喚ばれた剣聖ー108
何とか必死に花畑を走り抜け、対面の森へと辿り着く。
全員息も絶え絶えに地面に倒れ伏す。
「ぜぇーーっ!ぜぇーーーっ、普通に、ギリギリすぎだろ!」
「私、もうチョウチョ嫌いです。」
極彩色の景色が軽くトラウマになりながら、何とか息を整える。
そして気絶したハイルに水をかけて起こし、魔法の連続使用で頭痛がするのか頭を押さえてるスイの治療をミリアに任せた。
「やっぱ全然生態系とか違くて知識が足りねぇや。俺も後で勉強しないとな。」
「あ、なら僕本持ってるよ、昔里からくすね、、、借りたのがあるから。」
ハイルはそう言って年季の入ったボロボロの本を手渡してくる。
・・・こいつ今くすねたって言った?
でも大事な情報なので、表紙に『動、植物、魔物大全』と書かれた小学校にありそうな本を借りた。
「・・・・・でもだいぶショートカットできた。これなら明日には水門都市に辿り着けるかも。」
「楽しみですねー。確か水の中にあるのですよね?」
そう、今向かっている水門都市『アクアテール』はどうやら水の中にあるらしい。水の中に水門ってどゆこと?とは思うが、もう異世界なので深く考えるのはやめている。
「律兎さん律兎さん、そう言えばあんなに頑張ったのにまだ何もしてないですよ。パーティーしましょうよパーティー。」
「え、今? 街についてからでよくね?」
「どうせ何かしらに巻き込まれるのですし今にしましょう!」
・・・なにかと巻き込まれますからね。ごめんなさい。
でも確かにずっと気を張ってくれたのに急いで里を出ちゃったからな。少しくらい羽目外してもいいか。
「そーだな、旨そうな食材見繕って豪勢にいくか。スイ、料理頼める?」
「・・・任せて。」
ハイルには不足してる山菜類の調達を頼んで、ミリアにはスイの手伝い。そして俺はなにするかと言うと、、、
「折角だし何か俺の世界の料理でも作るか。」
ボックスには調理器具も減ってはきたけど調味料もある。何かは作れるだろう。
「んー、唐揚げ、炒飯、天麩羅、パスタ、カレー。候補がありすぎて困るな。」
でもハイルに食べられそうな山菜を取りに行って貰ったし、肉類は豊富にある。天麩羅と唐揚げなら同じ揚げ物だし同時にできるか。
「よし、決まったな。」
まずは鶏肉に下味をつけて寝かしておき、その間にコンロと鍋、油を用意しておく。すると丁度良くハイルが戻ってきたので山菜の下処理をした。
「なに作ってるの?」
「ん? あー、唐揚げと天麩羅をな。」
「なにそれ?」
「俺のいた世界の料理だよ。」
「へぇー、気になるね。」
簡単な揚げ物料理だけどね。
基本家にいることも少なかったし料理をそこまで勉強したわけでもない。適当に記憶を掘り起こして作るだけだからあまり期待されても困るけどね。
「うへぇ、こんなに油使ってくどくないのですか?」
「いやこの油飲む訳じゃないから、それどっちかと言うとアヒージョだろ。」
「アヒー、、、ジョ、、、?」
まぁ食材見てても分かるわけないし、取り敢えず野菜系からそっと天ぷら粉に潜らせて油であげていく。
小気味良い音を聴きながら順繰り揚げていると、いつの間にかスイがとなりにいた。
「・・・なるほど、一定の温度で油が冷めないように揚げてる。火力が高くても焦げちゃうし、温度管理が難しそう。」
「まー結構べちゃつきやすいしな。でも慣れるとタイミングが分かるぞ。」
というか、スイさんの用意は?
そう思って振り向くと、既にテーブルにはサラダと葉っぱに包まれた何か、それにパンと蒸かされた芋のようなものが置いてあった。
・・・はやくねぇ?
