喚ばれた剣聖ー101
律兎の至技の名前を変えました。
「カカカッ! 終わりカ!?もう終わってしまうのカッ!? 不完全燃焼きわまりないカッ!」
「・・・うるせーさ、隠居して何年経ってると思ってるのさ。」
「・・・・・。」
カリティは背中から白い炎の翼をはためかせて、悪の大王の様に興奮したように笑う。
既にペリナは精も根も尽き果ててその場に力尽きている。
そしてオババも既に満身創痍で片膝をついていた。
・・・正直、相性が悪すぎる。
カリティが纏う熱と鱗は防御性能に優れており、こちらの小細工や攻撃が意味をなさない。それに対して向こうは手を振るだけで全てを焼き尽くす熱を撒き散らす。
理不尽すぎてやってられやしないさ。
「もっと足掻くカ、これで終わりはつまらんカッ!」
カリティは叫びながら口を大きく開くと、光が収束していく。
竜族特有のモーションに冷や汗をかきながら慌ててペリナの前に立つ。
ーーカッ!!
放たれた光線は木を、大地を、通る全てを溶かしていく。
「水天・水錬鏡!」
水の写し鏡
光線を、、、跳ね返すことはできないが、威力を拡散して弱め、軌道を逸らすくらいは出来る。
何とか全てを溶かす熱をもった光線を空へと逃がすことが出来たが、代償に両腕にジクジクと痛む火傷を負ってしまった。
「・・・ふん、避ければよかったものカ。後ろの荷物を守るより、お前が無傷のほうが幾らかは勝算があったカ。」
「くははっ! 愚問さね、私は族長、孫達を守るためならいくらだって傷ついてやるさ。それにたかが両腕が動かせなくなっただけさ、まだ勝ち誇るには早いさ。」
そう勝ち気に言い返したオババは両腕をダランを下に下げながらも魔法を発動させる。
腕を向ける、杖を向けるなど魔法を使用する際に簡易的に指向性を持たせるため、腕というのは非常に重要な役割がある。
それが欠如してしまえば本来操作は困難になるのだが、オババは持ち前の経験と技量で特に遜色無く魔法をカリティに向けた。
「水天・水霊激槍。」
「カカカッ! 水天、ミスルルの種族魔法『水群』の上位魔法カ、そうでなくては、楽しませるカ、オルババ!」
カリティは嬉しそうに笑みを浮かべ、右手にオレンジに光る光球を作り出す。何とか熱は自分が張った水の領域で凌げてはいるが、その熱はそれすら越えてこちらに届く。
景色を歪めるほどの高温、直接正面からぶつかる気か、、、。
「行くカ!」
「うざったいさ!」
二人が意を決っした一撃を放とうとした、、、瞬間、、、
【ヴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!】
森の奥から多くの魔物達の怒号が響いてきた。
その異常な声量とこちらに向かってくる地響きに睨み合っていた二人は攻撃の手を止めた。
「・・・近づいてきてるカ? ふむ?ワシの存在を認知しながら向かってるくるとは不思議カ。」
竜族は生物の頂点とも言える最強の種族だ。
何故この森に多く潜んでいるはずの魔物達がどちらの陣営も襲わなかったというと、律兎達はエルフ達の知恵で対策し、魔王軍は頂点捕食者な存在であるカリティを向かわせることで、生物の本能に訴え掛けていたのだ。
しかし、いま魔物達はその本能を無視してこちらへと向かってきている。
「なめられてるんじゃないさ?」
「カカカッ、面白いことを言うカ。なら向かってくるのを皆殺しにするカ。」
そう殺気立つカリティの元に一人の部下が走ってくる。
「か、カリティ様! たったいま、キラグ様が戦死したとの報告が!」
「ーーほんとカ!?」
魔物どもを迎え撃ってやろうとやる気を見せていると、部下からもたらされた情報にカリティは頭を悩ませる。
たったいま、部隊の指揮を担当していたキラグが落とされた。そうなればもはや前線を維持することはできない。
というより何故キラグがそんなに前にいる?
よくわからないが正直もう戦い続けるのは難しいだろう。
そもそもギュリカが何処かで油売ってるのが悪すぎる。
・・・あいつ何してるカ!!
