第六話 -合格発表-
なんだこの景色は・・・
世紀末・・・なのか?
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遡ること5分前。
グループ9の試験開始の合図があったがレイの姿はステージ全体を映すモニターにも映らなかった。
「どうしたんだあいつ? 寝たのか?」
「いや、アントあれよく見てよ」
アインに言われて注視すると、準備室の側から何かが伸びている。
「まじか」
それはとてつもない速度で伸び始めると正体を明らかにした。
巨大な根だ。
一本だからだろうか、大きさは先日の比ではない。
ステージ上の一軒家をそのまま伸ばしたかのような太さだ。
先端ではレイが胡座をかいて座っている。
「うおー! さすがレイだな!」
根は地面を這うのではなく、宙を進んで地面と平行に伸びて行き、先端は3方向に分かれていく。
「うわー! レイくんすごい!」
「物理法則とか通じないのかよ・・・」
大興奮のオズとアインには共感しきれずに1人呆れていると、今度は根の至る所から花が咲き始めた。
そう、ハンスとの稽古で見せたアレだ。
全ての花が魔力をためゴーレムに向かって開花光線を放つ。
これが世紀末を連想させた全ての元凶だ。
「あんまり目立たないみたいな話は一体どこに・・・」
ただ、ゴーレムを狙い撃ちしているため被害は最小限となっており、試験は中断されることなくレイは空の旅を楽しんでいた。
「そこまで!」
試験監督の合図で試験が終了する。
レイの討伐数は26で2位、おそらく少しは控えたのだろう。
しばらくすると汗ひとつかかなかったレイが着替えずに戻ってきた。
「レイ! すごかったな!」
「うんうん! 圧倒的だったよ!」
オズたちの祝福にレイはグッドポーズで返す。
「目立たずギリギリをって話はどうしたんだよ」
「多分これでギリギリだよ」
「いやいや、余裕の2位じゃ・・・」
反論しようとしたが途中で止める。
レイの表情はほとんど変わっていないが、これは本気の顔だ。
「それではグループ10、試験開始!」
そんなやりとりをしていると最終グループの試験が始まった。
これまでのグループと遜色ないスタート。
レイの言うことが本当ならここで30体近く討伐する受験者が現れるはずだ。
「あの子!」
アインが指を指す映像を見ると、金髪の少女がすごい速度でゴーレムを倒していた。
魔法に大変長けている。
おそらく基礎魔法だろうが見たことのないほどレベルの高い技ばかりだ。
「すげーな! 俺よりも倒すんじゃないか?」
そんなことがあってたまるかとツッコミを入れたかったがやめておく。
だがオズがそう思うのも仕方ないくらい効率がいい。
「あれどうなってるの!? 追尾してるよ!」
追尾弾のような動きをする火属性魔法を大量に使って、他の受験者が戦っているゴーレムでもかまわずに討伐していく。
技術といい魔力量といい圧倒的だ。
そう思って見入っているとあっという間に試験は終了した。
「討伐数28だってよ! あの子すげーな!!」
「なあレイ、調整ミスったのかよ」
「いや、これでギリギリ」
一体何を言っているのだろうか。
金髪の子に討伐数2位を取られ特待生には入らなくなっている。
ギリギリも何もないはずだ。
「試験は全て終了しました。忘れ物に気をつけてお帰りください」
考えを聞こうとしたが試験監督の言葉が挟まったため、一度諦めて帰ることにする。
「私結果が怖くて明日は気が気じゃないかも」
試験会場から出ると緊張の糸が切れたのかアインがオーバー気味なジェスチャーとともにそう言う。
「だよな。俺も討伐の結果がアレじゃちょっと不安だ」
「じゃあ明日俺らと一緒に遊ぶか? 王都の観光するしせっかくだから案内してくれよ!」
「おいおい、そんな急に誘ったらアインも困って・・・」
「行きたい!!」
予想とは裏腹にアインが即答する。
オズの一言で俺たちに観光ガイドがついた。
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「お前ら起きろー、友達待たせるぞー」
翌日、ハンスの声でようやく目が覚める。
全員昨日の疲れで泥のように眠ってしまっていた。
「しっかし、王都の友達とは・・・、すごい金持ちかもしれんな!!」
集合場所で待っているとハンスが冗談混じりに言う。
「品のある子だったけど・・・、どうなんだろな?」
「とにかくいい子だぞ!!」
そんな話をしていると目の前にいかにも貴族の乗りそうな馬車が止まる。
まさか・・・・な。
「おはよう!」
しかし予感は的中した。
馬車の扉が開かれ、出てきたのはやはりアインだった。
貴族のお嬢様だったのだ。
「おう! おはよう!!」
アインは元気に挨拶をするオズに微笑み返し、執事らしき男性とハンスの元へ向かう。
「本日はお招きいただきありがとうございます。アイン・ニュートと申します。こちらは執事のアルベルトです」
ニュートだって?
