第38話 最後のルール
国家非常時継続施設、第七号。
地下約百メートルに築かれたこの巨大施設は、国家機能を維持するために長い年月をかけて整備されてきたものだった。居住区や医療区画、備蓄倉庫に加え、植物工場や畜産区画まで備えた地下の街。その中枢に位置する執務室では、岩森隆之が総理と向かい合っていた。
「御影に黒崎君を会わせたそうね。どうだった?」
「相変わらずでした。黒崎の能力には非常に興味を示していましたが、まだ明確な結論は出ておりません」
「そうでしょうね。あの男のことだから、しばらくは夢中になって調べるでしょう」
総理は机の上に置かれた報告書へ目を落とした。
「でも、今となっては彼の力が必要よ。御影には好きに調査させなさい。ただし、黒崎君の任務に支障が出ない範囲でね」
「はい。承知しております」
「それから、倉庫の物資消失事件は? まだ手がかりはないの?」
岩森の表情がわずかに曇った。
「残念ながら、こちらはまったく進展がありません。周辺の搬出経路も繰り返し確認しましたが、あれほどの物資を運び出した痕跡は見つかっておりません。現地調査も限界に達しているため、各調査班を順次撤収させています」
「そう……」
総理は小さく息を吐いた。
「あの物資さえ取り戻せれば、ここも随分と助かるんだけどね」
机の上には、施設の物資残量と収容人口の推移をまとめた資料が広げられていた。地下施設には長期運用を想定した備蓄があり、食料の一部は施設内でも生産できる。しかし、想定を超えて長引く寒波と、増え続けた保護対象者によって、その余裕は着実に失われつつあった。
総理はしばらく数字を見つめた後、静かに告げた。
「仕方がないわね。新規の受け入れをさらに絞りなさい。それから、収容人口の適正化を急いで。再配置の対象者も増やすしかないわ」
「……総理」
「この施設の収容人数を、もう一段階減らす必要があるわ」
岩森はすぐには返事をしなかった。
「ですが、現在でも居住区では不満の声が増えています。再配置の対象に選ばれることを恐れている者も少なくありません。これ以上進めれば、施設内の秩序に影響が出るおそれがあります」
「わかっているわ」
「それに、地上の保護地区には、今も受け入れを待っている人々がいます。中には子供も……」
「岩森副司令、黙りなさい」
総理の声が鋭くなり、岩森は口を閉じた。
「ここの物資だって限られているのよ。私たちは、この寒波がここまで長引くとは想定していなかった。地下の生産設備があるとはいえ、すべてを賄えるわけではないわ。今の人数を抱えたままさらに長期化すれば、いずれ全員が共倒れになる」
総理は資料の一枚を指で押さえた。
「それから、各地の備蓄倉庫や物流施設からの物資回収も増やしなさい。使えるものは、できる限りここへ集めるのよ」
「それは……」
岩森は言い淀んだ。
「すでに生存者たちが拠点としている倉庫も少なくありません。そこに残された食料や燃料を回収すれば、彼らの生活は立ち行かなくなります。場合によっては、飢えて命を落とす者も……」
「……何度も言わせないで」
総理は岩森を正面から見据えた。
「私がこの保護地区へ移った時から、後世に悪魔と呼ばれる覚悟はできているわ……」
その声に、怒鳴るような激しさはなかった。
「以前にも言ったはずよ。今、私たちが最優先で守るべきものは、国民の命ではなく、日本という国を存続させることよ」
岩森は黙ったまま総理を見つめていた。
「そのためには、この施設だけは何があっても維持しなければならないの」
「それはわかっております。しかし……」
「私もこの判断が完全に正しいと思っているわけじゃないわ」
総理は即座に答えた。
「でも、正しいことだけを選んで、国を救える状況ではもうないのよ」
執務室に沈黙が落ちた。
