第四話 -入試へ-
「準備できたかー? 出発するぞー?」
荷物の積み込みを終えたハンスが声をかける。
今日は入試に向けて王都へと出発する日だ。
「馬車乗るの初めてだな! 楽しみになってきた!」
「俺はもう緊張で気分悪いよ」
大興奮のオズに今にも吐きそうな俺、すでに荷台に乗り込んで寝ているレイと三者三様だ。
「いってらっしゃーい!」
シャルに見送られ、ハンスは馬車を走らせる。
王都へは俺たちの村から馬車で一週間程度だ。
ただ、これでも山を突っ切って近道しているようで、故郷の立地の悪さには驚いた。
見慣れた田園風景はすぐに過ぎ去り、ほとんど未開拓の草原にでる。
「うおー! いちめん原っぱだ!」
「もうちょっと先で道を外れると森がある、低ランクの魔獣も出るようだし狩って腹ごしらえするか!」
「確かに旅の途中に鉄剣に慣れときたいな。気持ち悪くて食えるか微妙だけど・・・」
訓練は木剣ばかりなので、鉄剣は久しぶりだ。
実技試験では武器を持ち込めるとのことだったのでならしておく必要がある。
森のそばに馬車を置き、剣を受け取ると木剣との差からかかなり重く感じた。
「この先に一角兎いるらしいぜ!」
周囲の動物にでも聞いたのだろう、オズは剣を持つとすぐに森の中へ走っていった。
「俺らにも残しとけよ!」
負けじと俺もオズを追いかけて森に入る。
「元気だなー。万一もあるからレイも付いてくるぐらいはしろよ」
「はーい」
オズから少し遅れて森に入るとすぐに3匹の一角兎を発見する。
「おりゃぁぁ!」
オズは両脚兎化を使って群れを飛び越え、遠い位置にいた一角兎を斬りつけた。
俺も追いついて1匹を斬りつけ、背面にいた一角兎は蜘蛛脚で貫く。
「1人で2匹はずるいだろ!」
「わるいわるい。逃げられる可能性もあったから」
そんな話をしているとドシンッと地面が揺れ、同時にあたりの鳥が一斉に飛び立つ。
なんだ?
揺れは次第に大きくなっていき森の奥から大きな黒い魔獣が姿を現す。
「あれはやばいだろ・・・」
ついつい声が漏れてしまった。
現れたのは鎧猩々と呼ばれる硬い皮膚に覆われた体長3mほどのゴリラのような魔獣だ。
凶暴で俺たちでは敵うような相手ではない。
「おいアントあれは勝てねえぞ」
「ああ、逃げるぞ」
本能的に勝てないと分かったのだろうか、意外にもオズと撤退することで合意する。
すぐに背を向けて全力での逃走を試みると追いついてきたハンスの姿が視界に入る。
「おいおい、お前ら逃げんのか。なら俺が戦士としての心意気を教えてやる」
そう言って笑うとハンスは剣を構えて鎧猩々と対峙する。
するとすぐさま鎧猩々は唸り声を上げながら拳を振るった。
「身体強化」
ハンスは魔法を発動すると軽快に拳を躱し、語り始める。
「お前らいいか、これは俺の持論だが男は1対1かそれ以上に有利な状況で負けを想定したらダメだ。戦況を分析できない馬鹿だと思うかもしれないがこのくらいのマインドじゃないと守れるもんも守れない」
話しながら鎧猩々の腕に斬撃を浴びせていき、ついには右腕を斬り落とす。
「そして重要なことはもう一つ、絶対負けないことだ。強靭な心を持って戦い、その心に見合う実力を手に入れるんだ」
真剣な声で語るハンスはついに両腕を斬り落とし、鎧猩々の頭上まで飛び上がった。
「でもまあ持論だからな、お前らの好きにやってくれたらいい」
なんとも締まらない言葉と共に首を斬り落とし勝利する。
言っている内容はなかなかに独特だがその実力は圧倒的だった。
その後は一角兎を回収して森を出た。
この旅で起きたハプニングはこれが最大で、後は特に大きな問題もなかった。
強いて言うとすれば、寝ぼけたレイが荷台から落ちたのに気づかず、置いて行きかけたことだろうか。
とにかく旅は順調に進んだ。
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「おーい、お前ら起きろー」
ハンスの声で目を覚ますと王都の宿に馬車をとめ終えたところだった。
もうすっかり夕暮れで太陽が沈もうとしている。
「すごい。さすが王都だ」
