喚ばれた剣聖ー105
「そもそも配分がおかしいのよ! こっちがどれだけきつかったかわかってるの?!」
「い、いやぁ、でもほら僕には僕のやることがあるし、、、。」
「それはわかってるけど、終ってるなら救援に来てよ!」
やけに騒がしい、、、。
余りに煩くて文句を言おうと体を少し動かす。
それだけでズギッ!と体が痛み、意識はすぐに覚醒した。
「ーーいってぇ。」
「おや、起きたかい?」
「あ、大丈夫?」
涙を滲ませながら薄く目を開けると、知らない木目の天井。おそらく里の一室かな?
下からフワッと包まれる感覚があるからたぶんベットに寝かせられてるんだと思うけど、何で君達喧嘩してんだよ。
体が痛むので動かないように視線だけで様子を窺う。外から陽が差してるのを見るに、今は昼のようだ。
チラリと横目で窺うと、ベッド近くのイスにはシルルカが座っており、いま来たばかりといったようなユリジャがしょんぼりしていた。
「・・・頼むから怪我人のそばで大声出さないでくれ。傷に響く。」
「うっ、ご、ごめんね。余りにのほほんとした馬鹿にイラッとして。」
馬鹿と言われた里長は照れたように頭をかいている。誰も褒めてねーよ。
見た感じユリジャにはどこも外傷がないし、普通に元気そう。必死に頑張った人が端から見ればイラつきもするか。
「・・・ミリアは?」
「おや、最初にそこが気になるのかい? ミリアさんなら3日で気絶しちゃったよ。ずっと君の側で効き目の薄い回復魔法を使いながら看病してたけど無理が祟っちゃったね。」
「は?3日? 俺何日寝てたんだ?」
「今日で5日目だよ。」
思わず目を見開く。
そんなに寝てしまったとは、、、。
無理が祟った時に寝込んでしまうことは確かにあった。それでもここまで長く寝込んでしまうことは滅多にない。
「・・・それだけギリギリだったのか。」
まだまだ弱い。
きっと何かを忘れてる、おそらく自分の根幹にある何かを。
喚んだ皆が俺を信頼してくれていた。
それを裏付ける何かがある筈なんだ。
俺は腕が痛むのを我慢しながら包帯でぐるぐる巻きにされた腕を眺める。
「まぁいいや、とりあえず簡単に状況を教えてくれ。」
「おっけー、まずはね、、、」
ユリジャから俺が寝込んでいた間の出来事を簡単に聞かせて貰う。
俺が倒れてしまったあと、カリティをペリナに見張らせ、オババが里へと運んでくれたらしい。
カリティはまた戦いを再開するのかと思ったが、その場に座って引き連れてきた仲間達にも武装を解除させたようだ。
「負けカ、ずるずると泥にまみれた戦いは好きじゃない。それに助けられたのも一緒カ、恩を仇で返す真似はせん。」
そう言って大人しくその場から動いてないらしい、、、今もね、、、馬鹿なの?
オババはとりあえず説明係を数人残してもうミストレルに帰ったらしい。族長だし何日も空けるわけにはいかないんだとさ。
とりあえず今里にいるのは俺達と、ユリジャとペリナ、あとロドもこっちにいるらしい。
「・・・アムルはどうした?」
「あ、僕が殺したよ。」
特に何ともなしに自分を指差してユリジャはそう言った。リクリカさんが連れて行かれてかなり荒れていたし、どうせ止めても行くだろうと思ったからほっといたけど案の定だったな。
「・・・ならもうそっちは問題ないのか。」
「そうだね、アムルもいなくなったしかき乱してた連中は全員散り散りになって逃げ出したよ。」
アムルの私兵達からは金で集められた寄せ集めの空気を感じていた。雇い主であるアムルが死んだなら、瓦解するのは時間の問題になる。
ただそうなると、話しに聞いていた一人がどこ行ったのか気になるな。
「えーと、ダムドだったか? 結局その天能持ちは現れなかったのか?」
「うん、結局一度も姿を表さなかったね。不気味ではあるけど、彼にはもうここを襲う理由もないだろうし平気だと思うよ。」
・・・ぶっちゃけ俺は話を聞いただけでどういうやつなのか知らないけど、平気かな?
