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喚ばれた剣聖  作者: たんぽぽ3号


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106/108

喚ばれた剣聖ー106


窓から差す陽光が眩くて目を細目ながら起き上がる。


見た限りまだ早朝だろうが、窓の外からは微かに行動を開始しているエルフ達の声が聞こえてきた。



「・・・さて、現実を見るか。」



そんな俺のとなりにはとびきり美人なミリア様が小さく寝息を立てながら寝ている。


なんだ?理性を試されてんのか?

一応言っとくけど結構ギリだかんな。



「・・・・・ギリギリアウト、だよ?」


「どわぁ!?お前いつの間に部屋に入ったんだよ!?」



気付くと近くのイスにスイが座ってニコニコしていた。怪我人だし、朝から見てくれたんだろうけど、部屋に来たら一緒に寝てて見守、、、いや起こせや。



「・・・珍しくぐっすり。私が来ても気付かなかった。」


「うえぇ、マジか。」



平常時ではあり得ない気の抜けように呆れそうになるが、いや、それが普通なのかと納得する。


ずれてしまった感覚を少しでもずれてるって認識しないとな。



「・・・うっ、何とか、動けるな。」



からだを起こして手を閉じたり開いたりしても痛みはあるが、なんとか動かせると判断した。

横で寝てるミリアがずっと魔法をかけてくれたのだろう。感謝しきれないな。



「・・・起こす?」


「いや、疲れてるだろうしこのまま寝かせてやろう。スイ、とりあえず全員を集めてくれ、話し合いをしたい。」


「・・・わかった、呼んでくるね。」


「まてぇい、ここに呼ぶ気なの?」


「・・・うん、ミリアが起きたとき誰もいないと寂しいだろうし。」


「寝起きをたくさんの顔見知りに見られるのどう思う?」


「・・・私なら吐く。」



なら止めたげようよ、疎そうなのは俺も思うけど流石にかわいそうだから。


折衷案で普通に起こして、ユリジャの大広間に皆を集めて貰って集合した。


メンバーは

ロド、ペリナ

ユリジャ、リクリカ、フィーカ、ジュルグ

俺、ミリア、スイ、スイナとそのお供、、、と、、、



ガラガラガラッ



「あばばばっ、体が、外れる!?」



車イスに座ったハイルがシルルカに押されて運ばれてくる。もう既にミリアの治癒魔法を受けて両足は繋がり、傷は癒えてるようだが、まだちゃんと歩くにはリハビリが必要みたい。


ミリアが言うには「上手く繋がってはいますけど少しのズレはどうしようもなくて、時間で治るとは思いますけどリハビリはした方がいいですね。」とのこと。


でも治ってよかったよ、始めに話を聞いたときは焦ったからね。



「おっすー、元気か?」


「げ、元気なわけないよね?それに同じ言葉を君に返すよ。」



お、ハイルも言うようになったねぇ。

ハイルは送り出したときよりも何処と無くスッキリとした顔している。何かあったのかな。



「よし、じゃあ全員揃ったな。まず何から話す?」


「それなら僕からでいい?」



どう話を切り出すべきか悩んでいると、そっとユリジャが手を上げる。特に遮る理由もないし任せた。



「まず始めに礼を言わせていただきたい。この度は皆様のご助力があり、里の存続が叶いました。本来であれば抵抗叶わず逃げ散ることしか出来なかった我々が愛するこの地にいられるのは皆様のお陰です。ありがとうございました。」


『私も多大なる迷惑をお掛けしました。敵の手中に落ち、戦力となることも出来ず、申し訳ありません。』



ユリジャに続き、リクリカも同じように深々頭を下げる。特に俺達はその言葉に対してなにも言うことはない。擁護することもないし、否定も肯定もない、受け入れることが大切だろうしね。



「それで報告なんだけど、被害は多少なりとも出たし、里を戻すのにも時間はかかる。異界もボロボロだし、隠れ里としての機能はかなり薄れてるかな。」


「そこに関しては俺達が協力する。エルフ族が立ち直るまでの間、護衛と惜しみ無い支援を約束しよう。その代わりエルフ族には実りの取引をここ100年、確約をして貰おう。拒否は願えない、それに少しばかりは融通して貰うぞ。」



ユリジャの文言に対してロドがそう口を挟む。ユリジャもそれに対して異を唱えたりはしない。


既に話しはすんでいるのだろう。あまりにジャユ族有利だが、ぶっちゃけ今回はジャユ族は巻き込まれただけなきもするし、損の方が大きく感じる。

譲歩も見て取れるしなんでもいいか、そこら辺専門外だしね。


そんなことを考えていると、スイナがスッと手を上げた。



「私たちミストレルは今回の件に関してはなにも受け取りません。そもそも取引にしても距離が遠いですし、現実的ではありませんので。・・・私たちとしましては宿敵が墜ちたことと、律兎様の借りを返上できたことで終わりとします。」



・・・てことは今後は別にエルフに助力を請われても受ける気はないと、、、ってまてい! 誰だ君は!俺の知ってるスイナはどこ行ったの!?



