喚ばれた剣聖ー79
ーー早朝、日課となっているスイの訓練に付き合っていると、グラグロが顔を出した。
「・・・はやいな、疲れはないのか?」
「んあ? バリバリ疲れてるのにこき使われてんの。」
「・・・いいって言ったのに。」
取り敢えずもうそろそろハイルとミリアが起きそうな時間になるので、一旦訓練をやめる。
スイは汗を拭って、「・・・少し水浴びしてくる。」とだけ言って向こうに歩いていく。
・・・少し付いていきた、、、怒られるな。
「んで、お前はどうしたんだ? 今日は英気を養って明日またリベンジって話だったろ?」
「・・・少しな、明日からは俺も完全に未知の階層になる。用意するものも何もわからん、打ち合わせ位はしといたほうがいいと思ってな。」
真面目だなー。
と、思ったけど命がかかってるし準備に慎重になるのは当然か。俺はボックスに色々蓄えがあるから余裕を持てているけどそれをグラグロは知らないわけだし。
「んじゃ戻るかー、アイツラもそろそろ起きただろうしね。」
水浴びを終えたスイと合流し、グラグロを伴って仮の拠点としているテントに戻る。
すると珍しくミリアが既に起きて一人紅茶を飲んでいた。
「お前って紅茶淹れられたんだな。」
「律兎さんの中での私は何ができるのですか?」
「・・・・・・・聖女の真似事?」
「捻り出したとしても酷い!」
プンプン怒るミリアをなだめながらハイルをスイに起こしに行ってもらい、全員での朝食となる。
パンに切れ目を入れてスイが炒めてくれた鶏肉と野菜を挟む。ダンジョンでは食べれない新鮮な食事に思わず気分が上がる。
・・・まぁ、食べれるんだけどさ、ボックスから取り出せば。
「・・・おそらくこのパーティーなら明日は5階層まで進めるだろう。そこからは未知だ、だが5階層にはおそらくフロアボスがいる。」
「ん? だって最初のボスがいたのって2階層だろ?なんで次が5階層なんだ?」
1階層にボスがいて5階層ならまだわかるけど、2から5って整合性なくない?
そう思ったが、グラグロはゆっくりと首を振った。
「・・・ダンジョンの中間層には必ずボスがいる。例外は今のところない。それにいると思って準備しといたほうが間違いはない。」
「あー、それはそうだな。」
確かにいないと油断するよりはいると思って準備しといたほうがマシだね。てか俺はダンジョン経験なんてないんだしここはプロの意見を取り入れたほうが確実か。
「でも準備って何すりゃいいの?」
「・・・鉄則は、回復や補助系のポーションを用意する。爆弾や魔晶石なんかも持っとくといい、、、ミリアがいるから要らないかも。」
「・・・スイ? スイも私をタンクと思ってるの?」
まぁぶっちゃけ魔力はミリアが蓄えてるから魔晶石はいらないね。でも爆弾とかの範囲攻撃手段があると攻略の幅は広がるし欲しいかもな。
「ならこのあとは買い出しでも行くか。誰か一緒に来る?」
「はーい。」「・・・いく。」「や、やることないし。」
「・・・すまないが、俺は行けない。ほんとに話をしにきただけだ。」
グラグロは申し訳なさそうにそう言ってやけに重そうな布袋を机に置いた。
何かな?と中をのぞくと金貨が入っている。
「なにこれ?」
「・・・グリンから渡された情報の前金と、俺の手持ちも入っている。ある程度は自分で揃えておくが、もし必要なものがあれば買っておいてくれると助かる。」
ほいほい、知識ない連中で行って大丈夫かな?
まぁでもダンジョン内の傾向とかは掴めてきたし、模索してみるか。
取り敢えずうちのメンバーは全員来てくれるみたいだし昼は買い出しかなー。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「律兎さん!見てくださ、、、」
「スイ、確保。」
「まだ何も言ってないじゃありませんかーー!!」
どうせ変なものを見せてきそうなミリアの回収をさっさとお願いしてよくある露店をハイルと物色する。
「・・・あ、鉄金爆弾。だ、ダンジョン内で拾えるから結構入手しやすいのかも。」
「だからこんなに安いのか。あんなに危ないものこんな気軽に売っていいのかよ、、、。」
「た、ただの前線基地だし、そこら辺の扱いはまだまだ定まってないと思うよ。」
あまりに発展途上すぎるからな。
法やルールの整備が追いついてないのは納得だな。
・・・でもそれはそれとして手榴弾が露店売りされてるって現状は怖いけどね。
「き、気温の温度変化はまちまちで今は低いよりだけど、これから暑くならないとも限らない。も、毛布だけじゃなくて水分とか日除け用の軽い布を買っておいてもいいと思う。」
あっれ? なんか怖い人と戦闘が絡まなかったらハイルってすごいまともじゃない?