「俺らの村にはないもんばっかだな!」
初めての都市に興奮し早速街を見て回ろうとする。
「オズ! アント! 早く部屋行くぞ。ずっと手綱握って俺も疲れた」
が、ハンスに出鼻をくじかれる。
少しだけ王都の景色を見たかったが、ハンスの主張も当然だ。
7日もの間十分な睡眠をとらずに俺たちを守ってくれたんだから感謝しかない。
試験は明後日だ。
王都の観光は明日の楽しみにしておこう。
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「これが王都メイビューネか!」
次の日の昼、街に出ると興奮のあまりオズと一緒になって感動の声を漏らしてしまった。
中世ヨーロッパ風の街並みに屋台、目の前には前世の漫画やアニメで見たような景色が広がり胸の高鳴りが止まらなかった。
「また明後日にも観光できる余裕はあるから、今日は疲れない程度にするぞ」
ハンスに釘を刺されたが、大はしゃぎの俺とオズは止められない。
「あの雰囲気、冒険者ギルドか!?」
そう言って早速人混みの中を正面に見えた大きな建物に向かってオズと走り出す。
しかしすぐにゴンッという鈍い音が隣から聞こえ、少しふらついたオズが見えた。
どうやら同い年くらいの男の子とぶつかったようだが・・・オズがぶつかってふらつく相手とは何者だ?
「わるい、気づかなかった」
少年がすぐにオズへと謝罪する。
オズは呆気を取られた様子だったがすぐに少年に謝罪の意を伝えた。
「君たちも受験生か?」
「おう! 俺はオズワルドでこいつがアントニーだ!」
「俺はシューリヒトだ。よろしく」
やや青みがかった銀髪の少年はそう言うと表情を少し緩める。
その風貌はあまりにも硬派という言葉が似合うもので、アップバングの短髪からも将来は男らしいイケメンに違いない。
「なんで俺とオズが受験生だってわかったんだ?」
「俺とぶつかってふらつくくらいで済んだ同年代はオズワルドが初めてだ。相当な実力者だろうと思ってな」
「俺のことはオズでいいぞ!」
オズはあまり気にしていないようだが、とんでもないことを言っている。
こいつは戦車か何かか?
そんなことを考えながら話しているとハンスとレイが追いついてきた。
「すみませんうちの馬鹿が」
そう言うとオズの頭を掴んでいつのまにかシューリヒトの後ろにいた父親に謝罪する。
すぐに気にしないでほしいと笑顔で許しをもらいこの場は解散した。
「オズもアントも勝手に行動するな!」
人の少ない場所に出ると早速ハンスの説教が始まった。
「ごめんなさい」
「怪我はしてないだろうな」
「うん! 平気だ!」
「オズがぶつかった子以外にもかなり子供がいるけどあれ全員受験生なの?」
「あれ、言ってなかったか? 王立学園の戦士科は毎年4000人以上が受けるんだぞ?」
「定員はどれくらい?」
「確か40人とかじゃなかったかな」
「え・・・」
嘘だろ。
それじゃあ合格倍率は100倍以上が確定ってことじゃないか。
ハンスの話に当たり前のように登場する学園だから。
もう少し易しいものだと甘くみていた。
「俺は実技で一番になるから問題ないけどな!」
相変わらず楽観的なオズだが、それどころではない。
「やっぱり父さんの言うとおり本格的な観光は明後日だね・・・」
結局その後は軽く食事を済ませ、必要なものだけ購入して宿に戻った。
(改めて緊張してきたな)
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翌日。
緊張でハッキリとしない感覚の中会場に向かい気づけば筆記試験直前となる。
「試験開始!」
だがそんなこともお構いなしに試験は始まる。
試験監督の言葉で一斉に問題用紙を開く音が響いた。
流石は倍率100倍以上の難関校、試験には第六学年でも十分に習わないような範囲も出てきている。
しかし前世の記憶のある俺にとってはこちらの方が解きやすかった。
言語学や数学は日本の中学3年生ほどの内容で、苦手な魔法学も化学に通ずるような要素を含んでいたからだ。
元理系をなめるなよ!
