第37話 特異事象調査室
岩森は机の上に置かれた報告書をめくりながら、満足そうに頷いた。
「新しい部隊に入って早々、随分と活躍しているそうじゃないか」
「いえ、自分だけの力ではありません。ほかの隊員の方々に助けてもらっています」
執務机の前に立つ黒崎恒一がそう答えると、岩森は小さく笑った。報告書には、この一週間で黒崎が参加した二件の任務と、その帰還途中に発生した襲撃事件について詳しく記されている。新部隊へ配属されてから、まだ七日しか経っていない。それにもかかわらず、黒崎はすでに現場で十分な成果を上げていた。
「謙遜する必要はない。お前がいなければ苦労した場面も多かったはずだ。少なくとも、現場の隊員たちはそう評価しているぞ」
「そうですか。ありがとうございます」
黒崎は頭を下げた。新しい部隊で過ごした一週間は、これまでとは明らかに異なっていた。
◇
配属初日、黒崎が案内された部屋には、すでに数名の隊員が集まっていた。年齢も経歴も異なる顔ぶれだったが、全員が寒波の中での活動に慣れた者たちで、初めて顔を合わせる黒崎にも気さくに声をかけてくれた。
「今日からこちらでお世話になります。黒崎恒一です。よろしくお願いします」
「よろしくな。噂は聞いてるぞ。とんでもない新人が来るってな」
「いや、そんな大したものじゃ……」
「ははは! そう謙遜するなって。こっちは期待してるんだからな」
差し出された手を握りながら、黒崎は慎重に力を加減した。
以前なら握手で相手に怪我をさせる心配などしなかったが、今では日常の何気ない動作にも注意が必要だった。検査では筋力や走力、反射神経など、あらゆる数値が常人の限界を大きく超えていると判明している。しかし、その力を実際の任務でどのように使えばいいのか、黒崎自身にもまだわかっていなかった。
最初に与えられた任務は、山間部に設置された無人の気象観測所から、観測記録と測定機器を回収することだった。寒波の原因を調べるためには各地の気象データが必要だったが、観測所へ続く道路は雪に埋まり、車両で近づくことができない。一行は途中で車を降り、必要な装備を背負って山道を進むことになった。
雪はすでに降りやんでいたものの、山中には大量の積雪が残されていた。隊員たちが足場を確かめながら慎重に進む中、黒崎だけは深い雪に足を取られても、ほとんど体勢を崩さなかった。重い装備を背負っているにもかかわらず、身体は驚くほど軽く、雪に沈んだ足も簡単に引き抜けてしまう。
「いやあ、本当にすごいな。俺たちと同じ荷物を背負ってるんだよな?」
「ええ、まあ……」
「お前だけ雪のない道を歩いてるみたいだぞ」
隊員たちの笑い声に、黒崎も苦笑した。自分では普通に歩いているつもりだったが、振り返るとほかの隊員たちは随分と苦労している。黒崎は少し歩調を落とし、全員の進み具合を確かめながら歩くことにした。
観測所へ到着した時には、建物の入口が雪で完全に塞がれていた。黒崎は隊員たちの許可を得て、固く締まった雪を大きな塊ごと持ち上げ、次々と脇へ運び出した。ほかの隊員もスコップを使って作業に加わり、短時間で扉の周囲を掘り出すことができたが、今度は扉そのものが凍りついて動かなかった。
「黒崎、開けられそうか?」
「……やってみます」
取っ手に手をかけて力を込めた瞬間、金属が大きく軋んだ。慌てて手を緩めると、背後から「おいおい、扉ごと壊すなよ!」と声が飛び、隊員たちの間に笑いが起こった。結局、凍結した部分を工具で処理してから黒崎が扉を押し、ようやく建物の中へ入ることができた。
内部では観測記録の保存媒体と必要な機材を回収し、重量のあるものは黒崎が運び、精密機器の取り扱いは経験のある隊員たちに任せる。力が強いからといって、何でも一人でできるわけではないことを、黒崎は早くも実感していた。
