喚ばれた剣聖ー103
「・・・あっは」
ハイルは何処か酔ったようにナイフを回す。
突然の変化に黒布は戸惑いながらもハサミを構えた。
「なら、、、悪意を、、、。」
ドドドッ
ハサミを閉じる前に頭、胴、腕にナイフが刺さる。
あまりの速さに追い付けず、黒布はふらつきながらハイルを探すが見つからない。
「えー、刺しても死なないんだ。ならもっと遊べるかな。」
ーードドッ
次は背中にナイフが投げられた。
苦痛に顔を歪めながらハサミを振り回す。
だが虚空を切り裂くだけで何も捉えられない。
「あはっ、あはははっ、あひゃひゃひゃ!」
一瞬、ほんの一瞬目の前に影が過るが次の瞬間には目の前にハイルが現れナイフで殴るようにふっ飛ばされた。
その跳ばされる速度に追い付かれ、上から両手を踏みつけられる。
「知らないんだよ、謂れのない罪を着せられて、勝手に腫れ物にされて、追い出されて、でもいい子でいたくて。じゃないと誰も認めてくれない、みてくれない、、、。」
黒布は灰のように崩れ去ってハイルの拘束を抜ける。そして背後に現れてハサミを構えたが、体を蔦に縛り上げられた。
「ーーっ!」
苦しそうにもがくが蔦の力はドンドン増していく。
動けないでいると、首に冷たい感触がしてナイフを振り抜かれた。
「ーーがっ?」
首がだらりと垂れる、だがそれと同時に黒布は蔦の力が緩んだことに気付き、ハサミを振り回した。
それだけで辺りの壁には数々の傷が付けられる。
「・・・いってぇ。」
ハイルは少し腹を切られたが、薄皮程度で済んでいる。まだスピードを制御しきれていないため、足がダメージに耐えきれていない。
だがいまのハイルはその痛みにすら笑っていた。
「・・・てか、普通に死なないんだね。」
黒布にいくらダメージを当てても決定打にならない。しかし反応はしてるので痛みはあるのかな。
ハイルは思考を回しながら後ろにバク宙で攻撃を回避したが、、、
ーージャキンッ!
いつの間にか、閉じられたハサミによって両足が切り飛ばされてしまった。
「ーーっ!?」
距離は関係なし、線上にあるかどうかも関係無いのか!?
本当に敵の能力がよくわからないことを困惑しながら、ハイルは地面に転がったあと小瓶から種を取り出して切り離された足に投げつける。
すぐに足は淡緑の膜に覆われて保護された。
「・・・ぐっ、ぐぎぎっ!」
切断された足からは血が流れる。
早く対策しないと失血死する、しかしそう理解して焦るが痛みでうまく動かせない。
というか仮に止血できたとしても足が、、、。
「死ぬより動けよ!」
ハイルはまた別の種を取り出して足に埋め込む。
痛みに涙とゲロが出そうになるがなんとか耐える。
すると種から一気に成長した根によって傷口が塞がれた。
「もう、、、走れない、、、。貴様の、、、敗けだ、、、。」
「ーー敗け?」
その言葉にハイルは脂汗を流しながらもなんとか手をついて上体を起こす。
歯を噛みしめ、その目は怒りに満ちる。
「負けて、られるかよっ、信じて、もらってる、助けられなかった、絶望を知ってる、孤独な、過去を知ってる! 敗け?簡単に言うなよ、まだ何も、手に入れてないんだ!!」
怒りと恐怖を胸にして前を向く。
その剣幕に黒布は寒気を感じて再びハサミを構えた。
本来はもう、抵抗できない存在。移動するための足は断った。なのに、寒気が止まらない。
・・・足はない、でも腕がある。一回でいいんだ、一回で、チャンスなんか何回もいらない、一回を掴み取れよ!!
石を投げられた、常に否定された、何も信じれなかった。辛い、悲しい、ウザイ、知らない、ムカつく、、、
「ムカつくんだよ!負けて、笑われんのは、勝って、認めさせてやる!」
腕に火事場のバカ力と魔力を集中させて、一気に力を込める。血を撒き散らしながら手にナイフをもって吠えた。
「うおおおおおおおおっ!!」
火花が散る、視界が白くチカチカする。
もはや死に体、知ったことか、死ぬ気でやれ!
ーーバチッ!
