第3話 無料で飲み放題って書いてあった
管理職の女神の堅物メガネ。菅間中理子。
わたしの後輩でありながら、上司でもある。
「もう庇いきれないくらいクレームが来ているのですが」
「持つべき者は優れた後輩。身を挺してわたしを庇ってくれるなんて。君の犠牲は無駄にしない」
「……はあ……どうしてそこら中のウォーターサーバーを涸らして回っているんですか」
「あ、それかあ。だって無料で飲み放題ってあったし」
「限度があるんですよ! ウォーターサーバーでカップ焼きそばを作るやつがあるか!」
あつめちゃんとのコラボパッケージに釣られてダース単位で買ったカップ焼きそばだが、水道料金未払いのわたしには当初、食べる術が無かった。
そこへ差し込む光明。
格安通販の女神が各部署へ設置してくれたウォーターサーバー様。
冷水も温水も飲み放題とくれば、使わない手はない。
「ダメって書いてなかったから」
「ルールじゃなくてモラルの話です」
「使われないウォーターサーバーほど悲しいものはない。わたしはウォーターサーバー様へのマナーとして、使い倒したまで」
タンクが空になれば誰かが補充してくれて、いつでも清潔な水が飲める。まるで天国だ。それを使わないなんて、なんともったいないことか。
「使うな、とは言いません。ですが、他の方への思いやりを持ってですね――」
「――理子ちゃん、働き過ぎは良くないよ。今日は定時で上がって飲みに行こ」
真面目は美徳だ。
でも、過ぎたるは何とやら。メガネの縁で見えづらいが、後輩の顔には濃い隈ができている。
休めるようにしてあげるのも先輩の努めだ。
「……誰のせいで。……はあ。仕方ないですね」
「よし。約束だよ」
そうと決まれば、あと何人か金払いの良さそうなヤツを誘って、今夜はただ酒と洒落込もうか。




