第19話 Day 4 大量物資
蓮はスノーモービルを降りると、吹雪の中で一度周囲を見渡した。
完全防寒服を着込んでいるとはいえ、容赦なく身体を叩く風は強く、外気の冷たさも装備越しにじわじわと伝わってくる。
「まずは……。」
搬入口、警備室、建物の角。巨大な物流センターの周囲にはいくつもの監視カメラが設置されており、その一部では赤いランプが今も点滅していた。
「一応やっておくか。」
蓮は右手を軽く上げ、入口に設置されている監視カメラへ意識を向けた。
収納。
次の瞬間、監視カメラが音もなく消える。
そのまま搬入口、建物の角、警備室と順番に視線を動かし、見える範囲にある監視カメラを一つずつ収納していくと、やがて建物の周囲から赤い光がすべて消えた。
「これでいい。万が一ってこともあるからな。」
周囲に監視設備が残っていないことを確認した蓮は、巨大なシャッターの前まで歩いていった。
高さは十メートル近くあり、分厚い鉄製の電動シャッターが搬入口を完全に塞いでいる。当然、今は電源が落ちているため、通常の方法で開けることはできない。
「開かないなら――。」
蓮は右手をかざした。
収納。
次の瞬間、巨大なシャッターそのものが跡形もなく消え、開放された搬入口から吹雪と冷気が一気に倉庫の奥へ流れ込んでいった。
蓮はその中へゆっくりと足を踏み入れ、数歩進んだところで思わず立ち止まった。
「……。」
目の前に広がっていたのは、外から見て想像していた以上の光景だった。
見上げるほど高い巨大なラックが何列も並び、その棚には天井近くまで無数の段ボールが積み上げられている。右を見ても左を見ても、そのさらに奥へ目を向けても物資の列は途切れず、飲料や食品はもちろん、衣類、家電、日用品、ベビー用品、ペット用品まで、人が生活するうえで必要になるありとあらゆる商品が、広大な倉庫の中へ規則正しく収められていた。
「これが……物流センターか。」
前世でも通販は何度となく利用してきたが、その裏側にこれほど大量の商品と設備が存在しているところを実際に見るのは初めてだった。
蓮は物資の間をゆっくりと歩き始める。
通路にはフォークリフトが置かれ、その先には無人搬送ロボットやコンベア、巨大な仕分けラインまで残されており、作業員だけが突然消えたかのように、物流センターとしての設備はほぼそのまま残っている。
「設備まで全部使えそうだな。」
蓮は小さく呟きながら一つのラックの前で立ち止まり、棚全体へ右手を向けた。
「試してみるか。」
能力を発動した瞬間、目の前にあった巨大なラックが、積まれていた無数の段ボールごと一瞬で姿を消した。
箱が崩れることもなければ、中身だけが収納されるわけでもない。商品を載せた巨大な棚そのものが、置かれていた状態を保ったまま収納空間へ移動している。
蓮はすぐに収納空間を確認した。
そこには先ほどまで目の前にあった巨大なラックが、段ボールを載せたままの状態で収まっていた。
「棚ごと入るのか。」
想像していた以上に便利だった。
蓮の口元が僅かに緩む。
「なら話は早い。」
そこから先は、もはや一箱ずつ確認する必要などなかった。
蓮は倉庫内を歩きながら次々と能力を発動し、ラックを一列単位で収納していく。巨大な棚が商品ごと消えるたびに、それまで段ボールで埋め尽くされていた視界が一気に開け、広大な倉庫の中へ何もない空間が少しずつ広がっていった。
十メートル進めば一列が消え、さらに進めばその隣も消える。食料も飲料も衣類も家電も、種類を問わずラックごと収納され、先ほどまで大量の物資で埋め尽くされていた一角が、次々と空のコンクリート床へ変わっていく。
蓮は途中で何度か収納空間を確認した。
以前から蓄えていた食料、高級料理、大量の水が並ぶそのさらに奥へ、物流センターから取り込んだ巨大なラックが次々と追加されている。それだけの量を入れたにもかかわらず、空間全体に圧迫されたような感覚はまるでなかった。
「……まだ余裕か。」
思わず苦笑が漏れる。
「本当に限界があるのか?」
そのまま一区画、二区画、三区画と進み続け、気づいた頃には一階の大半から商品が消えていた。
最後に残ったフォークリフトや無人搬送ロボット、コンベアなどの設備にも目を向けると、それらもまとめて収納していく。
「これも、いつか使う日が来るだろう。」
それから三十分ほど経った頃、蓮は再び入口まで戻ってきた。
つい先ほどまで天井近くまで物資で埋め尽くされていた巨大倉庫には、もう何も残っていない。無数のラックも段ボールも物流設備もすべて消え、見渡す限り灰色のコンクリート床だけが広がっていた。
蓮はその光景を一度確認してから、ゆっくりと外へ振り返った。
物流園区には、まだ無数の巨大倉庫が並んでいる。
楽々天物流センターをはじめ、ドラッグストア、ホームセンター、食品卸などの大型物流センターが、降り続く雪の中で手つかずのまま静かに眠っていた。
蓮はヘルメットの奥で笑った。
「今日は忙しくなりそうだ。」
再びスノーモービルへ跨がってエンジンを始動すると、次の倉庫へ向けてアクセルを握った。
次の獲物は、すぐ隣だった。
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Day 4
外気温 -22.5℃
積雪 168cm
電力 ▲
ガス ▲
水道 ▲
通信 ▲
【今日のメモ】
「世界が止まった日、人類の財産は誰のものでもなくなった。」
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