「必要であれば、ほかの保護地区への物資配分も見直しなさい。それでも維持できない施設があるなら、閉鎖も検討するわ。限られた物資をすべての施設に薄く分けて、最後に全部失うようなことだけは避けなければならない」
「……わかりました」
岩森はそれ以上、言葉を続けられなかった。
反論しようと思えば、いくらでもできた。地上で保護を待つ人々のことも、再配置の対象となった者たちのことも、物資を奪われる生存者たちのことも、彼は知っていた。
だが、目の前の総理がその苦しみを理解していないわけではないことも、わかっていた。
総理の右手は、机の下で固く握りしめられていた。指先が白くなるほど力が込められ、爪が掌に食い込んでいる。それでも彼女は表情を崩さず、岩森の返答を待っていた。
「……直ちに各部門へ指示を出します」
「お願いするわ」
岩森は深く一礼し、執務室を後にした。
◇
「おい、今日餓死したやつも、あそこに溜めとけ……」
「……わかった。でも、もうあの部屋はいっぱいになるぞ……」
「だったら隣の部屋を使えばいいだろ! こんなことまでいちいち言わせるな!」
「ああ……すまん……」
郊外の幹線道路沿いにあるスーパーマーケット。その従業員用通路では、二人の男が布に包まれた遺体を前に立ち尽くしていた。
遺体は六十代の男性だった。数日前からほとんど動けなくなり、昨夜、誰にも看取られることなく息を引き取った。
男たちは毛布に包まれた遺体を運び、いつもの部屋の前を通り過ぎた。そこにはすでに何体もの遺体が保管されており、新たな遺体を置く余裕はほとんど残されていない。
隣の部屋の扉を開けると、冷たい空気が流れ出し、中には使われなくなった机や椅子が積まれていた。二人は壁際の空いた場所へ老人を横たえると、もう一度布を掛け直した。
「……それにしても、最近は受け取りに来ないな」
「しょうがねえだろ。もう死体なんて、そこらじゅうに転がってるからな……」
「そうだな……でも、これだとまた食料を交換してくれる相手が減るな」
「……ちっ。今日の捜索組に期待するしかねえな……」
二人は部屋を出ると、扉を閉めた。廊下の先からは、食事の準備をする人々の話し声がかすかに聞こえてくる。
このスーパーには現在、四十三人の生存者が暮らしていた。
三か月以上続いた雪を生き延びた人々だったが、雪がやんだ今も、彼らの生活が楽になることはなかった。食料は底をつき、電気も水道も安定して使えない。暖房もまともに使えず、毎日のように誰かが衰弱していく。
朝になると、動ける者たちは数人ずつの班に分かれて外へ出た。空き家や店舗を調べる者もいれば、道路を通る人間を待ち伏せする者もいる。誰が何を持ち帰っても、集められた食料はすべて共同体のものになる。それが、この場所で暮らすための条件だった。
昼過ぎ、捜索に出ていた五人の男たちが戻ってきた。先頭の男は大きなリュックを背負い、残る四人も袋を抱えている。
「おっ、今日は随分持ってるじゃねえか」
「まあな。運がよかったんだよ」
男はそう言って笑い、リュックを床に下ろした。中から出てきたのは缶詰が六つ、乾燥したパンが二袋、それに小さな菓子がいくつかだった。
「どこで見つけた?」
「住宅街だ。移動してるやつがいたから、かっさらってきた」
「……相手は一人か?」
「ああ。最初は抵抗してたけど、こっちは五人だからな。すぐ大人しくなったよ」
男は何でもないことのように答えた。受け取った側もそれ以上は尋ねず、食料を保管棚へ並べ始めた。
その様子を、休憩室の入口から一人の女性が見つめていた。
三十代半ばの母親だった。彼女の七歳になる娘は、数日前からほとんど起き上がれなくなっていた。頬はこけ、唇は乾き、話しかけても返事をするまでに時間がかかる。母親は何度も自分の食事を娘へ分け与えていたが、それでも日に日に弱っていく姿を止められなかった。
