喚ばれた剣聖ー80
・・・さて、気まずいぞ?
目の前のミリアは涙を拭おうとしているが、それでも止まらないのか啜り泣いている。
流石にこんなガチ泣きされるとは思ってなかったので俺は気まずげに頬を掻いた。
「まったく、、、!まったくホントに、、、! どうして、、、あなたは、、、!」
・・・え、なんか怒られてる?
なんて返せばいいか分からなかったので取り敢えずふざけながら手を広げてみたらまさかのミリアは胸に飛び込んできた。
俺はピシッと石化したように固まる。
「・・・どうして、そんなにうれしいことを言ってくれるのですか?」
「お、おう、まぁ男はカッコつけてなんぼだしな。でも勇者じゃないし、すべては救ってられないからお前だけな?」
「貴方でよかった、来てくれたのが貴方で。」
ミリアは噛み締めるようにギュッと背中に手を回して抱きしめてくる。流石にそこまで力を込められると、色々まずいわけで、、、いやこいつ結構あるな。
「金髪王子じゃないよ?」
「もうその事はいいですから。」
いや俺にとっては結構ショックだったからね?
なにせとびきり美人からチェンジ要求されたんだからさ。
・・・ま、取り敢えず。
「安心するのは早いぞ? まだ何もできてないんだ、俺だってここまで言い切ったが、失敗しないとは限らない、お前のなかにいるのが何なのか、それはまだわからないんだ。」
「はい、もちろんです。それでも嬉しかったのですよ。」
ミリアは俺から顔を離してニコッと笑う。目尻は赤く、綺麗とは言えないが、とても嬉しそうで見てる人を安心させるような引き込むような笑み。
思わず動揺して固まっていると、ミリアは首を傾げて何か考える様に悩んだ後、何か意を決した様に顔を上げる。
ーーちゅっ
「・・・・・は?」
まさかの固まっていた俺の頬にミリアの濡れた唇が当たる。
俺はまた驚きで固まり、その間にミリアはトトトっと離れて顔を赤くしている。
・・・えっと、そういう挨拶? いや、なんか状況が、、、え? なんでそんな照れてるの?
俺はミリアの唇が触れた頬を触る。
ミリアはカーッと顔を染めてパタパタとテントに戻っていった。
後には固まった俺と、、、途中から起きて様子をうかがっていたスイが残される。
「・・・おい。」
「・・・最高、とってもよく寝られそう。明日は頑張るね。」
スイはそれだけ言い捨ててタタタッとミリアと同じようにテントに戻る。
スイが起きて聞き耳を立てていたのはある程度話がまとまった後だったからほっといていたが、こうなるなら早めに追い払っとくべきだったな。
「・・・・・俺も寝るか。」
熱くなった体を冷ますように少し夜風に当たった後、後ろ髪掻きながらテントに戻ったのだった。
ーーー
次の日、、、。
「よっしゃ行こうぜ!」「行きましょう!早く行きましょう!」
「・・・・・な、何そのテンション?」
「・・・2人とも可愛い。」
どこか急かすようにワチャワチャする俺とミリアにハイルは引いたように一歩後退る。
何となくミリアの顔を見ると昨日の最後の出来事を思い出してしまう。今からダンジョンだってのにどこか気恥ずかしい。
「・・・落ち着け、慌てるとろくなことが無い。」
「「・・・はい。」」
グラグロに怒られて俺とミリアはシュンとする。
二人とも落ち着くように息を吐いて、キュッと気を引き締めた。
「・・・ま、落ち着いていくか。それで?どうやってその円環を使うんだ?」
「・・・ただ光の灯ってる場所をなぞるだけだ。行くぞ。」
言いながらグラグロは円環をなぞる。
すると円環は光を灯して割れる、その粒子が俺たちの周りを包み込んで強い光を放つ。
眩んだ目を擦りながら目を開くとそこは一度見た鍾乳洞の中だった。
「おー、ホントに戻ってこれた。」