ちなみにこの真面目モードのスイナは初めてみるのか、同じようにスイとミリアも驚いている。すると、スイナはチラッとこちらを見てウィンクした。


あのかわいいスイナはどこ行ったんだろう、いや今も可愛いけどさ。



「ははは、これは手厳しいね。わかった、肝に銘じよう。」


「なら後はあいつらをどうするか、だな。」



ロドは腕を組みながら苦虫を噛み潰したように唸る。あいつらというのは魔王軍のことだろう。まだ、森にいるみたいだしどうしようかねぇ?



「今は戦意はないって言ってるんだろ? なに目的で居座ってるのかは聞いたのか?」


「いや全く。」


「なら話を聞いてから判断しよう。」



魔王軍に関しては話を聞かないと進まない。

無駄に時間を取っても仕方ないし次に進もう。



「それじゃ最後に、まずわかったこと。敵を裏で手を引いていた黒幕がわかった。フィクリシアだ。」



俺が端的にそう伝えると、エルフ陣営は全員顔をしかめる。そりゃそうだ、全幅の信頼をおいてる精霊が裏切ったってことだからな。



「それに関してなんだけど、やっぱり納得しづらいかな。精霊は基本的に欲が無い、そんな彼女がなにかを狙って暗躍、というのは想像が難しいんだけど。」


「何時だって例外ってのは突然現れるんだよ。欲がないのは肉体も寿命もないからだ。精神生命体である精霊が死ぬことは滅多に無い。でももし何かきっかけがあって目的を持てば、もう人と変わらない。」


『・・・。』



何処か心当たりでもあるのかリクリカは俯いた。

ユリジャはそれを少し心配そうにしているが、今は話を進めようとこちらを見る。



「まず、起きなくなった精霊達だが、しばらくは目を覚まさないと思う。エネルギー自体をフィクリシアに取り込まれてる。」


『ーーっ!!精霊が他精霊の力を取り込んだと?』


「あぁ、存在を食らわずにそこまで奪えるとは随分慣れてるんだなと感じたよ。まぁ喰魔っていう的を作って霊界で上手く食らえば完全犯罪は完成するし、経験は積んでんだろ。」



俺の放った言葉にエルフ陣営は全員大きく目を見張った。他の面々は意味がわからないのかついてこれていないがこれはそっちの問題だし、放っといてもいいだろ。



「・・・え、つまり僕が精霊を宿せなかったのは?」


「お前が特殊な体質だった訳じゃない、フィクリシアが喰魔と定めてお前に宿るはずだった精霊を喰らったんだろう。そして代わりとして自分の力を一部貸し、肉体に宿らせ特殊体質と誤認させる。・・・よく考えられてることだよ。」



話ながら声音が怒りに満ちないよう気を付ける。


『喰魔』という存在はフィクリシアによって作られた被害者達だ。そもそも精霊には基本欲がない、欲がなければ悪意も生まれない。だが、彼女は何かしらの目的を持っている。

そのために遥か昔から喰魔という的を作って同族を喰らい、力をつけていたんだろう。


そう告げられたハイルは戸惑っている。誰を責めればいいのか、何に怒ればいいのかわからないのだろう。



「・・・なるほどね、ハイル、君には悪いことを、いや、そんな言葉では済まされないだろうけど、申し訳ないことをした。」


『・・・・・ごめんなさい、考えが及びませんでした。』


「や、止めてよ、確かに辛かったこともあったけど、助けられても来た。今はよくわからないけど、そこまで怒ってもいないしさ。」



ユリジャとリクリカはハイルにそう謝る。


ジュルグも素直に自分の非を謝る。そしてフィーカも深く頭を下げていた。



・・・ま、とりあえずそれは後にしといて、、、



「今フィクリシアは元々の自然の力と他精霊の属性を全て使える。力を削りはしたけど微々たるものだ、警戒はした方がいい。」


「もはや半神といっても過言じゃない、か、、、。」


「あぁ、そういや、俺も一つ謝らないといけねぇことがある。邪神の欠片なんだがまんまと何者かに盗まれた。それがフィクなんとかと関係があるのかわからないが、厄介な種を放っちまった。」



