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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー96



ーー3日後



まだ日の高い早朝、俺はフィーカに頼んで伸ばしてもらったやけに高い木の上で椅子に座っていた。

森全体を見渡せるほどの高所で、無駄に優れた視力にものを言わせて状況を俯瞰する。



「・・・結構大所帯で来たな。」



目を細めながら森の縁に集まっている魔王軍を眺める。様々な種族が集まった混成といっていい具合だな。



・・・というか、



「・・・いるかもなとは思ってたけど、当たって欲しくはなかったね。」



統率のとれた軍勢から一歩前に出ている見覚えのある黒の鎧兜。見間違うことなくギュリカだね。


そのとなりに立っている銀髪の勝ち気っぽい少女は同じ八ツ首かな?



俺は小脇に置いていた白箱にチラリと視線を送る。



・・・気が重いなぁ。




ーーー




「・・・まだか?」


「何回同じことを聞くのカ! 魔王様にも言われているカ!破壊は最小限に!」


「くだらん、どうせ最終的には壊し尽くすと言うのに、後か先かの話にすぎん。」


「後少しの辛抱じゃないカ!我慢だ!」



ギュリカは隣にいる、やけに長い引きずるようなコートを着た勝ち気に目を吊り上げる銀髪の少女、『八ツ首 火の首 カリティ・レッカルオ』に止められて渋々腕を組むだけに留める。


魔王軍はなぜこんな一個小隊を引き連れてきたのか、理由は『未確認の勇者が森に潜伏している。』と情報があったからだ。


確認できている狂った勇者達とは違った目的のわからない存在。その力は強大で、単騎で魔王軍と渡り合える可能性を持つその存在を放置することはできない。


ただ、ギュリカの目的はそんなの建前で律兎がいるかもしれないと来ただけだが。


ギュリカは遠くにそびえるやけに背の高い木を睨む。あまりに遠いのでただの巨木にしか見えないが、あのような木があれば噂くらいにはなりそうだなと勘ぐっていると、ようやく森から一人のエルフ族が現れた。



「あ、どうも~。魔王軍の皆様がこのような辺鄙な場所になにようで?」


「・・・おまえは誰カ?」


「僕はユリジャ・フォレスティア。一応この森に住んでるエルフ族の族長で里長をしているよ。」


「ふむ、知らぬカ。そもそもエルフ族など私は記憶にないカ、ギュリカは知ってるカ?」



ユリジャは2人の八ツ首を警戒し、言葉を選びながら会話を試みる。もし戦闘を免れることができるならそれに越したことはない。



「知らんな、そもそも隠れ潜む臆病な連中に興味はない。」


「あっはっは、手厳しいなぁ。でもそれならなおさら何のようがあるんだい?」


「この森に勇者がいると言う情報があった。もし匿っているならすぐに差し出せ。荒らされていると言うなら討伐に協力しよう。」



言われてユリジャは悩ましげに顎に手を当てる。そして思い出したとばかりに指を立てた。



「あぁ、そういえば黒髪の少年に襲われたね。確かダムドって言ってたかな。」


「・・・ダムド、確か6代目勇者の名か。」



ギュリカは興味なさげな反応を返す。

6代目勇者は少し話題になったこともあったが、すぐに雲隠れし、そこまで広く知られていない。つまり魔王軍としてそこまで警戒のレベルは高くないのだ。



「いや、ダムドは勇者だが確認はとれてるカ。私たちが用があるのは未確認の勇者カ。」


「・・・えーと。」



カリティの問いにユリジャはなんて返事をしようか頭を悩ませる。もしここで知らないと言っても魔王軍の情報網で裏付けがとれていれば匿ってると捉えられかねない。

しかし知ってて困っていると言えば勿論里に入られるだろう。そこをエルフに化けた第三勢力に攻撃されればすぐに自分達は敵視される。


さて、どうしようかな。



「うん、居たよ。でもそれはログロドに協力してもらって撃退は終えたところかな。」



勇者の実存、ログロドと言う八ツ首が協力してくれていると言う事実。そこを被せて伝えると、カリティはポケっとしたように頭を捻らせた。



「ログロドがいるのカ? ん?じゃあ仕事は終わりカ?」


「そうか、なら撃退した勇者の情報を教えて貰えるか? 見た目、武器、少しでも情報が欲しい。」



簡単に騙せそうなカリティと違い、ギュリカは腕を組みながらそう質問してきた。

鎧で目は見えないが、明らかにこちらを疑っている。



「黒髪にコート、白い片手剣を持った青年だよ。」



相手が何処までの情報を持ち得ているかわからない以上、嘘は付けない。律兎には聞かれたら特徴を答えて言いと言われているし、ここまでは問題ない筈。


すると、ギュリカの兜の奥からくぐもった笑い声が聞こえてきた。



「くっ、くくくっ、くくくくくくっ! やはり、やはりいたな。未確認の勇者と聞いたときから心が踊っていたのだ。」


「お、おう? 気持ち悪く笑ってるところ悪いガ、もうログロドが対処したらしいのカ。帰ってよいのカ?」


「たわけ、追うに決まっているだろ。」



そう言って森に入ろうとするギュリカを慌てて手で制す、それだけで恐ろしいほどの殺気が浴びせられた。



「・・・何のつもりだ?」


「わ、悪いけど森は荒らして欲しくなくてね。」


「そうか、勘違いしてるようなら悪いが、この森も、この土地も、お前らはただ住んでるだけで魔王様の領地だ。そもそもお前らはひっそりと住んでるだけで魔王様からの許しすら得ていない筈。荒らそうが、何されようが黙ってみているしかない。」



言い捨てられたギュリカの言葉に歯噛みする。

エルフは現代魔王よりも長く森に住んでおり、言い分としては傲慢ほどほどしいが、反抗は戦いに直結する。


中立を貫いてはいたが、もうここまでかな、、、。



「・・・わかったよ。」



ダンッ!



