喚ばれた剣聖ー91
少し状況が落ち着き、休んでいた私達に火急の知らせが届いた。
「結界の外の森が燃えてるぞ!!」
その叫びは避難していたエルフの一人からもたらされた。彼はジャユ族が里に大勢いることに顔を青くしていたが、そこにシルルカもいて困惑する。でも混乱している場合ではないと叫びをあげた。
「え、燃えてる? するとどうなるのですか?」
「森が燃えればこの里は結界の外に放り出される。そうなれば一緒に炎に包まれるわ! 急いで消化しないと!」
シルルカは慌てたようにすぐに里から出ようとする。その首根っこをペリナがつかみ、シルルカは短く「ぐえっ」と声を漏らした。
やれやれといった風に頭を振ったあと、ペリナは息を吸い込む。
「ジャユ族の戦士よ! 今この里は何者かに落とされようとしている!思うところはあるだろう、しかし、助けられた恩を忘れるようなことはあるまいな! 皆、火の消化に全力で当たれ!」
「「「はっ!!」」」
ペリナの腹の底に響くような号令に戸惑っていたジャユ族の戦士達は直ぐに立ち上がって敬礼する。
彼らは今しがた目覚めたばかりで状況も何も呑み込めていないが、上官である彼女の号令に異を唱えることはない。
・・・それだけでもペリナさんの指揮能力の高さが窺えますね。
「いいか!この火は意図的な可能性が高い! 火だけでなく常に周囲にも警戒を配り、怪しい人物がいれば捕らえよ!」
彼女の指示のもと、ジャユ族はすぐさま行動を開始する。
残された私達はポカンとしてしまうが、固まっている場合ではないと思い直す。
・・・でも何しましょう?
「・・・えーと、ペリナさん私達はどうしましょう?」
「私に聞くのか? そうだな、ミリアは後方で怪我人が出たら治療を頼みたい。障壁を里に張れるか?」
「はい、大丈夫です。」
少し先程の役に立たなかった攻防がチラついたが、今はそんなこと考えてる場合ではないと思考の隅に追いやる。
「シルルカさんはもしエルフ達に協力を仰げそうなら動けるもの達を指揮してもらいたい。」
「え?私が?!無理だよ、そんなことしたことないし! それにユリジャ様の命にも反することに、、、。」
「それは私達と戦うことだろう? 半信半疑な敵ではない、今度は明確な敵だ。今行動を起こさなければ状況は常に悪くなり続ける。動くなら今だ、今しかない。」
腕を組みながらペリナは諭すようにそう言った。
彼女の指示には迷いがない、今はロドという指令を下す絶対のリーダーはいない。だがそれでも彼女は自分のやることを考え、理解し、迷わず実行する。
そんな真っ直ぐな彼女にこちらの心も奮い立たされるようだ。
「・・・わかったわ、取り敢えず声はかけてみる。でも期待しないでよ?」
「構わない、その時はその時だ!」
そして私達はその後直ぐに行動を開始、、、
「あれ?そう言えばハイル君はまだ寝てるのですか?」
「え、そう言えば起きたような?」
すっかり忘れていた仲間の存在を思い出して下の集まってる人達のなか目を凝らすと、ジャユ族の戦士達に流されるようにつれられていくハイルくんがこちらな手を伸ばしてるのが見えた。
私はその様子に「あー、、、。」と小さく声を漏らす。
あれを助けるのは骨が折れそうですね、よし、見捨てましょう!
「頑張ってくださいね~!!」
「ち、ちが、せ、声援を求めてるわけじゃ、、、た、助けてぇ~!」
彼の叫びむなしく、そのままジャユ族の戦士達につれていかれたのだった。
ーーー
「ぐ、、、!」
「これで3人目かな。」
ユリジャの前に黒い衣服に身を包んだ襲撃者が、苦しみながら力尽きる。彼はそれを何の感情も感じさせない目で見下ろす。
そして力尽きた相手を足でひっくり返し、覆面を剥ぎ取った。
「茶色い髪、人族か。」
「ご明察だよ、矮小な頭でもそのくらいの判別はつくんだな?」
すると、背後からバカにするような声がかけられ振り返る。そこには長い剣を肩に置きながら両手で担ぐようにした赤い髪の人族がいた。
両耳につけたピアスの先には太陽と十字架を象った聖教会のシンボルが下げられている。
「・・・光神教か、まさかイングラット聖法国の神官さんかな?」
「ひゅー、詳しいな。でも薄汚いその口で聖地の名を口にするんじゃねぇ。」
前の男は担いだ剣を自分の前に持ってきて剣を抜いていく。でももちろん相手の戦闘態勢が整うのを待つなんて馬鹿らしいので、相手に指を向ける。指の先に魔力を集中させて、青い炎を集めて相手に放つ。
ズガンッ!