「黒崎、覚えておいてくれ。お前にしかできないことは頼むし、俺たちに任せたほうがいいことは任せてくれ。俺たちはチームだからな」
帰り道、隊員の一人からそう言われ、黒崎は素直に頷いた。自分の身体がどれほど変わっても、仲間と協力することの大切さまで変わるわけではない。その言葉は、黒崎の中に強く残った。
数日後、二件目の任務が与えられた。今度は山中の研究施設に取り残された環境研究者の救出だった。施設には非常用電源と備蓄があり、研究者が生存していることは通信で確認できていたが、周辺道路は雪崩や倒木で塞がれ、救助車両が近づけない状態になっていた。
一行は途中から徒歩で施設を目指した。黒崎は道を塞ぐ倒木の撤去を手伝い、足場の悪い場所ではロープを使って隊員たちの移動を支援した。自分だけなら簡単に越えられる場所でも、ほかの隊員が安全に通れることを確認してから進む。最初の任務で教えられたことが、少しずつ身についていた。
研究施設へ到着すると、疲れきった顔の研究者が一行を迎えた。何日も救助を待ち続けていたらしく、隊員たちの姿を見た途端、その目に涙が浮かんだ。
「本当に……来てくれたんですね」
「遅くなりました。もう大丈夫ですよ」
黒崎がそう声をかけると、研究者は何度も頭を下げた。施設内には寒波発生前後の環境変化を記録した資料も残されており、隊員たちは救助に支障のない範囲でそれらを回収した。帰路は研究者の体調を気遣いながら慎重に進み、ようやく待機させていた車両へ戻ることができた。
問題が起きたのは、その帰り道だった。
市街地へ向かう途中、道路の前方に一台の乗用車が斜めに停められているのが見えた。運転していた隊員が速度を落とすと、乗用車の周囲にいた数人の男がこちらを振り返った。道路脇にも人影があり、その手には鉄パイプや木製の棒が握られている。
「全員、警戒!」
隊員の声とほぼ同時に、男たちが一斉に走り出した。
「おい! 食い物を出せ! 燃料もだ!」
「てめえら、政府の車だろ! 何か持ってるはずだ!」
隊員が拡声器で警告したが、男たちは引き下がらなかった。むしろ後方からも人が現れ、車両を取り囲もうとしている。
痩せこけた顔に汚れた防寒着、中にはまともな靴すら履いていない者もいる。彼らが何を求めているのかは理解できたが、こちらの車両には救助した研究者が乗っていた。
「黒崎、出られるか?」
「……はい!」
「無理に追い詰めるな。まず車両から離れさせる」
黒崎は頷き、隊員たちとともに車外へ出た。
「下がってください! この車には救助した民間人が乗っています!」
「うるせえ! こっちも民間人だろうが!」
男の一人が鉄パイプを振り上げた。黒崎は反射的に身体をずらし、肩の横を通り過ぎた鉄パイプを見送ると、相手の手首を掴んで動きを止めた。力を込めすぎないよう注意しながら腕を押さえると、男は痛みに顔を歪めて武器を落とした。
その背後から別の男が飛びかかってきたが、黒崎は振り返りざまに身をかわし、相手の勢いを利用して雪の上へ倒した。さらに横から振り下ろされた棒も、今の黒崎にははっきりと見えている。攻撃を避けて相手の懐へ踏み込み、肩を押して距離を取らせると、男は足をもつれさせて転倒した。
黒崎自身が驚くほど、身体は滑らかに動いた。相手の攻撃を見てからでも十分に間に合い、踏み込めば予想以上の距離を一瞬で詰められる。ただし、少しでも力を誤れば相手に重傷を負わせてしまうこともわかっていた。黒崎は必要以上に殴らず、武器を落とさせ、隊員たちが拘束できる状態を作ることに集中した。
隊員たちも互いを援護しながら対応し、やがて男たちの勢いは失われた。数人が武器を捨てて逃げ出し、残った者も抵抗をやめる。周囲の安全が確認されると、黒崎はようやく息を吐いた。
「怪我はありませんか?」
「ああ、こっちは大丈夫だ。お前こそ平気か?」