ハイルの意見を取り入れながらバシバシと買うものを決めて行く。思わぬ軍資金が手に入ったし金額は惜しまない!
「あと、は、、、ホットポット? なにこれ?」
「あぁ、熱湯を入れとくと温度を一定に保ってくれる魔導具だね。魔力が切れると冷めちゃうけどミリアさんに持たせておけばずっと熱湯状態で維持できるはずだよ。」
ボックスに入れておけばそれも関係ないけど、俺だけに装備が偏りすぎると昨日みたいに分断された時に困る。事実最低限の装備は全員に分けて持たせてるしね。
これもミリアに持たせとこ。
「おーい、そろそろ昼メシに、、、」
「・・・いらない、絶対にいらないから!」
「でも開けて置いておくと落ち着く匂いがするみたいですよ? 緊迫したダンジョン内ぴったりです。」
「・・・魔物おびき寄せるから!」
何をダンジョンでまったりしようとしてんだ。
必死に止めるスイに同情しながら「説教かな?」と呟きながら声をかけに行った。
ーーー
あのあとは昼食を済ませてテントに帰り、各々の疲れを取るために休むことにした。適当にダラダラ過ごして夕飯を取りまた夜が訪れる。
その後は解散してテント内の区分けされた部屋に帰って就寝となる。
俺もよく寝ていたのだが、夜の砂漠は冷え込み、思わず身震いさせながら目を覚ましてしまった。
一度目が覚めると空気の冷たさを嫌に感じて温まろうと何か飲み物を淹れようとする。
するともう一人起き上がる気配を感じた。
少し着込んだあと外に出る気配がしたので、気になった俺はついていくように外へ出る。
「・・・何してんだ?」
「あれ? 起きてたのですか?」
ミリアは振り返って目を丸くしている。
俺はむしろその返答に苦笑した。
流石にただのテント内で無警戒に熟睡するわけにはいかないからな。
「夜中に急に起き出す気配がしたから追いかけてきました。」
「・・・こ、こわぁ。」
やめてくれ、俺も思ってはいたけどさ。
でも急に家の人が外に出たら気になるでしょ?
「こんな寒い夜に夜空を見上げたいタイプでもないだろ?」
羽織ったコートの襟に首を埋めながらミリアの横まで行って同じように空を眺める。
空気が綺麗だからか満天の星空が夜空に広がっていた。
「・・・やっぱ寒いわ、俺に天体観測はガラじゃねえ。」
「勝手に横に来て何を勝手に文句言ってるのですか?」
「明日からまたダンジョン潜るのに昨日から寝れてないガキンチョを説教しに来たんだよ。」
ミリアは俺の言葉に目を丸くし、気まずそうに目を逸らして、「あー、」と声を漏らした。
「・・・バレてました?」
「お前があんな時間に起きるとは思えないしな。特に疲れた日には昼まで寝る勢いだろ。・・・寝れなくて俺たちが出てったあとにのそのそ布団から出てきたんじゃないのか?」
「う、御名答です。」
俺は呆れたようにため息をついて、チラリとミリアに視線を向けた。すると彼女はバツが悪そうに俯いて、静かに話し始める。
「・・・・・律兎さん、私は、何者なんですか?」
「何の哲学だ。そんなの分かるわけないだろ。」
彼女はこちらに向き直って寂しそうな、つらそうな顔を浮かべていた。
「実は、前にも同じような事があったのです。目が覚めたら何もなくて、あったのは冷たい地面と、吸い込まれそうな黒い空。ずっと瞼の裏にその時の景色が焼き付いています。最初は何が何かわからず、泣いて泣いて、必死に探して誰かいないかと叫び続けて疲れて倒れ、そんなことを繰り返していました。」
ポケットに入れていた手に自然と力がこもる。
思い出すのはあの無機質な言動で全てを壊そうとするミリアの姿。
「今回も同じような景色を見てしまい、背筋が凍りました。前と全く同じ状況、いなくなってた人たちの顔が頭に浮かんでぐるぐると思考がまとまりせんでした。」
ミリアはそれだけ言って一度気持ちを整えるように息を吐いた。そしてこちらに向き直って目を見つめてくる。
「・・・律兎さん、教えてください。あのダンジョン内の破壊跡、あれは私が原因ですよね?」
「ーー!」
俺はその言葉に目を見開く。
いや、ミリアだって馬鹿じゃない。
状況と空気感、既視感のある光景を結びつけて推測くらいはできるはずだ。
