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氷河期ストレージ ~雪が止んだ日、世界は再び動き始めた~  作者: 宵白レン
第二章

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第7話 分屯地

 助手席のドアが開く音がして、蓮はそちらへ顔を向けた。


 車から降りてきた朝霧は、冷たい空気に目を細めながら周囲を見回し、やがて分屯地の入口にできた巨大な雪山へ視線を止めた。


 つい先ほどまで、そこには十数人の若者たちがいた。


 鉄パイプや工具を手に蓮たちを囲み、酒とタバコだけでなく車まで奪おうとしていた彼らの姿は、もうどこにも見えない。代わりに残されているのは、大量の雪と氷が折り重なった白い山だけだった。


「あの子たちも、まさか毎日見ているこの雪でこうなるなんて、夢にも思わなかったでしょうね」


「だろうな」


 蓮はそう答えてから、隣に立つ朝霧へ目を向けた。


「お前はもう驚かないんだな」


「慣れるっていうのも変な話だけど……これも彼らが選んだ結果ね」


 朝霧は雪山から目を逸らさなかった。


 その下に何があるのか、分かっていないわけではない。それでも以前のように蓮を責めることも、彼らを助けられなかったことを悔やむこともしなかった。


「もうこの世界で百日以上生きてきたんだから、自分が取った行動には自分で責任を取るしかないわね」


「分かってきたじゃないか」


「お陰さまでね」


 そこでようやく朝霧は雪山から目を離し、蓮へ顔を向けた。


「それで、どうするの?」


「まずは片付ける」


 蓮はそう答えるなり、右手を雪山へ向け、次の瞬間に大量の雪が一気に消失した。


 その中に埋もれていた若者たちの遺体も、蓮は雪と一緒に《パンドラ》へ収納した。さらに周囲を確認しながら、雪の上に散らばっていた鉄パイプや工具、彼らの持ち物まで順番に消していく。


「……死体まで持っていくのね」


「こんな状態で残しておく方が面倒だからな」


 若者たちが運んできた大きなケースも忘れない。


 蓮が蓋を開けると、中には彼らが取引に出すと言っていた防護装備がいくつも入っていた。細かな確認はあとでできるため、今はケースごと《パンドラ》へ収納する。


 少し離れた場所には、蓮が取引用に用意した酒とタバコの入ったバッグも残されていた。


 それも回収すると、先ほどまで十数人の若者が騒いでいた入口から、人がいた痕跡のほとんどが消えた。


「ずいぶん念入りね」


「ここは普通の廃墟じゃないからな」


 蓮は周囲に不自然なものが残っていないか確かめながら答えた。


「今はいなくても、元の持ち主が戻ってこないとは限らない」


「自衛隊がってこと?」


「可能性はある。ここを完全に捨てたのか、一時的に離れただけなのか、俺たちには分からないからな」


 朝霧は納得したように頷いたあと、ふと正門の上へ視線を向けた。


「そういえば蓮、ここって自衛隊の施設でしょう? 監視カメラとかは大丈夫なの?」


「それなら先に確認した」


 蓮も正門脇へ目を向ける。


 そこには監視カメラらしきものが残されていたが、正常な状態とは言い難かった。レンズ部分は砕かれ、別のものは不自然な方向を向いたまま固定されている。


「多分あいつらが壊したんだろうな。ここに来た時にまず確認した」


「だから、さっきあんな派手なことをしたのね」


「ああ、記録が残る可能性があるなら、さすがにあんなことはしない」


「そこまで確認してたのね……」


「自衛隊の施設の目の前で能力を使うんだ。それくらいはするだろ」


 蓮は最後にもう一度入口周辺を見回した。


 完全に痕跡を消せたとは思っていない。蓮は警察でもなければ、犯罪捜査の専門家でもない。ただ、目立つものをそのまま残しておくよりは遥かにましだった。


「よし」


 蓮は誰もいなくなった分屯地の奥へ目を向けた。


「もうあいつらもいないんだ。中もちょっとお邪魔させてもらうか」


「そう言うと思ったわ」


 二人は正門を抜け、そのまま分屯地の中へ入った。


 敷地内には用途の異なる建物が一定の間隔を空けて並び、その間を構内道路が通っている。雪はかなり残っていたものの、若者たちが長く生活していたためか、入口からいくつかの建物へ向かう道には何度も人が行き来した跡が残されていた。