やっぱ普段から作る人とたまに作る人じゃ要領に差があるよな。
そんなことを考えていたらあっという間に用意は終わり、テーブルの上には所狭しと料理がならんだ。
「わーーっ!わーーっ、わーーーーーーっ!!」
「み、ミリアさん、あまり暴れないで。」
豪勢な食事にミリアはピョンピョン跳ねながら喜び、ハイルはそれをなだめている。
作った側としては喜ばれるのは素直に嬉しい。
ちなみにスイが作ってくれたのは特性ドレッシングのサラダと香りが豊かな葉で包んだクロロウオの蒸し焼きと、作り置いてくれていたローストビーフらしきもの。それと芋とパンを作ってくれていた。
「あとは、やっぱ軽く呑まないとな。」
そう言ってボックスからロドに貰った観光客用のそこまで度数が高くない酒を取り出す。
各々に注いで、待ちきれなさそうにフンフンしたミリアに苦笑しながら乾杯した。
みんなで食べ始めるが、相変わらずミリアの勢いがすごい。4人前以上の量を作ってるのにすぐになくなりそうだ。
「ふぉこふぁけもぬぬまいけづ!」
「なに言ってるか一つもわからん。」
「・・・サクサクして楽しい。それに味も落ち着いてて好き。」
スイは山菜の天麩羅を食べて感動している。
ジャンクな味付けが好きなミリアと違ってスイは落ち着いた味が好きみたいだしね。でもちゃんとミリアに合わせて少し濃くしたりしてくれたり、バランスを取ろうとしてくれるから優しいと思う。
てかやっぱスイの料理はうまいな。
そこまで凝ったのは作ってないって言ってたけど、ドレッシングは酸味のなかにちゃんとコクがあり、クロロウオも魚の臭みがなく、脂と香辛料がマッチしている。
何よりパンは柔らかすぎず、主食として適してるし芋もフカフカだ。
「スイって誰かに料理を教わりでもしたのか?」
「・・・んー、ほとんど独学、かな? 野営とかで、味気ないものを食べてたら、美味しくしたくなって。」
「あー、わかります。塩漬け肉って長持ちしますけどしょっぱいですもんねー。ハイル君みたいに知識があればいいですけどないと吐くほど不味いのに当たりますから。」
そう言って苦い顔をするミリアを見て、「こいつまさか、そこら辺の野草食ってたのか?」と、疑念が湧く。
てか吐くほど不味いって毒草じゃ、、、あ、こいつ勝手に無毒化されるから効かないのか。
「で、でも独学でここまで美味しくできるのはすごいよね。僕って食べられればいいだけで美味しさとか求めたことなかったから。」
・・・うん、そう言えばこの仲間達、案外身の上が悲惨だよね(スイはあまり詳しくしらないけど。)。
でも本人達は無理に明るくするというよりは前を向いて、気にしないようにしているみたい。
「・・・食事は大切。どんなに辛くても、幸せな気持ちになれる。」
「・・・・・待ってくれ、何か泣けてきた。」
折角のパーティーが暗くなりそうだったので先の話をしよう。
「取り敢えず水門都市でレンデル行きの船に乗って一週間だったか? そこまでしてようやく人族領とは、長い道のりだったよな。」
「そーですね。でもレンデルは魔族と人族の中立ですけど。」
「・・・上手くいってるのかな。」
スイが当然の疑問を口にする。
俺が会ってきた魔族って基本的に人を敵視してるし、何ならリザードマンは食おうとしてた。
種族が違えば身体の差も、常識の差も浮き彫りになる。それをまとめ上げるのは難しいはずだ。
「ま、行ってみてからのお楽しみだな。もしあまりに居心地悪かったらまた魔族領に帰ってきても良いんだし。」
そう言って唐揚げを食べていると、3人は驚いたようにこっちを見ていた。
「・・・なんだよ?」
「・・・ううん、そんな感じなんだと思って。」
「最初から目指してた割にあっさりしてるね。」
「・・・あのなぁ、仮に人族領にいってもお前らの扱いがあんまりだったら俺だって嫌に決まってんだろ。そしたらもうある程度知り合いができたこっちに戻ってくるくらい選択肢に入るだろ。」
俺が当然のようにそう言いきると、ハイルとスイは顔を見合わせて笑う。なんだよ?恥ずかしいんだけど?