「・・・う、追いかけられたトラウマが。」
ハイルは口を押さえて青ざめる。
確かにあんな目にあったら嫌な気持ちになるわな。
すると、俺の袖がキュッと握られた。
首だけ振り返ると、ミリアが何かに耐えるように唇を引き結んでいる。
俺はその手にそっと自分の手を添えて安心させるように力を込めた。すると、ミリアは嬉しそうに顔を綻ばせる。
「・・・どこに向かう?」
グラグロが振り向いた瞬間、手を離すと少し寂しそうな顔されたが、俺はそのことに触れずに答えた。
「つーか、次の階層にはどうすればいけんの?」
「・・・それはわからない。この階層を突破できた者は今のところいないからな。」
あー、じゃあもう手当たり次第探すしかないか。
なら何処に行こうが変わらないし、出来るだけマップと目印をつけながら探索するしかないな。
脱出口を探すわけでもないし広くて続いてる方に向かうべきか。
「スイさーん。」
「・・・うん。」
スイは片手を上げてそこに綺麗に澄んだ水を集める。
それが薄く広がっていき、ソナーのように洞窟の外壁をなぞっていく。
「・・・一箇所、部屋っぽい場所がある。・・・もしかしたらそこに次の階層に行けるヒントがあるかも。」
「よし、唯一それっぽいしそこを目指そう。」
目的が決まったら後は歩くだけ、相変わらずの凸凹した歩きづらい地面を進みながら魔物が近くにいたらストップを繰り返して進む。
「あ、ネコガレ苔だ。た、食べるネコ耳とヒゲが生える。」
「すげぇいらないな。」
なんだってそんな物が今ダンジョン内にあるんだよ。
ハイルはやっと俺たちと探索できるので辺りを観察する余裕が生まれたらしい。
「・・・ちなみに進行するとネコになれる。・・・治療法はない。」
「劇薬じゃねえか!」
ちょっと可愛らしい効能かと思ったら必殺級じゃねぇか。え、じゃあこの世界には猫になったやつとか普通にいるんじゃないの? まだ猫見たことないけど。
「律兎さん、あっち斧が刺さってますよ。」
「お前はそれが罠だったことを忘れたのか?」
ここがダンジョン内と言う緊張感を薄れさせるテンションでお互いに会話していると、近くで足音が聞こえた。
「・・・律兎。」
「あぁ、わかってる。」
上の方の横穴から逃げるように複数の魔族が飛び出してくる。
ジャユ族、ミスルル、後は蜘蛛っぽいのと蝙蝠の羽根持ちか。
「別のパーティーか?」
「・・・あぁ、今この基地で一番進んでるパーティー『ロングポート』だ。」
長い、港?
名前の由来は知らないけど、どういうパーティーなんだろ。
リーダーらしき勝ち気なジャユ族の青年は拳にガントレットをつけるペリナさんタイプ。ミスルルの少女はスイと同じ片手剣と小さなバックラー、蝙蝠男は弓とナイフ、蜘蛛女もナイフだけど細かなバックを多く装備している。
「追われてるな。」
彼らが飛び出してきた穴の奥からあの気色悪い魔物と、あともう一体初めて見る3つ首の巨大なスケルトン。
トラウマを思い出して逃げようとするハイルの首根っこを捕まえてどうしようかとグラグロに視線を送る。
「・・・任せる。本来なら見捨てても問題はないが、今は助ける余裕もあるからな。」
まだ来たばかりだしね。
ロングポートは魔物に囲まれて、各々が必死に応戦しているが、3つ首スケルトンの一撃を受けてミスルル少女が吹き飛ばされてしまった。
いい連携だった分、崩されれば大きなスキが生まれる。
仕方ないなと、首を鳴らして一足で大きく跳んで囲まれてる中心に降り立った。
「ーーはっ!? だ、だれだ!?」
ジャユ族の青年が驚くのを無視して、ヤクラを持って低く回るように魔物を斬り飛ばす。
そして巨大スケルトンの攻撃を真正面から受け止めた。
ーーバキンッ!