「思っていたより広いのね」


「一応、ここも自衛隊の施設だからな。ただ、大きな駐屯地ほどじゃなかったと思う」


「だったと思う?」


「寒波が来る前にネットで調べただけだからな。拠点の候補を探してた時に、公開されてる情報は一通り見た」


 蓮は歩きながら、前方に見える建物へ目を向けた。


「あれが確か庁舎だったと思う。その隣が隊舎だったはずだ。ほかにも車庫や整備場、それと倉庫がいくつかあったと思う」


「……あなた、まるでここで勤めてたみたいね」


「普通にネットで公開されてたんだよ。建物の配置が分かる資料まであったぞ」


「軍の施設なのに?」


「もちろん全部じゃないだろうけどな。そう考えると、日本って変な国かもな」


「平和だったってことじゃない?」


「かもしれないな」


 話しているうちに、二人は庁舎らしき建物の前までやってきた。


 入口の扉は開いたままになっている。中まで入らなくても、若者たちが何度も出入りしていたことは分かった。入口付近には空の段ボール箱やペットボトルが転がり、窓の一部も割れている。


 隣にある隊舎らしき建物も似たような状態だった。


「ここは見ないの?」


「ああ、ここはもういいだろ」


 蓮は足を止めることなく、そのまま通り過ぎた。


「あいつらがここに住み着いてから、それなりに経ってるはずだ。さっきも建物の中や寮みたいなところに残ってたものしかなかったって言ってただろ」


「そういえば言ってたわね」


「なら、事務所や生活する場所なんかはとっくに漁られてる。今さら俺たちが見ても、大したものは残ってないだろ」


 食料や日用品にも困っていない。


 蓮がこの分屯地まで来た目的は、もっと別のところにあった。


「まあ、一通り歩いてみるか。俺も中まで知ってるわけじゃないからな」


「ええ」


 二人は庁舎と隊舎を通り過ぎ、さらに敷地の奥へ進んだ。


 しばらくすると、これまでとは形の違う横長の建物が見えてくる。大きな開口部がいくつも並び、そのうち何か所かはシャッターが開いたままになっていた。


 二人が中を覗くと、その広さに対して中身は驚くほど少なかった。


 本来なら複数の車両が並んでいたと思われる空間には、大きな空白が広がっている。床には長期間同じ場所に車両が置かれていたような痕跡が残っているものの、その大部分から肝心の車両だけが消えていた。


