喚ばれた剣聖ー104
白狼がバロンへ向かう数分前ーー。
「・・・きっちぃなぁ。」
恐らく、今度こそギュリカを倒すことができた。
が、大分集中力と体力を削られてしまった。体の傷もいたいしぶっちゃけ里に帰って安静にしてたい。
「でも、何か現れたっぽいしなぁ。休んではいられない、よな。」
俺は寝転がりながらポケットから白箱を取り出し、シルルカに通話をかける。
「あー、シルルカ? なんか異界の外からすごい気配がするけど一体何が、、、」
『やっと通じたあ!! なにをそんな暢気なこといってんのよ!でっかい怪物がこっちに迫ってるんだから!それに魔物もたくさん!!』
通話が繋がると同時にシルルカから怒声が飛んでくる。向こうからは魔物の唸り声や、対応している者たちの戦々恐々とした声が聞こえてきた。
「・・・えっと、大変そうだね?」
『なんで他人事!?て言うか本当にキツイから助けに来て!もう皆魔力がカツカツだしあんなの相手にできないから!』
むしろ皆が消耗したタイミングを狙われたんだろうな。
なんとなく相手の考えが読め、上手いタイミングだなと感心しながら俺は片手を上げた。
・・・まだ戦いが終ったわけじゃない。俺もそれなりに体力を失ってるしいい加減休まないと後が動けなくなる。
正直、鬼札をきりたい。
懐を漁ってユースからもらった紙を眺めて顔をしかめる。
「いやだなぁ。」
ミルルは元部下、ルミアは後輩なので喚びやすいが、正直他の奴らはできれば喚びたくない。
まぁでも他のタイミングも思い付かないし案外いいタイミングなきもするしデカブツ相手だったらあいつはベストな気も、、、ええい、、、!
考えるのがめんどくさくなって指輪を使い、俺の相棒兼狂犬の姿を思い浮かべる。
そして光の粒子が現れて狼の刺繍を背負う着物を着た白狼が現れた。
俺は上体を起こして「よっ」と片手を上げると、白狼はゆっくりとこちらに視線を向けて片手を振り、、、えっ?
「おっせぇんだよ!!」
「ーーあぶねぇなっ!?」
振り下ろされた拳を何とか避ける。
ただの振り下ろされた拳でさっきまで自分がいた場所の地面が砕かれた。
・・・戯れにしては力を込めすぎてません?
「なんだ避けんだよ!」
「当たったら死ぬだろうが!」
「あー? こんなのただの挨拶だろうが。」
「挨拶で地面砕いてたら地面ぼこぼこになるだろ!」
あとその挨拶を人に向けんじゃねぇ、普通に死ねるから。
俺は疲れた体を押しながら立ち上がる。
「・・・はぁ、久しぶりだな、白狼。」
「けっ、何が久しぶりだ気持ち悪ぃ。つーかお前なに一人で面白そうなことに巻き込まれてんだよ?」
言われて心当たりが見当たらずに首をかしげる。
まさか異世界転移のこと言ってる?しばくよ?
「面白くねえよ。戦ってばかりだし、いい加減休みたい。」
「最高じゃねえか。」
「お前と一緒にすんな。」
喧嘩(殺し合い)大好きなコイツと違って俺は基本平和主義なんだよ。
「んで? 俺を喚んだんだろ?それはもう楽しそうな相手を用意してくれてんだろうな。」
「あー、それは、、、てか気配感じない?」
「ふはっ、俺より弱いやつ何か気にしねぇしどーでもよくてな。」
つまりわからないと。
まぁ元々俺やミルルは気配探知に長けてたし、敵の位置や場所を探すのは任されてたしね。
コイツとルミアは特にそこら辺が苦手だったはず。
ルミアは走りまくって見つけるタイプで白狼は勘だもんな。
「とりあえず異界の外にいるから倒してもらってもいい?・・・あ、他にも何か争ってる人達がいると思うけどそれは無視していいから。」
「なんだ戦争でもしてんのか?つーかお前ボロボロじゃねえか。」
「そーだよ、だからお前喚んだの。」
てかこんな傷だらけの仲間見て今の今までなにも思わなかったの?
