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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー95



決戦になる可能性が高い3日後、俺達はその日に向けて迎撃のための準備を進めていた。



「うわぁ! む、無理だよ!痛いし、死んじゃうよ!」


「ほらがんばれー。お前敵にまんまと突っ込んで自滅したんだろ? また同じことになりたくなければ頑張れよー。」


「だ、だからって目隠しで飛んでくる毬栗を避けるのは無理だよぉ!」



今何をしているのかと言うと、敵に突っ込んで自滅したバカの自力を上げていた。


ハイルのスピードは申し分ないが、どうもまだスピードに振り回されてる感覚がする。


取り敢えずまだ速くなれるだろうしスピードの向上と制御、後は空間把握能力の強化が課題だな。


と、言うわけで目隠しをさせて適当に移動しながら毬栗を投げつけると言う端から見たらイジメすれすれの特訓を施していた。


勿論やってることはこれだけではない。


オババには逐一連絡を取って情報を共有、そしてジャユ族とエルフ族にはお互いの指導者を元に合同訓練をやらせていた。


正直たった3日でできることは少ない。でもだからといって無駄には決して出来ない。


他にも種族特性を活かした罠の設置に森の地形把握などできることを全て行わせている。


あ、ちなみに怪我人は全員ミリアに治療してもらい、今ではピンピンしてる。


魔法様々だね。


そんなことを考えていると、後ろから誰かの足音が聞こえてくる。



「・・・何してるの?」


「ん? 的当て?」



特訓を付けてくるって言ってハイルを連れてく姿は見られていたが、何をしているのかは知らないスイはこの光景を見て困惑の表情を浮かべていた。


そして少し眺めたあと、理解するのを諦めたのか無表情でこっちに視線を合わせる。



「・・・私も訓練始めよ?」



そういえばスイにも訓練しようって伝えてたね。

スイは既に少し動いた後なのか薄く汗をかいていた。


・・・なんか、いいね。



「あぁいいよ、、、と、言いたいんだけど訓練に付き合ってくれる先生は俺じゃない。」



言いながら俺は指輪を気だるげに持ち上げた。

本来こんなことで喚んだら怒られそうだけど、喚んでもいいって許可貰ってるしいっか。


てか早くしないと週かわって別の人になっちゃうし今が一番だよな。



ーーパアァァァ



光の粒が集まり一人の少女、ミルルが形成されていく。形成されているなか既に目だけで辺りを見渡して状況とかを把握してるのは流石だな。



「・・・あは~? まさかピンチ意外で喚ばれるとは思いませんでしたね~。」


「悪いな、剣帝にはうまく言っといてくれ。」


「別に気にしないと思いますよ~、私も気にしてませんし~。」



ミルルはフワッと降り立って優しい笑みを浮かべる。そしてスイに向き直ると、スイは緊張したように固まっていた。



「初めまして~、ではないですね~。私はミルル・リーラクラットです~。よろしく~。」


「・・・は、はい、スイ・ミストレルです。え、指導して貰えるの、ですか?」


「指導~、といっても~、役立てるかわかりませんけどね~。ま~、時間もありませんし~、始めましょうか~。」



早速とばかりにミルルは剣を抜いて下に構える。

その瞬間にゾッ!とするほどの強い圧が放たれた。


スイは反射的に剣を構えたが、剣は震え、顔には恐怖が浮かんでいる。


圧倒的に実力が上の人間との対峙、それには常に死の恐怖が付き纏う。殺し合いは常に死の恐怖が存在するが、相手との差が大きければ大きいほどその圧は更に大きくなる。