しかし放たれた青い炎は相手に届く前に透明な壁に遮られた。
「聖騎士が白魔法を得意とするのは当然か。でもどうして君達はここにいるんだい? 山越えは簡単じゃないし、魔王軍の監視も厳しい筈だ。それを乗り越えてまで僕たちを狙う理由はわからないな。・・・しかも魔族と協力して。」
「んー?バレてんのかよ、俺だって協力したくてしてる訳じゃない。上からの命令で仕方なくだ。」
別に協力してるのかどうかの確信はなかったが、相手の言い方からプラズ商会と繋がってるのかな?
にしても本当に協力してるのか、これって魔王様も面白くないんじゃ、、、。
赤髪の男は抜かれた白い剣の切っ先を向けてくる。
「まー何でもいいけどよー、耳障りだから静かにしてくんね?」
「そうかい? 僕としては君の凛とした声を聞いてたいけどさ、ちなみにお名前を聞いても?冥土の土産に是非とも。」
そうにこやかに言ってみると、彼は少し驚いたあとどこか嬉しそうに笑った。
「はっ、良くわかってんじゃねえか。聖騎士アッカル・レディグだ、土産にとっときな。」
「ご丁寧にありがとう、僕はユリジャ・フォレスティア。最後に覚えてもらえると嬉しいよ。」
「どうだかな?」
アッカルは笑いながら剣を構える。
それにならってユリジャも指の先に青い火をともしながら腰を落とす。
ビリつく緊張感のなかユリジャは冷静に相手のことを観察した。
・・・聖騎士か、光神教の神官は白魔法を得意とする。さて、白魔法使いを相手取るのは久しぶりだね。
「行くぞ!」
アッカルは剣に手を翳す。
すると剣は薄く発光し、その光は徐々に強くなる。
そして振るわれた剣は光を伸ばしながら軌跡を描いて森を裂いた。
ユリジャはその一撃を余裕を見せながら躱し、なおも観察に努める。
・・・これは斬撃というより光による焼却か。
剣での鍔迫り合いや防具は意味をなさないな。
すると、アッカルは次に自分の前に剣を持ってくる。そして体が光ると同時に背後に現れた。
「ーー!」
「死ねやあ!」
鋭く振られた剣を刃に合わせるように回りながら躱す。
そのまま前に飛び出して追撃を回避し、アッカルに向かって手を向けた。
「青火。」
ーーバキィンッ!
放った青火は相手の障壁によって防がれる。
しかし、魔力をそれなりに込めながら打ち出さないよう維持していたので障壁を壊してアッカルを吹き飛ばした。
そのまま追撃のために両手を地面につけたが、背後にアッカルの後ろに控えていた黒ずくめがナイフと魔法を込めているのに気づく。
・・・先ずは後ろかな。
「落ちろ。」
ボグンッ!