お前は傷だらけがデフォかも知れないけど俺は違うから。
「・・・なんかお前が相手したやつの方が楽しそうだな。」
「残念だったな、出番なくて。」
実際、代わってもらえるなら代わりたかったけどおこぼれとかコイツ大キライだし、俺も因縁あったし。
すると、てっきり喧嘩売ってくると思ったら白狼は首をならだけ。
「相手を奪ったりはしねぇよ。お前が苦戦した相手なら俺も苦戦しそうで楽しそうって思っただけだ。」
「・・・へぇ、謙虚だな。」
「ただの事実だ。俺は強え、強え俺の相棒なお前が苦戦した相手が弱いやつなわけないだろ。」
え、なにどうしたん急にデレて。怖いんだけど?
頭でも打ったのかと割りと心配になっていると、白狼はイラッとしたのか拳を振るってきた。
んだコイツ、情緒不安定かよ。
「・・・あーうぜぇ! いいからとっととどこにその敵がいんのか教えろ!弱かったらてめぇから殺すからな!?」
「はいはい、案内するから大人しくしてくれよ。」
適当に流しながら俺は白狼を連れて異界の外に出る。出た瞬間白狼はすぐに飛んでいって置いてかれたのはイラッとしたなー。
・・・・・。
・・・・。
・・・。
ーードシャッ
バロンを圧倒的な破壊の力で粉々にした白狼が目の前に着地する。無傷で疲れてすらいなさそうな白狼に俺は呆れたため息をついた。
「・・・本当に秒じゃん。マジでなに遊んでたの?」
「注文が多いなてめぇ。尻拭いをしてやったんだ、文句言われる筋合いはねぇ。」
うん、ぐうの音もでないね。
ぶっちゃけ今回はミルルやルミアの時と違って俺のわがままだからね。素直に手伝って貰ったんだしお礼くらい、、、。
「ありが、、、いやお前に礼を言うの癪すぎるな。」
「礼を言うくらいなら喧嘩の相手をしてくれ、最近向こうはつまんねぇんだよ。事件を起こすのは雑魚ばっかだし、ミルルはウゼエし、ルミアはすぐのびるしな。」
「さらっと喧嘩の相手をさせられているルミアに涙を禁じ得ない。」
白狼は強い敵と戦わないとどんどんストレスが溜まっていくからなー。
んでそのストレス発散係の俺がいなくなった穴をルミアが埋めることになってるのか、、、うん、不憫でならないね。
まぁそこら辺の一般人に斬りかかってないだけマシか。一歩間違えればこいつ時代錯誤の人斬りになり得ないし。
「そろそろ時間か?」
「ん?あぁ、そういやそうだな。」
徐々に白狼の体が光っていくのを見ていると、白狼は欠伸を漏らして刀をしまった。
「お前はここからが本番だろ?」
そう最後に白狼は笑みを浮かべて消えた。
ここからが本番?
何でこっちの様子もなにも知らないのにわかるんだろう。いまバロンは倒され、魔王軍とも何処か休戦の空気が漂っている。
・・・だが募りに募った違和感。その気味の悪さを払拭したくて仕方がない。
もし俺の予想通りなら一番厄介な敵になる。
でもそれを白狼に押し付けるわけにはいかない、これはこっちの問題で、俺が対処すべきものだ。
急に現れてバロンを倒し、そして急に消えた白狼と話していた俺に視線が集まっているが、それを無視して俺は一つ息を吸った。
「・・・フィクリシア、聞こえてんだろ? いい加減こそこそしてないで出てこい。」
俺が静かに呟くと、目の前に風が逆巻き木の葉の中からフィクリシアが現れた。
森の管理者、自然の精霊である彼女は森いる全ての音を拾えてるはずだ。なのに彼女は行方をくらませ、何処か様子を窺っていた。怪しむのは当然だろう。
現れたフィクリシアは最初会ったときの様な天真爛漫な笑みを消し、何処か不気味な笑みを浮かべている。
『怖いなぁ、怯えて隠れてただけだよ? そんな悪者みたいに扱わなくても。』
「俺が里の周りに張った魔除けの楔には俺の魔力を印しとしてつけてあってな。第三者が触れば気付けるようにしてある。・・・こんな風にな?」
言いながら指を鳴らすと淡い光が彼女の手に灯る。
それを見て俺は目を細めた。楔を里の周りに配置するよう頼んだのはミリアだけで、他には誰にも触らせてない。なのに楔の魔力がフィクリシアに灯る。
もちろんつい触ってしまった、という可能性も考えられるが、それならこの薄い印が転写するわけない。
フィクリシアは明るく光った手を不思議そうに見て笑う。
『ふへぇ、精霊が気付けないほどの魔力印かぁ。よくそんなもの作れたね?』
「何かと用心深くないと生き残れなくてな。・・・それで?どうして結界を壊した。」
『別にー? だって君の結界さ、拒絶の色合いが強すぎて色々支障があってさ。リスクはあると思ったけど壊した方がいいかなって。』
「・・・ずいぶんと余裕だな? 逃げ隠れするのは止めたのか?」
『ふふ、だってもう君達じゃ私に勝てないもん。』
そうフィクリシアが不気味に笑うと、様々な属性がぶつかり、先程のギュリカが見せたような破壊を帯びた光の奔流が集まりだす。
一気に辺りを高い魔力圧が襲い、周りにいた人達は苦しそうに呻いた。
俺はそんな圧の中、腕を組んでため息をつく。
「・・・はぁ、よくわかったよ。お前が喰魔か。」
『・・・・・本当に頭が回る。いや、経験値が高いのかな。』
俺は両手に剣を召喚させて構えた。
互いに睨み合って冷静に相手の出方を窺う。
「いや、いやいやいや、待つさ、何一つ理解できないさ!何を急に精霊と争ってるさ!?」
「一難去ったのではないカ!?」
「も、もう無理です。」
後ろの外野がうるさいな。
てか元気なら全員を避難させといてくれない?