「あっは~? この程度で怯んでちゃダメですよ~?いつか無謀とも言える状況に襲われても~、常に生き残ることを考えなくてはいけませんから~。」


「・・・はいっ。」



返事をすることでいっぱいいっぱいなスイと強い殺気を放ちながらも気楽に見えるミルルが対照的だ。


俺はその光景に目を伏せる。


今のスイと同じような状況は俺も味わったことがある。訓練ではあったが、剣帝と対峙したときに同じような状態に陥った。



ユースはただ剣を抜いて立っているだけ。

こちらは剣を構えて今にも飛び出せるように力を込めていたが、踏み込むことはできなかった。


汗が伝い、息が荒くなる、、、。


隙しかないのに踏み込んだ瞬間の自分の死様が頭に過る。


そんな状態を30分も続けていた。



『・・・怖いかい?』


『・・・。』



息も絶え絶え、既に集中力が切れそうになっている俺にユースは優しく声をかける。



『あはっ、それはそうだよ。君は実力も知識も付いた。だからこそわかってしまう、相手の力量が、、、。』


『・・・っ!』



そう、もう悟ってしまっていたのだ。

絶対に勝てるわけなんてないと、死ぬと、終わってしまうんだと、、、。


ただの訓練なのに浴びせられる殺気の冷たさに怯えてしまってるのだと。



『物語を読んでるだけの人はこの命の掛け合いを想像が出来ない。圧倒的な実力差がある相手に挑む、、、それはとてつもない恐怖だよ、だって死ぬことが確定してるんだもの。一歩、経った一歩踏み出せば腕を失う、足を失う、命を失う、二度と取り戻せない。』


『・・・。』



俺は心が折れそうになり、降参しようと視線を落とす。しかしその俺にユースは『でも』と声をかけた。



『でもね、いつか絶対にそれでも戦わないと行けない時がくる。死ぬと、負けると思っても、全てを背負って戦わないと行けない時がね。『逃げてもいい』、そんな簡単なセリフは僕は嫌いだ。選ぶなら唇を噛み切る程悩んで決断しろ、逃げた先にあるのは自分を殺したくなるほどの後悔だ。』



俺はその真っ直ぐな目に視線をそらせない。

それは彼の経験則なのか、今遥か高みにいる彼からは決して想像が出来ないことだ。



『だからこそ絶対に喰らい付け。たとえ百分の一、万が一、億が一、那由多の一の先にある一つの勝利を引きずり出せ。それが、死ぬ気でやると言うことだ。』



その日、結局俺は剣を一度も振るうことなく訓練を終えた。一度馴染んだと思っていた死の恐怖は背負うものが多くなると強くなる。


それに打ち勝てなければ先には到達出来ない。


今の光景に視線を戻して固まっているスイを見つめる。


越えられるか、留まるか、この先は彼女次第だ。

俺とスイじゃ実力差がわかりづらい、土俵が似てるようで全く違うからだ。


でもミルルはスイと戦い方が似ている。

だからこそその強さが、差が、浮き彫りになる筈だ。



「・・・あの、律兎? ぼ、僕いつまで固まってればいいの?」


「あ、悪い。ちょっと場所を移すか、邪魔しちゃ悪いしな。」



完全に放置してしまっていたハイルに声をかけられて意識を戻す。


俺とハイルは2人の邪魔をしないよう、そっとその場を後にした。




ーーー




「あっ、律兎さーん! こっちの用意は終わりましたよー!」


「おーう、お疲れー。」



ハイルとスイの訓練を終え、里へと戻る。

笑顔で手を振りながら近づいてきたミリアは俺に背負われた2人を見て笑顔を消しながら減速していく。



「・・・生きてます?」


「一応な。」



取り敢えずハイルは限界ギリギリまで引き絞り、スイはミルルにしごかれて動けないでいた。


結局あの後スイは動けなかったのだが、ミルルが「流石に時間ありませんし~、にらめっこだけはもったいないですよね~。」といって殺気を緩めてくれ、本格的に剣を交えた訓練を始めてくれたらしい。


