喚ばれた剣聖ー107
「うわぁ!!そ、空から襲われるなんて思わないじゃんかぁあああああぁ!!」
「びえええーーーん!! 美味しくない、美味しくないですからあ!!だから離れてくださいぃ!!」
「「・・・。」」
空から突然滑空してきた巨大な鷹に脚で捕まれ、必死にバタバタしているハイルと、蛙のような魔物に障壁ごと丸のみされそうになっている2人を俺とスイはなんとも言えない顔で眺めている。
まだ里から出て半日程度しか発ってないのにこの惨状、先が思いやられるなんてものじゃないんだけど、、、。
俺は頭を押さえながら数分前の事を思い出した。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
旅立つ用意を終えて、俺とスイとミリアは里の入り口でスイナ達と話していた。
「帰りは平気なのか?」
「うん!大丈夫だよ、来る時も問題なかったから!」
スイナは俺達に付いて行くために力をつけるって言ってたし、てっきり「付いていきたい!」っていうのかと思ったが、特に文句も言わずミストレルへの帰り支度を終えていた。
もはや立ち姿も見違えるほど立派になっている、なんか感動して泣きそう。
「まだオババ様に許可貰ってないから、お兄ちゃんに迷惑かけたくないし、今日は帰るよ!」
「そっか、、、。」
「・・・すごい寂しそう。」
いやだって、、、久しぶりに会えた癒しだよ!?
だって精神的に成長してるけど、持ち前の明るさは変わってない。太陽みたいな笑顔と明るい話し方はこっちも元気になってくる。
ちなみにミリアはいつの間にかスイナの後ろに回って抱き締めていた。
スイナは特にそれを嫌がることなくニコニコと受け入れて幸せそう。
「またお兄ちゃん達は旅にでちゃうんでしょ? ならどこまでも追いかけて行けるように強くなるね!」
・・・わんちゃんストーカーの発言だけど、スイナだからいっか。
そんなほんわかしてる空気を漂わせていると、ユリジャがリクリカとハイル、フィーカとシルルカを連れて門へと現れた。
「行くのかい?」
「あぁ、まだ色々知るべき事がある。このまま魔族領に居続けても仕方ないし、人族の領地にでも向かうよ。」
俺がそう言うとユリジャはニコッと笑って後ろにいたハイルの背中を押した。
その意味を理解した俺はハイルにいいのか?と目で問う。
「うん、確かに前よりも見られ方は変わったけど、今度は逆に申し訳なさそうな、同情のような目で見られるのが居心地悪くて、、、。それに、」
ハイルは苦笑した後に、スイを見た。
当人は何で見られたのか分からず首をかしげているが、勿論意味の分かる俺は溜め息をつく。
「別に構わないけどさ、でもこの旅路は平穏かわからないぞ?」
「はははっ、わかってるよ。でも、少し吹っ切れたんだ。もう少し位わがままでもいいかなって。」
言われてみるとハイルの話し方も前より、ハキハキしている気がする。何があったのか知らないけど、自信を持てることでもあったのか?