 奥には一台だけ車両らしきものが残されている。


「車庫にしては、ほとんど何も残ってないわね」


「使える車両は全部持っていったんだろうな」


 朝霧は広い車庫を見回したあと、奥に一台だけ残された車両へ目を向けた。


「あれだけ残ってるけど?」


「わざわざ置いていったってことは、何か理由があるんだろ。故障してたのかもしれないしな」


「調べてみる?」


「いや、車なら間に合ってる。それより他を見よう」


 蓮は車庫を出ると、その隣にある建物へ向かった。


 こちらにも大きなシャッターがあり、中には車庫とは違って様々な設備が残されている。床には作業用と思われる区画があり、壁際には棚や作業台が並んでいた。


「こっちは整備場だろうな」


「車を直したりする場所ね」


「ああ。公開されてた資料でも、確かこの辺だったはずだ」


 中へ入った蓮は、棚や作業台を眺めながらゆっくり歩いていく。


 工具類は完全になくなっているわけではなかった。棚には交換用と思われる部品や消耗品が残され、作業台にもいくつか工具が置かれている。


 しかし、その一方で空になった棚や、不自然なほど何も置かれていない区画も目についた。


「全部持っていったわけじゃないのね」


「必要なものだけ選んだんじゃないか? 残ってるのは部品とか、すぐには使わなそうなものばかりだ」


 蓮は棚に残されていた工具を一つ手に取り、状態を確かめてから元へ戻した。


 施設全体を放棄して慌てて逃げた、という印象とは少し違う。


 残されているものと、なくなっているものに明確な偏りがあった。


「そう考えると、発電機みたいなものが残っててもよさそうだけど……」


「可搬式のやつは見当たらないな。移動した先でも必要になるから、持っていったんだろ」


 蓮は周囲を見回した。


 建物そのものに組み込まれた設備や、簡単には動かせそうにないものは残っている。その一方で、持ち運んですぐ使えそうな設備ほど姿を消していた。


「寒波は日に日に酷くなってた。道路だって、いつまで使えるか分からなかったはずだ。全部持ち出す余裕がなかったなら、人間と一緒に必要なものから運んだんじゃないか」


「食料に燃料、発電機……それに通信設備なんかも必要になるものね」


「ああ。まあ、実際にどうだったかは分からんけどな」


 蓮はそう付け加えた。


 ここにいた部隊がどんな命令を受け、いつ、どこへ向かったのかまでは分からない。


 それでも、目の前に残されたものを見る限り、何も考えずにここを出たわけではなさそうだった。


 整備場を出てさらに奥へ進むと、今度はいくつかの倉庫らしき建物が見えてきた。


 最初に近づいた倉庫の扉は、すでに大きく傷んでいる。


 鍵の周辺には何度も何かを差し込んだような傷が残り、扉の一部は歪んでいた。完全に破壊されたわけではないものの、すでに開けられる状態になっている。


「これは自衛隊がやったんじゃないわよね?」


「この荒らし方を見れば分かるだろ。あいつらだ」


 中へ入ると、予想通りだった。


 棚から引きずり出された箱が床に散乱し、中身を確認するために開けられた包装や空箱がそこら中に転がっている。何が使えるのか分からないまま、とにかく片っ端から開けて調べたような荒らされ方だった。