そしてとりあえずドリム地下街の方はどうなったのか聞くと、、、そっちは完全に出し抜かれたようだ。
後で詳細は聞くが、やはりそう全部はうまくはいかない。
「とりあえず話せることはこのくらいかな? あとは皆から直接聞くといいよ。心配してるだろうからね。」
ユリジャは「皆に起きたことを伝えてくるよ。」と言い捨てて部屋を出ていった。
後には俺とシルルカだけが残る。
少し気まずく感じていると、シルルカは俺に向かって頭を下げた。
「・・・へ?」
「ありがとうございます。里を助けてもらって、あなたが、ううん、皆が来てくれなかったらこの里は絶対になくなってた。だから、ありがとう。」
「・・・でも俺達を連れてきたのはハイルだ。一番の感謝はあいつにしてやってくれ。」
「うん、でもあなたにも直接言いたくてさ。」
シルルカもそれだけ言って部屋を出ていった。
一人残された俺はそのままベットに深く沈む。
すると、シルルカが出てすぐにドアがノックされた。
「はい。」
「・・・大丈夫?」
少し開けられた扉の隙間からひょこっとスイが顔を出した。
様子は気になるが、入っていいのか不安そうにコソコソしてるのは最高に可愛い。
俺は微笑みながら入っていいように促す。
スイはホッとしたようにドアを開けて入ってくるが、その隙間を縫って別の影が飛び込んできた。
「お兄ちゃん!久しぶり!!」
「ーーぶっ! す、スイナ?!何でこんなところにいるんだ!?」
元気そうに現れたまさかの人物に噴き出す。
流石に俺が怪我人だと知ってるからか、飛び付いてきたりはしなかったが、嬉しそうにニコニコで枕元にあるイスに座って揺れている。
そっとどう言うことかと後ろのスイに視線を送ると、彼女は軽く頭を押さえていた。
「・・・私にもわからない。何か居た。」
「お姉ちゃん、何かは酷いよ。」
「・・・ほんとのこと、まさかオババ様に連れてきて貰っているとは。」
その言葉に俺は痛む体を押さえながら白箱を取り出して耳に当てる。
「・・・おいババア。」
『急に失礼なやつさね。』
通話に出たオババから呆れたようなため息が聞こえてくる。
俺はそんなことどうでもいいとばかりにオババに詰め寄る。
「何でスイナがここにいるんだ?」
『・・・まずは無事だったことを喜ばせてほしいのさ?』
「それはありがとう、で?理由は?」
『過保護さのぉ。』
またまた呆れた溜め息をつかれると、オババは仕方ないと話し始めた。
『別に特別な理由はないさ。あんたらが旅立ったあと、スイナの訓練に付き合っていたさ。そしたら魔法の素質が相当高くてね、もういまじゃトイスに次ぐ、狩人さ。』
「え、ホントに?」
『嘘ついてどうするさ、ミストレルの守りはトイスに任せ、次点のスイナを連れていくのは不自然じゃないさ。』
「むー! トイスさんにも2回は勝ったもん!もう少しでスイナが狩猟番になるもん!」
俺達の会話を聞いてスイナはプリプリしている。とても可愛い彼女にそんな実力が眠っているとは、、、ふ、複雑。
「だ、だけどさぁ、いくら実力があっても戦場に連れてくるのは、違うだろ。」
どうしても声音は少し低くなる。
強ければ戦場に連れていってよい、そんな簡単な話ではない。
戦場は命の取り合い、一つ間違うだけで命が飛び、一歩歩くだけで仲間が死ぬ。常に精神は削られ、いずれは壊れてしまうのが常だ。
そこに年端もいかない少女を、、、あれ、スイナっていくつだっけ?
『言いたいことはわかるさ、でも本人の強い希望でね。早くお兄ちゃん達に追い付きたいとのことさ。もちろん心持ちについては説いたさ、そこから先を決めるのはあたいらじゃないだろう?』
・・・ぐっ、それはまぁ、一理あるけど。
俺はそっと横目でスイナを見る。
いつもの明るい笑顔で首をかしげている彼女をみていると変な罪悪感が沸いてきた。
「・・・でも先に説明してくれてもよくない?」
『サプラーイズ。』
「だまれ。」
陽気な声音でそう言われて普通にイラッとする。
だがこれ以上強く言えないので俺は渋々通話を切ろうとしたが、、、
『あぁ、そうさ、お前さんに最後言っておきたいことがあるさ。』
「なんだ、説教か?」
『ふむ、そうさね。』
そう前置きしてオババは一つ咳払いした。
『お前さんは強い、恐ろしいほど強いさ。それでもお前さんはあたいからすればまだ子供、スイナと遜色ないさ。・・・確かにお前さんにしか出来ないことはあるさ。でも忘れちゃいけないよ、あんただって守られ、助けられる存在であることを。』
まさかの無理を諭すように言われて向こうから通話を切られた。
突然来て貰ったし忙しいのはわかるけどそんな急に切らなくても、、、。
ただ、滅多になかった心配をされて思わず頬が綻ぶ。
向こうでは家族に心配されたこともないし、素直に嬉し、、、
『それなら、私が代わりになります!』
ーーズギッ
「ぐっ?」
途端に頭が割れるような鈍い痛みが走った。
痛みには耐性があるほうだが、それでも頭を押さえて俯いてしまう。
誰かの声を思い出した。でもその声を思い出した瞬間にとてつもない痛みが頭に走る。
