プロローグ
12畳の和室に一つの仏壇。
ほとんど日光の入らない部屋で蝋燭だけが視界を支える。
香炉には線香をギチギチに詰めて燃やした跡があり、畳の上には黒い額縁の写真立てが積み上げられている。
障子が開かれ、わずかな光と共に男が姿を現す。
敷居を跨ぎ、紋縁を跨ぎ、やがて仏壇に向けて正座するもう一人の男の背後に立った。
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男の振る刃が音もなく肉を断った。
穏やかな表情が宙に浮かぶ。
肉塊が落下で受ける衝撃を畳が優しく抑え、わずかな音が響いた。
切断面からの出血は緋色の滝のようである。
「抵抗・・・しないんですね」
男は転がった坊主の生首と目を合わせ、そう言い残すと部屋を去っていく。
ここから語るのはこうなるに至る経緯・・・
昔話だ。
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今から30年前の日本で俺、山本渡は33歳という若さで死んだ。
死因はフグ毒だった。
どうやらハズレの居酒屋で爆食してしまったのが原因らしい。
なんとも情けない話だ。
だが今思い返しても、思い残すことはあまりなかった。
小学生の頃から2軍、いや2.5軍と呼ぶのが正しいような立場の人間だった。
休み時間に大人数で遊ぶ時はとにかく流れを壊さない。
主役のような顔をして動く1軍たちにとって潤滑油のような存在になる。
だが決して1軍たちの友達ではない。
クラスメート全員が友達かのように振る舞うあの文化の中ではそう表現されるが実際は彼らにとってのモブでしかない。
サラリーマンとなった現在でも大きくは変わっていない。
演じるのは無害な人間、特に面白い話ができるわけでもなければ、話を回すわけでもない。
そんな行動が及び腰に見えるのだろう、彼女なんてものは大学生の時に半年ほど付き合った1人以外縁がない。
そんな俺にも趣味がある。
このベルトに少し乗った肉から想像のつく通り食べること。
そしてカメラである。
初任給で無理して買ったが、ネットで仲間を見つけて仲良くなれたりもして値段以上の価値を感じられていた。
あの日も仲間たちと撮影会をして、その後に飲んでいた。
あの日はみんな調子が良かった。
そして俺も飲みを促されると場を白けさせまいと飲んでしまう。
そして一軒目でほとんどがベロベロになり試しにネットでの評価が低すぎる店に行ってみようとなった。
これが運の尽きだった。
酔いを少しでも誤魔化そうと積極的にフードメニューを注文して食べる。
他のみんなもペースが落ちたり、限界だった者は眠ったりで退店時には最低限歩けるようになっていた。
朝から動きっぱなしであったため、早めに解散し、家に到着する。
いつもは飲み会の後でも1人で晩酌することもあるのだがそんな余裕はなかった。
(飲み過ぎだし、食べ過ぎだな)
暴飲暴食を反省しながらベッドにもたれかかる。
(なんだこれは)
やがて身体が痺れ、吐き気がしてくる。
ベッドに投げたスマホに手を伸ばすこともかなわない。
麻痺していく感覚に恐怖が増していき、冷や汗が止まらなくなるがそれに反して意識は段々と遠のいていく。
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ふと気がつくと自身の意思が干渉できる肉体を感じる。
つい先ほどまではただ自己の認識があるだけで連動できるものはなかった。
ひとまず目を開いてみると2人の人間がこちらを覗き込んでいる。
やがて目が光に慣れてくると、見知らぬ黒髪の女性と赤髪の男性が映った。
助かったのか?
ひとまず状況確認をと思い、起き上がろうと試みる。
なんだ?
目に映る自分の身体がやけに小さい。
やはり毒の影響でどこか悪くなったのか?
そんな考えも浮かんだが、不思議とその可能性はすぐに脳裏をよぎった。
転生しているかもしれない。
もともとそういう系の物語は前世でも読んだことがあったし、もしできるなら今度こそは一軍陽キャとは言わずとも、誰かの脇役ではない何者かになってみたいと思っていた頃もあった。
魔法やスキルのような特殊能力はあるのだろうか。
転生者として特別なものが与えられるのだろうか。
他にも転生者はいるのだろうか。
興奮が抑えられず色々と考えたが気づけば眠ってしまった。
赤子の本能には勝てなかったのだ。
しかし
(せっかくの転生を思い切り楽しんでやろう!)
そう思う気持ちは確実に抱いていた。
少しでも興味を持っていただけると嬉しいです。
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