第三話 -変化-
「今日は木剣使ってみんなで稽古したんだ!! そんで俺の圧勝!」
この日の夕食はオズの誇らしげな言葉から始まった。
「オズはほんと稽古がすきだな! アントとレイはどうだったんだ?」
「二人とも俺が倒した! アントのやつ俺に固有魔法使うなとか言っといて自分は使うんだよ。せこいよな。でも俺はそれも利用して? パパンッ!って二人とも倒しちゃったよ!」
俺とレイに問われているにもかかわらず、オズは語り続けたが、ハンスとシャルはそんな話など一切聞こえないかのように目を見開いたまま静止する。
「オズ、それ本当なの?」
「本当だよ!アントから木剣を奪ってこう・・・」
「そうじゃなくってアントが固有魔法を使ったっていう!」
「ああ、そっか! 今日はじめて使えたんだったな!」
「どんな! どんな魔法なんだ!」
興奮した様子でハンスが身を乗り出してくる。
だがシャルに落ち着くよう抑えられ、申し訳なさそうに座り直したタイミングで俺は答えた。
「蜘蛛の脚が背中から生えるんだ。木剣を壊すくらいの威力は一旦確認できたよ」
「そうかそうか! オズと似たような傾向の魔法だな!」
固有魔法を持つ者は遺伝による影響を受ける場合がほとんどだ。
身体強化の力を持つ父と風魔法増幅の力を持つ母。
獣化も植物操作も蜘蛛脚も、そのハーフとして妥当とは思うが少し見栄えが・・・
しかもよりによって蜘蛛・・・、まさか。
「母さん! 今日は俺の部屋入った?」
ハンスが嬉しそうに話す言葉を遮り、そうシャルに問う。
「入ってないけど?」
不思議そうに答えるシャルを見て安心しつつも早く自分の中の仮説を確かめたかった。
10歳を超えてから発現するイレギュラー、兄弟とも何となく雰囲気が違う力。
急いで夕食をたいらげ、自室に向かう。
「どうしたんだ? アントのやつ昨日も俺が部屋行った時ちょっと機嫌悪そうだったし、見られたくないもんでもあんのか?」
あの蜘蛛はどこに行った?
俺の力は蜘蛛に刺されて力をもらった、あの全身ピチピチスーツの男みたいな感じか?
それとも霊が乗り移って力を貰ったみたいな感じか?
このタイミングで蜘蛛の力を得ることに違和感があった。
ただ蜘蛛と縁があっただけの可能性もあるが、思いつく限りの可能性を調べるには、まずあの蜘蛛がどこにいるのか、生きているのかが重要だ。
だがどれだけ探しても蜘蛛は見当たらない。
生存していたとして2年近く留まり続けた部屋をこんなにタイミング悪く出ていってしまったのだろうか。
その可能性も大いにあり得るが・・・
あれこれと考えているとふと夜中の感覚が蘇ってくる。
俺が夜中に飲み込んだのって・・・
(いやいや、あれは都市伝説だろ)
人が寝ている間に10匹ほどの蜘蛛を食べるという都市伝説。
一時期信じていたが、多くのネット記事で否定されていた。
だが仮に飲み込んだことをきっかけに力を得たとしてもどういう原理なんだ。
俺の固有魔法ではなくあの蜘蛛の力なのか?
俺の身体は乗っ取られているのか?
いくら考えても新たな可能性が浮かんでキリがない。
しばらく考え続けたが、今は固有魔法の発現を素直に喜ぶことにした。
この謎はこの力をものにしていく中で解決していこう。
----
その夜。
月明かりに照らされた古い建造物に4人の人物の姿がある。
謁見室のような内装の中、玉座に1人、それに跪く者が3人。
「骸喰人が1つ目の骸を喰らった」
玉座に座った黒い人物がそう口を開く。
フードを被り月明かりもわずかに差し込む程度のため顔は見えない。
「ついに主人様の悲願が」
「次はもっとハードなのがいいですね」
跪く3人の部下らしきものたちが口々に言う。
「早めに鍛えておくのがベストか・・・」
頬杖をついた黒い人物がそう言うと部下たちは一斉に静まり返った。
ただ仰せのままにと言わんばかりに頭を下げて忠誠を示す。
「ここはスリュムに任せる。うまくやれ」
「は!」
3人の真ん中にいた白髪の女が返事とともにより深く頭を下げる。
「いよいよだな」
そう言うと黒い人物は夜空を見上げる。
わずかに光が差し込んだ口元は笑みを浮かべていた。
----
カンカンと休日恒例の木剣のぶつかり合う音が庭に響く。
俺たちは11歳、第6学年になった。
この1年で稽古での魔法の使用が当たり前になり、レイが木剣から木刀に変更したという変化もあった。
俺自身も初めは抵抗のあった蜘蛛脚を徐々に使いこなし、成長を感じている。
そのレイは最近、稽古以外では外で寝ていることが多い。