なんかユリジャの話し方に似て胡散臭、、、本人には言わないでいてあげよう。
「ミリアさん、スイさん、また改めてだけど一緒に付いていってもいい?」
「もっちろんですよ!人数は多い方が楽しいですから!」
「・・・よろしく。」
ミリアもスイも笑顔で迎えてくれる。
ハイルはそんな2人の反応に涙を浮かべそうになるのを必死にこらえて目元をぬぐった。
「さてと、泣き虫は放っておいて、、、。」
「な、なななな泣いてなんかないよ!」
・・・泣いてんだろ。指摘されてもう止まらないじゃん。
それを無視してユリジャに向き直った。
「んじゃ、そろそろ行くわ。またどこかで会う気がするけど気のせいだと願いたい。」
「えぇ? なにその別れ文句。まぁ僕としても穏やかに過ごしたいからその方がありがたいかな。・・・色々お世話になったよ、ありがとう。」
俺とユリジャはそう言って握手する。
そしてリクリカさんがユリジャの隣にでてきて頭を下げた。
『私と、家族を救ってくれたこと、大変感謝しています。もし何かありましたら何時でもご助力致しますので連絡してください。』
どうやって、、、と思ったがそう言えば白箱があったね。何処と無く胡散臭いユリジャと違ってリクリカさんは信用できそうだし頼りにさせて貰おうかな。
そんな挨拶をしていて横目でハイルを見るとシルルカに泣きながら抱きつかれてあたふたしていた。
「し、シシシルルルルルルルルルルカ、み、みみみみみみみみみんな見てるから放れ、、、、!」
「ゔえぇーーーーん、折角会えたのにまた出てっちゃうなんてぇえ!」
ハイルは慌てたようにチラチラとスイを見ているが、スイはスイナと話して気にしていない。ドンマイ。
「・・・ぐずっ、ごめんね。また会えるよね?」
「う、うん、たぶん。」
「・・・たぶん?」
「きっと会えるよ!」
たぶんって言った途端にまた泣き出しそうになったシルルカを見て慌てて言葉を訂正する。
何とか泣き止ませて別れの言葉を交わすと、今度はハイルとフィーカが向かい合った。
フィーカは変わらず腕を組んだまま不機嫌そうな顔をしている。
そんな変わらない姉の態度にハイルは苦笑していると、フィーカは一歩前に出て何かを差し出した。
「・・・え? これって、、、。」
「ジャルヌに霊力を込めて貰った短刀だ。これで許してくれとは言わん。ただ秘めてる力は大きい筈だ。・・・捨てても構わないが、護身用として持っておいて損はない。」
そう言って手渡された短刀をハイルは手に持って感慨深そうに目を潤ませている。
そんな様子のハイルに少しフィーカがキョドっているが、そんな彼女の肩をシルルカが掴んでニヤリと笑った。
「えー、それだけなの? 折角夜なべして手作りしたんだからもう少し、、、」
「ーーっ!! な、何を言ってるんだお前は!?」
「きゃはっ、あなたに怒られても怖くないよー。」
顔を真っ赤にしたフィーカはシルルカに掴みかかるが、シルルカはヒラリと躱す。
長い付き合いで幼馴染みのようなものなのか、気難しそうなフィーカにもシルルカは物怖じしていない。
「・・・ありがとう姉さん、大切にするよ。」
「~~~ッツ!! 知らん!好きにしろ!!」
フィーカはそう言い捨てて怒りながら里のなかに戻っていってしまった。シルルカは流石にからかいすぎたと思ったのかこちらに手を振りながらフィーカの後を追う。
どうやら洗脳は割と深くまで浸透していたようだ。
ここまで変わるとは思わなかったが、別に前からそこまで当たりが強かった訳じゃないだろう。ハイルも姉さんって言ってるし。
「まぁいいや、とりあえず俺達は行くぞ。」
「うん、お世話になったね。」
そう最後に挨拶をしてエルフの隠れ里から離れ、異界の外へとでた。
そこまでの仲でもないし感動的な別れはいらないだろ。
ようやくひとつの肩の荷が降ろせて気持ちが楽になる。
あとはスイナにベッタリなミリアを剥がして、と。
「うわぁーーん! スイナちゃんも一緒に行きましょうよお!!」
「人の決意を揺らがせるような事をすぐ言うんじゃない。」
というか後ろを見てみなさい。
久しぶりに会えた実妹との別れなのに、あたふたしてる実姉が可哀想に思わないのか?