「律兎さんって文句言いながらも関わった人に甘いタイプですよね。」
「・・・厳しくしてやろうか?」
「ごめんなさい、優しくしてください。」
潔いミリアに溜飲を下げながらふと思ったことを聞く。
「そういやさ、お前らって人族領の『聖女』って心当たりあったりする?」
俺がそう聞くと、全員が顔を見合わせた後に頷いた。
「・・・確か大戦で一つの地を守護し続けた英雄の一人だったはず。」
「攻め込んだ魔族が塵一つ残さず消されたって噂になってたよね。」
もちろん魔族側からすれば脅威の対象なので良い噂はないらしい。
そして一番詳細を知ってそうなミリアに皆の視線が向かう。それに対してミリアは顎に指を当てて「うーん。」と悩んだ後口を開いた。
「イングラット聖法国の『最聖』と呼ばれる聖女様のことですかね? 他にも彼女の下に『三大』と呼ばれる聖女様もいますが、一番有名なのは彼女でしょう。基本的に光神教の聖地から出てきませんが、大聖堂前の広場でたまに祝福を与えてくださるらしいです。」
ミリアはそう言って記憶を掘り起こすように頭を捻っているが、君、その教えを一番受けてるんじゃないの?
「おまえの知識なんかフワフワしてない?てかホントに信心ある?」
「失礼ですね! でも、ぶっちゃけ私を拾ってくださった教会は聖法国から離れた小さな教会でしたし、孤児院のようでしたのであまり詳しく教えられたりはしてませんね。」
なるほど、つまりそこまで熱心に教えを説かれた訳じゃないのね。それで白魔法って使えるんだ、よくわかんね。
「・・・聖女に会いたいの?」
「あー、召喚って女神関連だろ? 一応教会とか聖女なら心当たりありそうだと思っただけだ。」
・・・本当はあの謎の発光生命体に頼まれたから気になっただけだね。
結局あいつが何かわからないし、言うことを聞いた方が良いのかもわからないが、、、何かあいつ嫌な感じがしないんだよなぁ。
「まー取り敢えずは文献とか漁って勉強したいし、すぐに会いに行こうとは思ってない。魔族に対して風当たりも強そうだし取り敢えずは保留だな。」
そんなこんなで先の話をしながらご馳走を食べ終え、後片付けをする。
英気を養った後の旅路は快適で、適度に野営を挟みながら旅を続け、俺たちはようやく水門都市『アクアテール』の入り口へと辿り着いたのだった。
ーーー
ザザァーーーーーー、、、
切り立った断崖の上で、俺たち4人は荒れた海を見下ろす。
「・・・え、俺悪いことしてないよ?」
「急にどうしました。」
いやだって、切り立った崖の上とかサスペンスの定番じゃん。
そんなしょうもないことを思っていると、いつの間にか周りに他にも色んな魔族が集まり出す。
俺たちは早めに岩近くに避難しておく。
・・・てか何が起こるの?
修学旅行のバスが来る前の朝の静けさを感じさせながら待っていると、突然海の上に影が落ちる。
何だと思って頭上を見たら丸く切り抜かれたような巨大な円柱が海へと落ちてきた。
ーードバシャアアアアアッ
大きな波を崖に打ち付けながら円柱は海の中へと消えると、海に引き込まれるような穴がその場に残った。
「・・・え、まさかあれが入り口?」
「な、なんか月の湖畔もあんな感じだったよね。」
確かに一階層から二階層に渡る入り口はあんな感じだった気がする。
いや規模が段違いだけどさ。
「ここからどう行くんだ? まさか飛び込むの?」
「・・・確か、話によると迎えが来るはず。」
そうスイが呟くと、海鳴りのような低い音が辺り一帯に響き渡る。それがドンドン大きくなると、暗い穴のから青と黒が混ざった鱗を持つ、巨大な竜が現れた。
「ーーはっ!?」
「・・・まさか、海竜『アリヴィテール』?」
ガイアデルガを彷彿とさせるまさかの存在の登場に間抜けな声を漏らしてしまう。
鋭く流線形の体躯はまさしく海の王を思わせた。
「て、ててててて、天竜、ち、地竜と並ぶ三竜の一柱だね。あ、アクアテールは、か、かの存在の守護によって、、な、長年の平和が約束されてるとも、、、。」
解説してくれるハイルが震えまくっているのでよく聞こえないけど、要は水門都市の守護竜ってこと?