「それが信じられなくて、でも否定できなくて、忘れようと何とか寝ようとしましたが、どうしても考えてしまうのです。」
「・・・そりゃ寝れるわけないか。」
ミリアからすれば子供の頃のトラウマを抉られ、その状況が自分のせいで起こったことかもしれないと推測できてしまったのだ。
それを無視してゆっくり寝られる人間なんてどれほどいるだろうか、、、。
「・・・ミリア。」
なんと声をかけようか頭がまわらない。
適当な言葉は頭に浮かぶ、でもそのどれもが彼女を傷つけしまうのではと悩ませる。
ミリアは寒そうに自分の体を抱えて声を震わせる。俺はその姿を無言で見つめた。
すると、ミリアは決意を込めた真面目な顔で俺の目をまっすぐ見る。
「律兎さん、お願いがあります。もしまた同じようなことがあったら、、、今度はその時、私を、、、殺してくれませんか?」
その震えた唇から発せられる怖くて、寂しそうで、儚げで、その切実な願いに俺は大きく目を見開いた。
そして一度息を吐いてゆっくり頷く。
「・・・・・わかった。」
俺の言葉にミリアは辛そうながらも嬉しそうに微笑んで、、、
「その時は全力でお前を助けてやる。」
そしてその後の言葉にミリアは眉をしかめた。
俺はその目を鼻で笑う。
「律兎さん、私はスイやハイルくん、そして貴方がいなくなった人生なんてもう考えたくありません。もしまた同じようなことがあって、今度こそ誰かが欠けてしまえば私は、、、」
「だから生き延びた俺にお前を殺すよう頼むって? 随分とわがままだな、俺がお前がいなくなって楽しく生きられるようなヤツだと思ってんのか?」
俺がそういうと、ミリアはムッと珍しく本気で怒ったような顔になる。
「わがままですか、私が? ふざけないでください、私は今、人生で一番楽しいです。皆と離れたくなんてない、死にたくなんてありません。・・・でも、でも!皆がいなくなったら今度こそ、私は耐えられる気がしません!」
「違うな、なんで耐える必要がある? 俺たちと離れたくないなら一緒にいればいい。」
俺はミリアの胸のあたりを指差す。
ミリアはさっと胸を隠したが、「まだ冗談っぽく受け取る元気はあるんだな、」と俺は苦笑した。
「てかお前こそ俺を舐めるなよ? いいか、お前の悩みは俺の世界でもよくあった。悪魔憑きに、悪霊、自分の知らない間に知ってる人を殺してしまう、そんな悲劇はな。」
真剣に鋭くミリアの見つめて言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「でも俺は、いや、七剣はそんな理不尽を許さない。俺たちのトップたる剣帝の言葉だ、『理不尽なんて死ぬ気で斬り抜けろ。』。なんでただ普通に生きて、笑っていたいって願う人を殺さなくちゃいけないんだ。お前が何した、苦しんだだけだろ、なら任せろ、次また同じようなことがあったら俺が助けてやる。」
その強い言葉にミリアは固まり、徐々に、噛み締めるように、目を見開いて涙をためていく。
俺は言いながら一人の黒髪の小さな少年を思い浮かべていた。生きる希望を持たず、ただただ残りの命を数える日々を送っていたクソみたいな自分を!
「ミリア、お前が俺を喚び出した時になんて言ったか覚えてるか?」
「・・・え?」
「『助けてください』だ。お前は俺に助けを求めてこっちに喚び出したんだろ? なら安心して任せておけよ、ちゃんと助けてやる。お前の中の理不尽なんて斬りつけて見せるからよ。」
俺はそう言ってミリアに手を差し出した。
ミリアはその手を迷うように見つめる。
助けてもらいたい、でももし失ってしまったら、その恐怖で手が取れない。
俺はその迷うミリアの手を自分からがっしりと掴んだ。
「泣きたいなら泣いてろ、怖いなら怯えてろ、生きたいなら願ってろ、俺が導いてやる。」
今度こそミリアの目からは涙が溢れ、止めようと必死に涙を拭っていた。見せた笑顔は苦しそうだがどこか先ほどとは違う、見えた希望に安堵するかのような笑顔。
「いいさ、これは俺とお前の契約だ。たとえ何があっても助けてやる、そう誓ってみせるよ。」