「はい。問題ありません」
「お前……本当に頼もしいな」
隊員はそう言って笑ったが、すぐに前方の乗用車へ視線を向けた。襲撃者たちが道路を塞ぐために置いた車は、片側の車輪が雪の塊に乗り上げ、周囲の雪も凍りついていた。簡単には動かせそうにない。
「あの、自分が押してみましょうか?」
「は……? 押すってなんだよ?」
「はい。少し横にずらせれば、通れると思うんです」
隊員たちは顔を見合わせたが、やがて一人が頷いた。
「……わかった。ただし、無理はするなよ」
黒崎は乗用車の後方へ回り、両手を車体に当てた。足元の雪を踏み固めてゆっくりと力を込めるが、車体はすぐには動かなかった。タイヤが凍った雪に食い込み、重い抵抗が両腕へ伝わってくる。黒崎は一度姿勢を整え直し、脚と腰を使って身体全体で押し始めた。
「ぐっ……!」
額に血管が浮かび上がり、腕の筋肉が張り詰める。やがて鈍い音とともにタイヤがわずかに動き、周囲から歓声が上がった。
「おっ! 動いたぞ!」
黒崎はさらに力を込めた。乗用車は少しずつ横へずれ、雪を押し潰しながら道路脇へ移動していく。最後に大きく踏み込むと、車体がもう一段横へ動き、ようやく車両が通れるだけの幅が確保された。
「これで大丈夫ですか……?」
黒崎が両手を離すと、隊員たちは呆然と車を眺めていた。
「……お前、今、手で車を押したよな?」
「ええ……結構重かったですけど」
「そりゃ重いだろうよ……」
誰かがそう呟くと、周囲に小さな笑いが起こった。
◇
「研究者は無事に保護され、観測資料も回収できた。襲撃事件でも民間人と隊員に被害は出ていない。上出来だ」
岩森は報告書を閉じ、改めて黒崎を見た。
「評価しているのは力の強さだけじゃない。現場の判断を守り、ほかの隊員と協力できている。そこが重要だ」
「ありがとうございます。まだ慣れないことばかりですが、これからも頑張ります」
「うむ。期待しとるぞ」
岩森は満足そうに頷くと、椅子から立ち上がった。
「さて、今日はもう一人、お前に会わせたい人物がいる。特異事象調査室の室長だ。以前からお前に会いたがっていてな」
「室長……ですか?」
「ああ。ちょうどいい機会だ。俺が案内しよう」
黒崎は岩森の後について執務室を出た。特異事象調査室という名前は聞いていたが、室長がどんな人物なのかは知らなかった。大学教授のような人物だろうか。それとも、政府の研究機関に長く勤めてきた研究者なのだろうか。そんなことを考えているうちに、岩森が一つの扉の前で足を止めた。
軽くノックをすると、中から妙に明るい声が返ってきた。
「どうぞどうぞ!」
岩森が扉を開けると、部屋の奥には大きな机と、壁際に並べられた書棚があった。棚には分厚い専門書や古びた資料が詰め込まれ、机の上にも何冊もの本が積み重なっている。その向こうから、一人の男が立ち上がった。
年齢は四十代後半ほど。後ろへ撫でつけた黒髪に、口元から顎にかけて整えられた濃い髭。太い眉と彫りの深い顔立ちが特徴的で、黒いシャツの上にはダークグレーのジャケットを羽織っている。がっしりとした体格も相まって、どう見ても研究機関の責任者という雰囲気ではなかった。
「紹介しよう。特異事象調査室の室長、御影宗一郎だ」
岩森の紹介が終わるより早く、御影の顔がぱっと明るくなった。
「おおっ! やっと会えたね! 黒崎君!」
「……えっ?」
御影は大股で近づいてくると、黒崎の両手を握りしめた。
「うんうんうんうん! いい顔立ちだねえ! なるほどなるほど! これが噂の黒崎君か!」
「あ、あの……黒崎恒一です。よろしくお願いします」
「いやあ、会いたかったよ! 本当に会いたかった! 君の検査結果は何度も読ませてもらったけど、やっぱり実物に会わないとねえ!」