とりあえずひっぺがしたミリアをズルズル引き摺ってスイを前に押し出しておいた。
「・・・お姉ちゃん。」
「・・・ん、色々ビックリはしたけど、会えてよかった。・・・強くなったね、スイナ。」
スイは優しく微笑んでスイナの頭を撫でる。スイナは驚いた後、うっすら涙を浮かべながらスイに抱きついた。
「もっと、もーっと、かんばるね。」
「・・・ん、楽しみにしてる。」
最後に抱きつき返してスイナともお別れになった。
見えなくなるまで何回も振り返って手を振りながらスイナはミストレルへ戻る。
そしてようやく俺達は人族と魔族が共存するという街『レンデル』を目指し、、、
・・・・・。
・・・・。
・・・。
て、今に至る。
「障壁って消化できるのかねぇ。」
「・・・ハイルって飛べる?」
「「いいから助けてよぉ!!」」
俺とスイは呆れながら剣を抜いた。
スイは水に姿を変えて飛びながらハイルを捕らえてる鷹の真横に姿を作る。そのまま狙いを付けて目に向かって剣を突くと、弾丸のような速度で鋭い渦が射出された。
頭を貫通された鷹は自然落下を始める。
一緒に落ちたハイルを水で包むようにスイはキャッチした。
ちなみに俺はもっとシンプルに口元を裂いて吐かせただけだね。
「何で普通に食われそうになってんだよ。」
「上は予想外だっ、、、ロロロロロロロロッ!」
上からの急降下で俯いて吐いてるハイルを無視して、ユリジャから貰った地図を広げる。
しっかりと目的地であるレンデルに丸を付けてもらっているが、いかんせん距離が遠い。
もう里から離れて半日が経つが、いまだにエルフの森を抜けられていなかった。
「・・・まぁ相変わらず殺意の高い植物に、代わり映えのない景色、簡単ではないよなぁ。」
「でも、来た時は割と一直線じゃありませんでした?」
「そりゃ妨害がすごくなる方向に進めばいいだけだからな。」
どうでもいいところにわざわざ罠を設置したりしないでしょ。よっぽど相手を錯乱させたいなら別だけど、無駄っちゃ無駄だしね。
「・・・森を抜けて、次は水門都市。まだまだ時間はかかる。」
「急ぐ旅でもないしいいけどさ。でも最近野宿してなかったし、少し怠さはあるよな。」
「私野宿好きですよ? 律兎さんの出してくれる道具があれば便利でそこまで不便じゃありませんし。」
「お前は野宿で熟睡しすぎなんだよ。」
雑談しながら草を掻き分けて進んでいると、高い位置から水が落ちて溜まっている溜め池に出た。
「・・・幻想的だな。」
「わー、綺麗な水ですね。透き通ってますよ。」
そう言って近づこうとするミリアの服をハイルが摘まんで止める。
「あ、危ないよ。」
「・・・なにか、いる。」
スイの言葉通り、池のなかから静かな気配を感じた。よく目を凝らすと水の上に小さな黒い点が目のように等間隔に浮いている。
「クリアニ、っていう魔物だね。透明に姿を消して水辺に獲物が来るのをずっと待つ生き物だよ。」
「「こっわ。」」
ミリアはドン引きしながら後ずさっていると、池の畔に白鳥の様な鳥が降り立って池に口をつける。
鳥に向かって黒い球体がゆっくりと近づいたと思うと、次の瞬間には漆黒の鱗に覆われたワニが鳥の首もとに食らい付き、水へと引き摺り込んでいった。
「「・・・。」」
「き、気を付けてね。」
やっぱ異世界って怖いね。俺の世界の常識が通用しないや。
・・・でもまぁ自然に擬態して獲物を待つ動物は多くいたしそこまで珍しいものでもないか。
「はー、まぁ適当にどっかで休むか。」
仕方ないので池の畔で休むのは諦め適当に開けた場所を目指す。そしたら飯食いながら焚き火でもしてのんびりしたいな。
いや、森だから怒られるか。
まぁ、フィクリシア管理の森だし別に良いかもしれないけど他にも生きてる生物いるしやるわけにはいかないよねー。
すると、今度は大きく開けた花畑を見つけた。
空中に舞う色鮮やかな蝶達が花畑を幻想的に魅せている。
「よしハイルさん、危険性は?」
「え?普通にあの飛んでるユラクチョウだよ? 自分達の縄張りに入った生物を酩酊作用がある鱗粉で狂わせ、倒れ込んだところを寄って集まり血を吸い付くすらしい。」