「……今日、少し多めにもらえませんか」
女性は食料を仕分けていた男へ声をかけた。
「なんだ?」
「娘が……もうほとんど食べられなくて。少しでも栄養のあるものを食べさせたいんです」
男は棚に並べた缶詰へ視線を向け、それから女性を見た。
「……無理だな。気持ちはわからんでもないが、ルールはルールだ」
「そこを何とか……。いつも以上に……ほ、働きますから……」
「自分の分を減らして与えろ、こっちは決まった分しかやれん」
近くで話を聞いていた別の女性が、疲れた声で口を挟んだ。
「何いってんのよ! うちのお父さんだって、昨日から立てないのよ……、みんな苦しいんだから!」
「……すみません。そうです、よね……」
母親は頭を下げた。
以前なら、子供が病気になれば誰かが心配し、食べ物を分けてくれたかもしれない。しかし、今は違う。ここにいる四十三人のうち、満足に食事を取れている者など一人もおらず、自分を生かすだけで精いっぱいだった。だから、皆それぞれ自分の役割をこなし、捜索は交代しながら行い、役立たずはいずれ追放される。
夕方になると、その日に集められた食料が大鍋へ入れられた。米を水で薄め、缶詰の中身を細かくほぐして加える。四十三人全員に行き渡るようにすると、一人分は小さな器の半分にも満たなかった。
配給を受け取った人々は、それぞれの寝床へ戻っていく。誰も食事の感想を口にせず、ただ黙々と器に口をつけた。
「……お母さん」
休憩室の隅で、娘が小さな声を出した。
「……どうしたの? また気分がわるくなったの……?」
「あたし……お腹……すいた……」
「……うん。今日はお米もあるよ。ほら、食べようね……」
母親は娘を抱き起こし、匙で粥をすくった。娘は二口ほど食べたが、すぐに顔を背けてしまった。
「やっぱり……もう……いい……」
「もう少しだけ。ね? 食べないと体力が持たないわよ」
「ううん……眠い、もう少し寝させて……」
母親は匙を持ったまま動けなくなった。娘の身体は以前よりもずっと軽くなっている。抱き上げるたびに背骨が手に触れ、毛布の中にある細い足を見るのが怖かった。
母親は自分の器に残っていた粥を娘の器へ移した。しかし、娘はもう目を閉じていた。
その夜、母親は眠れなかった。
隣では娘が浅い呼吸を繰り返している。時折、苦しそうに身じろぎするたび、母親は毛布を掛け直し、冷たくなった手を両手で包んだ。
明日になれば、もっと弱っているかもしれない。
そう思うと、胸が締めつけられた。
昼間、男たちが持ち帰った缶詰のことが頭から離れなかった。明日の配給用に残された食料が、建物の奥の倉庫に保管されている。あれを一つだけでも娘に食べさせられれば、少しは元気になるかもしれない。
もちろん、それが許されないことはわかっていた。
この共同体には、たった一つだけ絶対に破ってはならないルールがあった。
外で何をしても構わない。人を襲っても、物を奪っても、それを理由に責められることはない。しかし、共同体の中で仲間の食料を盗むことだけは、決して許されなかった。
当然母親も、そのルールは知っている。
それでも、娘の寝顔を見るたびに、心が揺れつづけた。
このままでは、この子は死んでしまう。
母親はしばらく娘を見つめていたが、やがて静かに立ち上がった。
廊下には小さな明かりが一つ灯っていた。見張りの男は出入口の近くに座って居眠りしており、こちらには背を向けている。母親は足音を立てないように歩き、食料を保管している倉庫へ向かった。
扉を開けると、棚の上に缶詰が並べられていた。母親はその前で立ち止まり、震える手を伸ばした。
一つだけ。
一つだけなら、きっと……。
缶詰を手に取り、上着の内側へ隠した。
「おい……何してる?」
背後から声がし、母親は全身を硬直させた。
