喚ばれた剣聖−85
「ーーくしゅん!寒くなってきましたね。」
「そんな事気にしてる場合っすか!?」
私達は未だに蓋をされた穴から抜け出せないでいた。
それもそのはず、上を覆ったトゲはロドが魔力を込めた代物で、簡単に壊せるものではない。
初めはシルルカとその護衛の人が魔法を使って壊そうとしていた、がトゲはびくともしない。
次にブロンが土造を使って支配権を奪おうともした、しかしそれもロドの魔力を上書きすることはできなかった。
そして今はワニィアがなんとか出られる隙間はないかを器用に探っている。
私はその様子を見ながら頭を悩ませた。
・・・ロドさんがここに私たちを閉じ込めたのは、上での戦いに巻き込まれないようにするためだと思います。その善意を無下にしてまでここから出てもいいものか、、、。
「・・・いえ、別に望んでないですよね。よっし、ならとっとと出ますか!」
「いやだから今それを探って、、、え、、、?」
難しい顔をしてるブロンの言葉を無視して、私は久しぶりにフードを外して素顔を晒す。白い髪が溢れ、僅かに漏れる陽光を反射してキラキラ砂のように光る。
「え、え、えぇ!? 貴女人族、、、!?」
「はーいそうですよー、状況が状況なので気にしないでいきましょうねー。」
ワニィアとブロンが驚きに飛び跳ねそうになってるのを無視して私は穴の真ん中に立ち息を整える。
そしてそのまま意識を集中して両手を翳した。
ーーズッ
「ーーぐっ!?」
「み、ミリアさん、て、手加減してよ!?」
高まった急激な魔力圧に他のみんなが苦しそうに唸る。
でも上のトゲを壊すには半端な魔力だとこちらが押し負けます。仕方ないですよね!
「いっきますよー!光展障壁!」
全員を包んで展開されていく障壁が天井と壁を押し広げるように大きくなっていく。トゲに込められた、魔力はたしかに多いですが、魔力の量なら負ける気はしません!!
ーーバキバキバキッ!
トゲにヒビが入り、ゴリ押しのように割り砕かれて青空が顔を出した。
「「「えええぇ、、、。」」」
「どうして皆さんドン引きなのですか? 褒め称えてくださいよ。」
「こ、壊せると思ってなかったんじゃない?」
そうですか?
いやまぁ相手はロドさんですからね、私も勝てる気はしません。
「ほらほらワニィアさん、早く登りましょー。」
「え、えぇ、と言うより私魔族だけどいいの?」
今更なことを言われて私は首を傾げた。
魔族も何も魔族とパーティー組んでますし、知ってて助けてますからね。
「綺麗でカッコいいじゃないですか、頼りにしてますよ?」
ニコッと笑ってそう返すと、ワニィアさんは顔を赤くして、「結構まずい威力してる、、、。」と小さく漏らした。
何のことかわからず他の面々を見ても全員から顔を逸らされる。おかしいですね、特に何の魔法も使ってないのですけど、、、。
取り敢えずワニィアが細い蜘蛛の糸を何本も束ねて縄を作り、それを上へと伸ばして登れるようにネット状にしてくれる。
よかったぁ、縄のぼりとかできる気しませんでしたから。
なんとか全員で地上へと戻ると、落ちる前に聞こえていた轟音が落ち着いている。
別の嫌な予感がよぎるが、まずは確かめないと始まらない。
全員無言で顔を見合わせてコクリと頷き、全力で警戒しながらすす、、、
ーーズベッ!
「ーーぶばっ!? 足を取られました!敵襲です!」
「・・・木の根に引っかかっただけだよね?」
何でこんなところに根があるんですか!?歩きづらくて仕方ありません!
すると、突然ブロンが私の前に立ち地面に両手を当てた。
「土造 壁土防壁!」
前に現れた四角い壁に矢が数本刺さる。
土造によって造られた魔力が込められた土壁を貫くほどの威力を持った矢がどこから射られたのかわからず冷や汗を垂らす。
「誰だ!」
その声にはどこからも返答がなく、かわりにまた必殺の威力が込められた矢が飛来した。
しかしその矢を今度はシルルカの護衛のエルフが風で吹き飛ばした。
「ドウゲンだ! 今シルルカ様と共に帰還した、即座に攻撃をやめよ!」
ドウゲンと名乗った護衛の人の叫びに攻撃はピタッと止まる。しかし隠れた人影は姿を現さない。
すると、森の奥から魔法で声が運ばれてくる。
「ーーなぜジャユ族と一緒にいる!」
その問いに今度はブロンが固まった。
「この者は敵ではない!砂漠の向こうの地からの協力者だ!」
「ーーふざけるな!今どこの誰が攻めてきているのか分かっているのか!?」
奥から聞こえるその怒りが含まれた声に嫌な予感が的中してしまったことを悟る。
まだ確信はなかったが、あの轟音はジャユ族が森に攻め込んだ戦闘音だったのだ。
「・・・どうしてジャユ族が?ロドさんから攻め込むとも思えないですし、何かジャユ族側に仕掛けられましたか。」
「え、そ、そんな、じゃあもう止められない、、、?」
私の呟きにハイルは絶望したように手を握りしめている。ただ私はどちらかと言うと別のことを気にしていた。
「待ってください、皆さんはどうしてこちらに?」
そう問いかけると、少しの間の後二人のエルフが前に出てきた。片方はブロンを特に警戒するよう、短剣に手をかけ、もう1人は説明するために前に出てくる。
「私達は里から避難しています。まだ里へは辿り着かれてはいませんがユリジャ様からの指示のもと、今は捨てた元隠れ里へと向かっています。」
・・・! まだ争いは起きていない?