御影は黒崎の手を離すと、今度は両肩を掴み、興味深そうに身体を眺め始めた。肩から腕へと手を移し、筋肉のつき方を確かめるように何度も揉んでいる。さらに胸板を軽く叩いたかと思えば、今度は背中へ回り込んだ。
「ほほう! 肩幅も普通だねえ! 筋肉のつき方も特別変わっているようには見えない。いやあ、実に興味深い!」
「ちょ、ちょっと……」
黒崎は助けを求めるように岩森を見たが、岩森は腕を組んだまま、呆れた顔でその様子を眺めていた。
御影は再び黒崎の正面へ戻ると、今度は前髪を持ち上げ、額を覗き込んだ。
「おや? 額に傷があるねえ」
「ああ……以前、鉄パイプで殴られた時の傷です」
「鉄パイプ! そりゃまた大変だったねえ!」
御影は額の傷を眺めた後、何事もなかったように手を離した。
「ところで黒崎君、死にかけた時のことは覚えているかい?」
「……え? どういう意味ですか?」
「ほら、光が見えたとか、誰かに呼ばれたとか、知らない場所に立っていたとか! そういう経験はなかった?」
「いえ……特には……」
「じゃあ、意識が戻った瞬間は? 身体が熱くなったり、妙な声が聞こえたりは?」
「そういうのも、ありませんけど……」
「うんうん! なるほどねえ! じゃあ最近、変わった夢を見たりはしないかい? 見知らぬ景色とか、知らない人物とか!」
「いや、普通の夢しか……」
「ほほう! それはそれで興味深い!」
御影は嬉しそうに頷き、また黒崎の腕を触ろうとした。
「御影! いい加減にしろ!」
突然、岩森の怒声が部屋に響いた。黒崎が思わず肩を震わせると、岩森は眉間に深い皺を寄せ、御影を睨みつけていた。
「お前は何をしに黒崎を呼んだと思っている! 少しはまともに挨拶をしろ!」
「おっと! そうでしたそうでした! いやあ、すみませんねえ、岩森副司令。つい興奮してしまいまして」
御影は悪びれた様子もなく笑うと、ようやく黒崎から一歩離れた。
「改めまして。特異事象調査室の室長を務めている、御影宗一郎です。よろしく、黒崎君」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「いやあ、失礼したねえ。君みたいな人に会える機会なんて、そうそうないものだから」
御影は笑いながら自分の椅子へ戻り、黒崎にも座るよう勧めた。
「さて、私のことも少し説明しておこうかな。普段は考古学や古代文明史、比較神話学なんかを研究しているんだ。世界各地の遺跡を調べたり、古い文献を読み解いたりね」
「考古学……ですか?」
「そうそう。もちろん、それだけじゃないよ。地質学や歴史学にも興味があるし、昔から各地に伝わる奇妙な伝承や、説明のつかない遺物なんかも大好物でねえ。普通の研究者があまり手を出したがらないものにも、ついつい首を突っ込んでしまうんだよ」
御影は机の上に積まれた資料を軽く叩くと、顎の髭を撫でながら楽しそうに笑った。
「まあ、簡単に言ってしまえば……俗に言う、変人ってやつだ! はははは!」
黒崎は返す言葉を失い、隣では岩森が深いため息をついていた。しかし、御影はそんな二人の反応など気にしていないようだった。
「それでね、黒崎君。君のその妙な力もそうなんだが、今回の寒波についても奇妙だと思わんかね?」
「ええ……まあ、科学的に説明できないそうですね」
「その通り! ああ、勘違いしないでくれたまえよ? 私は別に科学を否定しているわけじゃない。むしろ科学も大好きだ。ただね……」
そこまで話したところで、御影の声が少し低くなった。先ほどまで絶えず動いていた手が止まり、顔に浮かんでいた笑みもゆっくりと消えていく。
「この世界には、どうしても今の科学では説明できないこともあるんだよ」
御影は黒崎の目をまっすぐに見つめた。太い眉の下にある鋭い目が、先ほどとはまるで違う光を帯びている。その迫力に、黒崎は思わず背筋を伸ばした。