短い一言と共に背後の地面が抉られたように大きな穴が空き2人を落とす。その穴に向かって手を向け、冷たい目を向けながら青火を放った。
すると、体からピリッと静電気が走るような感覚がした。手を開いたりして様子を確認するが、特に違和感はない。
が、左腕に白い鎖のような刻印が光っていた。
「・・・これは。」
膨れ上がる殺気を感じて一歩退する。目の前を雷が通りすぎ、放った相手に視線を向けた。
「ーーちっ! 何で今のにも反応できんだよ!」
「・・・思ったより元気そうだね。」
またアッカルに向けて青い火を放つが今度は躱されてしまった。追い討ちをかけようと手を向けたが、左腕が鎖に引っ張られるようにアッカルに引き寄せられ態勢を崩してしまう。
「くっ! やりづらい。」
「まだまだ行くぞ! 『鳥の報せ』『聖盾の歌』!」
アッカルは魔法を叫びながらこちらに向かってくる。腕を引っ張られる中、空いた右手を地面につけて彼の足元に穴を空ける、が、まるでそこに穴が空くのを知ってるかのように回避されてしまった。
・・・鳥の報せ、確か数拍先の未来を知覚する魔法だったかな。
というか白魔法は主に発動者の基礎能力を補助したりするのに特化している。他には捕縛と防御とあと光かな。
トントン、と足で地面を叩いて風の魔法を発動させて空へと飛ぶ、高所から手を向けて炎の炎弾を打ち出すしたが、それすらダメージがないように斬撃を飛ばしてきた。
「・・・う~ん、一定時間の頑強性の向上かな?」
「うっせ、チマチマ逃げてんじゃねえよ!」
飛んでくる斬撃をゆらりと笑いながら躱す。
確かに身体能力とか上がってるけどまだそこまで驚くほどじゃない。
「じゃ、次の一手といこうか。」
「あー? なんだ負け惜し、、、みぃ?!」
相手の足元が今度は一際大きく陥没した。
そこに向かって赤い炎を落とす。
ーーボンッ!
「さてと、、、」
穴の縁に降り立つと火をまといながら穴からアッカルが剣を構えながら飛び出してくる。
業火を纏って振るわれた剣は躱しても熱が体を焼く。
チリッと痛みを感じながら、手をそっと相手の体に押し付けた。
「燃えろ。」
バチンっと弾かれる音がして火花が散る。
アッカルは驚いていたが、こちらの攻撃が通じないことに笑みを浮かべた。
「終わりか?」
「いや、終わらないよ。」
「あ? なに、を?」
すると、透明な障壁が青い炎に焼かれていく。
嫌な感覚がしたのかアッカルは直ぐに障壁を消して飛び退いた。
「・・・てめぇ。」
「さ、君は青い火についてどこまで知ってるかな?」
ユリジャは笑みを浮かべながら胸の前で青い火を灯してアッカルに見せる。すると、相手は体がぐらつきたたらを踏んだ。
「ーーっつ! うざってぇ、、、真似を!」
「すごいな、ここまで直視したら精神を侵食されてまともに自我を保てないのだけど、、、さすがは聖騎士と言ったところだね。」
パチンっと指を鳴らして火花を散らす。
その音を聴いてアッカルはぐらりと体を揺らしたが、それを利用してこちらに突っ込んできた。
「ーーおっ?」
「舐めんな!」
先程よりも素早く突き込まれた剣に脇腹を裂かれるが、そのまま突き込まれた腕を掴んだ。
そしてそのまま魔力を込めるとアッカルの掴まれた場所を青い火が焼いた。
直ぐに振り払われたがその火は燃え上がりはしないがジワジワと範囲を広げていく。
「ーーっ、そうか性質は『侵食』か。」
「ご名答、良く腕を切り離すこともなく侵食を止めたね。ま、もう動かすことは難しいだろうけど。」
今アッカルの腕は焼け爛れたように赤黒く変色している。
痛みに汗を流しながらも、手を翳して白い魔方陣を灯して患部を癒す。
「いいぜ、やってやるよ。」
アッカルは痛みを我慢しながら剣を地面に突き立てて首につけていた聖銀でできたネックレスを引きちぎる。
魔力が高まり全身に剣に込められたような強い光が溢れて出す。
「もう火は届かないぞ。」
鋭くこちらを睨みながらアッカルは一歩踏み出す。
強い魔力によって踏みしめられた地面は熱をもって土を焼く。
その異常な様子を見ながらもユリジャは小さなため息をひとつ漏らすだけだった。
「届かせる必要はないよ、もう終わってるからさ。」
「・・・は? どういう、、、こぽ、、、っ?」
アッカルは突然口から溢れた血に戸惑い動きを止める。そしてゆっくり視線を下げると、胸の辺りを青い火が燻り、穴を空けていた。
その穴の空いた胸を見て、アッカルは一度こちらに恨めしげに目を向けたが、特になにも言葉を発することなく崩れ落ちる。
ーードシャッ
どんどん体が青い炎に包まれていくアッカルを眺めながらユリジャは最後に髪をかきあげた。
「ごめんね、まだやることがあるからさ。」