割りと他を気にするの無理だから。
ーーフッ
突然フィクリシアが風に溶けたと思うと目の前に現れる。
破壊の力はその場所に留め、片手をこちらに突き込んでくる。それをヤクラで受け止め、ガイアを振り下ろす。
『無理無理。』
ーーグシャッ
だが、次の瞬間にはガイアを持っていた右手がぐちゃぐちゃに折り曲げられた。
とてつもない激痛、涙を滲ませながらよく見ると、薄い風をフィクリシアは纏っていた。
『ふふっ、人間如きがどれだけ持つかな?』
背後に形成された焔の槍が飛んでくる。俺は動かなくなった右手を無視してヤクラを消し、ガイアを左手に持ち直して回る。
「剣舞一式 焔流し!」
槍を何とか流し、瘴気が濃くなるほどガイアを強く握り、振りかぶる!
「剣王一式 空斬り!」
黒い瘴気を纏った斬撃を飛ばすがフィクリシアには手を振り払うだけで弾かれてしまう、、、が、、、
『・・・自然の瘴気ね。』
フィクリシアは弾いた手を痛そうに擦る。
陽の自然エネルギーと違いガイアの陰の自然エネルギーは精霊に対して特効をもつ。
当てまくり存在を蝕めば消すことも出きるだろう。
『無駄な小細工。』
だが、フィクリシアが軽く手を振るうだけで侵食していた瘴気が簡単に払われた。そもそもエネルギーの密度が違う。もし完全に侵食するには大分長いこと瘴気を注ぎ込まないと無理だ。
「一式 虚絶。」
フィクリシアが放ってきた石の礫を剣を回して遮る。虚絶は現界を斬り、何もない無を作り相手の攻撃を防ぐ技。
俺は相手の攻撃を受けながらガイアを明後日の方向に投げつける。
突然の行動にフィクリシアは困惑するが、考えても答えがでないと切り替えたのか、火球を作り上げてそこに水球をぶつけた。
ーーボッ!!
水蒸気爆発によって辺りが吹き飛ばされるなか、虚絶で凌ぎきり、俺は攻勢に転じようと力を込める。
が、視界の端を何かが掠めたことに気付く。
バギィンッ!!
「っつ!?」
次の瞬間には意識の外から放たれた蔦の鞭に体を打たれる。一切意識を向けられなかったのは魔法によって隠されてたのか。
鞭のダメージは骨に響く。
汗を流しながらふらつくとフィクリシアは指を上に上げて放置していた光の奔流を指差した。
『じゃあね。』
そして指を下ろすと光は地面へと落ち、閃光が辺り一帯を包んだ。
全てを破壊する光の奔流、その光が収まり、真ん中に立っていたフィクリシアは目を見張る。
『うっそぉ。』
そこにはこちらに手を向けたミリアが立っていた。
息を切らしながら律兎と周りの人達を障壁で守り抜く。
「ミリア?よくここまで来れたな。」
「余裕過ぎません!?ほら次、何をしてくるかわかりませんよ!? というか何でフィクリシアさん?!」
「あー、説明は長くなるから後でするけど、たぶん黒幕。」
『えー、違うよぉ。ね、信じてくれるよね?』
そうあざとくミリアに笑顔を向けるが、ミリアは困惑しながらフィクリシアを指差す。
「攻撃してきた相手を信じられますかー!というかあなたより律兎さんを信じるに決まってじゃないですか!!」
単純な状況判断だろうけどすぐに信じて貰えて少し嬉しい。
というかミリアどうやって来たんだろう?