すると一際目の奥が痛み、白く散ると、まるで道標のように白い線が幾重にも眼前に広がる。
突然の出来事に驚くが、そっとその一つを選んで跳ぶと、、、
「・・・え?」
気付くと自分は黒布の背後に転がっていた。
急いで振り返ると黒布はボロボロに切り刻まれ、からだの中にあった青い宝石が割られている。
すると、今度こそ黒布は塵になって崩れ去った。
「ーーはっ、ーーはっ、、、はっ、、、ぐ、、、おぇ、、、っ!」
少し安堵すると、敵意とかも戻ってくる。
だが同時に足の痛みと、全身を襲う筋肉痛が押し寄せてきた。
また心臓の鼓動が止まらない、破裂しそうなほど早く鼓動する心臓を押さえようと、前にルミアさんがしてくれたように胸を押す。
見様見真似だったが、うまく行ったのか鼓動が落ち着いてきた。
「はぁーーーっ、はぁーーっ、はぁーっ。」
意識が朦朧としてくると、数人が階段を駆け下りてくる足音が聞こえてくる。
「いま何か大きな音が、、、ッおまえ大丈夫か!?」
「は、早く担架を持ってこい!重傷だぞ!!」
「ポーションをありったけ用意しろ!」
ジャユ族の使用人たちが傷だらけのハイルを見て慌て出す。ハイルはもう意識を保つことができず、そのまま意識を失ってしまったのだった。
ーーー
「・・・なんつーか、拍子抜けにも程があるよな。」
「天能持ち2人はいらなかったことは確かだ。」
城の外、ドリム地下街を襲った魔獣ファントランは街に一切の傷を付けることなく制圧された。
ロドとフィーカの戦闘力は圧倒的で、ファントランは抵抗という抵抗が出来ていない。
それほど一方的な戦いだった。
まぁでもそこまで予想出来るわけないし、念のため過剰と言える戦力を配備していたのは否定しないが、それでもなんとなく向こうが心配になってくる。
「・・・どうする?応援に向かったほうがいいか?」
「なんとも言えねーな。この程度なら向こうも苦労しねーだろーが、厄介な魔王軍とその他がいるだろうしな。しばらく通話もないしなんとも言えねー。」
フィーカのどうしようかという問いにロドも答えが浮かばず頭をかく。確かに魔獣は倒せたが、敵の追加がないとも限らない。
安易に戦力を減らしていいものか、判断に困るところだ。
・・・いや、だからこそこっちに明確な敵を寄越さなかったのか。
不確かなら対応するのに多く戦力を割く必要が出てくる。それも向こうが魔王軍を相手取るならこっちも相応、って予想してしまうのは簡単だからな。
「・・・ちっ、まんまと策謀に踊らされてんな。予想できるもんでもねぇし、仕方ねぇが、釈然とはしねえ。」
「・・・ならこのまま後始末をするだけか?」
「それしか出来ねぇだろ。つーか、城も心配だしな、襲撃が来てねぇとは限らない。様子見に戻るぞ。」
「ふむ、そうだな、一度様子を見に、、、」
取り敢えず城の様子が変わってないか確かめようと戻ろうとすると、前から使用人が慌てて走ってきた。
「どうした?」
「ロ、ログロド様! 申し訳ございません、地下の立ち入りを禁じられてるエリアから大きな物音がして様子を確認させてしまいました。」
「・・・非常事態だったんだろ? 構わん、続けろ。」
「それが、様子を見に行くとハイル様が重傷で、、、ぐっ?!」
「な、何があった!?」
使用人は話の途中でフィーカに食って掛かれる。その慌てた様子を意外に感じるが、いまは確かに何があったかが気になった。
「それがよくわからず、唯部屋のなかは新しい戦闘痕のようなものが付いていました。」
「ーーちっ! 本当にあったのかよ、すぐにハイルのとこに案内しろ。」
「はっ!」
急いで城へと戻り、案内された医務室に入るとハイルはベットに寝かされていた。ただ両足はなく、体は傷だらけ、なかでも腕がなかなかに酷い惨状だった。
「ハイル! だ、大丈夫っ?!ハイル!」
いままでずっと強気だったフィーカが初めて心配そうにハイルの側に駆けよった。手を取ろうとしたが、ボロボロに折れている手を取ることもできずに涙を浮かべている。
・・・本当にどうしたこいつ? つい最近まで殺そうとしてたって話聞いた気がしたんだが。
「下はどうなってたんだ?」
「・・・地下の大扉の鎖が何本か断ちきられていたのと、これが。」
使用人は青い割れた宝石を黒い布にのせて見せてくる。それを見て俺は目を見開いた。
「それは『断絶の魔人石』か? 願いによって概念であっても断ち切る魔人を召喚できる魔石だ。・・・まさか魔人を倒したのか?」
魔人とは、魔族と響きは似ているが全くちがう存在で、魔力によって産み出された存在のことを差す。
核となる宝石を壊さないと倒すことは叶わない、なかなか面倒な相手だったはず。
それも断絶の魔人は断ち切ることを司る有名な魔人。ハサミを閉じられれば終わりという厄介な性質を持つ相手に勝ったのか?