振り返ると、入口に一人の男が立っており、さきほど居眠りしていた男だった。その視線は、母親の胸元へ向けられている。
「……それ、出せ」
「ち、違うの……」
「出せって言ってんだよ」
男が近づき、母親の上着を掴んだ。隠していた缶詰が床に落ち、硬い音を立てて転がった。
「お前……! 何したか分かってんのか!」
「待って! お願い! 話を聞いて!」
母親が言い終えるより早く、男の拳が頬を打った。身体が横へ倒れ、母親は棚に肩をぶつけた。床に手をついたところへ、男の怒声が降ってくる。
「ここの唯一のルールを忘れたのか!」
「ごめんなさい……! ごめんなさい……! ごめ……」
「俺たちが何のために外へ出てると思ってんだ! 毎日命がけで食い物を集めてるんだぞ!」
「わかってる……! でも、あの子が……!」
「お前の子供だけが腹減らしてると思ってんのか! みんな一緒だ!」
騒ぎを聞きつけ、ほかの住民たちも集まってきた。床に座り込んだ母親と、その足元に転がる缶詰を見て、誰もが何が起きたのかを理解した。
やがて、ここの代表でもある元店長の男が人垣をかき分けて現れた。
「……何があった」
「こいつが食料を盗もうとしてたんだ……そこの缶詰だ」
男は床の缶詰を拾い上げ、元店長へ差し出し、元店長はそれを受け取ると、母親を見下ろした。
「本当か? 盗ろうとしたのか」
「……はい」
「理由は?」
「娘が……もう何日も、まともに食べられてなくて……」
「そんなことで盗んだのか」
「ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
母親は何度も頭を下げた。頬は赤く腫れ、唇の端から血が滲んでいる。
「お願いです……私の分は、もういりません。これからは何も食べなくていいです。だから、あの子だけは……」
元店長は黙っていた。周囲の人々も、誰一人として口を開かなかった。
「子供連れて……外へ出ろ」
やがて、元店長がそう言うと母親は顔を上げた。
「……え?」
「さっさと子供を連れて、ここから出ていけ」
「ま、待ってください! お願いです! もう二度としませんから!」
「いいや、駄目だ」
「何でもします! 外へ食料を探しに行きます! 危ないところでも、どこでも行きます! ここでの……数も増やします! だから……!」
「駄目だと言ってるだろ!」
男の声は静かだったが、そこには一切の迷いがなかった。
母親は周囲を見回した。
「お願い……誰か……! あの子はまだ七歳なの! 外に出されたら……!」
誰も目を合わせようとしなかった。
昼間、母親に声をかけてくれた女性も、娘と遊んでくれたことがある人も、ただ黙って立っていた。
「私が悪かったんです……! 全部、私が悪いんです! だから、あの子だけでもここに置いてください!」
母親は床に額をつけた。
「お願いします……! お願いします……!」
長い沈黙が続いた。
元店長は深く息を吐き、母親の前にしゃがみ込んだ。
「……俺たちも、人を襲う。物も盗む。食い物を持ってる奴を見つけたら、力ずくで奪うことだってある」
母親は顔を上げた。
「でもな、ここにいる間だけは盗まない。仲間からは奪わない。それが俺たちの絶対のルールだ」
男は母親の目を見つめたまま、言葉を続けた。
「外じゃ誰も信用できねえ。昨日まで普通に話してた奴が、今日は食い物のために殴りかかってくる。そんな世界で、ここに帰ってきた時まで仲間を疑わなきゃならなくなったら、俺たちはもう終わりなんだよ」
「……でも、まだあの子は……」
「わかってる。お前が子供を助けたかったのも、わかってる。俺だって同じ立場なら、何をするかわからん……」
元店長は一度言葉を切った。
「でもな……だからといって許したら、明日は別の誰かが盗む。次はそのまた別の誰かだ。そうなれば、誰も食い物を持ち帰らなくなる。ここにいる全員が、ここで生きていけなくなるんだ」
