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氷河期ストレージ ~裏切られて死んだ俺は、30日前に戻り無限収納で世界を生き抜く~  作者: 宵白レン


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第21話 Day 5 エネルギー

翌朝。


蓮はリビングのソファに腰を下ろし、コーヒーを飲みながらテレビを眺めていた。画面の上部には赤い帯が表示され、記録的寒波による電力需給のひっ迫を知らせる文字が流れている。


『記録的な寒波により、全国的に電力需要が急増しています。一方、発電設備や送電設備でも凍結による障害が相次ぎ、供給力は大きく低下しています。』


画面が切り替わり、政府の緊急記者会見が映し出された。


『現在、電力需給は極めて厳しい状況にあります。大規模停電を避けるため、本日より一部地域で時間を区切った電力使用制限を実施します。病院、避難所、行政機関など、重要施設への電力供給を優先します。』


蓮は何も言わず、その会見を眺めていた。


続いて画面が住宅街からの中継へ切り替わる。厚い防寒着を着込んだレポーターの背後では、不安そうな住民たちが集まっていた。


『こちらの地域では、本日午後一時から三時まで、一般家庭への電力供給が制限される予定です。』


「二時間でも怖いですよ。この寒さで暖房が止まったら、部屋の温度がどこまで下がるか……。」


「小さい子供がいるから心配です。」


別の男性も、困り果てた表情でカメラへ向かって訴える。


「節電しろって言われても、この寒さですよ。暖房切ったら死んじゃいますよ。」


再びスタジオへ戻ると、政府が家族で一つの部屋に集まることや、複数の暖房器具を同時に使用しないことなど、可能な範囲での節電を呼びかけていると伝えられた。さらに都市部では、水圧の低下や凍結による断水も一部で確認されているという。


『ただし現時点で、首都圏の主要インフラは維持されています。』


その言葉を聞きながら、蓮はマグカップをテーブルへ置いた。


「……電気か。」


視線を天井へ向けながら、自分が用意した設備を頭の中で確認する。屋上には発電機と大容量蓄電池、それに太陽光発電設備があり、発電機を動かすための燃料もすでに備蓄してあるため、今すぐ電力に困ることはない。


しかし、窓の外へ目を向ければ分厚い雲が空を覆い、雪は今日も降り続いている。この天候では太陽光発電など当てにできず、結局頼ることになるのは蓄電池と燃料だった。


今ある燃料で何か月持つのか。節約すればさらに延ばせるだろうが、そもそもこの寒波がいつまで続くのか分からない以上、その計算に大した意味はない。発電機も燃料がなければ動かず、蓄電池だって永遠に使えるわけではない。


そして何より、今ならまだ取れる。


「足りるか心配するくらいなら、取れる時に取っておけばいい。」


蓮は残っていたコーヒーを飲み干すと、完全防寒服へ着替え、スノーモービルに乗って要塞を出た。


今日の目的地は湾岸部にある石油会社の油槽所だった。



一時間ほど走ると、吹雪の向こうに巨大な円筒形のタンク群が見えてきた。何基もの貯蔵タンクが並び、その周囲には動きを止めたタンクローリーや雪に埋もれかけた配管設備が残されている。


蓮は敷地の手前でスノーモービルを止め、周囲を見回した。


「……これなら十分だな。」


人影は見当たらない。それでも念のため、入口や管理棟、積み込み設備などを確認しながら、目についた監視カメラを一つずつ収納していく。一通り確認を終えると、蓮は巨大な貯蔵タンクへ近づいた。


ガソリン、軽油、灯油。それぞれが別々のタンクに貯蔵され、複雑な配管によって各設備へ繋がっている。


「一軒ずつガソリンスタンドを回るより、こっちの方が早い。」


蓮が右手を上げて能力を発動すると、範囲内にある配管から大量の燃料が一瞬で消え、そのまま収納空間へ移っていった。少し場所を変えて再び能力を使い、ガソリン、軽油、灯油と種類を問わず次々に収納していく。


しばらく続けた頃には、すでに正確な量を数える気にもならないほどの燃料が収納空間へ収められていた。


「これだけあれば……。」


そこまで口にしたところで、蓮は言葉を止めた。


以前、大量の水を収納した時にも同じことを考えた。十分かどうかなど、この先どれだけ生きることになるのかによって変わる。しかも収納空間の中では時間が止まるため、燃料が劣化する心配もない。使わなければそれでいいが、必要になった時になければ困る。


「取れるだけ取っておくか。」


蓮は再び能力を使い、さらに大量の燃料を収納していった。


やがて周辺から確保できるだけの燃料を収納し終えると、蓮はようやく手を止めた。


「これで燃料のことは、しばらく考えなくていいな。」


スノーモービルへ戻り、そのまま要塞へ帰ろうとした時、吹雪の向こうに巨大な煙突群が見えた。


昨日、物流園区から見えていた工業団地だった。


蓮はその光景を眺めながら、ふと考える。


発電機はある。燃料も大量に手に入れた。しかし、どれだけ準備したところで発電機そのものが壊れれば終わりだ。ポンプも配線も制御装置も、結局は機械であり、使い続ければいつか故障する。