「超こええじゃん!!」
「・・・蝶だけに?」
なんか後ろから聞こえたしょうもない事言ったスイを無視して、どうしようか悩む。
普通に迂回すればいい話なんだけど、この花畑無駄に広くて迂回するのも骨が折れる。
かといって渡るのもなぁ。
「・・・ミリア。」
「今の話聞いて「はいわかりました」っていうと思います?」
・・・まぁ、障壁を蝶に覆われて前が見えなくなる未来しか見えないよね。
斬るのは論外だし燃やすのもアウト、うーん的確な対処が思い浮かばないな。
「本来はどう対処するんだ?」
「うーん、ユラクチョウに対する的確な対処法ってまだ定まってないんだよ。鱗粉を吸い込まないようにするって言っても皮膚で吸収しちゃうから難しいんだ。」
うえぇ、マジかよ。相当厄介じゃん。
てことは向こうでも防護服が必要なレベル、ってことか。
「手段としては風魔法で常に鱗粉と蝶を追い払い続ける。後は凍らせたり爆音で追い払うとかかな?ただ爆音は他の魔物をおびき寄せるし、凍らせたり風で追い払うのも魔力消費が多すぎて現実的じゃない。一番は虫除け効果のある香を焚くことかな。」
「へぇ、持ってたりする?」
するとハイルはポーチを探って小瓶を取り出した。
フタを開けて先端に火をつけた香木をなかにいれて穴の空いたフタを閉めるとラベンダーの様な香りが広がる。
「良い香りですねぇ。」
「・・・ん、落ち着く。」
確かに芳香剤みたいな良い香りがする。
でも俺無香料が好きながらどっちかと言うと苦手な香り。
「たださっきも言ったけど的確な対処とは言えないんだ。風向きによっては煙も流れるし、鱗粉だってこっちに来る。それにユラクチョウ自体も鋭いくちばしを持ってて危険だしね。」
「・・・なんかやけに危険じゃね?」
「というか私も名前を記憶しているレベルです。確か一匹でも確認されたら国が総出で対策に乗り出すそうですよ。」
やけに危険な存在だと思い始めてたけど本当に恐れられる危険生物だったね。
ならやっぱり迂回してまわるのが正解か。
そう思っていたが、ユラクチョウの花畑とは違う森の奥からこちらに向かってくる大きな気配を感じた。
「え、なになに?」
どんどんと近づいてくる足音に警戒していると、体長5メートルはあろうかという巨大な鹿が下半身が蛇になっている狼に噛みつかれていた。
「なにあれ!?」
「オオヤマヌシとジャロウ?! わわっ!こっちに向かってきてるよ!!」
「・・・。」
ーーードガアンッ!
突っ込んできた魔物によって俺達は逃げる間もなくユラクチョウの縄張りである花畑に吹き飛ばされる。
即座にスイが飛ばされながら地面に向かって水槍を放ち、濃く魔力を込めた水のドームを形成した。
花と蝶は膜に弾かれて遠ざかる。
「ーー早く走って!!」
花畑からは既に視界を埋め尽くすほどの大量の蝶が空を舞っている。
走ると言われても既に視界は塞がれどっちがどっちなのか分からない。
一度道を斬り開くか。
「ハイル!魔法で火球作れるか!?」
「へ!? でかいのは無理だよ!得意じゃないし!」
「充分だ!」
ハイルが生み出した小さな火球の側に剣を滑らせがら纏わせていく。
剣を回しながら空気を送り込んで火力と威力を上げ、前方に向かって打ち出した。
剣舞一式 炎纏 烈砲
目の前を閉ざしていたユラクチョウの群れに穴を空け、突破口を開く。
「ミリア!スイに魔力を渡してくれ!ハイルはミリアを背負って走るぞ!スイとスピード合わせろよ!」
「はい!」「・・・ん。」「わかった!」
鱗粉に染まっていく水を流しながら新しい水の通路を作り出す。その作業に集中するスイの手を取ってミリアは魔力を注ぎ、ハイルはミリアのフォローをする。
かなりゴリ押しだがこれなら何とか花畑を越えられるか?
チラッと後ろを見ると、先ほどこちらに突っ込んできていた巨大な鹿と変な狼は無数の蝶に覆われ、もがき苦しんで地面に伏す。
ゾッと寒気が走るのを感じながら俺は剣に残していた残り火を再び大きくして前方に放ち道を作った。
それを繰り返し、俺達は何とか花畑を抜けることができたのだった、、、。




