第15話 Day 1 始まり
翌朝。
氷河期、当日。
「……ちょっと寒いな。」
蓮は目を覚ますと、思わずそう呟いた。
窓を開けてみると、十一月とは思えない冷たい空気が部屋の中へ流れ込んでくる。外を見ると空はどんよりと曇っており、まだ雪は降っていないものの、肌を刺すような冷気がゆっくりと街全体を包み始めていた。
蓮は窓を閉め、そのままテレビをつける。
『おはようございます。本日は全国的に気温が大幅に低下しております。』
『十一月としては観測史上最低気温を更新した地域も確認されています。』
画面には全国各地の映像が映し出されていた。東京、大阪、福岡。どの街も厚い雲に覆われ、人々は腕をさすりながら駅へ向かっている。
街頭インタビューでは、まだ誰も深刻そうな顔をしていなかった。
「今日、やたら寒くない?」
「息が白いんだけど。」
「エアコン壊れたかと思ったよ。」
「今年は異常気象だね。」
会社へ向かう人もいれば、学校へ向かう学生もいる。街は普段とほとんど変わらず動いていた。
昼前。
気温はついに氷点下へ突入した。
そして、空から白いものが舞い始める。
「雪だ!」
「あ、本当に降ってる!」
「十一月に雪なんて初めて見た!」
スマートフォンを空へ向ける人、雪を撮影する若者、嬉しそうに走り回る子どもたち。突然の雪に戸惑いながらも、まだそこに恐怖はなかった。
SNSには、
『十一月の初雪!』
『ヤバい! めっちゃ綺麗!』
『これ一生に一度じゃない?』
そんな投稿が次々と流れていく。
蓮だけは、静かに窓の外を見つめていた。
「……まだ笑えるか。」
午後。
雪はさらに勢いを増し、気温も下がり続けた。
道路では車がスリップし始め、各地で追突事故が発生する。高速道路では速度規制が始まり、電車にも少しずつ遅れが出始めていた。
それまで通常番組を流していたテレビ局も、次々と緊急特番へ切り替わる。
『この寒波の原因は現在も分かっていません。』
『専門家によりますと、極めて異例の気象現象とのことです。』
画面には気象学者たちが難しい表情で並んでいた。
「ここまで急激な気温低下は前例がありません。」
「原因は偏西風の蛇行では説明できません。」
「数十年に一度……いえ、観測史上初の現象です。」
その隣には、どこかで見たことのある自称・予言者まで呼ばれていた。
「これは世紀末の始まりです!」
「人類への警告ですよ!」
スタジオが一瞬だけ静まり返る。
次の瞬間、司会者が苦笑した。
「いやいや、それは少し大げさじゃないですか。」
共演者からも小さな笑いが漏れる。
予言者は、それでも構わず熱弁を続けた。
「笑っていられるのは今だけです!」
蓮はその様子を見ながら、小さく笑った。
「今までは胡散臭い連中だと思ってたが……。」
「案外、当たってるな。」
夕方になる頃には、街の空気も少しずつ変わり始めていた。
スーパーでは防寒用品の棚が空になり始めている。カイロ、毛布、ストーブといった商品が次々と消え、レジには長い列ができていた。
店内では、不安そうな声が飛び交っている。
「灯油、まだある?」
「念のため食料も買っておこう。」
「こんなの数日で終わるよね?」
夜。
外気温はさらに下がり続け、テレビでは、
『今夜から明日にかけて、さらに急激な冷え込みが予想されています。』
と、何度も繰り返し報じていた。
マンションの住人たちも、夜になってから慌ただしく動き始めている。
「押し入れから厚い布団出してくる。」
「去年の毛布どこにしまったっけ?」
「電気毛布まだ使えるかな。」
「あー……まだ冬物買ってなかった。」
「明日デパートに寄らなきゃ。」
誰もが、
“明日も普通に買い物へ行ける”
そう信じていた。
蓮は暖炉の前へ座り、静かにコーヒーを口へ運ぶ。
窓の外では、雪が降り続けていた。
「……本当の地獄は、明日からだ。」
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Day 1
外気温 -8.7℃
積雪 18cm
電力 ○
ガス ○
水道 ○
通信 ○
【今日のメモ】
「まだ誰も、本当の恐怖を知らない。」
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