喚ばれた剣聖ー89
『アムル様!アムル様!どこですか!?助けてください!』
暗い部屋の真ん中、前に映し出された映像を見ながらアムルは足を組んで冷たい目を画面に向けている。
画面の向こうでは森を走りながらダムドが助けを求めている姿が映し出されていた。
「・・・ふむ、どうしますかね。」
その姿を見てもアムルは悩ましげに画面を睨むだけ、特になにも感情を感じさせずに頭を捻る。
・・・さて、ダムドが生かされた理由は何でしょう?
厄介な力を持ってることは彼と敵対した全員がわかってるはず、また襲ってくることを考えれば殺す以外選択肢はないはず。
メッセンジャーとして生かされた、勿論理由の一つとしては考えられる。
彼を助けに向かわせた駒は全て的確に処理されてしまいましたからね。おかげでだいぶ目を減らされましたよ。
「あの謎の女性。ミルル・リーラクラットでしたか、あれほどの強さを持った者が向こうにいるのは予想外でしたね。てっきりあの男が出てくるかと。」
思い出すのはコートを着た黒髪の青年。
異質であっさりと私の商会の幹部を制圧し、誰にも気づかれず商会に潜り込んでいた不気味な男。
エルフの少年がこの里に戻っていたのは知っていた。その彼の動向は未だに妄執の指輪で追えている。
「となると、彼は里よりダンジョンを優先させた? 月の湖畔に何があると?」
少し、ほんの少し彼がまだ攻略してるであろうダンジョンに興味が湧いていくる。いったい里の危機を無視してまで得るものがいったい何なのか、警戒せずにはいられない。
「・・・念のためそちらにも駒を送っておきましょう。」
すでに開拓地には駒を潜ませてはある。ただ彼は聞く限り相当奥までダンジョン内を進んでいるようだ。私の駒ではそこまで追いつくことはできない。
・・・やれやれ、ただの気休め程度にしかなりませんね。
「でもあれほど強力な仲間がいるのなら別行動も頷けます。それにあの指輪、あれを使って召喚したのですか、知らない魔法具です。」
先程ダムドを追っていた視点を振り返りながらその指輪が一体何なのかを考える。それなりに商会長としてあらゆる魔法具を見てきた、その私が全く知らないとは、、、。
「ま、ない話ではないですか、いつ生えてくるか分からない代物ですしね。問題は彼女のような戦力が後いくつ隠されているのか、、、。」
正直言って、見事に盤面を返された。
あの指輪の力がわからない以上、相手の戦力が未知数になってしまった。
喚び出せる回数は?敵の人数は?強さは?効果時間はあるのか?
これでは下手に戦力を投入しても無駄に終わりますね。
「本当にダムドを殺すのが心苦しくて逃がした、、、。何て甘いわけないですね、あの白髪の少女はダムドの視線を追って走り出そうとした時、振り返りました。うまく姿を隠されましたが、あのミルルという少女に何か伝えられたのでしょう。」
まぁ無限に喚び出せて効果時間もないならどんな軍団だって隠し持っていられる。それなら恐れるものは少ないし、ここまでコソコソやらず、堂々と仲間を増やせばいい。
となると、何か隠したいことがある。
彼女等が不利になることと言えば、あの助っ人の喚び出せる効果時間がもう少しで切れてしまうとかですかね。
それならダムドを見逃した理由も想像がつく。
「ではもう少し盤面を荒らしてみますか、こちらの求めるものは着々と手に入っていますし、今のところ予定外はありません。ただただ不確定要素がつきまとうのが不愉快ですね。」
言いながらアムルは椅子を回しながら後ろへと振り返り、刻印の刻まれた牢屋を眺める。牢屋の中へ閉じ込められたリクリカは鋭い視線でアムルを睨見つけた。
その様子をアムルは鼻で笑う。
「質は下がっていても、元精霊のしかも起源種。くくくっ、秘めてる力は悍ましいほど、惚れ惚れします。」
『・・・何を企んで』
「おっと、会話はしませんよ。貴女が救出される可能性、情報を外に漏らす力がある可能性、その他諸々を考えれば安易な情報提供は致しません。」
アムルに慢心はない。
常に最悪の展開を考え、万が一の可能性を億の一まで下げるために画策する。
「さてさて、時間は稼がれましたが最後のピースを狙いましょうか。」
ーーー
「・・・やっぱり、いませんよね。」
精霊達やハイルくんワニィアさんの警護をブロンさんに任せ、私とシルルカはリクリカさんとフィクリシアさんが置いていかれたという場所に訪れた。