かなり早いけどそんな速く走れないよね君。
『それにしてもよく防げたね。色んな属性が反発し合う光を防げるなんて流石、まぁ貴女は壊れるわけにいかないし判別させられたんだろうけど。』
「・・・え?」
『何も知らない無垢なハート、貴女は死ねない、いや、死ぬわけにはいかないの。だってそしたら、、、』
ーーガギィンッ!!
フィクリシアの言葉を遮り、振るわれたヤクラは首を斬り飛ばす寸前で止まってしまう。
『あっはぁ、怖い顔。何で止めるの?知りたいんじゃない? いったい自分が何と話してるのか。』
「ネタバレは嫌いなんだよ。」
幻渡りを使った裏への斬撃を完全に防がれている。霊界に攻撃を防ぐ手段はない、もしあるとすれば空間を歪ませられるくらいだろう。
『無理だって、私は殺せない。』
「そういう余裕ぶった野郎は、、、大嫌いなんだよ!!」
ヤクラを消してフィクリシアの腹に向かって左手を突っ込む。風の鎧によってズタズタになるのを無視しながら手を開いた。
すると、フィクリシアの後方で木に刺さっていたガイアが引き寄せられる。
ーードスッ!
『ーーかっ?!』
剣の先を握り瘴気を解放させる。
破裂するような黒い瘴気の奔流にフィクリシアは苦しむ。
『ぐっ、ぁあああああああっ!?』
ガイアをヤクラのように召喚できていたのはちょっとした裏技で、霊界から自分と剣の間に縛りを結んだだけだ。
そうすればガイアは俺と繋がり、霊界間を移動できる。魔力を持つ剣だから出きることだけどね。
そして霊界を通せば風は関係ない!
「うおおおおおおおおっ!!」
相手に瘴気を注ぎ込むように剣身を握りしめる。
既にボロボロの左手にさらに力を込めていく。
ーーバアンッ!
すると、フィクリシアは突然破裂して風に溶けた。
一気に周囲に満ちていた魔力圧が下がり重圧が消える。
「ーーげほっ、はーーー、はーー、はー。」
立っていることができずに膝をついてしまう。
その自分の背に優しく手が添えられて支えられる。
ミリアはフィクリシアの言葉に不安を煽られ、顔を曇らせていた。
「くそ、逃げられたか。」
あと少しで存在を侵食するほど瘴気を込められたのに済んでで体を散らして逃げられてしまった。
万全なら追うこともできるが、いまの状態だと返り討ちにされるだろう。
「次から次へと、ほんと、休まらねぇな。」
ふらつきながらなんとか立ち上がるが、ミリアに袖を引かれてふらつく。
「な、何してるんですか?! 酷いケガですよ!早く治療しないと!!」
「・・・まだ、休めねぇ。戦ってる、ほとぼりが、冷めちゃいない。」
「ダメです!死んじゃいますよ!?」
何とかふらつきながらも里へ戻ろうとするが、背中からミリアに抱き抱えられる。
「いやです、いやです! 普通じゃないです!その傷はダメです!」
「そんな慌てなくても、俺の世界じゃこのくらい、、、。」
ふと地面を見ると、足元に血が広がっていることに気付いた。
・・・この血、全部俺のか?
いや、でも怪我なんて当たり前で、まだ動ける。それなら休むわけにいかないし、俺がやらないと、、、
そう伝えるために振り返ったが、ミリアの崩れた泣き顔に俺は固まってしまう。
「・・・いなく、ならないでください。」
小さく、消えてなくなってしまいそうな儚い声。
様々な感情が入り交じった彼女の言葉に俺は頬をかく。
「・・・・・悪かったよ。そうだな、少し休む。」
俺は歩くのを止めてその場にドカッと座った。
その衝撃だけで身体中が悲鳴を上げる。
確かにこんな状態で戦おうなんて頭おかしかったな。
遠くから近づいてくるオババ達を見て、俺は安堵のため息をつき、そのまま軽く目をつむったのだった。