「かなり漁ってるわね」


「あいつらも時間だけはあっただろうからな」


 それでも、すべてが持ち去られているわけではない。


 蓮は棚を順番に確認しながら、使えそうなものを探していった。


 やがて見つけた箱を開き、中身を見た瞬間、蓮の手が止まる。


「……あった」


 朝霧が隣から覗き込む。


 中に収められていたのは、若者たちが持ってきたケースにも入っていたものと似た防護装備だった。


「これね。あなたがここまで来て欲しがってたの」


「ああ。これだけでも寄った甲斐はあったな」


 蓮は一つを取り出して状態を確かめる。


 細かな種類や性能までは分からない。それでも、身体を守るための装備だということくらいは見れば分かる。


 さらに別の箱からはヘルメットや目を保護するための装備らしきものも見つかった。


「でも、思ったよりたくさん持っていくのね」


「俺だけが使うとは限らないからな」


「……そう」


 朝霧は何か言いたそうに蓮を見たが、それ以上は聞かなかった。


 蓮は使えそうなものを箱ごと《パンドラ》へ収納していく。


 今の蓮にとって、食料や衣類を手に入れることにはそれほど大きな意味はない。しかし、こうした防護装備は別だった。


 《パンドラ》がどれだけ強力でも、蓮自身の身体が銃弾を弾くわけではない。


 見えていない場所から撃たれれば死ぬ。


 不意を突かれて頭を殴られても死ぬ。


 だからこそ、身体を守れるものはいくらあっても困らなかった。


「防具は見つかったけど、暗視装置みたいなものはなさそうね」


「こういう一般装備と一緒には置いてないのかもな。撤収するときに持っていった可能性もある」


「せっかくここまで来たんだし、残ってればいいわね」


 一般倉庫を出た二人は、さらに奥へ進んだ。


 そして次の建物を見た時、蓮は足を止めた。


 先ほどの倉庫とは明らかに違う。


 入口の造りからして頑丈で、扉にも何度も工具を叩きつけたような傷が残されている。周囲には壊れた工具まで転がっていたが、それでも扉そのものは閉じたままだった。


「ここにも、あの人たちが開けようとした跡があるわね。でも、こっちは諦めたみたい」


「一般倉庫とは造りが違うからな。ここまで厳重なら、何かありそうだ」


 蓮は扉の前まで近づき、周囲を確認する。


 公開されていた情報だけでは、この建物の中に何があるのかまでは分からなかった。


 しかし、ここまで厳重に守られている場所なら、少なくとも一般の日用品を置くための倉庫ではないだろう。


「でも、これをどうやって開けるの?」


 朝霧が聞いた直後だった。


 蓮が扉へ手を伸ばす。


 次の瞬間、それまで目の前を塞いでいた重い扉が、何の音もなく消えた。


「…………」


 朝霧はしばらく何も言わなかった。


 ぽっかりと開いた入口と蓮を交互に見たあと、ようやく口を開く。


「本当、なんでもありね……」


「扉は扉で一つの物体だからな」


「あなた、銀行強盗し放題じゃない」


「今さら銀行にある金なんて、鼻紙にもならんだろ」


「……それもそうね」


 二人は開いた入口から中へ入った。


 照明はつかない。


 蓮が持っていたライトで内部を照らすと、壁際に並ぶ保管設備と、その中に残されたものが少しずつ暗闇の中から浮かび上がった。


「……銃まで残ってたのね」


「ああ。大半は持っていったみたいだけどな」


 詳しい種類までは分からない。


 だが、拳銃らしきものと、これまで映像などで見たことのある小銃に近い形のものが残されていた。


 数は多くない。


 むしろ空いている場所の方が遥かに多かった。


「全部運ぶ余裕はなかったのかしら」


「時間がなかったのか、別の理由があったのか……そこまでは分からん」


 蓮は残された銃器を順番に《パンドラ》へ収納していく。


 その中には、ほかの小銃より明らかに長く、形の違う銃も一本だけ残されていた。


「こっちはずいぶん長いわね。これも小銃なの?」


「さあな。多分、狙撃に使うやつとかじゃないか?」


「本当に銃には詳しくないのね」


「使ったこともないんだから当たり前だろ」


 蓮はそれも迷わず収納した。


 使い方が分からなくても、ここへ置いていく理由はない。必要になれば、その時に調べればいい。


  蓮が残された銃器を順番に《パンドラ》へ収納している間、朝霧もライトを手に周囲を見て回っていた。


 ほとんどの棚は空になっており、残されているものより、持ち出されたものの方が遥かに多い。


 そんな中、棚の横を通り過ぎようとした朝霧が、不意に足を止めた。


「……蓮、ちょっと来て」


「今度はなんだ?」


「ここに何か落ちてる」


 朝霧がライトを向けた先には、棚と壁の間に半ば入り込むようにして、黒いケースが一つ落ちていた。


 蓮が引っ張り出して蓋を開ける。


 中に収められていたのは、ゴーグルのような形をした黒い装置だった。


「これ……あなたが探してたものじゃない?」


「暗視装置……だよな?」


「見た感じはそうね」


「これは当たりだな」


「防具どころか、ちゃんと目的のものまで残ってたわね」


「ああ。来た甲斐はあったな」


 蓮はケースごと《パンドラ》へ収納した。


 その後も中を確認し、使い道がありそうなものは細かく選別せずに収納していく。


 今は必要かどうか判断できなくても、あとから必要になる可能性はある。


 《パンドラ》の中で場所を取る心配もない以上、残していく理由はなかった。


 そして、かなり奥まで進んだところで朝霧が立ち止まった。


「……蓮。ちょっとこっちに来て」


「今度は何を見つけた?」


「私に聞かれても分からないわよ。あれ」


 朝霧が指差した先をライトで照らし、蓮も黙った。


 そこには、明らかにこれまでの銃とは違うものが残されていた。


 太い銃身が何本も束ねられ、その周囲には大きな架台や、何に使うのか分からない装置まで一緒に置かれている。


 正確な名前など知らない。


 それでも、蓮にも一つだけ分かることがあった。


「……映画なんかで見るような機関銃だな」


「やっぱりそうよね。見た目からして普通の銃じゃないもの」


「すごそうなのは分かる」


「それで、あなた……これ使えるの?」


「いや、さっぱり」


「そこは即答なのね」


「知らないものは知らない」


 蓮は巨大な機関銃らしきものへ近づいた。


 これだけのものがなぜ残されていたのか、正確な理由は分からない。


 ただ、ここまで見てきた施設の状況から推測できることはあった。


「見るからに重そうだけど、これも置いていったのかしら」


「運ぶのが大変だったのかもしれないな。寒波が酷くなって、道路がいつまで使えるか分からない状況だったんだ。全部運べないなら、人間を生かすための物資や設備を優先するだろ」