「……予備も必要だな。」


蓮は迷うことなくスノーモービルの向きを変え、工業団地へ向かった。



工業団地もまた、油槽所と同じように静まり返っていた。駐車場には従業員たちが残していったと思われる車が並び、工場のシャッターは閉ざされ、巨大な煙突からも煙は上がっていない。


蓮は最初に見つけた工場へ入り、中を確認していった。


大型発電機、モーター、ポンプ、制御盤、バッテリー、ケーブル、交換用部品に各種工具。今後、要塞の設備を維持するために使えそうなものがいくらでも残されている。


「この辺は確実に使える。」


蓮は迷わず、使えそうな設備や部品を次々と収納していった。大型発電機も予備モーターも、一瞬でその場から消えて収納空間へ収まっていく。


さらに工場の奥へ進むと、今度は旋盤やフライス盤、溶接機、大型コンプレッサーといった金属加工設備が並び、その周囲には大量の鋼材まで積まれていた。


そこで蓮は一度足を止めた。


「……ここから先、本当に必要か?」


巨大な工作機械を見上げながら考える。今の自分に旋盤を扱う技術があるわけでもなければ、大型プレス機に至っては何に使うのかすらよく分からない。


しかし、これまであれだけの物資を収納してきたにもかかわらず、収納空間にはいまだ限界らしい限界が見えていなかった。


そして、必要になった時にもう一度ここへ来られる保証もない。


「まあ……必要になってから取りに来られるとも限らないか。」


そう結論づけると、蓮は巨大な工作機械まで収納していった。旋盤が消え、フライス盤が消え、その先で見つけた工業用ロボットの前ではさすがに足を止める。


「……これ、いつ使うんだ。」


数秒ほど考えたものの、結局それも収納空間へ消えた。


「完全に癖になってるな。」


思わず笑ってしまったが、ここまで来た以上、中途半端に残す意味もない。発電設備や交換部品、修理工具だけでなく、工作機械、金属材料、制御機器、予備モーター、大型バッテリーまで、今後何かに使えそうなものを片っ端から収納していった。


結局、数か所の工場を回り終えた頃には、外はすでに夕方になっていた。


蓮はようやく周囲を見回し、満足そうに息を吐いた。


「十分だ。」


今度こそスノーモービルへ乗り、要塞への帰路についた。



夜。


要塞へ戻った蓮は、暖炉の前へ腰を下ろしていた。


室温は二十二度に保たれ、照明も問題なく点いている。テレビも映り、コーヒーメーカーもいつも通り動いている一方で、窓の外では猛烈な吹雪が続いていた。


テレビでは、今日から始まった電力使用制限について繰り返し報じられている。


『現在、首都圏の一部地域では予定されていた電力供給制限が実施されています。明日以降、制限時間が延長される可能性もあります。政府は引き続き節電への協力を呼びかけています。』


蓮はしばらくそのニュースを眺めたあと、リモコンをテーブルへ置いて監視室へ向かった。


大型モニターを操作すると、マンション内に設置された監視カメラの映像が次々と表示される。廊下、エントランス、駐車場。今のところ電気は点いているものの、昨日までと比べて人の動きが明らかに増えていた。


厚着をした住民が廊下を行き交い、家族同士で荷物を抱えて別の部屋へ移動している。エントランスにも何人かが集まり、何かを話し合っているようだった。声までは聞こえないが、その表情を見れば、不安を感じていることくらいは分かる。


「……そろそろか。」


蓮はモニターを見ながら静かに呟いた。


人は一人では不安になる。何が起きているのか分からなければ情報を求め、自分だけではどうにもならないと思えば誰かと繋がろうとする。この状況が続けば、住民たちもいずれ互いに連絡を取り合うための手段を作り始めるだろう。


前世もそうだった。


それまで挨拶を交わす程度だった隣人たちが、寒さと物資不足をきっかけに少しずつ集まり始め、情報を共有し、互いに助けを求めるようになった。


そして、そこからすべてが変わっていった。


蓮はしばらく住民たちの姿を眺めていたが、やがてモニターから視線を外した。


「まだだな。」


今は見ているだけでいい。


蓮は監視室を出ると暖炉へ薪を一本追加した。炎は新しい薪へゆっくりと燃え移り、何も知らないマンションの住民たちとは対照的に、暖かな部屋の中で静かに大きくなっていった。


────────────────


Day 5


外気温 -22.6℃


積雪 381cm


電力 ▲

ガス ○

水道 ▲

通信 ○


【今日のメモ】


「人は最後まで、自分の日常だけは戻ってくると信じている。」


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