勢いよく地面に拳を叩きつけると、青い炎の火柱が立つ。ギュリカとカリティには余裕で後ろに下がって躱された。



「おぉ!? 良い炎じゃないカ!」


「くくっ、やはり交渉など性に合わん。これが一番手っ取り早い。」



後ろに跳んで、派手に燃やした炎を掻き消す。

今のは合図だ、後は、、、



「森に来たら命の保証はしないからねー!!」



逃げる一択!


すぐに踵を返して全力で森に向かって走る。


背中を見せたユリジャにカリティはキョトンとしたあと焦ったように走り出す。



「ぬあっ!? ま、待たんカ!おい全軍!とつげ、、、!」


「うつけが。」



逃げ出したユリジャを追うために軍を動かそうとしたカリティの首根っこをギュリカは引っ張った。



「な、何するカ!」


「明らかに誘われているだろうが。簡単な挑発に引っ掛かってどうする。恐らく向こうは準備を整えている。」


「む、言われてみれば確かに、、、ではどうするカ? 燃やすカ?」



ギュリカは連れてきた兵を呼ぶ。

馬鹿に説明しても無駄だと、簡潔に指示を出した。



「この新緑を燃やしたところで相当な時間がかかるし、こちらに出る被害も大きい、5人一組にわかれ、逐次投入、感知が得意な奴を必ず2人混ぜろ。」


「はっ、承知しました。」



ギュリカに命じられて同じような黒い鎧に身を包んだ兵士は他のもの達に指示を出して、班に分かれ始める。


すると、手持無沙汰になったカリティがギュリカの肩を叩いた。



「なぁなぁ、私はどうすればよいカ?」



同じ八ツ首なのに、指示を仰いでくるカリティにギュリカは頭がいたくなる。事実、彼女が連れてきた部隊もギュリカの部隊長から指示を受けていた。


どうせ何を言っても無駄だと思い、ため息をついて森を指差す。



「・・・適当に暴れてこい。」


「わかった!」



ーードンッ!



カリティの足元が爆発し、とてつもない加速で森に突っ込んでいく。

そのまま木にぶつかって爆散しないかな、と思いながらギュリカはゆっくりと森に歩いていくのだった。




ーーー




『いやー、無理無理、会話にならないもん。』


「まぁ意味ないことはわかってたからな。でもあいつらがこっちに来た理由はわかった。ちゃんと警告もしたし、正当防衛だろ。」


『てかさ、ロドは魔王軍なのに敵対していいの?』


「人間が攻め込んでいた、っていう大義名分はあるし平気じゃね?策謀に抗ってましたとかなんとか適当言っときゃなんとかなるだろ。」



そこら辺は知らないけど自分でなんとかして貰おう。面倒見切れないしね。


取り敢えずユリジャとの通信を切って今度はペリナに繋ぐ。


いやー、まさか同時通話できないとはね。半端な性能だなレリック。



「おーい聞こえるか?」


『・・・。』


「あれ?聞こえない? もう動作不良か?」


『・・・声が近くて気持ち悪い。』


「俺に対してクソ失礼だからな!?」



確かに慣れない通話で姿が見えない相手から耳元で声が聞こえるのは気持ち悪いかもしれない、けどそこは慣れてくれ、あと文句は心の中で言ってくれ、頼むから(泣)



『あぁ、悪かった。でもできれば声量を下げてくれ、普通にうるさい。』


「・・・まぁいいや、んで? 取り敢えず火は見えたか?」


『あぁ、確認した。開戦と言う認識で良いのだろう?』


「おう、うまくやってくれ。」


『任せろ。』



確認もとれたので通話を切って一度肩を揉んだ。

さ、ここからはもっと戦場は混沌と化していくだろう。


少しでも情報を集めないとな、、、。




ーーー




「さて、これで全員かな?」


「おう。」「あーい。」「へい。」



暗い部屋で映像を眺めるアムルの背後から3名の返事が返ってくる。


巌のような頑強な体躯に鎧を着こんだ老年の男性と、火傷の跡が目立つ細い女性、そしてピアスに染めたような金髪のチャラそうな青年は全員赤いコートを合わせるように着ていた。



「もう魔王軍は森に攻め込んだ。僕たちはお互いが食い潰し合ってる間に里へと向かうよ。」


「・・・多くの兵がいるのでは?」


「いるだろうね、それに警戒すべき対象も多い。一筋縄ではいかない、だから君たち『落陽』を呼んだんだよ。」


「え、えっへへへへ、アムルに呼ばれた、嬉しい。」


「・・・めんどいなぁ。自分、強い奴は嫌いなんだけど。」



性格もバラバラで任務に適しているとは言えないが、実力だけは高い。

アムルは苛立ちそうな感情を押さえ込んで笑みを浮かべる。



「まぁまぁ、これが終わったら君達が望むものをあげるからさ。」


「・・・。」


「やったぁ!あ、アムルの血ぃ!血ぃ!」


「可愛い娘ね?」



めんどくさくなってきたアムルはさっさと行けと手で指示する。すると、彼らは赤い霧に紛れて消えた。


残されたアムルは痛む頭を押さえながら、赤黒い鎖に貫かれたシルルカを見て、そっと目を細める。



「あと少し、あと少しであなたと再び会えます。」



その目には黒い、黒い色が沈んでいた、、、。





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