「それなら、こんな大物より発電機や食料を積むでしょうね」


「武器も大半は持っていってるみたいだし、その辺は優先順位の問題だったのかもな」


 蓮は巨大な機関銃を見上げた。


 使い方は分からない。


 そもそも、これを使う日が来るのかどうかも分からない。


「でも、なんかで役に立つかもしれんし……まあ、置いていく理由もないな」


 次の瞬間、巨大な機関銃とその周囲に残されていた装備がまとめて消えた。


「使い方は分からないのに、持っていく判断だけは早いのね」


「重くても俺には関係ないしな」


 一通り中を確認し終え、二人は入口へ戻った。


 しかし蓮はそのまま外へ出ようとはせず、《パンドラ》から先ほど収納した扉を取り出した。


「ちょっと待ってろ」


「今度は何を始めるのよ」


 蓮は扉を少し離れた場所へ置くと、今度は以前に回収していたぶ厚い鉄板や鉄塊を扉の上空から《パンドラ》で出してぶつけた。


 朝霧が見守る中、同じ方法でそれらを使って扉に何度も強い衝撃を加えていく。


 鈍い音が響くたびに扉はへこみ、縁が大きく歪んでいった。


 さらに蓮は入口側にも同じように傷を残し、扉だけでなく、その周囲まで何らかの強い力で破壊されたような状態にしていく。


「……何してるのよ」


「偽装工作」


「武器庫を壊して入ったように見せるつもり?」


「ここは自衛隊の施設だ。いつか戻ってくるかもしれない」


 十分に傷をつけたところで、蓮は使った鉄板や鉄塊だけを《パンドラ》へ戻した。


 そして歪んだ扉も一旦収納し、入口のすぐ脇で再度取り出した。


「武器庫の扉だけ綺麗になくなってたら不自然すぎる。これなら何か大きな機械でも使って強引に壊したように見えなくもないだろ?」


 朝霧は無残に変形した扉と、その周囲に残された傷を見比べた。


「そんなんで上手くいくの?」


「扉だけなくなってるよりはリアルだろ」


「まあ、誰かが扉を消したなんて想像もできないでしょうからね」


「そういうことだ。まあ、時間稼ぎだ」


 専門家が本気で調べれば、不自然な部分は見つかるかもしれない。


 それでも構わない。


 蓮がここでやりたいのは、完璧に誰かを騙すことではなかった。


 少なくとも、見た瞬間に説明のつかない状態だけは残さない。


 それで十分だった。


 武器庫を出たあとも、二人は周辺を調べた。


 そして少し離れた場所に、先ほど以上に厳重な造りをした保管場所を見つけた。


 扉にはやはり傷が残されている。


 若者たちはこちらにも挑戦したらしいが、結果は同じだったようだ。


 朝霧は扉を見たあと、今度は蓮を見る。


「……もう聞くまでもないわね」


「その方が早い」


「でしょうね」


 先ほどの驚きはもうなかった。


 蓮が手を伸ばすと、再び扉が消える。


 中へ入り、ライトを向けたところで、今度は朝霧もすぐに何が置かれている場所なのか理解した。


「……今度は弾薬ね」


「ああ。ここが弾薬庫みたいだな」


 箱や容器に収められた弾薬が残されている。


 こちらの方は大量とまでは言えないが、先ほどの倉庫よりは棚を埋めていた。


 残っている量は蓮一人が使うことを考えれば十分すぎるほどだった。


 朝霧は箱に書かれた表示を眺めたものの、すぐに諦めたように顔を上げた。


「さっきの銃に使う弾も、この中にあるのかしら?」


「多分な。どれがどれかは知らんけど」


「そうだったわね。あなた、銃には詳しくないんだった」


「銃と一緒に持っていけばいい。あとで調べるか、分かる奴がいれば聞けばいいだろ」


「ずいぶん先任せね」


「置いていくよりはいい」


 蓮は残されていた弾薬を箱ごと順番に《パンドラ》へ収納していった。


 使えるかどうかは後で確認すればいい。


 今ここで一つ一つ調べる必要もない。


 最後の箱まで収納すると、先ほどと同じように扉へ偽装を施し、入口のすぐそばへ置いた。


「二回目になると、もう驚きもしないわね……」


「俺も慣れた」


「普通は慣れるような作業じゃないと思うけど」


「俺に言うな」


 一通り見て回った頃には、分屯地へ入ってからかなりの時間が経っていた。


 蓮は最後に周囲を確認し、ほかに目立って使えそうなものがないことを確かめると、朝霧とともに正門へ戻った。


 結果だけを見れば、当初考えていた以上の収穫だった。


 目的だった防護装備だけでなく、暗視装置まで手に入った。それどころか、期待していなかった銃器や弾薬、使い方さえ分からない大型の機関銃まで、今はすべて《パンドラ》の中に収まっている。


 蓮は分屯地を出たところで《パンドラ》から車を取り出した。


 二人が乗り込み、エンジンをかけると、静かだった車内に暖房の音が流れ始める。


 朝霧はシートベルトを締めながら、背後に遠ざかっていく分屯地を一度振り返った。


「結局、防具を取りに来ただけだったはずなのに、ずいぶん増えたわね」


「使えるものを置いていく理由もないだろ」


「ええ。そこはもう聞かなくても分かるわ」


 朝霧は小さく笑うと、前へ向き直った。


 そこで何かを思い出したように蓮を見る。


「そういえば、結局聞いてなかったわね」


「何を?」


「ここからどこを目指すの?」


 蓮はすぐには答えなかった。


 フロントガラスの向こうには、雪に覆われた道路が続いている。そのさらに先には白く染まった山々が重なり、これから向かう場所はその向こうにあった。


 やがて車を発進させながら、蓮は一言だけ答えた。


「それは……」

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― 新着の感想 ―
これで自衛隊とか別のまともな組織と取引できるし、拠点を武装で固めることもできるね。こういう終末期には武力が重要ですね。
銃ゲットだぜ!
 火薬も劣化するから、パンドラ保管はそれが無いのがありがたい点ですね。
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