いや、非戦闘民を避難させているだけなのかな。
「・・・攻め込まれているんだろ? 今の戦況はどうなってる。」
私達が今一番気になっていることをドウゲンが聞いてくれた。すると相手の2人はどこか言いづらそうに見つめ合う。
そして意を決したように頷いた。
「今里にのこっているのはユリジャ様、リクリカ様、フィクリシア様とフィーカ様だけです。」
「え、どうしてなの?」
シルルカが戸惑ったように声を漏らす。
ませかの戦闘員を含めた里の住人を残さず避難するようユリジャは指示したらしい。
もしかしたら彼はまだギリギリで粘ってくれているのかも、、、。
もし戦いを始めれば血で血を洗う殺し合いになる。
だがそれを避けるために突出した実力者を残し、時間稼ぎに徹しているのかもしれない。
なら急がないと、、、!
ーーー
ーードガアンッ
強い衝撃に吹き飛ばされ、地面を転がりながら何とか態勢を整える。その直後に上から振り下ろされる大槌を地面から生やした巨大な木の根で防いだ。
「ーーはっ、どうした?この前みたいな余裕がねぇぞ?」
ロドの前に膝をついたフィーカは鋭い目で相手を睨みながら汗を垂らした。
今、フィーカはログロドと一対一で対峙している。
なぜこんな状況になっているのかと言うと、フニューが何者かに殺され、皆が疑心暗鬼に陥っているなか突然ジャユ族が襲撃を起こした。
すぐに里の重鎮たちが集まりどうするかと話し合いが始まったが、そこで父様が有無を言わせず切り込む。
「この戦い、私たちエルフは迎撃しない。」
勿論その宣言には重鎮の全員が反発し、弱腰だなんだと野次られた。
しかし、それでも父様は確固たる意志でその決定を曲げなかった。
「・・・ならこの里はどうする?捨てるのか?」
里長であるユリジャに次ぐ権力者のジュルグが冷たく声を発する。里を大事に思う彼からすれば、捨てるようなユリジャの発言は受け入れられるものではないだろう。
ユリジャはそのジュルグの指摘を毅然とした態度で否定した。
「そんなことはしない、幸いにも里の位置はまだバレていない。フィクリシア様に協力してもらい、里の位置を更に誤魔化しジャユ族の侵攻を妨げるよう頼んだ。そして、今侵攻しているジャユ族の迎撃はリクリカに頼む。」
名指しされたリクリカは無言で目を閉じて軽く頷く。
おそらく事前に話を通してあるのか驚く様子はない。
しかし次の言葉は予想できなかった。
「おそらくリクリカとフィクリシア様で大半のジャユ族を足止めすることはできる。でも一人だけ絶対に誤魔化せない相手がいる、、、八ツ首、ログロド・ジャユだ。」
「・・・であろうな、ならどうする?」
「その相手を、フィーカ、君にお願いしたい。」
「・・・・・え?」
八ツ首である彼の相手は何度かしたことがある。
それでも軽い小競り合い程度で本気の戦いはしたことがなかった。
戦場では経験の差が顕著に出るはずだ、正直魔王軍として先頭に立って戦っていた彼の相手をできるかと言えば不安が湧いてくる。
『・・・天能の相手は天能を持っている貴女にしかできません。短い時間とは言え教えられることは教えたはずです。』
「で、ですが、、、。」
「お待ちください!一度とは言えフィーカ様は里を襲ったのです、それなのに信じて里を預けるというのも、、、!」
里の中では割と若めな方の重鎮の一人がそう声を上げる。その件に関しては私は何も言うことができない、実際不覚を取って里に危害を加えてしまったのは事実なのだから。
『では、あなたがログロドの相手をしますか? 言っておきますが私には無理ですよ、精霊種に天能は相手が悪すぎます。』
「い、いえ、私には、、、。」
「天能とはそれほど特別なのですか?」
母がそこまで頑として勝てないと言うのには違和感が残った。確かに強大な力ではあると思う、しかし私はまだ母と手合わせして勝ったことは一度もない。
とても相性がいいとは思えない、、、。
「うーん、そこは難しい話になるんだけどね。精霊とは霊力で構成された精神体であって魔力への変換率がとても高いんだ。肉体から魔力を放出するのは井戸から水を汲むようなものなんだけど、精神体からの魔力の放出は川の水門を開けるような感じで量も大い、だから僕らは彼らの手を借りて魔法の力を増幅させている。」
「はい、だからこそ強力な力を持つ母の方が適切かと、、、。」
私がそう言うと、父様は苦笑いを浮かべた。
「いや、精霊たちの力はどこまでいっても魔法なんだ。ただ天能の力に魔力は使用されていない、どちらかと言うと天能は魔法というより現象に近いとされている。」
・・・・・・?