【・・・並べ、見定める。悪意を見せようものなら喰らう。疾うに去れ。】
・・・!
「へえ、人語を解するのか。」
こういった高位な存在は基本、人などと言う矮小な存在に興味がない。興味がなければ言葉を交わそうとも思わないので言葉を理解することはあっても発することは滅多にないのだ。
アクアテールに入ろうとしてる崖際に来ていた者達は震えながらも順番に並んでいく。
敵意や害意は感じられない、それでもその存在感だけで押し潰されそうになる。
・・・なるほど、下手な検問なんか要らないって訳ね。
「・・・なぁ、俺とミリアって人なんだけど、ふるい落とされたりしない?」
「な、無いと思うよ。アリヴィテール様は街に害を無そうとしてるかどうかを判断して喰らうみたいだし。」
なら、、、平気か?
一応俺たちは全員フードを被っているが、そんな小細工なんて通用するわけ無いし、出たとこ勝負か。
取り敢えず多くの並んでる者達に倣い、同じように並んだ。
誰一人として言葉を発さない。
重い重圧に口が開けないのだ。
アリヴィテールの【通れ】と短い答えだけが響き、許可されたものは彼が召喚した水のゲートを通ってアクアテールに入っていく。
するとようやく自分達の番が来た。
一番先頭に立った俺がアリヴィテールの前に立つと、、、
【止まれ。】
その日初めて止められることとなる。
他の並んでいる人たちは「まさか」と恐れ慄く。
俺は冷静にいつでも右手にヤクラを取り出せるように構える。
すると、アリヴィテールは鋭い大きな口をつり上げた。
【そうか、貴様がガイアデルガを殺したのか。】
その言葉に後ろに並んでいた魔族達はざわつく。
それはそうだろう、突然目の前の存在と同格な地竜を倒したと言われれば驚きもする。
「・・・・・どうしてそう思ったのですか?」
【くくく、その剣には地竜の魂が刻まれている。残滓とも呼べる矮小なものだが、それでもその力は人の身には持て余すほどだ。・・・貴様のような異質な存在でなければな。】
アリヴィテールは首をもたげてこちらに近づけてくる。
相手の動きが読めない。
単純な好奇心なのか、復讐なのか、それとも興味はないのか。
【それにしても、貴様は随分と複雑な縁に絡め取られている。よくそれで人を保っていられるものだ。】
「何が言いたいのかわからねえぞ? 復讐でもしたいのか?」
勝手に人を見て勝手に何やら納得しているアリヴィテールに普通にイラッとして口調が戻ってしまう。
それだけで俺以外の全員がハラハラしているが、アリヴィテールはどうでも良いのか気にしていない。
【くくく、竜に仲間意識など無い。殺されたのはただ弱いだけの話だ。話しかけたのは興味が湧いたからだ、敵対する気はない。】
「それは助かるな。」
【だが、天竜の奴は恨んでおるやもしれん。奴は地竜が死んだと聞き、怒り狂っておっからな。小さなことよ。】
「止めてくれよ!?」
【義理はない。】
そりゃそうだけどさぁ。
俺はチラリと後ろを向いて、他に並んでいる人たちを見て気まずくなる。だって並んでる列の先頭が知り合いとずっと話した動かなかったら後ろの人は苛つくよね。
【ふむ、何を気にする? 我の存在に声も上げることも出来ぬ矮小な存在など気にかける必要はあるまい。】
そう言って少し圧を強めるアリヴィテールに全員が顔を青くする。
まぁ基本的に高位存在って傲慢な性格な奴が多いしね。
【だがまた話す機会もあるだろう、では通れ。】
そう言ってアリヴィテールは首を上げてゲートを開けてくれる。
俺は軽く後ろを見たあと、ゲートに入ったのだった。




