第一話 -覚醒-
物心がつき、前世の記憶もハッキリした4歳。
転生した俺は身の回りの状況についてまとめてみた。
まず俺はアントニーと名付けられた三つ子の次男であり、赤毛の長男はオズワルド、黒髪の三男はレイモンドだ。
このアントニーという名前は日本で生きていた俺にとって、エネルギーで全てを乗り越えようとする有名人を連想させた。
少し抵抗感を覚えたが、周りにはアントと呼ばれたし、元気で過ごせそうな気もするので今では気に入っている。
父母はそれぞれハンスとシャル、20代後半の美男美女である。
俺の意識が戻ると同時に見えた人影はおそらく彼らだ。
そして最も重要な点としてこの世界には魔法がある。
魔法は基礎魔法と固有魔法に大別され、わずかでも魔力を持つものは火、水、風、土の4属性の基礎魔法を使うことができる。
固有魔法は遺伝や突然変異で生じる基礎魔法以外の魔法だ。
「パパおかえり!!」
狩りから帰ってきたハンスを元気いっぱいのオズが迎える。
ハンスは元王国騎士であったが今ではこの外れの村で魔獣や動物を狩っている。
この村の周辺は魔獣の数が比較的多いらしく稼ぎは十分にあるようだ。
「おー、ただいま。今日は三角猪を狩ってきたぞ! 焼いて母さんの作るタレで食べたら絶品だろうな!」
オズに続いて迎えにでた俺とシャルを見つつハンスは笑顔で応える。
レイはこういう時でも気にせず一人で静かに過ごす大人しい子だ。
ちなみに三角猪とは村の周辺に生息する魔獣で、名の通り頭に3本の角が生えた猪のような見た目をしている。
ハンスはそれを狩って解体した後、一部を持って帰ってきたようだ。
「お腹すいてるでしょ。食事の用意をしておくから先に身体を洗っていらっしゃい」
シャルの言葉にハンスはありがとうと感謝を伝え風呂に向かった。
この世界では電力などが普及しているわけではないが、魔法を応用した魔道具によって風呂や水洗トイレなどがあり、不自由なく暮らせる。
どんなに激しい狩りの後でも風呂に入れば清潔そのものだ。
30分後、食事の準備が整い全員で食卓を囲む。
少し硬いパンにスープとサラダ、そしてステーキ。
今日の食卓はすごく豪華だ。
「おいしい! パパ、明日も狩ってきてね!」
「ああ、パパ頑張るぞ! でもな、狩りもそんなに簡単じゃないんだ。オズが立派な戦士になって手伝ってくれたらいっぱい狩ってこれるだろうけどな!」
「なるなる! パパみたいに魔法を使いながらいっぱい狩りするぞー」
「なら、いっぱい食べて大きくならないとな! もうすぐオズたちも魔法使えるようになるだろうから」
一般的に魔法が使えるようになるのは5歳ごろからだ。
徐々に魔法が操れるようになり、前世でも馴染みのあるような魔法だと習得までにそこから4、5年はかかる。
「何もパパみたいになるだけが将来の選択肢じゃないのよ?」
怒ったような、呆れたような、そんな様子でシャルが話に参加する。
「戦士は危ないんだから、あなたもそんなに勧めないでよ」
「きっと強くなるぞ! 何せ俺の血を継いでるんだからな!」
火属性魔法で葉巻に火をつけるハンスが少しズレた返事を笑って返す。
シャルは「もう」と少し頬を膨らませつつも、最後には笑って許した。
「うえ、もっと窓の近くで吸ってよ!」
鼻をつまんで煙を払いながらオズが嫌悪感をあらわにする。
シャルが強く注意をしないことを見るに、この世界では葉巻の発癌性に気づくほど医療は発達していないのだろう。
「狩りの日のご褒美なんだから許してくれよ。それにお前たちもいつかこの沁みる感覚がわかるさ」
またもや少しズレた返事をするハンスに内心呆れつつも同時に安心感も覚える。
これが今世の家族の平穏な日常だ。
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それから2年ほどたった夏。
俺たちは6歳になり、第2学年として義務学童校に通っていた。
義務学童校とは各地にある6歳から12歳の代の子供が必ず通う学校であり、ここを卒業したのちに家業を継いだり、自らの才能を伸ばすために様々な学園に進学していく。
前世の学校制度に当てはめると今は小学校2年生で、そこから中高一貫でありながら専門学校のような特性を持つ学校に進学するといったところだろうか。
「今日も放課後あそこ行こうぜ!」
オズがクラスメイトたちに声をかける。
この頃になると帰り道を少し外れたところにある山の麓あたりで毎日のように遊んでいた。
小さな村の学校ではクラスは1つしかないので俺たち三兄弟はいつも一緒だ。
オズはすっかりクラスの人気者で、赤い短髪と丸い大きな目からもその明るさが溢れ出ている。
一方レイは口数こそ多くないが、目が隠れるくらいの緩い天パとややタレ目のイケメンになり、その少し気だるげな雰囲気も相まってか、女子陣から一目置かれている。
当の俺については・・・、そこそこと言ったところだ。
所詮は小さな村の学校だからな。
「猪狩りゲームやろうぜ! おれが狩人な」
オズの一声で今日の遊びが決定し、みんな散り散りに逃げていく。
近頃の遊びの定番はこの猪狩りゲームで前世の鬼ごっこのようなものだ。
広い土地で時に登り慣れた木なんかも使いながら逃げ回る。
前世の記憶がある39年生きたおっさんでも遊びは楽しく、この時間が好きだ。
身体の年齢がある程度感受性に影響を与えているのだろうか?