と、自分が指揮できないのを棚に上げてカリティは歯噛みして叫んだ。
「撤退するカ! もうこれ以上戦力は失ってられん、帰るカ!」
すぐに撤退を指示し、退路を確保しようとすると、が、、、
「いえ、逃がしませんよ。あなた方は贄として最適ですから。」
同時に背後から、声が聞こえて振り返る。
その青年は人好きのする優しい笑みを浮かべているが、目は薄く細められている。
一体何時現れたのか、何時から居たのか、何者なのか、、、。
「お前は誰カ?」
「私ですか? 私はプラズ商会、会長のアムルと申します。カリティ・レッカルオ様。」
そう頭を下げるアムルにオババは顔をしかめる、だが名乗られたカリティはそのどちらにも聞き覚えがなく首をかしげるだけ。
「・・・聞いた名さ。いまのこの状況の元凶様、でよろしいさ?」
「ええ、おおむねその通りですよ。ただうまく行きすぎているのが気がかりですが、まぁその事に関しては後で考えましょう。」
そう言ってアムルは付き従えた頬が痩けたスキンヘッドの男性を傍らに膝をつかせる。
そして懐から取り出したナイフでその首を掻ききった。
「ーーはっ?」
「・・・何をしてるカ?」
突然の意味のわからない行動にオババとカリティは困惑する。
ただ男性が倒れると、囲むように赤い光の円が現れ、さらに左右に光の線が延びていく。
ーーズンッ!
突如として強大な魔力圧が辺り一帯を襲った。
「ーーなにさっ、これはっ!」
「あなた方がお互いに殺し合ってくれたお陰でこの地は不浄に穢された。血が地に滲み、私が数日掛けて描いた魔法を発動させられるほどの贄に事足りました。」
アムルはそう言いながら大仰に両手を広げる。
それと同時に赤黒い半透明な膜が私たちを閉じ込めるように円柱に空へと伸びていく。
「『血の獣王、バロン』、召喚の第一段階カ。」
「・・・正気じゃないさ。ここら一帯を更地に帰る気さ?」
2人の糾弾にもアムルはどこ吹く風で薄ら寒い笑みを浮かべている。
血の獣王バロンは多くの生け贄を以て、魔界からの召喚が可能となる禁忌生物だ。
羽は持たないが、ドラゴンのような体躯で4本の尾を持つ。
ただ一番の特徴は血液操作とそれによる感染だろう。元々巨大なのに小細工を織り混ぜているのは本当に達が悪い。
「・・・だが不自然さ、血魔法は人族の魔法だが、使える一族は皆殺しにされたと聞いているさ。お前はその生き残りだというのか?」
「あぁ、小さなことを気にしますね。答えはこれですよ。」
アムルはオババの追求に対して片手を上げる。
その指には五指全てに指輪がはめられていた。
「魔法具、、、。なるほど、それのひとつに魔法を保持できる物があるのさ。」
「御名答です、でもわかったところでもう遅い。バロンを召喚する手筈は既に整ってしまいました。止めることは叶いません。」
取り囲む半透明な膜の向こうから目を血走らせた魔物達が姿を表す。
おそらく指輪の中に魔物達の本能を狂わし、操ることの出来る代物もあるのだろう。
「この血膜が破られるとは思っていませんが、万が一があります。なのでお土産を置いて行きますね。」
獣達はスルリとなにもないかのように膜を越えてくる。それはそうだ、バロンに取って贄が増えるのは喜ばしいことだ、逃がすことはなくても来るものを拒むことはない。
「ここは餌箱、さぁ、抗ってみてください。」
アムルはそれだけ言って大仰に礼をすると、姿を消した。
それと同時に魔物達はこちらに牙を向く。
満身創痍な今、心の中で焦りを感じながら何とか杖を構えるが、目の前を紫に燃える炎が走り、魔物達を塵にかえた。
いままででずっと不適な笑みを浮かべていたカリティは表情を消し、息を大きく吸った。
「捕食者たるわ儂等カ! 抗え、者共!食われるような軟弱者は捨て置け!」
怒りと発破を込めた叫びに魔王軍は立ち上がり、魔物達に立ち向かっていく。その後を追うようにオババもすぐに指示を飛ばした。
「これ以上贄を増やすわけには行かぬさ!動けるものは迎撃、交代しながら足止めするさ!」
チラリと横にいるカリティを見る。
カリティは特になにも言わなかったが、こちらの視線を受けた後、フンッと鼻だけ鳴らした。
・・・一時休戦さね。
ーーー
「ーーっ?!」
「ほう?何か喚ばれでもしたか?」
相変わらずしつこい鎧の相手をし続けていると、異界の外側から嫌な気配が入ってくるのを感じる。
流石に異界の外の状況はそこまで把握できていない、既に通話もしている余裕はないし、何か厄介な事態が起こったと考えるのが自然だろう。
「・・・いい加減、終われよ!」
「くははっ、なら早く殺ればよい。」
いままでよりも剣速を上げ、ギュリカと斬り結ぶ。
今はギュリカの天能内にいるが、ヤクラと同じくガイアも壊れることはなかった。
「ーーグリード。」
見たことのある剣を取り出して炎を灯しながら振り下ろされる。それをガイアで受けて、炎を瘴気で吹き飛ばした。
「フランワ。」
次に取り出されたのは黒い鎧に似合わない花の意匠が施された長剣。それが地面に突き立てられると、地面に花畑が広がる。
・・・は? なにこのメルヘンチックな攻撃、、、いや攻撃?