俺でも知っている
このメイビューネで最も力のある貴族の一つだ。
「おいオズ。なんでアインがニュート家のお嬢様だと言っておいてくれなかったんだ」
「アインってお嬢様だったのか!? そのにゅーと?みたいなのは長くてよく分かんなかったんだよな〜」
呆れた。
貴族にしか与えられずほとんど縁がなかったとはいえ、名字の概念すらも忘れているとは・・・
「これは! ニュート家の方がいらっしゃるとは知らず、こんな格好で申し訳ない。私はハンスと申します。
息子たちの数々の無礼、大変申し訳ございませんでした」
ハンスはあからさまにかしこまり始めた。
だがこれが正常な反応だろう。
「アントもハンスさんもどうか普通に接してください」
「アインの言う通りだ! 友達なんだぞ!!」
何もわかっていないオズに言われるのは癪だが、正しい意見だ。
「悪いなアイン。今日はよろしくたのむ」
「うん!!」
そう言って挨拶を終えると早速王都の案内を開始してくれた。
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「ここが王城! 戦士科を卒業した生徒は希望すればここで兵士として働けるの」
最初に案内されたのは街で一番目立っていた王城。
いざ近くで見てみると息をのむほどに巨大で美しい。
しかし王直属の兵士か、倍率100倍の難関校なんだからそのくらいおいしい思いをさせてくれないとな。
「あっちの屋台を見てみてもいいか?」
オズはお腹が空いたのだろう。
城よりもそれまでの道にある屋台に興味津々だ。
「うわー! うまそう!!」
屋台街につくと早速オズが周りを見渡して目を輝かせる。
「アインは出店のもの食べる機会とかあるのか?」
「んー、ないわ。だから今日はせっかくだから食べてみたいの!」
「なーアイン! あの串焼きなんかどうだ!」
「食べたい!!」
そう言うとオズはアインを誘って串焼きの店に一直線に行こうとする。
「お嬢様」
しかしアルベルトに阻止されてしまう。
安全のためとはいえ貴族というのは不自由なものだな。
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「うまっ! アントも絶対食ったほうがいいぞ!」
小遣いをもらってから屋台に向かうと、オズは先に自分の分を買って食べ始めている。
アインは変わらぬ様子だがどこか寂しそうな目をしていた。
「すみません。串焼き一つください」
「はいよっ!! あ、坊主! 今くじ引きで当たり引いたら一本無料にしてるんだが、やっていくか?」
「じゃあお願いします」
「おっ! 当たりじゃねえか! ほれ、串焼き2本だ」
思いがけず2本も手に入ってしまった。
どうしようかと悩んだが一度ハンスたちの元に合流することにする。
(うまいな)
人ごみを移動する最中にひと口食べてみたが、醤油と砂糖のような甘辛い味わいで何処か懐かしさを覚えた。
もしかするとこちらの世界にも醤油があるのかもしれないな。
そんなことを考えながら合流するとやはりアインからの目線が気になった。
するとふと良い考えが浮かんでくる。
単純だが有効な作戦だ。
「なあ! アレなんだ!?」
そう言って何もない横道を指差しながらアインの腕を引く。
「お嬢様っ!」
アルベルトが追いかけようとするが人混みでは子供のように素早くは移動できない。
建物の陰に隠れたところでアインに串焼きを差し出す。
「アルベルトが来るまでに食える分だけだぞ」
「うん!!」
そう言ってアインは満面の笑みを見せると。
急いで串焼きを食べ始める。
本当に美味しそうに食べる可愛らしい子だ。
追いついてきたアルベルトには猫がいたなどと苦しい言い訳をした。
バレバレではあったはずだが特に叱責されることもなく再びみんなの元に合流する。
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「次はダンジョン! ここには宝物もあるけど、強い魔物もいる。学園の実習でも使うんだよ!」
城周辺の散策の後も観光は続いた。
アインも上機嫌で順調だ。
「周りは有名な武器屋とか道具屋もあるけどみていく?」
「行く行く! せっかくなら行こうぜ!!」
オズが早速賛成し、武器屋に向かう。
「いらっしゃーい。っ・・・、これはアインお嬢様! 本日は何の御用で」
「気にしないで。ただ友達の案内してあげてるだけだから」
さすがニュート家のお嬢様。
王都の人々には当然知られているのだな。
それにしても多種多様な武器が並んでいる。
アインはダンジョンで発見された武器なんかが売られていると言っていたがどれも質の良いものばかりだ。
「俺、剣やめてナックルとか装備しよっかなー」
「そんなことしたら腕太くした時に壊れるんじゃないか?」
「そのへんも何とかなるのあればいいんだけどな!」
「おいおいお前ら、こんなとこで武器買うような金はねえぞ?」
オズと何気ない会話をしていると、アイン達に気を遣われる可能性を考慮したのか小声でハンスが釘を刺してきくる。
「入試のある時期は子供達用に武器の当たるくじ引きが安くでできるんだが・・・、やってくかい?」
