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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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喚ばれた剣聖ー92



ーーズシャッ



下半身が砂となって崩れ落ちる黒ずくめをロドは無造作に放り投げた。



「・・・3人とも人族か。」



その場には他にも体に穴が空いている者や頭だけ吹き飛ばされた者が転がっている。



「おー、お疲れ様だねロド。」



顎に手を当てながら難しそうにしていると、木の影からユリジャが現場を見ながら和やかに登場する。


俺はそれに呆れたようにため息をついた。



「こんなの運動にもならねぇよ。お前の娘の方が遥かに厄介だ。」



そういってボリボリと頭をかいていると、ユリジャはどこか嬉しそうに胸を張っていた。今はそんな状況じゃないと思うんだがな。



「・・・で? 何を下手打ったんだ?」



言いながらユリジャの脇腹付近を指差す。血は流れていないが、確かに軽くはない怪我をしていた。


ユリジャは怪我を見た後、照れたように頭の後ろに手を持っていく。



「いやー、なかなか手強いのが居てさ、やっぱ僕ももう引退かな。」


「ーーはっ、抜かせ。」



ロドは足で軽く地面を踏み鳴らして鉱石でユリジャの顔面を貫く、、、が、ほんの少しだけ顔をそらされ余裕で躱されていた。その顔には「ほ?」と余裕そうな笑みが浮かんでいて普通にイラッとする。



「俺がお前と本気の喧嘩をして勝てたのは5戦中2回だ。そんなやつが引退するなら魔王軍なんか解体だろ。」


「あっはっは、昔の話じゃないか。」


「・・・3ヶ月前の話だろ。」



相変わらず飄々とした奴だと訝しんだ半目を向ける。


昔からそうだがこいつは何時もなに考えてるのかわからない薄い半笑いを顔に被っている。

どうも里では実力を表に一切出さず、非力な長を演じているらしい、ま、リクリカ情報だが、、、。


少しでも片鱗を見せれば意見なんて大概通るし言うこと聞かせられるんだけどな。



「別にいいか、知ったことじゃねぇし。」


「えっ、突然突き放された。」


「それで? なんでこんな人族が沢山居て、お前んとこが攻め込まれてんだ?」


「知らないよ、寧ろ僕が聞きたいかな。それも聖騎士なんかにさ。」


「・・・あ? 聖騎士?」


「うん?違うのかい?」



不思議そうにしているユリジャの前にさっき投げ捨てた死体を転がす。するとユリジャは軽く目を見開いた。



「・・・ただの、盗賊?」


「だな、どっからどうみてもコイツが高貴な騎士様には見えねぇだろ?」



転がされた死体は簡素な皮の鎧にナイフを何本か外套の裏に忍ばせていた。見た目もどことなくみすぼらしいし騎士には全く見えない。


そう言われてユリジャは少し頭を悩ませている。



「・・・まさか、混成軍? そこに魔族も絡んでるって言うのかな。」


「今んとこ見てねぇが、ゴートぐらいはいるんじゃねえか?」


「少しまずいな、もし人が攻めてきてるならミリアさんが疑われかねない。いま彼女が外れれば守りが手薄になる。」


「ほぉ?寧ろ疑わないのか?」


「いやー、さすがにないでしょ。こんな回りくどいことする必要なんて彼らにないしね。」



確かに律兎ならエルフの里を潰す、、、まぁ厄介なやつはいるが、打撃を与えるのは簡単だろう。そこにあの嬢ちゃんの防御が加わればさらに手強くなる。


仮にどんな策謀を巡らせていたとしても遠回りが過ぎるな。



「つーかお前、結界の外の異変には気付いてんだろ?」


「まーね、ヤバイよね。」


「慌てなくていいのか?」


「あっはっは、みんな頑張ってくれてるからさ。」



里のピンチだと言うのにどこか余裕そうなユリジャ。なにも考えてなさそうだが、どうせもうコイツは思考を終わらせた後なんだろうな。



「ロ、ログロド、様、、、。」


「あ?」



すると、森から傷だらけの同胞が出てくる。

彼は息も絶え絶えになにかを伝えようとした。



「た、大変です、ひ、人族がこの森に、、、!」


「あぁ、知ってるよ。つーか、その雑な擬態はなんだ。」



ドゴオンッ!