そのあまりに場違いな光景に目を奪われ、、奪わ、れ、、、?
「ーーやっば!?」
「ウィンチェ。」
意識の全てを持っていかれていると、呟きと共に銃声が聞こえ、肩を撃ち抜かれた。
何とかギリギリで急所は外したが、予想外の攻撃と、まさかの銃弾という手法に避けきることが出来なかった。
・・・てか剣だけじゃないの?普通に撃たれたんだけど。
「・・・これにも反応するか。ならいい加減、こちらも全力をだそう。」
「え?」
「『我が蒐集品達に命ずる、ギュリカ・ライロットの名の元に、その力を寄越せ』。」
詠唱と共に、空中に開かれた扉から、光となってギュリカに降り注ぐ。
そして全身に炎、氷、風、雷、土等様々な力を纏いながら両手には別の剣を顕現させた。
「・・・おいおい、何だその剣。理の外にあるじゃねえか。」
剣の刀身は、まるでノイズが走るかのようにブレている。
その剣に触れた雑草は、触れただけでその箇所が消失していた。
・・・正直、天能の性能にしては微妙だと思ってたんだ。
まさか集めた力を全て集めて行使する術があるとはね、、、。
「・・・行くぞ。」
ーーブブッ
光が明滅するような速度でギュリカは背後に現れ剣を振りかぶる。それを何とかヤクラで受けきった。
これは、、、ガイアじゃ防げねぇぞ?!
というよりどんなものでも防ぐことは基本的に不可能だ。ギリギリ同じ理の外にあるヤクラでなら何とか防げるくらいだ。
ギュリカがもう一方の剣を地面に刺すと、俺の足元がぬかるみに変わる。バランスを崩したところを襲う、雷撃をまんまと食らってしまい、意識が明滅した。
元々耐性があるから耐えられているがこれは、、、。
体が痺れてうまく動けないところを剣が振るわれる。それだけで辺り一帯ごと削られた。
「くくっ、よく形を保ってられる。」
「うっせぇよ!」
何とか回りながら受け流したが、それでもひび割れたような痛みが全身にはしっていた。
「げほっ、げほっ!」
「まだ耐えられるか!?」
ーーブブッ!