たしかにそこには白い粉で丸印が残されていたが、それ以外の痕跡はない。
シルルカは悔しそうに木の幹に拳を打ち付ける。
「シルルカさん!? 血が!」
「・・・ごめん、冷静じゃないのはわかってるでも
もう何がなんだかわからない。ねえ、貴女は味方でいいのよね?」
シルルカから向けられるその疑いの目に思わずたじろぐ。もちろん味方、とすぐに断言したいが彼女からすれば私や律兎さんはどういう目的で動いているのか全くわからい。
そんな中矢継ぎ早に変わる状況に何を信用すればいいのか分からなくなっているのだろう。
「・・・実は私も誰が敵なのか分かっていないのですよね。」
「え?」
でもぶっちゃけ私もそれは分かっていない。
プラズ商会という明らかな敵といって言い存在もいるが、その後ろに何がいて誰が敵で味方なのか、それは私にも分からなかった。
「信用してなんていいません、簡単に人を信じて痛い目に合うのなんてこりごりですから。だからお互い見張り合って警戒するくらいがちょうどいいと思います。私の行動を見て、敵だと思ったなら攻撃しちゃいましょう。」
「・・・あなたはそれでいいの?」
「いいですよ、むしろ信じてくれ!何て言われても困りますと思いますし。」
そうはにかみながら言うとシルルカは呆気に取られたように目を丸くしたあと軽く笑った。
「そうね、そうするわ。ごめん、少し疑心暗鬼になたってたかも。」
「仕方ないですよ、状況が状況ですし。とりあえずブロンさんのところに戻ってハイルくん達を安静にできる場所に連れていきましょう。」
確か里にはまだユリジャさんが残っていると言っていた気がする。
精霊達の他にもリクリカさんがいた?方面にジャユ族の方々も倒れてましたし、まとめて里に連れていきましょう。丁度エルフ族の人達が避難しててよかったです。
ーーー
「いやー、たくさん連れてきたね、、、。」
シルルカに案内してもらってエルフの里へ大勢の負傷者を連れて戻ると、のほほんとしたユリジャさんがひょこひょこと歩いてくる。それに気付いたシルルカが怪我人をシートの上に寝かせたあと、ツカツカとユリジャさんに向かっていき、、、
「そんな暢気なこと言ってる場合かー!!」
と、力一杯にユリジャさんの頬をはたいた。
その衝撃でユリジャさんは錐揉み状に回りながら地面に落ちる。
「ぷてらっぱっ?!」
おー、綺麗な放物線でしたね。
「いたたっ、何するんだよ。」
「あんた状況わかってんの!? ジャユ族も精霊達も無力化されて、さらにはリクリカ様まで!」
シルルカの必死の形相にユリジャさんは目を見開く。
しかし慌てることはせず、静かに顎に手を当てた。
「・・・そうか、敵の目的は精霊か。本来精霊は森や自分が司っている地に根付く。姿を表し、共存してるこの森は狙いどころなのか。」
「そんな冷静に話してる場合!?」
「・・・うん、僕は仮にもこの里の長だ。確かに家族は僕にとって変えがたい大事なものだ、でも僕は里を守らなくちゃ行けない。」
取り乱さず、冷静だったユリジャさんに苛立ち、シルルカは胸ぐらを掴み上げたが、それでもユリジャさんは冷静に力強くそう返した。
その目には絶対の揺るがない芯が感じ取れる。
シルルカもその目を見て思わずたじろぐ。
「でもまさかリクリカに勝てる相手がいたなんてね。」
「その相手からは魔力を感じられませんでした。おそらく天能かと。」
「天能持ちか、それは相性悪いね。」
苦い顔をしてユリジャさんは呻く。
相性とかはよくわからないが強力なのは確かだろう。いままで見た中でもギュリカにフィーカ、どちらも相当な力を持っていた。
「・・・でもどうしてジャユ族も巻き込まれたのか。ロドとも話してみないとわからないね。」
ユリジャさんは目を一度瞑ってからふと立ち上がった。
「シルルカとミリアさんはみんなの看病を頼める?僕は少しフィーカの様子を見に行ってくるよ。・・・ところで律兎くんは戻ってないのかい?」
「あー、律兎さんはまだ戻ってません。でもあの人ならその内ひょこっと戻ってくると思いますよ。」
それだけ伝えると彼はコクりと微笑みながら頷く。
そして護衛を伴わずに里の外へと歩いていった。
「・・・大丈夫でしょうか?」
「平気よ、あの人だってエルフの里長。実力は相当だから。」
シルルカはそういって外に向かったユリジャさんを気にせず魔法を使いながら看病の用意を整える。
私もそれにならい障壁をはって気合いをいれたのだった。
ーーー
ーーズガンッ!