ま、まずいかもしれない、座学が苦手なのを自認している私には理解が難しくなってきた。
そんな内心冷や汗ダクダクの私に父様は気づいているのか、優しい笑みを浮かべる。
「ま、簡単に言えば魔法の力で攻撃を行っても天能には通じないって認識でいいよ。いや通じはするけど格が違うって言えばいいかな。」
父様も理解させるように説明するのが難しいのか頭を悩ませている。その様子に母はため息をつき、真っすぐな目をこちらに向けた。
『貴女にしか戦えません、そう理解するだけの話です。・・・貴女の名誉を取り戻してみせなさい。』
母はそう言い放ってこの話を締めくくる。
厳しさの裏にある優しさと信頼、今この里での私に対する風当たりは強くなっている、それを振り払ってみせろと言っているのだろう。
・・・それが八ツ首の相手とは、気合い入れないと。
奪われたものを取り戻す、これはその前哨戦だ。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「はぁあああああああ!!」
咆哮を上げながら周囲に存在する、木々や葉の声を聞く。
自然に力を同調させ、葉を舞い上げ、その一つ一つを刃のように鋭く硬く意識した。
宙空に浮かぶ葉の一つ一つが刃となり得る。
手をロドに差し向けると、その無数の刃は相手を切裂くために飛んでいく。
しかし、ログロドは腕を組んだまま薄く目を開けるだけ、、、
「天能『地の代行者』。」
木の葉の刃がたどり着く前にロドの体を地面を割って現れた鉱石が覆っていく。
鎧のようになった鉱石を刃がなぞるが傷一つ付くことはない。
それだけでなく、地面から生えた鉱物の腕がこちらに向かって伸びてきた。
「ーーくっ!」
生えていた若木の成長を加速させ、急ごしらえの盾と、太い木の根で腕を受け止める。
「木騎兵!」
周囲の木の幹から木兵を召喚して時間を稼ごうとする、しかし向かった木兵は腕を振るわれるだけで砕かれた。
「もっとやる気だせや、土造 阿邪徒!」
現れた数十体の阿邪徒によって木兵は止められてしまう。これでは足止めにもならない。
・・・なるほど、出力勝負なら天能のほうが優秀だが、質量攻撃は魔法でも対応されるか。
実際相手の阿邪徒は木兵によって数は減らせている。しかし相手が込めた魔力も多いのか手こずってはいた。
「つーかそんなもんじゃねぇはずだぜ、その力はよぉ!」
ログロドが思いっきり地面を踏みしめると、そこを起点にあたりを大きな揺れが襲う。
立っていられないほどの大きな揺れ、三半規管を狂わされ上手く力を保てない。
「天能、つーのは魔法じゃねえ。これが本領だ。」
そう言ってログロドが木の根を触ると、根は弾けるように消し飛ばされる
「ーーな!」
「大地を司る俺の天能の本懐は、『振動』の力だ。大地を割り、海を荒らし、すべてを壊す破壊の力。確かに鉱物を操るのだってこの力の一部だが、その程度魔法でもできる。」
思わず身体が恐怖で震える。
何度かログロドとは軽く戦ったことがあった。
だがその時は鉱物を操るだけでそれ以上の力は見たことがない。
・・・それはそうか、自分の手のうちを晒す奴などいない。それも肉親でもない相手に。
「それがお前の全力なら、以てあと数秒だぞ。」
鎧を着込んだログロドが一歩近づく。
本領、この力の本領とは何だ?
わからない、そもそも私は本領を引き出せていないのか?
いくら悩んだって答えは決して降ってこない。
窮地に立たされて閃くなどそんな都合がいいことは決してない。
「・・・数秒でいい、1秒1秒を刻んでみせる。さぁ、押し通れログロド・ジャユ!」
拳を胸の前に握りしめて周囲の状況をなりふり構わず、辺り一帯の植物を無理やり操る。
ここは森、私のフィールドだ。
目に見える全てが私の武器になり得る!
本来なら戦意を喪失してもおかしくない異質な光景の中心で、ログロドは不敵に笑みをこぼした。
「ーーふっ、いい育て方をしてるじゃねぇか、ユリジャ。」