だが店主の耳には聞こえたようでくじ引きを提案される。
ここでもくじ引きか。
「ナックルもあるんですか?」
「ナックルは軽装備に当たるから3等以上であっちの中から好きなの選べるよ。2等になると剣からも選べるし、1等だと大剣や大斧でも大丈夫だ。」
在庫処理セールのようなものだろうがお試し価格と考えれば良い値段だ。
「おっちゃん! 一回やらせてくれ!!」
オズは早速小遣いのあまりでくじを引く。
「よっしゃ3等だ!!」
運の強いやつだ。
あまりにもあっさりと事が進むな。
「アントは引かないの?」
そう言ってアインが少し物足りなそうな目でこちらを見ていた。
おそらくハズレでも当たりでも満足するのだろう。
ただこの状況で3等を引いてしまうとすごく残念な感じになるだろうな。
「俺も一回お願いします」
だが女の子にお願いされてしまっては仕方がない。
一度引いてみることにする。
「何等だった?」
「2等だ」
すごく微妙な空気が流れる。
アインも求めていたものではないと言わんばかりに複雑な顔をしている。
これは3等の方がマシだったかもしれない。
「ささ、好きなの選びな」
そう言って店主は先ほどまでオズが漁っていた軽装備の入った箱と剣や斧が前に持ってきてくれた。
「これは何ですか?」
欲しいものがなかったので適当に箱の中にあった銀色の腕輪を取り出してみる。
「それは魔力を少し強化してくれる腕輪だよ」
「じゃあこれでお願いします」
腕輪を受け取った後、レイにも勧めてみたが興味がないようだったのでそのまま店を出た。
その後も色々な場所を案内され、夕方には緑の多い小さな空き地のような場所に到着する。
「今日の案内はここで最後! ここのベンチ座ってみて!」
人の手がほとんど入っていないような場所だったが木のそばには木製のベンチがあった。
子供4人がちょうど座れるほどの大きさがあったので言われた通り座ってみる。
「すげえ!夕焼けが綺麗にみえるな!!」
「そうでしょ? ここはね、昔私が家出をした時にいた場所なんだけど、その後も私が泣いたり嫌なことがあった時はアルベルトがここに連れてきてくれたの!」
お嬢様にもお嬢様なりの苦労があるのだな。
田舎者にはほとんど想像がつかない。
「このベンチもアルベルトが作ってくれてね! 夕日が好きなんだって言ったら向きまでしっかり設定してくれたの!」
アインは本当に幸せそうに話す。
今日一日を通してアルベルトには厳しい印象を受けたが、それ以上にアインを大切にする気持ちも伝わってきた。
本当に良い人なんだろう。
「アインはアルベルトが大好きなんだな!!」
オズの感想にアインは大きく頷く。
アルベルトが夕日に目を向けていることを確認すると、俺はそっとアインに腕輪を渡した。
視線を感じる。
いま横目で見られたような・・・
だがアルベルトは何も言ってこない。
むしろその表情はどこか嬉しそうだった。
アインが俗世のものを欲しがっていると知っていたのだろう。
「大事にするね!」
耳元でアインに囁かれて、さすがにドキッとした。
やはりこの子は笑っているのが一番だ。
「お嬢様、そろそろ」
「うん。みんな今日は楽しんでもらえたかな?」
「めっちゃ楽しかったぞ!」
「ああ、ありがとな」
「楽しかった」
「じゃあまた明日ね!」
そうやってこの日は解散した。
まさかレイが最後に返事をするとは・・・
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そして翌日の合格発表直前
「やっべー、父さんが一番緊張してきたかも」
「何言ってんだ!任せとけって!!」
直前になってオズは逆に自信が湧いてきたようだ。
当の俺は緊張で震えが止まらなくなってしまっている。
先ほど合流したアインも気が気ではない様子だ。
「それでは合格者と順位を貼り出します!」
その言葉とともに受験番号と氏名が書かれたリストと順位のランキング表が貼り出される。
「あった!アントとレイくんのもあったよ!」
「ほんとか!!」
「うん!あそこ!」
「よしっ!」
「よっしゃあああ! 俺のもあったあああ!!」
どうやら全員合格できたようだ。
となると問題は特待生になれたかになる。
特待生は戦士科の実技試験、総合点のそれぞれ2位以内と全学科で筆記試験の3位以内の者が対象だ。
まず実技試験の順位をみる。
当然1位はオズだ。
2位はマリー・オーギュスト、あの金髪の少女だろう。
次に筆記試験
1位はリチャード・ガウス、戦士科ではないようだ。
2位にアントニー、こちらは戦士科。
そして3位に・・・
ん?
アントニーだって?
俺が2位?
うそだろ!?
「よっっっしゃあああ!!」
ひとまず喜びをそのまま叫んでみたが、特待生を取れるなど思ってもみなかった。
「やったな!兄弟全員特待生だ!!」
そう言ってオズが俺とレイの肩に手をかける。
あれ、レイは金髪の子に抜かれたはずじゃ・・・
表を見ると総合点2位の場所にレイの名前があった。
3位との差はわずか1点、本当にギリギリを攻めていたらしい。
いったいどうやったのやら・・・
何にせよこれで俺たちの王立学園での生活が確定した。




