喚ばれた剣聖ー90
「どっりゃああああ!」
ログロドは大きな声で叫びながら蔦で縛られていた両腕を上に持ち上げ引きちぎる。
そして息を切らしながら前に座っているフィーカとジャルヌを睨み付けた。
「ってめぇ!幻覚ってなめてんのか!?」
「・・・なめてないが? むしろ何もできなくて困っていたところだ。どうせ外から刺激を与えれば反射で反撃してくるくせに。」
蔦を引きちぎって青筋を立てているログロドに対してフィーカは変わらずジャルヌと一緒に座っている。
そのどこか緩い雰囲気にログロドは首をかしげた。
「あ? 何してんだ?」
「・・・貴様に客人だ。」
そう言いながらフィーカは横を指し示す。
すると、指差された先からユリジャがにこやかに手を上げながら出てくる。
「やっ、久しぶりだね。」
「・・・おい、お前なに平然と俺の前に出てきてんだ。」
攻め込んだ敵の長が目の前に現れる。
本来ならあり得ない状況にログロドも警戒を強めた。
そんな様子のロドにユリジャは肩をすくめる。
「別に戦いに来たわけじゃない。話そうと思ってね、君が最小限の戦力で攻め込んでくれたお陰でゆとりもあるし。」
「・・・はっ、そうかよ。てことはもううちの連中は無力化されたか。念のために聞くが殺しちゃいねんだろ?」
「それは勿論、今は里で休んでもらってる。里のみんなには避難してもらっているし問題はないはずだよ。」
和やかに話す彼らにフィーカはなんとなくこの戦いが茶番であったことを悟った。お互いに被害がでない最善を考えて行動していたのか。
「・・・ただ問題もあってね。リクリカが敵に囚われた。やはり第三の勢力が忍び込んでいると考えていい。」
「ちっ、かき乱しやがって、敵は誰だ? 人か?」
「今のところ見かけられたのは一人だけどそれは人だったらしい。他は消し炭にされたらしいよ。」
「・・・ほぉ?」
平然と話しているが、その中に聞き捨てならない言葉を聞き目を見開く、母が囚われた? そんな、あの人が?
心が乱れる感覚に襲われるが、前にたって平然と話す父様に困惑する。それを理解してかユリジャはフィーカに振り返った。
「勿論助け出すよ、でも我武者羅に動いたって絡め取られるだけだ。・・・いまは一番慎重に動く必要がある。」
ユリジャは変わらない声音でそう言うが、手には血が垂れるほど力が込められていた。私はその姿を見て、特になにも言わず無言で座り直す。
「あ、そういえば何となくだけどエルフの里が狙われたのは精霊が目的だと当たりをつけてみた、ちなみにジャユ族が巻き込まれた理由って心当たりあるかい?」
「それがわかれば苦労しねぇ、心当たりがないから何を守ればいいのかもわからねぇんだ。」
ログロドは鬱陶しそうに頭をかきながら心底嫌そうにため息をつく。その話を聞いて、ユリジャは顎に手を当てる。
「・・・予知夢の実りの日まであと一週間。急がないとね。」
「だがどうすんだ? 敵の情報はないんだろ?」
「持ってるのは君と同じ律兎くんからもたらされたものだけかな。あとはミリアさんから天能持ちがいるとだけ、、、。」
「はぁ? んだそりゃ、くそ厄介じゃないか。」
「でもそこも上手くやってくれたよ。見事追い返してくれただけじゃなく、敵にこちらの戦力を誤認させてくれた。」