内心そう思いながら俺は順調に問題を解きすすめた。
「そこまで!」
再び試験監督の言葉で一斉にペンを置く音が聞こえる。
すぐに解答用紙を回収すると再び試験監督が口を開いた。
「午後の実技試験までに各自昼食を済ませ、動きやすい格好に着替えておいてください」
聞き終えるとすぐ受験生が一気に動き出す。
机に張り付いていたぶん、開放感は凄まじかった。
「やべーアント、何もわからんかったー」
「なら実技試験で思いっきり見せつけてやれ」
オズも早々に泣きついてきたが、いつも通りの様子に心配よりも安心が勝ってしまう。
レイもいつも通り感情の読めない顔をしているが、あれはまずまずといった顔だろう。
とにかく今は午後に備えて腹ごしらえだ。
空いていた席に3人でかたまって昼食を食べることにした。
「ここって食堂でもあんのか? みんな教室から出ていっちゃったな」
しばらくするとオズがそう言いながら不思議そうな顔をしてこちらをみてくる。
確かに、教室にはほとんど人が残っていなかった。
「今日は食堂を使えないからって父さんがご飯持たせてくれたはずなんだけどな」
そんな話をしているとレイがゆっくりと立ち上がり扉の方へと向かう。
「オズ、僕の残り食べていいよ。外で寝てくるからまた起こして」
「いいのか! ありがとな!」
「どこで寝るんだ?」
「正面の門入ってすぐのベンチかな。日当たり良さそうだったし」
「時計役は俺らに任せとけ!」
昼食が増えてオズの機嫌は上々、レイもいつも通りで何よりだ。
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昼食を終えてしばらくしてから、更衣室が混む可能性も想定して少し早めに教室を出た。
「レイ起きろー」
さすがにレイも緊張しているのだろうか?
オズの一度の呼び声で起き上がり、ついてきた。
着替えを終えて、少しギリギリの時間に集合場所の校庭に到着する。
「このカバンの中全部魔力回復ポーションだぜ」
「もっと買った方がよかったかなー」
「お金多めに持ってきてて良かったー」
ポーション?何の話だ?
周りからポーションの購入や準備についての話題が口々に聞こえてきた。
だが何故なのか全く見当がつかない。
「定刻になったのでこれより実技試験を始める」
台の上からそう告げる試験監督は何やらポスターを持っていた。
「先ほど昼休憩から貼り出したこのポスターにあるように、今回は対召喚型ゴーレムとの乱戦だ」
なんだって。
これが理由で筆記試験の後に人がいなくなっていたのか。
召喚型ゴーレムといえば体長2.5mほどの人型で物理攻撃に強く、魔法攻撃に弱い魔物だ。
どうりでポーションの話になるわけだ。
「今回は市街地を再現した400m四方のステージを用意した。その中で召喚されたゴーレムの討伐数を競ってもらう。10組に分かれて順番に行うため自分のグループを確認しておくように。最初のグループは15分後だ。各自準備室に集合しなさい」
どうやら俺たちは全員違うグループのようだ。
俺がグループ4、オズがグループ2、レイがグループ9だ。
「みんな違うグループか!頑張ろうな!」
失態に動揺して、オズのポジティブ発言をとても素直に受け取りきれなかったが今はそんなことを考えても仕方がない。
オズの言っていることが今最も正しい。
「ああ、やれるだけのことはやってやろう」
3人で拳を突き出し健闘を祈り合う。
「グループ1、試験開始!」
試験を待つ待機室には魔法で試験のライブが映し出されていた。
16箇所の定点と各個人を順次映すもの、討伐数のランキング表を映したものとがある。
ステージは4つ用意されており、グループからさらに分かれているようだ。
ステージの角にある準備室から次々と受験者が走り出していく。
この間にこの試験の要領を把握して臨みたいものだ。
いかがだったでしょうか?
この回から新キャラクターも出始め、だんだんと賑やかになってきます!
また読んでいただけると幸いです!