地面から突き出された鉱石にジャユ族は腹を貫かれる。すると、溶けるように姿が代わり、黒髪のゴート族が現れた。



「まさか今回連れてきた連中でもない奴に化けるとはな。連れてきたやつらの顔くらい全員把握してるに決まってんだろ。」


「お粗末だね~。」


「・・・やっぱ魔族も合わせた混成軍か?」


「可能性は高いね~、と言うか確定かな?」



そういって指に青い火を灯すユリジャは辺りを見渡す。

いつの間に囲まれていたのか回りには多くの刺客がいた。



「どうやって現れたんだ?」


「さぁね、これから調べるとしよう。」



仕方ないかと拳を打ち鳴らす。


にしても敵もなに考えてんだか、この程度足止めにもならないのにな、、、。




ーーー




「ミリアさん!こっちにも治療お願いします!」


「わかりました!こっちが終わったら直ぐ行きます!意識を失わないよう呼び掛けててください!」



今、エルフの里は悲惨な状況になっていた。


次から次に運び込まれるジャユ族や救援に来たエルフ達。


何とか一人一人に対応して治療を施していくが、時間が経つに連れて運び込まれる人はどんどん増えていく。


それに負傷者は火傷だけじゃない。

倒木や、悪い足場に骨が折れたり、鋭い刃物や殴られた様な様々な怪我をしている。


どうやらペリナが危惧していた襲撃者にやられたようだ。



「ミリアさん!こっちにも!」


「はい!」



呼ばれて直ぐにそちらに向かう。

ローブは血や煤にすぐ汚れ、衛生的にも良くない。

その度に浄化はしているが、間に合わないことも多くなってきた。


魔力切れは問題ない。

ただただ目まぐるしい惨状に目を回している。


息も切れてきたし、足もいたい。

でも自分に魔法をかけている場合じゃない、急がないと、、、。


ただどこか不安なところもある。

遠巻きにみてるジャユ族やエルフ族の中に猜疑的な目を向けている人がいること。


特になにか言われたり実害も出てないので気にしても仕方ないが、気になることは気になる。


だが直ぐに急患が運ばれ、それどころではなくなった。



・・・・・。

・・・・。

・・・。




「はぁ、はぁ、はぁ、、、。」



夜を越えて朝日が登る。

それでも未だに火は鎮火できず、負傷者は運ばれていた。



汗がにじみ、倦怠感が酷い。

思考はまばらになってきたし、魔法の効果も芳しくなく一度に効果が出づらくなっていた。



「・・・次の、人は、。」


「ミリアさん、も、もう休んでください。今にも倒れそうですよ!」



少しふらついた体を私の補佐をしてくれているリフィーナが支えてくれた。


私は汗をぬぐいながら彼女にお礼を言い、次の患者に魔法を発動させる。相変わらず魔力切れの心配がないのだけが救いだ。



「あと何人いますか?」


「・・・それは、まだ、ざっと10人は。」



その人数を聞いて少し頭が痛くなるが、気合いをいれるために頬を張る。


ただ、そのタイミングで遂に最悪な光景を目にしてしまった。


向かった先で傷だらけの一人のそばでむせび泣く一人のエルフの戦士。

手を握られたエルフ族の戦士はもうすでに息を引き取っていた、、、。



「そんな、、、うそ、、、。」



なにかが崩れるように感じる。

死体をみたことがないわけではない、でも助けられなかったと言う事実が深くささる。


震えるように近づくと、傍らにいたエルフが私に気付き、腰に指した剣を抜いた。


事態に気付いたリフィーナが慌てて近づいてくる。



「ラニ!なにしてるの!」


「人族が、人族に殺された! お前がお前が連れてきたんだろ!」



その叫びはこの騒がしい現場でも嫌なほどよく響いた。


私はその言葉に激しく動揺する。

もちろん連れてきてなんかいない、それでも人族がここにいて、争いを起こしていると言う事実はどことなく胸が苦しくなる。


それに遠巻きにみられていた理由もわかった。

恐らく他にも何人か人族に襲われたのだろう、同じ人族の私を疑っても仕方ない。


目の前のラニと呼ばれたエルフの子は私に掴みかかろうとした。しかしそれをリフィーナが止めて頭に冷水をかける。



「なに言ってるの!! もし、ミリアさんがいなかったら何人命を失ってたかわかってる!? まだなんとか水面下で耐えきれてるのは彼女のお陰だからね!」


「でも! だったらなんでこんな状況になってるの!一体なんでこんなことに、、、!」


「そ、それは、、、」



みんなが困惑し、今の変わらない状況に蟠りが募っていく。一度、放たれた心情の吐露は他の者にも伝播し、数々の言い争いが生まれ始める。