それも逃げもせず、わざわざ自分の大切なものじゃない代物に命を懸けて、、、。
「・・・俺の目も鈍ったな。」
正直そこまでは期待していなかった。
律兎がこちらに寄越したのも戦力外だからだと予想していたのだが、勘が外れたらしい。
充分、実力と覚悟をもった戦士だったよ。
「容態はどうなんだ?」
「両足は切断されていますがうまく対処できています。ただ全身のダメージ、特に腕が酷いですね。骨は複雑に砕け、筋繊維もボロボロです。ある程度ポーションを使って処置しましたが、もう腕を動かすことは難しいかと、、、。」
深刻そうにそう伝えられるが、たぶんミリアの嬢ちゃんなら治せると思う。あいつはかなり不気味な方の規格外だからな。
「つーか待てよ? 魔人を召喚したのは誰だ。」
ふとひとつ思い立つ。
いやな予感を感じて慌てながら立ち上がり、地下へと向かって走る。
魔人はその性質にあった願いしか叶えない。
断絶の魔人は鎖や立ちはだかる者を断ち切る命は与えられても中の物を奪ってこいとは、命じられないはずだ。
つまり別の何者かに取りに行かせるはず、、、。
地下に息を切らしながら、封印部屋へ入ると、、、。
「・・・遅かったか。」
断ち切られた鎖には反発の刻印が入っていた。
それと扉にかかっていた忌避、喪失の刻印、その全てが効力を失っている。
扉には溶けたような大穴がまんまと開けられ、中で縛られていたはずの欠片は無くなっていた。
「くそっ、あーーっ、めんどくせぇ!!直接来いよくそがっ!!」
地面に落ちてた破片を蹴りつけながら苛立ちを露にする。仕方ないかと割りきるしかないが、怒りは募る。
「・・・厄介なことになりそうだ。」
ーーー
「水天・群狼激!」
「フルブレス!」
襲い来る魔物たちを蹴散らしながらも焦りが募ってくる。このままだと魔力がなくなり、動けなくなりそうだ。
そう不安が過る中、遂に最悪な光景が目にはいる。
ーーカッ!
突然奥の方で赤い光の柱が天まで昇ると、遂にバロンが召喚された。
餌箱と言われたとおり、バロンはこちらを食い尽くそうとゆっくり迫ってくる。
「どうするさ!カリティ、お前相手できるさ!?」
「魔力がギリギリカッ! まったく、ウザイタイミングカッ!!」
元々戦闘で削られてたのもあるが、森の奥から怒涛の勢いで襲ってくる魔物の相手をしているだけでも魔力が削られている。
どうしようか、必死に打開策を見つけようと悩んでいると、
ドンッと衝撃と共に横に知らない男性が降り立った。
狼の刺繍が入った装いを纏う、長い白髪をかきあげた獰猛な獣の様な目をもつ男はバロンを見てつまらなそうに肩をならす。
「あーー、くだらねぇ、やっと喚ばれたのに相手はただのトカゲかよ、つまんねぇなぁ。」
男はスラリと剣を抜いて肩を叩く。
粗雑な動きは戦闘狂のようにも感じるが、視線は相手の動きを丁寧に観察している。
「お前さん、誰さ?」
獰猛な雰囲気を纏う男に声をかけると、「あ?」と軽くこちらを見てすぐに視線を外される。
「むしろ誰だよお前、、、。いや、興味ねぇからいい、七剣が一人、剣鬼 白狼、あのデカブツを倒すよう律兎に頼まれただけだ。」
律兎の名前を聞き、すぐにこの白狼という男がこの世界の住人でないことに気付いた。
どうやって喚んだのかはわからないが、このタイミングの救援は正直助かる。
ーーボッ!
「あ?」
ガギィンッ!
すると突然、カリティが白狼に向かって爪を振るった。それに対して白狼は剣を片手に持って軽く受け止め、熱を持ちそうになるのを察したのかすぐに弾き返す。
「ふっは! なんだお前、遊びてぇのか?いいぜ、相手してやるよ。」
「・・・化け物、お前は、危険カ。」
カリティは何処か冷や汗を流しながら白狼を警戒している。対する白狼は敵意を燃やすカリティを楽しそうに見ていた。
「いいぜ、あのデカブツを相手するより遥かに楽しそうだ。」
獰猛な笑みを浮かべた白狼にカリティは一瞬で肉薄。本来ならそれだけで、肉は焼かれ、爛れ落ちるのだが、白狼は肌が焼ける音に顔しかめながらカリティの腹を殴った。
ーーボッ!!