さらっとロドから頭が痛くなるような話を持ってこられる。

俺は頭を押さえながら、ロドに視線を送った。



「・・・無関係とは言いづらい、フィクリシアが力を求めていたのは確かだし邪神の欠片も目的の一つとして手に入れようとしていた可能性もある。つまり簡単に言えば、何とか戦いには勝てたけど肝心なところは全部出し抜かれた、ってことか。」



・・・てことはアムルは協力者か利用されていたかのどちらかだろう。同情する気はないが、哀れだな。



「・・・まぁいいハイル。お前はどうする?」


「え、ど、どうする?」


「お前の目的は里を助けることだろ? 一応は達成できた、後はここに残るのか、俺達と旅立つのか、もう疑念は払拭されたと思うし、前よりは居心地悪くないと思うぞ。」



そう言いながら重い体を上げる。

ミリアはすぐに俺に手を添えて支えてくれた。そして解散の流れを感じたのかエルフ達とハイル以外立ち上がる。


後は当人達が話し合うことだ。

部外者は席を外すべきだろう。



ドアを開け、外気を吸って息を吐く。

悩みの種が減っては増えの繰り返し、嫌にもなってくる。


とりあえずは魔王軍に話を聞きに行きますか。



・・・・・。

・・・・。

・・・。



異界を出て少し歩いた焼け野原になっている森を抜け、カリティ?だったかが居座ってる森の一帯を目指す。



周囲が焼き放たれて見晴らしのよくなった岩場の一つにカリティとやらは鎮座していた。



「・・・遅くないカ!? 流石に待ちわびたぞ!」


「いや知らねぇよ。そもそも頼んでないし。」


「それもそうカ!」



こいつバカなのか?

何か白狼よりも単純で扱いやすそう、いや、考えが一直線過ぎるのは逆に面倒いか。



「それで?何でお前らはまだ森にいるんだ?」


「何を言う、負けたものは贖うものがあるカ。それも無しにおいそれと帰れるものカ。」


「・・・へぇ、それで奴隷に落とされ死ぬことになってもか?」


「勿論だ、まぁあれは屈辱的ではあったが、そこから得るものもあったカ。屈辱に追いやられた者ほど得る力もあると言うものカ。」



え、経験したことあるの?


話を聞いた限り、彼女は竜族と呼ばれるこの世界における魔族の最強とも呼べる種族らしい。


寿命も長く、生命力や戦闘力も恐ろしいほど高い。

そんな彼女が負けて、そこまで落ちたことに驚く。



・・・というかその程度の感想なのか。今魔王軍にいるのは何でなんだろう、普通に気になる。



ただ雑談に花を咲かせても仕方ないので本題に戻そっか。



「なら相手はエルフ族になるのか、そう言ってったって伝えとけばいい?」


「勿論彼らの何かしらの要求にも答えるつもりカ! むしろお前らはいいのカ?」



え、何でこいつこんな器広いの?いや違う?もうよくわかんねぇわ竜族。


俺は後ろのスイとミリアに振り返って、一つうなずいた。



「じゃあ追ってくるの止めて貰っていい?」


「む? 追われてたのカ?そもそもそんな命は下ってないが、まぁよいぞ!」



・・・え、野放しだったの俺ら?


いや、もしかしたらギュリカが俺を他の奴らに獲られないよう報告をしてないのかもしれない。白狼もたまにそんな考え方をして、危ない指名手配犯を野放しにしていたことも、、、ムカついてきたからやめよ。



「・・・まぁそれでいいや、とりあえずじゃあ報告とか無しで、何なら死んだ事にしといて貰えると助かる。」


「カカカッ! それは無理カ!嘘をつくのは性に合わんからな!」



なんでも言うこと聞かねえじゃねえかよ!

もう疲れてきたよこの交渉!スイさん変わってくれない!?



「・・・ギュリカが殺された、それだけで狙われる理由にはなる。嘘はつかなくてもいい、でも上手く戦死したと伝えて。」


「分かった!」



やっぱ頼りになるぅ!