いま一瞬だが、何かしらの禁忌に触れたのだろう。
無理に思い出すのを止めたらすぐに痛みが引いたのも裏付ける要因の一つとして考えるとすれば言いか。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
痛みに呻いた俺をスイナが心配そうに覗き込む。
俺は心配ないと笑い掛けて、少し頭を振った。
「つまりスイナはすごい頑張ったってことか?」
「うん!オババ様を嫌いになりそうなくらい頑張ったよ!」
すげぇ、あの天使なスイナの額に青筋浮かんでる。
いったい何をしたんだろうね、あのババア。
「・・・なにか食べれそう? 無理はよくないから食べやすいの作るよ?」
「あー、頼んでいいか?普通に腹減ってきた。」
傷は痛むが、体調は悪くない。
普通にお腹空いたし、食べないと傷も治らないしね。
スイは「・・・わかった。」と一言言って料理を作りに向かう。スイナもぴょんっとイスから飛び降りて手を振ってスイの後について行った。
「スイナも手伝ってくる! 美味しいの作るね!」
・・・ほんと可愛いな、荒んだ心が癒えていくのを感じるんだけど。
そしてその後もロドとペリナが様子を見に来たり、エルフの年寄りや、若者達(めっちゃ年上)に感謝され、夜は更けた。
結局起きてる間にミリアは目を覚まさなかったようで、俺はそのまま目を閉じたのだった。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
「・・・ん?」
夜中、何時かはわからないが何処か部屋の外から誰か近づいてくる気配を感じて目を開ける。
キイッと短くドアが軋む音がすると、ミリアがドアを少し開けて顔を出した。
「・・・ミリア?」
「ひゃわっ!? り、律兎さん?起きてるのですか?」
俺が声をかけるとミリアは跳び上がりそうになる。
いやまぁ寝てたけど、もう充分休息は取ってたし仮眠程度で眠りは浅かったからね。
というかどうしたの?夜這い?
ミリアはトトトッとこちらによって来てほっと息を着いた。そして淡い光の治癒魔法をかけてくれる。
「・・・無理すんなよ、お前いま起きたばかりだろ?」
「大丈夫です!疲れただけなので寝たら元気になりました!」
そう言って笑顔を見せる彼女の目の下にはクマが残っている。話を聞いた限り寝たって言うよりは気絶よりみたいだし回復なんて対してしてないだろ。
どうやら思ったより心配をかけてしまったらしい。
最近ハイルとかが怪我したときも怒ってたしね。
「ミリア、お前が倒れたら、、、」
「・・・そう言っていつも傷ついてるのは律兎さんじゃないですか。」
フォローしようと言葉を探したら地雷だったらしい。ミリアに珍しく強い言葉で反論されて思わず目を見張る。
「慣れとか、強いとか関係ありませんよ。血だらけで、普通なら死んじゃってもおかしくない怪我を負ってるのを見て、平気な訳、ないじゃないですか、、、。」
ミリアは途切れ途切れに涙ぐむ。
俺はそれに対して何の言葉も返せない。
確かに慣れはあった、いや、既に神経が麻痺してしまったのだろう。いつも背水の陣でどんな怪我してでも負けられない状況ばかりだった。
いつしか自分なんて、っていう考えが根付いてしまっていたようだ。
「・・・わかってます、わがままなことくらい。律兎さんが戦わないといけないことくらい、、、でも、それでも、傷だらけのあなたを見るたびギュッと心の奥が苦しくなるのです。」
俺はミリアの顔を見ていられなくなって天井を眺めた。自分の命、そんな当たり前のことを考えさせられる。
昔から必死に生きてきた。
親からは心配されたことも、そもそも生きることを望まれていない。
そんな環境で育った時点で俺は少し価値観が折れ曲がっているのだろう。
それでもその頃は生きることを望んでいた。
だがいまは自分の命と守るものを天秤にかけて驚くほど自分の命を軽くしてる。
そりゃ心配もかけてしまうか。
「・・・悪かった、今度からはもう少し上手くやるよ。」
「・・・・・頑張ってくれてるのはわかってますよ。ただこのくらいはさせてください。例え治りが遅くても、効果はあるはずですから。」
ミリアの言うとおり、すぐに治るわけではないが、僅かに効果は現れている。
痛みは薄れてきているし、既に両腕が動かせるのもミリアが治癒魔法をかけ続けてくれたお陰だろう。
『頼りにしてる。』
確かに俺はミリアにそう言ったのに、やっぱり何処か抱え込んでしまう。
改めて自分を見つめなおせた。
そしていまも献身的に治癒魔法をかけてくれる彼女を愛おしく感じる。
俺はそっと手を伸ばしてサラサラの髪を撫でた。
「ひゃいっ!?」
「何か登場と同じ反応してんな。」
「きゅ、急に触るからですよ! 私の髪を触るのにお金を払う人だっているのですから気安く、、、触ってもいいですけど!」
「どっちだよ。」
混乱しているミリアに苦笑しながらそのまま少し話を続けていると、睡魔が襲ってきて目を瞑る。
そのままゆっくり休息を取ると、朝には何とか動けるようになるまで回復したのだった。




