱を突破して腕を削った。
「・・・カカッ、水の層を幾重にも作って蒸発する前に到達させたカ。」
「そうさね、さぁどうする? さらに火力を上げれば仲間すら燃えてしまうのさ?」
オババに言われたあと、カリティは少し驚いたように周りの仲間達を一瞥する。そして笑みを浮かべた。
「出来ないと思うのカ?」
「いや、やるだろうさ。でも煽ってこちらの敵が減るのなら喜ばしいと思ってさ。」
挑発するようにケラケラ笑いながらも目は鋭く細められる。相手は戦闘狂だがバカではない。無闇に数の利を失くすことはないだろう。
・・・ただバカでもあるんさなー。
彼女と面識のあるオババは腕を組みながら少し遠い目をする。結局運だよりだが、まぁどっちとしてもこちらに得があるしいいか、と杖を回しながら構えた。
「オルババ、舐めるなよ?」
カリティは初めて笑顔を消し、魔力を引き上げていく。すると、白銀の鱗と鋭くしなる尻尾が生えてきた。
熱は先程よりも収まったが、明らかに満ちてる魔力が段違いだ。
その様子を冷静に観察して、冷や汗をたらす。
鱗の周りの空気が微かに揺れている。熱を放出するのではなく纏っている。もう拳すら致命傷になり得るだろう。
ーーカッカッカッ!
オルババはすぐに杖で4回地面を叩いた。
空気中に数多の水球が浮かび漂う。
気化熱で空気を冷やしながら、魔力を混めて完全な支配下においていく。
すると、迎撃の準備を整えるオババの横にペリナが立つ。
着けたガントレットを打ち合わせ、カリティに向かって戦う意思を見せた。
「・・・お手伝いします。」
「くくっ、頼むさね。流石に現役の化け物相手は荷が重いさ。」
水滴が弾けるのと同時に三者はぶつかる。
戦場は徐々に、徐々に激化していく、、、。
ーーー
「・・・あの八ツ首、思ったより厄介だな。」
遠くから観察していた律兎は顔をしかめる。
戦況は好転していたのに一人の突撃で膠着に戻された。
未だに川を越えれてない魔王軍は多いが、突破されてるのも確認できている。
オババとペリナの2人を当ててるのも痛いな、、、。
「いや、現役の八ツ首相手に2人で足止めできてるって考えれば上々か?」
ただ問題として、もう一人八ツ首のギュリカを見失っている。
初めのカリティの爆発に紛れて姿をくらませ、今は姿を追えていない。
スイとミニーに捜索を頼んではいるが、まだ報告はなかった。
「・・・正面から突っ込んできてくれれば楽なのにな。」
それは相手を舐めすぎかと反省する。
とりあえず相手が撤退を選択するほどの打撃を与えないと始まらな、、、
ブブブブブッ
すると、白箱が震えて通信が入る。
そこにはミリアと名前が表示されていた。
ミリアには里の防衛を任せている、特にまだ誰も里へは攻め込めていない状況でなぜ通信を、、、。
とりあえず無視するわけにはいかないので通話をとった。
「はい?」
『律兎さん!里の周りに置いていた魔除けが壊されました!』
「・・・・・は?」
その報告にどう言うことだと頭を捻る。
置いた結界は森の中の里がある異空間に配置している。
つまり結界が壊されたということは既に異空間の中に敵の侵入を許していると言うことだ。
外から攻め込んでいる魔王軍じゃない、てことはプラズ商会側か、、、。
動き出したか、と、立ち上がって首をならす。
「わかった、俺もすぐいく。ユリジャにも警戒するよう伝えとけ。」
『はい!』
俺は右手にガイア、左手にヤクラを持って木から飛び降りる。
思ったより早かったが、俺も戦いに参加しないとな、、、。