もうコイツらには悪意もなさそうだしそこまで気にすることはないと、里に戻る。


その道すがら、森を歩きながら木漏れ日を眺めてふと足を止めた。

突然立ち止まった俺をスイとミリアは不思議そうにしている。



「・・・明日にはこの里を出よう。狙わないとカリティから言質は取ったが口約束だし、他の奴らにまだ伝令とか伝わってないだろうしな。早めに離れるに越したことはない。」


「わかりました、ではまた旅ですか。」


「・・・ん。」



少しげんなりしてるミリアに笑いそうになりながら、俺は可能性を述べる。



「ハイルに関してはあいつの意思に任せよう。腐っても故郷だ、どう思うかはわからない。」


「そうですね、少し寂しくなりますが仕方ありません。」


「・・・・・ん。」



スイは寂しそうにシュンとし、ミリアはウンウンと頷いている。まぁミリアの反応は少し薄情にも感じるが、故郷の大切さは一番理解してるだろうしね。



・・・折角の同性がパーティーから抜けるのは俺も寂しいが、そこは俺達が決めることじゃない。なるようになりますかね。




ーーー




暗い厳かな謁見の間、上に鎮座した玉座の上で魔王は溜め息をついた。



「・・・ギュリカは死んだか。早死にしそうな性格ではあったが、死ぬとは思わなかったな。」



辺りには誰もいない。

護衛も、使用人すら近くにはいなかった。


なぜなら認識できないのだ。魔王は他者に見せようとしない限り、滅多にその存在を察知されない。



「リツト・ヤクラ、勇者ではない異質な存在。予言の書にもその名は書かれていない。・・・なのに、平然と先を変えてくる。まだ問題はないが、あまりに大きく未来を変えてしまうなら一度会いに行かないとな。」



そう一人呟いて、魔王は玉座から姿を消した。




ーーー



カツン、カツン、カツン、、、



薄暗い井戸の底にある小さな実験室。

そこに戻ったユリジャは台座の縁を触って息を漏らした。



「・・・随分やられたね。フィクリシア。」



ーーブワッ!



その名を呼ぶと共に、風が集まりフィクリシアが現れる。苛立ったように顔をしかめた彼女をユリジャはニコニコとした笑みで迎えた。



『ほんとね、まさかただの人間にあそこまで霊力を削られるとは思わなかったよ。折角手駒(アムル)を上手く使って精霊の力を集めたのにこれじゃ意味がないじゃん。』


「全部失った訳じゃないでしょ? でもそこまで霊力に差があるのに負けたのは情けないけどさ。」


『うっさいなぁ、あなたも気を付けた方がいいよ。あいつは嫌なくらいこっちの弱点を知ってる。油断したら簡単に足元掬われるからね。』


「君みたいに?」


『・・・ほんと、あなたって嫌な奴。』



冷たい目を無視してユリジャは顎に手を当て頭を悩ませる。


実際計画はうまく行っている、一切問題はないのだが、あの男だけが異端として存在していた。

恐らく既に何らかの違和感を抱いてここから離れようとしている可能性が高い。


気味が悪いほどの勘の良さと、知識の深さは警戒せざるおえないね。



「いやー、まさかここに至って不安要素が喚ばれて来るとは思わなかったよね。」


『万が一に備えてフォリュゲートを落とさせたのに意味なかったじゃん。』


「ハートがあんなところにいたのは予想外が過ぎたからさ。まぁ彼女はそういったものだし、予測するのは難しいから仕方ない。」



ユリジャは幾重にも結界を張り、呪符を巻いた小さな箱を取り出す。これほど厳重に封印されているのにそこからは黒い瘴気が溢れていた。



『・・・うわぁ、それが邪神の欠片? すっごいピリピリするんだけど。』


「はははっ、律兎君が言うには君の弱点らしいからね。ピースは集まりつつある、後もう少しだ。」



そう言ってユリジャは軽やかに笑う。

邪悪さはない、無邪気な子供のような笑み。



『まーいーけどさ、そろそろドカンと動き出したいよね。』


「相変わらず辛抱ないなぁ。」


『はぁ!? 200年以上待ってるんだけど!?』


「落ち着きなよ、ここで焦って賢(・)者(・)達に目をつけられたらその待ち時間が意味なくなっちゃうんだからさ。」


『・・・それは、わかってるけどさぁ。』



やるせないのかフィクリシアはぐたっと地面に溶けるよう横たわる。

それを邪魔に感じながらユリジャは箱を仕舞って溜め息をついた。



「とりあえず律兎君に関してはノータッチでいこう。君も力を削られてるし、下手につつけば逆に付け込まれる危険性が高い。リーダーは剣聖を知ってるみたいだし指示を仰ごっか。」


『はーい。』



そう言ってフィクリシアはフワリと宙空に舞う。そしてこちらを見てニヤリと笑った。



『それにしてもようやく三(・)年(・)だ(・)っ(・)け(・)?里長も板についてきたんじゃない?』


「・・・何を言ってるのかな? 僕はもっとずっと前から里長だよ。」


『ふーん、そうなんだ。どーでもいいけどね。』



ーーブワッ!



フィクリシアは風にとけて姿を消し、後にはユリジャだけが残る。



歯車はようやく動き出した。

様々な思惑が絡まり合い、皆が目的を果たそうと死力を尽くす。



「・・・楽しみだね、負ける気はないよ。」



その独り言は、水音が響く地下に静かに消えていくのだった。



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