また相手の姿が霞んで消える。
影から現れた黒い腕に足を捕まれたので、幻渡りで抜ける。生やされた植物の蔦に絡まれ、氷の礫が隙間を縫って放たれ、また致命の一撃が振り下ろされた。
地面を転がり血を垂らしながら何とか剣を支えに立ち上がる
・・・だめだ、これじゃあ何時まで経っても後手に回る。よく見ろ、観察しろ、それが基本だって何度も説教されたろ。
俺は血にまみれた視界のなか、一度息を吐いて目を細めた。
ーー剣老一式 先万先手。
足を絡め取ろうとする蔦を一歩足を下げてかわし前から飛来する氷の礫を植物の蔦や飛んでいる石の破片を記憶し、ぶつけたりそっと体を動かして全て回避する。
全てを読み、理解し、常に先手をとり続ける剣老の技。だが、、、
・・・くっそ、集中力が、続かねぇ。
本来これは最初から傷を受けてない万全な状態で、一切攻撃を受けないことが前提の技だ。今の満身創痍な状態じゃ続けられない。
かといって剣舞もピーキーだし、剣鬼や剣閃は動けなくリスクがある。
まだ後が控えてる可能性がある以上、ここでつぶれてなんかいられない。
「・・・なら、打てる手はひとつか。」
例えどんな状況でも、対応し、その場に立ち続ける。全てを学び、全てを取り入れた剣王の至技。
「ーー万応転戯。」
痛む体、その痛みを最小限に脱力したように下方で構えを取る。
ーーブブッ
またぶれる音が聞こえると同時に左手に現れたギュリカ。
だが次にはギュリカが弾かれた。
「ーーっか?!」
「地走り。」
そのまま態勢を崩したギュリカに向かって走る。
だが普通に走っても捉えられる、なら、
「歩法 桜舞。」
途端に律兎がフワリと舞うかのように加速と脱力を繰り返して、相手の狙いを定まらせない。
「小細工だ。」
「アホか、斬り合いなんて元々小細工の応酬だろ。」
ーー流麗 坩堝 座均し
流れるように変幻自在な軌道で攻撃を斬り落とし、岩を上から叩き斬る。低い軌道で攻撃を繰り出してギュリカを撹乱し、踏み出せないように牽制し続けた。
とめどないどんな状況にいたっても攻撃を繰り返す、千の技を用いて攻め受け、常に休まることのなく前へと進む。
ようやく剣が届く場所へと辿り着く。
決めるのは一瞬、自分が打てる一撃を叩き込む。
ーー剣聖 至剣 幽界断ち
ヤクラが一際輝き、辺り一帯を冷たい霊気が満ちた。色鮮やかな森が白黒に変わり、白銀の剣だけが煌めく、、、が、、、
そこでギュリカは予想外の行動に出た。
両手に持ったブレる両手剣を持ち上げるとそれを近づけ、、、
ーーは? そんな不規則な力同士を打ち合わせれば大きく反発する。内包されてるエネルギーの大きさからちょっとやそっとの衝撃じゃ、、、
俺の驚いたような表情に、向こうは楽しむように剣をぶつけた。
ーーカッ!!
とてつもない閃光と響音に辺りは包まれる。
こちらを崩壊させようと手を伸ばす光を幽界に落としながら躱すが、その奔流はこちらにも侵食してきた。
受ければひび割れるように体が壊れる。
こちらも瞬時に腕を翻し、なにもない虚空に向かって技を放った。
ーー風怒衝!
空気を面で捉えて破裂させる技。
途中で無理矢理技を切り替えて放ったため、全身が軋むように痛むが、あのまま光を喰らうわけにはいかなかった。
転がりながら現界に戻ると、まるで球体に削り取られたような大きなクレーター出来ている。
「・・・ふざけんなよ、戦闘狂の癖に自爆とかなめてんのか。」
動かせなくなってしまった右腕を押さえながら何とか立ち上がる。
すると土煙の中からふらりと歩いてくる人影が見えた。
・・・爆心地にいたくせに生きてんのかよ。
ただ鎧はボロボロで、こちらに一歩踏み出すだけで、上半身の鎧が崩れ落ちた。
俺は現れた姿に軽く目を見開く。
黒い角に黒い体、だがその胴体や顔の部分は抜き取られたかのように空洞になっていた。
・・・なんだ?大鬼族?
いやこの見た目、大鬼というより、、、
「隠形鬼?」
「ほぉ、知ってるのか? その通り、俺は大鬼族の中に生まれる特殊個体、隠形鬼だ。」
俺は以前に体を貫いたのにギュリカに全くダメージなかったことを思い出した。そりゃあんな体の真ん中に穴が空いてりゃ効くわけないわな。
それに動きが軽やかで静かだと思ってたんだよ。
「・・・まぁ、些細なことだ。さて、もう俺も動けん。本領を見せてやろう。」
腕を振るとまたブレた刀身をもった片手剣が現れた。ただそこに込められたエネルギーは両手剣の時より大きくなっている。
俺はその力に対してヤクラをだらりと構え、霊気を満ちさせていく。
「決着だな。」
「・・・あぁ。」
2人とも合わせて同時に動き出す。
振り上げられた超常の力がぶつかり合い、世界が震え、音が消える。
その数瞬後には落雷が炸裂したような音が木霊したのだった。