踏み込みもなく軽く殴っただけに見えた拳は、カリティの硬い鱗を砕き、軽く吹き飛ばす。
大木に体を打ち付けられ、木が燃える。
カリティは膝をついて大きく血を吐いた。
「ーーごぽっ!・・・ひゅー、ひゅーーっ!」
「おいおい、まだ軽く小突いただけだろうが。もうちと楽しませろ。」
白狼は普通にしているが、肌は赤く、軽く火傷は負っているはず、それに殴った拳はジュクジュクと蒸気を放っていた。
しかしそんなことどうでもいいと気にしていない。
痛みがない、いや、耐性が遥かに高いのか。
「げほっ! 炎絶爪!」
「ふっは!焼け焦がしてみろ!」
揺らめく炎を灯した爪撃に対して白狼は刀を構えた。
構えただけで力の込められた地面はひび割れる。
「いくぜ、死ぬなよっ!」
「死ぬなよ、、、じゃねえわっ!馬鹿かお前は!!」
ーーゴッ!
遂にぶつかるのかと警戒していると、振り下ろされる前に横からすっ飛んできた律兎に白狼はドロップキックを入れられた。
派手な音を立てて白狼は転がり、何すんだと不満げに立ち上がる。
「え、お前馬鹿なの? 俺はあのデカブツ倒してって頼んだよね?異世界言語じゃない俺の言葉すら通じないの?どうやって俺はお前と意志疎通とればいいの?ねえ?」
「・・・向こうから喧嘩売られたんだから仕方ねえだろ。」
「てかなんでここで立ち止まったんだ?」
「・・・つまんねぇやつを相手すんのがだるくなった。」
「よし、もう2度とお前はよばねえ。」
「ああ!? だってあんなん秒だぞ秒!」
「ならとっととケリ付けて来い!」
律兎に渇をとばされた白狼はだるそうに立ち上がって結界に向かう。
当然結界の外側には多くの魔物がいるのだが、白狼に飛び掛かると、軽く拳を振るわれて体が吹き飛ばされる。
まるでクッキーを砕くかのような気楽さで、白狼は結界に向かって刀を振りかぶった。
ーーミシミシミシッ!
放たれた一撃は簡単に結界にヒビを入れ、そのまま砕き去る。
「ーーは?! 壊せるのさ!?」
白狼は砕いた結界を気にせず、地面を踏みしめて走り出す。砲弾をとばすような勢いでバロンへとぐんぐん近づいていく。
しかし、バロンも結界を壊されたことで敵の存在を認知した。
【ジューーーーッ!】
バロンは4本の尾を上げると、尻尾が徐々に膨らんでいく。
そしてひとつ唸りを上げると振り上げて回るように尻尾を振るった。
その尻尾が地面に触れた瞬間に、破裂するように血液が撒かれ、濁流のように迫る。
「ーーはっ! しょうもねぇんだよ!!」
ーーボッ!
振り下ろした刃は濁流を割る。
ただ乱雑な振り下ろし、型も、洗練さもなにもない一振り。それでもそこに込められた力は海を割り、大地を砕き、風を巻き返す。
「あいつが一番意味がわからないよなぁ。」
隣で律兎が遠い目をしながらため息をついている。
濁流を割る、できるものじゃない、というか壊れないあの剣もなんなのだろう。
「ーーはっ! そ、そうさ!バロンの危険性は巨大さだけじゃない、あの血液には体を壊死させる猛毒が含まれてるさ!」
「あー、大丈夫、大丈夫。」
危険性を話しても律兎はどこ吹く風。
大丈夫なのか不安になり、遠見の水魔法で様子を見ると、白狼の体に赤い線が走っている。
侵食の症状だと焦ったが、線は走ったあとそのまま溶けて消えた。
「ーーは?」
「あいつは昔から毒や病気に呪いを受けすぎて体に変な耐性ができてんだよ。お陰で例え毒におかされてもすぐに解毒される。」
「む、むちゃくちゃじゃないさ。」
「むちゃくちゃなんだよ、それがあいつだ。」
バロンの足元まで辿り着くと白狼は不敵な笑みのまま剣をかちあげた。
ーーズガンッ!
すると、まさかのあの巨体が上に打ち上げられる。
同時に元々バロンが居た場所からとてつもない圧が放たれた。
空気が振動し、この遠くまで感じるほどの大地の悲鳴。
「一刀、両断!」
圧倒的な轟音と共に放たれた斬撃はバロンの巨体を易々と破壊し、空に吸い込まれていくのだった。