すると振るったスケルトンの肩が外れて、スケルトンは剣を手放す。
そのできた隙に俺は3つ首の首関節を狙って真上からすべて斬り落とした。
「「・・・おぉーー。」」
「見てないでお前らも何かしてくれよ。」
近くの魔物とスケルトンは倒したがまだ群れには囲まれている。
感嘆の声を上げていたスイと、逃げようとしていたハイルを睨んで残敵を処理させておく。
その間にミリアを呼んで、倒れて呻いているミスルルの少女の横に屈んだ。
「・・・どう?」
「骨が折れてますね。ポーションは外傷にはよく効きますけど、内側は難しいです。(魔法を使えば簡単に直せますけど)ハイルくんがいい薬草持ってるはずなので少し待ちましょう。」
障壁は使える魔族もいるみたいだけど、治癒や浄化を使える魔族はいない。使ってしまえば一発で人だとバレるのでハイルに頼る必要があるな。
あ、ちなみにミリアとハイルはこの基地に来てから基本ずっとフードを深く被ってるよ(ちなみに俺は黒髪だと案外疑われないからもうしてない。)。
他にも切傷とかあるので布にポーションを染み込ませて患部に当てたりミリアは応急処置を始める。
俺はその間に困惑してこちらを見ている残りの3人に向き直った。
「・・・元気あるなら手伝ってくんね?」
俺に言われてほかの三人もハイルとスイに加勢する。
グラグロにはこっちでミリアと少女の護衛を頼んでおいた。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
ドシャッ
最後の一体の死骸をスイが放り投げながら血を払う。
ちなみにこのなかの討伐数最多は圧倒的にスイだね。
助けた3人も頑張ってたけど全体の隙と確実に相手を捉える器用な魔法操作ができるスイに軍配があがったな。
「ハイルくん、骨が折れている様なのですが効きそうなものあります?」
「え、ほ、骨? あぁ、それならこれかな。」
そう言いながらハイルは痛そうに呻いている少女に近づこうとしたが、彼女を守るようにジャユ族の青年と蜘蛛の女性が警戒しながら遮る。
ハイルはビクッと震えたあと「あ、あぅ、、、。」と固まってしまった。
「・・・警戒するな、別に何も盗ったり追い討ちしたりしない。」
「え、あ、グラグロさん!?」
青年はグラグロを見てとても驚いている。
そう言えばグラグロはこの街で探索者に声かけたりしてる人だったね。ダンジョン内で会う人が知り合いな可能性は高いか。
「と言うか殺す気ならとっくに見捨ててるだろ。」
「ーーぐっ、それは、まぁ。」
俺にそう言われて青年はグッと図星を突かれたように押し黙った。
確かにこういう命をかけたダンジョン内では確かに騙されて奪われ殺され連れ去られ、思い浮かぶ悪辣なやり方は多くある。
疑うのは間違ったことじゃない、そこは否定しない。
「えーっと、取り敢えずいいですか? ハイルくん、なにか治す物もらえますか?」
「え、う、うん、これがいいと思う。ロッド草の種だよ。」
そう言って種を取り出して下の硬い地面に置き、一滴の水を垂らす。すると草が青々しく根を張って棒のような硬い青木が生える。
ハイルはそれを折ってミリアに手渡し、ローブの懐から木製の容れ物を取り出して蓋を開ける。
なかに入っていた白い軟膏を指に取って腫れてる患部に塗ると、痛みが少し和らいだのか軽く力が抜けて強く瞑っていた目を空けた。
「・・・・・あれ? スイ、、、様?」
「・・・ん? あ、ミニー。」
少しピリピリしていた空気感が戸惑いの空気に変わる。
スイは振り返って、「・・・おぉ」と驚いた声を漏らしながら近づいてきて手を振った。
「・・・元気?」
「あ、明らかに元気じゃないですよ。」
そりゃそうだよね。
言われたミニーという少女は青い顔で引きつった笑み浮かべている。
「スイ、知り合いか?」
「・・・うん、8年前にミストレルから旅立った娘。」
8年前、、、さらりと言われたけど結構昔だよな。
ミリアは受け取った添え木を患部に当てて固定し、包帯を巻いて肩から吊るした。そして上半身を持ち上げるように背中に手を添えて起こしてあげている。
その時に背中に当てた手からバレない様に魔法を発動させていた。
・・・多分、治癒魔法かな? 優しいね。
「俺はリツト・ヤクラ、同じダンジョンを攻略してる探索者の一人だよ。」
「ミリアです。」「・・・スイ・ミストレル。」「は、ハイル。」「・・・グラグロだ。」
俺たちが各々自己紹介すると、彼らは顔を見合わせて毒気を抜かれたように口を開く。
「ブロン・ジャユだ。」「ミニー・ミストレルです。」「ルーム・バッティア」「ワニィア・アラクニーといいます。」
まさかのダンジョン深くでの出会い。
この出会いが今後いい方向に向くのか悪い方向へと転ぶのか、、、今はまだわからない。