「・・・誤認? よくわかんねぇ、つーか誰がやったんだよ。」
ログロドはそうユリジャに問い詰めると、彼もよくわかんないとばかりに肩をすくめた。
「・・・正直彼もまた、隠し事が多いものだよ。でもそれは僕たちが言えることじゃないし、手を貸してもらってる以上目を瞑るべきだ。」
「ま、そりゃそうか、とりあえず攻め込んでるやつを捕らえることにするか。」
「懐かしいね、君と協力して戦うなんて。」
「あ?協力だ?違うだろ、俺は俺に喧嘩売った相手を潰す、お前はお前で喧嘩売った相手をぶっ飛ばす。ただの利害の一致だ。」
そうログロドは不敵に笑いながら、ユリジャは呆れたように笑いながら頷き合う。
「先ずは敵の把握から行こうか。フィーカは里に戻ってみんなの守りを、、、うーん、ミリアさんがいるから平気かな?」
「おいおい母が捕まったのに、おとなしくしてろというのも酷だろう?」
「そうだね、じゃあ伝言だけ頼もっか。」
こちらを置き去りに2人は淡々と話を進めていく。
自分としても里で大人しくしていろというのは不満があったので喜んで捜索に賛同する。
先ずは里に戻り、伝言を伝えに行くことにした。
ーーー
「・・・ふぅ、取り敢えずこれで負傷者は全員治療できましたかね。」
ミリアはそう呟きながらカップを傾ける。
ほとんどの者達は首を吊られて意識を失っていただけだが、リクリカが無力化したであろう兵士は傷も多かったので残さず治療を施した。
軽度の者はすぐに目を覚ましたが、まだ体力を多く失ったものは目覚めていない。
・・・それにしても
「本来首を吊られれば人はすぐに意識を失って死に至ります。それなのに気絶ですんでいるのは天能の賜物ですかね。」
幸いか、未だに死人は一人もでてはいない。
でも精霊達は一人も目を覚ましてはいなかった。
「別のなにか、私達とは違うものを奪われた?」
ただの憶測であり、心当たりはない。
でも本来なら人と違う彼らが意識を奪われたとして、失い続けているのは理解しがたかった。
そこまで考えて頭を悩ますが答えは結局出てこない。わからないことを悩んでも仕方ないと案内された仮住居でハーブティーを淹れてもらっていた。
「はぁーーーー、落ち着きますねーーー。」
「落ち着いてる場合なのか?」
一緒に休んでるブロンからそんな呑気にしてていいのかと突っ込まれる。ちなみにハーブティーを淹れてくれたのは早くに目を覚ましたワニィアさんだ。
その腕前は高く、香り豊かでとても美味しい。
すると、木の扉が開かれ外からペリナさんが入ってきた。
「あ、ロドさんとは連絡がつきました?」
「いや、もう動いてしまったようで連絡は取れていない。」
ペリナさんは疲れたようにそう言って私の対面に腰かける。そしてため息をつきながら額を押さえた。
「お疲れ?です?」
「・・・疲れてはいない。だがログロド様から敵の情報を探れと命じられていたのにああも簡単に無力化されてしまっていてはな。」
・・・気にしてるのはそこですか。
でも相手が相手でしたし仕方ない気もしますけど、あっさりとやられてしまえば意気消沈するのもわかる。
私は何も出来てませんでしたからねぇ!!