ぶっちゃけ少しだけ外野から見てたけど心が折れる何てものじゃないね。


ま、それは取り敢えずいいか。



「もう全部おけたの?」


「はい!律兎さんに手分けはしないで全部ちゃんと自分で置けと言われたのでなかなか骨が折れましたからね!」



手持無沙汰なミリアには俺特製、魔除けの刻印を刻んだペグを里の周りに等間隔で刺しといてもらった。


なぜ一人でやらせたのかと言えばまだ仲間内に敵がいないとは限らないので穴を作られる可能性があったからだね。



「てか魔族に魔除けって効くと思う?」


「え? 魔ですし効くのでは?知りませんけど。」



魔除けって悪霊とかには効くけど、この世界の魔族ってそう呼ばれてるだけで別に悪霊とか悪魔じゃない気がするんだけど、、、まぁいっか。気休めだし。



「お前のとこにもそういう魔除け見たいのはないの?」


「えー、光神教だと確かエイリーアと言う花からとれる蜜が魔除けに効果あるって聞いたことがあるような、、、? 後は祈りを施した物ですかね。」


「祈り?」


「普通に魔法です。」



あー、まぁ確かに白魔法に魔族特効が、、、あるのか知らないけどあるなら魔法を注げば魔除けとしての効果があるのかな?

俺も今回は刻印による拒絶だけでなにも混ぜてないし同じようなものか。



「ふあぁ了解、後はロドとユリジャに進捗聞けばいいかな。」


「そうですけど、律兎さん、ずっと動いてますよね? 少し休まれては?」



欠伸を漏らしながらロドとユリジャのところへ向かおうとすると、ミリアから心配そうに言われた。


俺はその心配に意地悪い笑みを返す。



「へぇー? ずっと動いてて倒れた人に言われるとはね?」


「うっ、だからこそ休めるときに休んだ方がいいと言う失敗からの心配の言葉ですよ。」


「ま、取り敢えずは問題ないよ。自分の限界は理解してるし、まだこの程度なら支障はない。」



ミリアは慣れてなかったのもあるだろう。経験値が乏しければ疲労は多く蓄積していく。


その分俺は散々こき使われたのでこのくらい慣れっこだね。


でもまぁ、、、



「魔法使ってくれるなら助かるけど?」


「え? 律兎さんに私の魔法効かないじゃないですか。」


「なに言ってんだ、魔法ってのは言葉にも宿るんだぞ? ほら、人から頑張ってって言われるとやる気がでるじゃん。」


「精神的な話だった!」



何かガッカリしてるけど人からかけられる言葉には確かに力がある。

勿論受け手によって伝わり方は千差万別だけど、声援にはやる気が滾るし嘲笑には怒りがわく。人の感情を簡単に操る便利な力だよなぁ。


そんなどうでもいいことを考えていると、ミリアは「はぁ」と膝の埃をはたきながら立ち上がって手を前に持ってきた。



「・・・何を言えばいいのですか?」


「いやいや、それはミリアが考えてくれよ。」


「うーーーーーーーーん。」



俺にそう言われて腕を組んでミリアは悩む。そしてハッと思い付いたように手をたたいた。



「律兎さん、いつも頑張っててえらいえらい、あともう少し頑張ってくださいね♡」


「・・・なんか解釈違い。」


「どうしろと言うのですか!」



キュッってあざとく下から見上げてきたミリアに引いたような目を向ける。


いや普通に可愛いんだけど作られ過ぎてて逆に面白さの方が先に来ちゃった。

てか冗談だしそんなちゃんとやろうとしなくていいんだけど。


でもお陰で元気は出たので肩を鳴らしながら笑みを浮かべた。



「んじゃ、そろそろ準備を終わらせてきますかね。」


「うーーーーっ!」



唸ってるミリアの頭に手を置いてその場を後にしようとすると、背中からキュッと優しく抱きつかれて固まる。



「・・・律兎さん、本当に無理はしないでくださいね。私、貴方がいないと寂しいのですから。」


「・・・・・へ? お、おぅ。」



ミリアはそれだけ言うと、パッと手を離して離れていく。

去っていく後ろ髪から覗く耳は真っ赤に染まっていた。



「・・・言葉ってホントに魔法みたいだな。」



お陰でやる気は滾った。




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