「見つけたぞアント!」
そんな考え事をしていると気づけばオズが前方に立ち塞がっていた。
こうなったらほぼ負けだ。
兄弟の中でもオズの身体能力は抜きん出ている。
「残念だなオズ。今日は完璧な作戦を持ってきたんだ」
「なんだって」
「助けてくれ! レイー!」
オズに少しの隙が生まれたタイミングで目星の木に向けて全力疾走する。
あまり積極的に身体を動かそうとしないレイが上で休みながらこちらを伺っているであろう木だ。
「おいアント何してくれてんの」
案の定木の上で横になっていたレイが怪訝そうな顔でこちらを見てくる。
俺は軽く手を合わせ謝罪の意を示し再び逃走した。
「待て・・・ってレイもいるのか」
いつもレイを見つけることに苦戦しているためオズにとってはこれ以上ない好機だろう。
少し悩んでいたが予想通りレイの方を追いかけていく。
「なんとかやり過ごしたか」
額の汗を拭い、一息つく。
レイには後で謝っておかないとな。
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夕方になって暗くなってくるとだんだんと帰りはじめ、俺たちも帰って食卓を囲む。
「今日も俺一人で全員捕まえたんだぜ! 広い森でもみんなが教えてくれるから余裕なんだ!」
「でも僕は頼らないようにしてるよ?」
今日の遊びについて誇るオズにレイが反論する。
「レイは猪なんだからもともと有利じゃねーか」
反論されたオズは虫の居所が悪そうに脚をバタバタと振った。
「コラ! 食事中なんだから暴れちゃダメでしょ!」
俺たちに変化が現れたのはこの頃からであり、ここで出てきたみんなとはオズとレイの能力に関するものだ。
オズは動物と、レイは植物と簡単な会話ができるようになりはじめた。
どうやらこれは固有魔法の前兆であるらしく、俺には未だみられなかった。
少し焦りはあったが気にするほどではなかった。
まだ固有魔法がないと決まったわけではない。
ここから強い固有魔法を引き当てて成り上がる未来もある。
「動物たちに頼ったくせに俺を捕まえるのにだいぶ苦戦してたじゃん! やっぱオズはもっと勉強できないとダメだな!」
両親が俺にだけ未だ前兆がでていないことを気にかけていてくれていたことは知っていた。
ちょうど言語や文字、暦なんかも前世とほとんど同じだったこともあり、6歳程度の勉強程度であれば簡単だったためそれを利用して強がっておく。
魔法学なんかの学問がなければ今世は知識無双なんかもありだったのかもしれないが・・・
叶いそうにない。
「言ったな!」
頭に血が上ったオズが身を乗り出してくる。
落ち着くようになだめながらも両親はどこか嬉しそうに微笑んでいた。
余計な心配をかけずに済んだのであればなによりだ。
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翌日。
いつも通り放課後に山の麓で遊んだ後、3人で帰路についていた。
「今日も俺が最強だな!!」
「動物に頼るのはずるいだろ」
調子の良さそうなオズに文句を言っているとレイが突然立ち止まる。
「どうした?」
オズが不思議そうにレイを見る。
「僕ちょっと行ってくる。先帰ってて」
「どうしたんだよ急に」
即座にオズが理由を聞くがレイは構わず元いた山の方へ走り出す。
「おいおい、そっちは山だぞ? あんまり行きすぎると魔獣もでるからやめとけよ」
この周辺の山は、特に夜には魔獣が多く見られるので登らないようにとハンスに言いつけられている。
声を張って忠告してみるがレイが止まる気配はない。
「なら俺らもついていこうぜ! 3人でいれば大丈夫だろ!楽しそうだし!」
「うーん・・・、ちょっとだけだぞ」
「よっしゃ!」
「魔獣見かけたらすぐ引き返すからな」