それなのに日焼けもせず、肌の綺麗なイケメンだから解せない。
「来月には入試も控えてる。今日はもうちょっと稽古を続けるぞ!」
俺たちは来月に王立学園の入試が控えている。
全員が戦士の学科を受験することになっているため実技試験の突破が必須だ。
これまでに2時間近く稽古をしているが、これからさらに個人でハンスと打ち合いだ。
オズが構え、打ち合いが開始される。
「両脚兎化」
これは最近オズが身につけた両脚を兎のようにして強化する技で、ネタでボース フィート ストレングスン の頭文字の音から名付けたら採用された技名だ。
牛肉を無理矢理複数形にしたようにしか聞こえないが、今回はスペルがズレているわけでもないのでまだ良い方だろう。
「よし! かかってこい!」
ハンスが威勢よく声をかけるとオズは早速右脚を振りかぶりながら飛びかかっていく。
メキメキッという音がなるとオズが放った回し蹴りでハンスの木剣が破壊された。
「手応えあり!」
身体を捻った勢いのまま獣化させた右腕でハンスを狙う。
ゴリラのように筋肉質で黒い毛の生えた電柱のような太さの剛腕。
当たり前のように使用しているが命中すればひとたまりもないだろう。
「甘いわ!」
しかしハンスはオズの旋回を待たずして腹に一発入れ、オズを吹き飛ばした。
「いてて、くそー悔しい!」
「ハッハッハこれだけやっても痛いですむとは、さすがは獣化といったとこだな!」
どうやらハンスはかなり強めに殴ったようだ。
人が吹き飛んでいるんだ、当然か。
「次どっちがやる?」
「俺からいくよ・・・蜘蛛足展開」
背中から蜘蛛脚を展開し木剣を構える。
「ハアッ!」
風魔法で身体能力を強化、蜘蛛の下2本の脚で体勢をサポートし、上2本と剣で攻める。
防御に脚を残しても勝ち目は薄いと判断したこれまでの経験からの技だ。
しかしこの3手の連撃もハンスに見事にいなされる。
全て弾かれ一瞬隙ができ、ハンスが剣でこちらを突きにくる。
(思った通りだ!)
だがこれも想定内、下2本の蜘蛛脚も動員してカウンターで一撃を与えにいく。
シンプルながら不意を突いた良い作戦だろう。
「お前も甘すぎるわ!!」
その言葉でハッとした。
蜘蛛脚1本で突きをズラす計画だったが無理だ。
力が強すぎる。
急遽下の2本ともを防御に回すがあっけなく吹き飛ばされ地面に倒れる。
「最後レイやるぞ」
「ん〜」
眠たそうな目を擦りながらレイがやってくる。
しかし次の瞬間レイの両隣から巨大な根が現れ、ハンスに襲いかかった。
「相変わらず恐ろしいが、魔力消費も多いだろ!」
襲いかかる根を次々に斬るが、際限なく伸び続けてハンスを妨害する。
少しおされているように見えるが、大木の幹と言っても異存ないような太さの根を切り続けているだけでも大したものだ。
「なんの!」
だがハンスが防戦一方で終わるはずもなく強い一撃で根を一気にはらい、少し余裕が生まれた。
しかし開けたところで見えたのはレイの後ろから生えた巨大な花だ。
明らかにビームを撃つぞと言わんばかりに魔力をためている。
「開花光線」
すぐにビームが放たれハンスに襲いかかる。
ハンスは剣から放つ衝撃で相殺するという離れ業を見せたが、背後には抜刀できる状態でレイが構えていた。
光線の発射と同時に移動していたようだ。
「ぬんっ!」
だがハンスは剣を振った勢いのまま反転し、地面に剣を叩きつける。
ドンッと轟音がなると風圧でレイはとばされ、大量の砂埃が舞った。
「やっぱり魔力足りなかったみたいだな。あのビームなんかほぼハッタリじゃないか。だが作戦は良かった!」
「レイのやつすげーな! 技名なしであそこまで魔法のコントロールできねえよ」
レイの戦いぶりに目を輝かせるオズに俺も共感する。
レイの魔法のコントロールは卓越していた。
この世界では基本的に魔法発動時は技名を口に出す。
それは脳にこれから実行しようとする魔法を確実に認識させるためで精度や威力にかなりの向上が見込めるからだ。
だがレイは2本もの根を無言で操作してみせた。
さすがという他ない。
「今日はここまでだな。それだけ強ければ安心して送り出せるぞ!」
今日の稽古はいつも以上に濃かった。
改めて父親の強さに驚くとともに、固有魔法をもっと使いこなせないと兄弟に置いていかれるという焦りも覚えることになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
良ければリアクション等もしていただけると嬉しいです!!