「あんのクソボケがぁ! なんで俺じゃなくて喚び出すのがまたこのガキンチョだったんだよ!?」
「・・・まさかそのガキンチョって私のこと言ってます~? 獣同然の知能しか持ち合わせてない貴方よりはマシですから~。」
「あ?」
「頼むから喧嘩しないでくれ!何時もボロボロになるのは私だけではないか!」
七剣が集まって会議する無駄に広い会議室で、何時ものように睨み合ってるミルルと白狼をルミアは慌てて仲裁する。
もう2人の喧嘩を止めるのはルミアの役目として定まってしまい、剣王も剣老も無言で静観するようになっていた。
「まぁ仕方ないよ、ちゃんと僕が決めた表の通りに喚んでくれているからね。たまたま君の時に喚ぶ機会がなかっただけさ。」
「だがよぉ、俺だって異世界の化け物と喧嘩してえ、一人占めはずりいだろ。」
「向こうなら無様を晒してもバレませんしねえ~。」
「やっぱぶん殴る。」
「頼む!私を一発殴ってそれで終わりにしてくれないか!?」
最早ルミアの仲裁は形をなしていない気がする。
それでも一番ダメージが少ないのを選び抜いているだけなのだが、、、。
「ちゃんとした順番だよ。悪いけど文句は受け付けないね。にしても天能って面白いね~、見えない縄とか新鮮だよ。」
「・・・不可視の斬撃、不可視の鎖、不可視の鎧に不可視の罠、珍しくもないのでは?」
「いやいや、それでもそれはこちらにしっかりとあるんだよ。完璧に触れない、意識として、概念としての縄なんて滅多にないよ。魔術で再現はできるだろうけど、それは魔力と言う限界が生まれるしね。」
「かっかっか、魔法というよりは最早異能だな。考えるだけ無駄なやつだ。」
相変わらず歴の長い3人はこちらの喧嘩を気にせず会話を進めている。最早ルミアは涙目になってあたふたしているのに誰も気にしていない。
「でもどーなんだ? その天能っつーのは脅威なのか?」
「恐ろしくはありますね~。どんな剣技や魔法にも必ず起こりはあります~。でもその隙が天能には恐ろしくないのですよ~。」
一発もらったルミアは放置されてミルルと白狼も話し合いに参加する。今の話し合いは天能に関してだが、正直このメンツなら気にするものでもない気がする。
・・・そう思っていたらユースはにこりと笑ってこちらを見る。
「いや、未知なる力と言うのは警戒するべきだよ。起源がどこに繋がっているかわからない、そこには無限の可能性が秘められている。」
「・・・伸び代があると言うことですか~?」
「うんうん、その見えない縄だって相手の少年が自分すら見えなくて触れないものと認識してれば打つ手は限りなく少なくなったはずだよ。でもその少年は対処されたことがなかったから、認識できる縄として操っていたから対策できたんだ。」
「あ~、難しい話しはやめよーぜ。別にその天能だろーが何だって関係ねーだろ?」
「・・・これだから単細胞は~。」
白狼の言ってることも間違いというわけではない。
実際その力は向こうの話でこちらには関係ないことなのだから。
「ーーそもそも異能というのは人間の身体構造の延長線上にあってね。汗をかく、髪が伸びる、そこに火を放つが加わるような感じだよ。だけどその点天能というのは、、、」
「何を言っている。その力がこちらに存在しないとは限らぬ話。その対策を知るというのは無駄にはならん。」
淡々と説明を続ける剣帝を無視して剣老が白狼に何を言っているんだと呆れている。
確かに剣老の言うことももっともなきもしますね。
「ーーあれの根源は生物の範囲を超えてるね。力を制御できてるのは外的要因があるからだ。でもそれに頼っていたら外からの干渉が途絶えた途端に無用の長物と化すから注意しないと、、、」
「・・・に、しても新しい未発見の力とはなぁ、俺たちも手に入れられたりすんのか?」
「どうでしょうねぇ~、馴染みのない力は扱うのに時間かかりそうですし要らないのでは~。」
「かかかっ、んなことねぇよ。頂を目指すなら魔力も力も技も全てを限界以上につかいこなさなけりゃならねえんだ。少しでも強くなれるなら嬉しいもんだ。」
剣王はまだ見ぬ新たな力に心を踊らせる。
この世界の頂は遥かに遠い。
そこにいる剣帝は言わずもがな、魔術師や魔神、武神と呼ばれる人間もいるし、まだまだ修練に終わりはない。
「ーー権限、と言うこともできるね、あれは見初められた者に種として魂に刻まれているんだ。咲くのには個人差があるだろうし条件も様々だろう。まぁでも大概ああいうのの覚醒条件は、、、」
「ユース、もういい加減会議に戻るぞ。何時まで脱線しておる気だ。」
「・・・へ? まだ半分も話してないよ?」
「たわけ、時間がないし早く終わらせるぞ。」
剣老に説教されてユースは露骨にシュンとする。
まぁ正直誰も話聞いてなかったし丁度よかったかな?