母親は泣きながら首を振った。
「お願い……お願いだから……」
「気持ちはわからんでもない。許せとも言わん」
元店長は立ち上がった。
「もう何も言うな……消えろ」
◇
夜明け前、スーパーの出入口が開かれた。
母親は小さなリュックを背負い、娘の手を握っていた。頬は腫れたままで、目の周りも泣きはらして赤くなっている。
娘はまだ状況さえ理解できていないようだった。
「お母さん……あたしたち……どこ行くの?」
「……別のところに行こうね」
「ここには……もう帰ってこれないの?」
母親は答えられなかった。
背後には、元店長をはじめとする住民たちが立っていた。誰も何も言わず、ただ親子の姿を見つめている。
母親は最後にもう一度頭を下げた。
「今まで……ありがとうございました……」
誰からも返事はなかった。
母親は娘の手を引き、雪の残る道路へ歩き出した。娘の足取りは弱々しく、何度も立ち止まっては母親の袖を引っ張った。
「お母さん……疲れたよ……」
「ごめんね……もう少しだけ……頑張ろうね」
「……お腹すいた」
「うん……どこかで食べ物を探そうね」
「……見つかるの?」
母親は答えられなかった。
ただ娘の小さな手を握りしめ、歩き続けた。
スーパーの前に立っていた人々は、親子の後ろ姿が見えなくなるまで黙っていた。誰も追いかけず、誰も呼び止めない。
やがて元店長が口を開いた。
「……扉を閉めろ」
重い扉が閉まり、外の冷たい空気が遮断された。
その日の朝も、捜索班は食料を探しに出発した。
◇
同じ頃、そこから遠く離れた大規模物流拠点では、数人の男たちが倉庫の前に立っていた。
広大な敷地には、大小数十棟もの物流倉庫や配送センターが建ち並んでいた。敷地内には大型トラックが何百台も停車できる駐車場や荷捌き場が設けられ、幾本もの構内道路が施設同士を結んでいる。かつては昼夜を問わず大量の物資が運び込まれ、全国各地へと送り出されていた、日本最大の大規模物流拠点だった。
しかし、今ではその巨大な倉庫群のほとんどが空になっていた。
男たちは政府の調査部隊に所属しており、周辺の施設を繰り返し調べていた。防寒着の上から装備を身につけた彼らの表情には、疲労の色が濃く浮かんでいる。
「うう、寒っ……もうここ調べたって、何もないよな。俺たちもいつになったら基地に戻れるんだよ……」
若い隊員がぼやくと、隣にいた男が苦笑した。
「そう遠くないだろ。他の調査隊はもうみんな撤退したし、俺たちにもすぐ指示が来るはずだ」
「それにしても、本当に……どんな組織だよ。これだけの物資を、こんな綺麗さっぱり持っていきやがって」
男は開け放たれた倉庫の扉へ視線を向けた。内部には広大な空間が広がっていたが、そこにあるはずの荷物は影も形もない。大量の商品が積み上げられていた痕跡だけが残り、まるで最初から何も保管されていなかったかのようだった。
「本当だよな……ここの倉庫は日本でも最大級だからな。もし残ってたら、十万人でも一年以上食えただろうな……」
「食料だけじゃないしな。医薬品も生活用品も、建築資材まであったんだろ? だから上がここにこだわる理由もわかる……わかるけど、もうこれ以上調べても、わからないものはわからない……本当、俺も早く基地に戻りたいぜ」
「ああ、俺もそう思う」
男たちは再び倉庫の中を見渡した。
幾度にわたる調査も、大量の物資がどこへ消えたのかは判明していない。これほどの量を運び出すには膨大な車両と人員が必要になるはずだが、その痕跡すら見つかっていなかった。
彼らが立ち去った後、巨大な倉庫には再び静寂が戻った。
かつて莫大な数の命を支えられたかもしれない物資は、今やその一つとして残されていない。
そして、そのすべてが一人の男の手に渡っていることを、彼らはまだ知らなかった。