「考えてもみたまえ。これほど馬鹿げた寒波が、世界中でほぼ同時に発生したんだ。しかも、気候も地形も関係なく雪が降り続いた。こんな現象が自然に起こり得ると思うかね?」
「……いえ」
「そうだろう? 少なくとも、これまでの気象学では説明がつかない。世界中の研究者が頭を抱えているのも当然だ。だがね、黒崎君。説明できないからといって、そこで考えるのをやめてはいけない。既存の理論で説明できないのなら、別の可能性も調べる必要がある。だからこそ、私たちの研究が必要なんだよ」
それまで黙って話を聞いていた岩森が口を開いた。
「で、何かわかったのか?」
御影は少し考えるように顎の髭を撫でると、静かに首を横に振った。
「いいえ、まだはっきりとしたことはわかっていません。ただ……この寒波が自然現象ではないとしたら、一つの可能性はあります」
「なんだ、それは?」
「岩森副司令。ヨハネの黙示録はご存じですかね?」
「……聖書の話か?」
「ええ。新約聖書の最後に収められた書物で、世界の終末や最後の審判について描かれています。戦争、飢饉、さまざまな災厄が人類を襲い、やがて古い世界が終わりを迎える。そして、その先には新しい世界が訪れるとされているんです」
御影は机の上に置かれた分厚い本を軽く叩き、さらに話を続けた。
「しかし、世界の終末について書かれているのは聖書だけではありません。北欧神話にはラグナロクという終末の物語があります。その前触れとして、夏の訪れない厳しい冬が三度続く『フィンブルの冬』が語られている。ほかにも、世界が大きな災厄によって滅び、やがて新しく生まれ変わるという伝承は、さまざまな文明に残されているんですよ」
「……それで、お前は今回の寒波が、そうした終末の始まりだと言いたいのか?」
「可能性の一つとしては、ですね。もちろん、古い神話や宗教書が未来を正確に予言しているという証拠はありません。ただ、世界各地にこれほど多くの終末の記述が存在するというのは、興味深いことだと思いませんか?」
「それは研究者としての意見か?」
「もちろんです! 我々は今、現代科学でも説明のつかない現象を目の当たりにしている。ならば、これまで迷信や空想として片づけられてきたものにも、何か手がかりが隠されていないか調べてみる価値はあるでしょう?」
御影はそこで一度言葉を切り、楽しそうに笑った。
「もっとも、今のところ証拠は何一つありませんがね! はははは!」
「……まったく、お前というやつは」
岩森は呆れたように息を吐いたが、御影は気にする様子もなく、今度は黒崎へ視線を向けた。
「それにね、黒崎君。実は聖書には、もう一つ興味深い記述があるんだ」
「……なんでしょう?」
「コリントの信徒への手紙一、その十五章だ。そこには『わたしたちは皆、眠りにつくわけではありません』、そして『わたしたちは皆、今とは異なる状態に変えられます』と書かれている」
「変えられる……?」
「そう。ここでいう眠りとは死のことだよ。さらに、弱い身体が力強い身体へ変わるという記述もある。もちろん、これは本来、死者の復活についての宗教的な教えなんだけどね」
御影はそこで一度言葉を切り、黒崎の顔をじっと見つめた。
「君は一度、死にかけた。そして生還した時には、以前とは比べものにならない身体能力を手に入れていた。これって、少し似ていると思わないかい?」
「……確かに、言われてみれば」
「世界が変わり始めた。そして、人間の身体にも変化が現れた。もし、この二つが無関係ではないとしたら……」
御影の声が低くなった。先ほどまでの陽気な笑みが消え、鋭い眼差しが黒崎を捉える。
「君は、これまでの人間とは違う存在になったのかもしれない」
「……違う存在?」
「そう!」
御影は再び満面の笑みを浮かべた。
「俗に言う、新人類ってやつさ! はははは!」