私を疑うもの、敵が何なのか問い詰めるもの、擁護する声も聞こえるし、助けた人からは慰めるような声も聞こえる。


頭痛がひどくなって、ぐらりと視界が歪む。


もともと疲労が溜まり、気持ちだけで耐えていた体が潰れそうになった。



「・・・どう、すれ、、、ば、、、。」



遂にバランスを崩して後ろに倒れそうになった瞬間、その背をそっと暖かい腕が支えてくれる。


誰なのかわからず隈のできた目で顔を覗くと、そこには眠そうでありながら、とても頼りになる鋭い目を光らせた律兎さんが笑みを浮かべていた。



「・・・・・律兎、さん?」


「あぁ、遅くなった。よく頑張ってくれた、少し休め。」



突然現れた彼に里にいた全員が視線を送る。

その視線を受けて彼は一度息を吸い込んで、大きな声で叫んだ。



「信用するのはお前らの同族だけでいい! 敵は人、魔族問わず攻撃しろ! 俺が敵だと思うなら攻撃しても構わない、だがよく自分で考え行動しろよ! てめえらは俺を敵に回すか、それとも外の奴等と戦うのかをな!」



彼の腹に響く叫びに全員が固まる。

エルフの戦士は彼がフィーカを止めたことを、ジャユ族はロドに勝ったことを知っている。そんな彼を敵にするのは是非とも避けたいはずだ。



「スイは外の消火を手伝ってくれ! ミニーは水で衛生環境を少しでも整える、ルームは情報を集めてくれ!」



律兎さんはテキパキと指示を飛ばしながら私を抱き抱える。彼が声をかけたスイ達は直ぐに行動を開始していた。


私はそれを横目でみながら、徐々に意識を落としたのだった。




ーーー




「・・・う、うぅん。」



どこか暗い静かな部屋で目を覚ます。

上には暖かな毛布が被せられ、キチンとしたベットで寝かされていた。


状況が掴めず微睡んでると、少しずつ意識が覚醒し焦り始める。



「ーーえっ、み、みんなは!?」



すると隣からガタッと音が聞こえた。

そこには律兎さんが驚いたように固まっている。



「おお? 起きたか、どうだ調子は?」


「り、律兎さん! そんな悠長な場合じゃ!早く戻らないと、、、!」



まだまだ怪我人は沢山いた、少しでも多くの人を助けないと、と思ってベットから降りようとしたが、肩をそっと押さえられる。



「落ち着け、大丈夫だ。状況は悪化してない。」



律兎さんは安心させるようにそう微笑んだあと、そっと私に暖かい飲み物を渡してくれた。

それを受け取って、呆然としながら彼を見上げる。



「取り敢えず今は、何とか森の消火が上手く行って、スイやミニーに医療の心得がある奴等が治療に当たってくれてる。もうペリナやシルルカも戻ってきたし、しばらくは大丈夫なはずだ。」


「そう、なのですか、、、。あの、私はどれくらい寝てました?」


「そうだな、ざっと一日半ってとこだ。」



その言葉に目を見開く。


一日半、そんなに長く寝てしまっていたのか、、、。


みんなが必死なっているなか自分一人が寝込んでしまっているなんて、、、


悔しさに毛布を握りしめ、何とか溢れそうになる涙を我慢する。

そんな私の頭をそっと暖かい手が触れた。



「よく頑張ったな。」


「・・・頑張れてなんていません、私は役に立てませんでしたよ。敵にも無力で、治療も満足にできていません。」


「お前が障壁を張り続けたお陰で敵の侵入はない。死傷者の数もそこまで多くないし、よくやってくれたよ。」


「でも、、、! でも助けられてないじゃないですか!」



勢いよく八つ当たりのように横にいる彼に声を荒げてしまう。それでも彼はまっすぐこちらを見つめる。



「・・・ミリア、お前は魔力が多すぎるがそれでも人だ。出来ることも手が届かないことだって勿論あるさ。確かに失ってしまったものもあったし、それを悔やむのは悪くない、でもそれでお前が潰れたらこの後はどうする? まだ傷ついた人達はお前の助けを必要としてる、お前の力が必要なんだ。」


「私の力が?」


「あぁ、スイ達でも応急手当はできるが、完治は無理だしな。そこはどうしてもお前頼りになる。」


「なら急がないと、、、」


「だからこそ、今は少しでも休んでくれ、あいつらだって戦士だ。覚悟はあるはずだし、まだ耐えられるだろ。」



律兎さんはそう腕を組みながら言い捨てる。


こういった場面に慣れているのか慌てたりしてない。ただ、何時もの表情が少しだけ険しくなっていることに気付いた。



「俺も遅くなっちまったしな。いい加減この状況を突破するぞ。・・・手伝ってくれるな?」



軽く首をかしげながらそう言った彼の言葉が心に落ちる。


まずは原因の解決、後悔はその後だ。




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