そういうとオズは嬉しそうに走ってレイを追いかける。
一緒に行って見張った方が安全と考えながらも少し胸が躍ってしまっていた俺も同罪だろう。
(どうか大事にはなりませんように・・・)
「レイ! 俺たちもいくぞ!!」
山の麓に着く頃には距離が詰まり、オズが呼び止める。
「そっか。ありがと」
「魔獣が出たらすぐに逃げるからな」
レイは頷くと「こっち」と俺たちを案内して山道を進んでいく。
幸い、早めに解散していたこともありまだ日は落ちきっておらず、足場もよく見えた。
「一体何があったんだ?」
「助けてくれって言われたんだ。山の上の方から急に聞こえてきて」
「あの位置から山の方の声が聞こえんのか!? 俺そんな離れてて聞こえたことないぞ!」
「僕も初めてだよ。だから余程重大なのかなって」
「なんにせよ助けてやらないとな!!」
心配そうな顔をするレイにオズは笑いかけると、歩くペースを上げだした。
俺も2人の会話を聞きながら一層気を引き締める。
助けを求めてるという事は魔獣絡みである可能性がかなり高いということだ。
20分ほど山を登り、少し開けたところでレイが足を止める。
「きっとアレが僕に助けを求めた木だ」
目線の先は前にある7メートルほどの崖の上にある木を見ている。
何か角の生えた生物にぶつかられたのか幹に跡ができていた。
周囲を確認するがなんの気配も感じない。
魔獣がすぐそばにいることはおそらくないだろう。
「おっ! もうすぐだな!」
「あの崖の上の木のことだよな? どこから行こうか?」
「何言ってんだアント! ロッククライミングがロマンだろ!」
気づいた頃には崖の近くまでオズは走っていた。
無邪気な笑顔を見るに本気でクライミングをするつもりなのだろう。
「2人ともー! はやくこ・・・、ウワッ!!」
次の瞬間にはこちらを振り返り手を振るオズの脇腹を何かがかすめていく。
全く気がつかなかった。
「いってー・・・、って血でてんじゃん!」
よかった。
オズは無事のようだ。
物体が飛んできた方向を見ると、そこには体の周りに二本の角を浮かせた三角猪がいた。
グルルル・・・
猪は唸り声をあげ、毛を逆立たせ、興奮しているのがわかる。
(まずい)
ここはハンスが立ち入るなと言っていた山の中、当然この魔獣も危険に違いない。
俺は咄嗟に地面に落ちていた石を拾い、猪に向かって投げつけた。
グルアアアァァ
とどきはしなかったが、こちらに注意を引くことはできた。
「お前ら逃げろ!!」
あいつらは山の生き物たちから助けてもらい逃げられるはずだ。
能力のない俺が囮になるのが実に効率的な選択。
だが実際に相対すると怖い。
膝が震え、歯が震え、身体の振動する音と歯の擦れる音だけが耳に届く。
「こい! 畜生風情の相手は俺がしてやる!!」
声を張り上げ、恐怖心を無理やりかき消そうと試みる
合計39年生きたアラフォーとして、可愛い兄弟は俺が守るんだ。
ウルアアァァァ
唸り声とともに2本の角がまっすぐこちらに飛んできた。
悔しいが、俺にオズほどの反射神経はない。
あれほどの速さのものを避けることなど叶わないだろう。
どうか今世は苦しまずに死なせてほ・・・
ん?
まだ角は届かないのか?
恐怖のあまり閉じた目を開くとそこには巨大な木の根があった。
「グルアアアァァ!」
次の瞬間にはオズの唸り声と生々しい骨と肉が潰れる音が聞こえてくる。
根が土の中に消えていくと、そこには倒れた猪とその側に立つオズが見えた。
大きな生物の死骸とその血が流れ出る様子に興奮と恐怖、そして空腹感を覚えた。
だが体力が限界だった。
気づけば俺はその場に倒れてしまっていた。
お楽しみいただけたでしょうか?
主人公の固有魔法もなく、説明も多くでつまらない回だったかもしれません。
もしよければリアクションや評価をいただけると嬉しいです!