「いいではないですか、みんな無事、怪我人も治療できましたし万々歳です。」
「あまりにも不気味ではないか?敵の追撃が来ないのもそうだし、精霊達はなんで捕まり私達も殺されなかったんだ?」
「ふっ、わかりませんので考えるのを止めました。」
先程悟ったことを伝えると、ペリナさんはまたため息をついてテーブルに突っ伏した。
「それにしてもこの森は緑豊かだな。あまりに濃い匂いで酔いそうだ。」
「ですね、ドリム地下街とは様相が正反対ですものね。」
2人で現実逃避をするように話題を変える。
ペリナさんはこの森にはじめて来たようで、あまりの自然の豊かさについていけていないらしい。
ここまで過剰だと私もついていけてませんけどね。
「ミリア、、、あ、すまない、ミリア様。」
「いまは客人でもないですし堅苦しくならなくて良いですよ。」
「そうか、では何時も通りに。」
久しぶりな気がするペリナと近況を緩く話す。
なぜ律兎さんがいないのか、何をしていたのかを空気を変えるようににこやかに。
その私達の様子をブロンとワニィアは驚いたように見ていた。
ブロンはロドの近衛という雲の上の存在であるペリナと対等に話していることに、ワニィアは厳格そうな彼女が人族と楽しそうに話していることに、、、。
そのまましばらく話していると、扉が勢い良く開け放たれる。
「みんなフィーカが来たよ!」
「そんなお待たせみたいに、、、。」
嬉しそうにそう報告してくるシルルカの後ろからフィーカが顔を出した。
彼女の厳しそうな顔はそのままに、こちらへ淡々と2人の判断と状況を伝えてくる。
「ーーなっ!? あの方はまた勝手に!」
「別にあなたがいたところで関係ないでしょ。相手は未知の実力者。卓越した実力を持った人が相手した方がいいに決まってる。」
冷たくズバッと言い放ったフィーカにペリナはイラッと青筋を立てる。そして腕を組んで鼻をならした。
「はっ、まんまと自分達の懐へと敵の侵入を許した実力者殿の言うことは違うな。」
「・・・・・ふん、騙されて攻め込んできた間抜けは自分のことを棚に上げるのが上手なものだ。」
ーーバチッ
フィーカとペリナは火花を散らしながら睨み合う。
そんな2人をめんどくさく思ったので取り敢えず立ち尽くしていたブロンを間に挟み込んだ。
「はっ?!なんで俺!?」
「貴様、何の真似だ?」
「土を捏ねるだけの下級戦士がでしゃばるな。」
「辛辣すぎんだろ!てか2人ともお互いに騙されてたんだから同じレベルだ、、、っぱ!?」
「「こいつと同じにするな!!」」
急に立たされたのに何とか仲裁しようと頑張ったが、言葉を間違えたようで2人にブロンは殴り飛ばされる。
・・・なんかゴキンッて聞こえましたけど大丈夫でしょうか?
というか2人とも息ぴったりですね。
なおも睨み合う2人に呆れ、フィーカはシルルカに後ろから羽交い締めで「はいストップー」と止められ、ペリナはワニィアに「あ、あの、喧嘩は止めましょ?」に宥められていた。
「というかフィーカ、あなたはリクリカ様を捜索するんじゃないわけ? もう指示は聞けたし戻った方がいいんじゃない?」
「ん、それもそうだな、無駄な時間をとられたが事態は深刻だ。森に戻る。」
「無駄な時間を、、、むぐっ!?」
またフィーカに言い返そうとしたペリナの口をワニィアが慌てて押さえる。確かにまた無駄な時間が生まれそうだったのでナイス。
「・・・はぁ、早く律兎さん来てくれませんかね。」
ーーー
エルフの里、結界外
そこには松明を持った大勢の黒ずくめの人々が立っていた。その真ん中に立った一人の男性、赤色の髪をかきあげた鋭い目の男は笑みを浮かべる。
「ようやくだ、ようやく汚泥から生まれたゴミを処理できる。」
男は歓喜に打ち震えんばかりに自分体を抱き締めたあと手を広げて振り返る。
「いいかテメェら! これは始まりだ!もう既に盤面は傾きつつある!先ずはエルフどもを殺し、いずれは全ての魔族を根絶やしにするぞお!」
「「「おおおおおおっ!」」」
高らかに宣言されたその言葉に周りいた黒づくめ達は腕を振り上げる。
そして手に持った松明で次々に森に火をつけ始めた。
青々しい森はすぐに燃えるわけではない、だが徐々に、徐々にその火は広がっていく、、、。
その光を眺めながら男は口元を吊り上げた。
「くくくっ、もう既に事態を察知できる精霊はいない、さぁ、もう逃げ場はないぞ!」
その大きな笑い声は暗い森にうるさく木霊するのだった、、、。




