第111話 Day 72 氷河期ストレージ
目を覚ました黒崎が最初に感じたのは、頭の奥に居座り続けている鈍い痛みだった。
昨日、意識を取り戻した直後のような激痛ではない。それでも枕の上で少し頭を動かすだけで、額の奥から後頭部へ重いものが響き、身体が反射的に動きを止める。目を閉じれば、痛みと一緒にあの時の光景まで蘇ってきそうで、黒崎は薄暗い天井を見上げたまま、ゆっくりと息を吐いた。
昨日ここで目を覚ました時、自分が生きていることさえすぐには理解できなかった。
意識が戻って間もなく、白衣を着た男と看護師らしき女性が部屋へ入ってきた。名前を聞かれ、今日がいつか分かるかと尋ねられたあと、瞳孔や手足の動き、吐き気やめまいの有無まで一通り確認された。
頭の傷も改めて処置され、少なくとも現時点で命に関わるような異常は見られないと説明されたが、強く頭を打っているため、しばらくは安静にするよう念を押された。
黒崎はその間に何度か、自分を誰が助けたのか、ここがどこなのかと尋ねた。しかし返ってくるのは「今は休んでください」という言葉ばかりで、詳しいことは何も教えてもらえなかった。
結局、その日はほとんど眠って過ごした。目を覚ますたびに四人のことを思い出し、そのたびに考えるのをやめるように目を閉じる。眠っている間だけは何も考えなくて済んだが、目を覚ませば自分だけが生きているという事実が待っていた。
そして今日。
朝になって再び診察を受け、傷の状態を確認した医師から昨日と同じように安静を言い渡された。看護師とともに医師が部屋を出ていくと、周囲は再び静かになった。
黒崎はベッドへ身体を預けたまま、窓のない部屋を見回した。
暖房が効いているのか室内は暖かく、清潔なシーツも、身体に掛けられた毛布も、つい数日前まで自分がいた外の世界とはあまりにもかけ離れている。ここが保護地域なのか、それともまったく別の施設なのかさえ分からない。
やがて、廊下から足音が聞こえた。
一定の間隔で近づいてきた足音が扉の前で止まり、間を置かずにドアが開く。
「大丈夫か。気分はどうだ」
その声を聞いた瞬間、黒崎は反射的に顔を向けた。急に動いたせいで頭に痛みが走ったが、それよりも扉の前に立っている男の方が気になった。
「……先輩?」
「おう」
岩森だった。
以前とほとんど変わらない様子で短く返事をすると、岩森は部屋へ入り、扉を閉めてからベッドのそばに置かれた椅子へ腰を下ろした。
黒崎はしばらく何も言わずに岩森を見ていた。なぜここにいるのか。自分を助けたのは岩森なのか。ここはどこなのか。聞きたいことはいくらでもあったはずなのに、実際に本人を前にすると、それらより先に別の言葉が口から出た。
「俺……襲われたはずですよね?」
「ああ」
岩森は否定しなかった。
黒崎の喉がわずかに動く。
「一緒にいた四人は……?」
その問いに、岩森はすぐには答えなかった。
ほんの数秒だった。だが、その数秒だけで十分だった。
黒崎は視線を落とした。聞かなければよかったと思う一方で、聞かずに済ませることなどできるはずもなかった。
「死んだ。俺の部隊が着いた時には、もう全員な」
「……そう、ですか」
「助けられたのは、お前だけだ」
分かっていた。
昨日から何度も、意識を失う直前の光景が頭の中へ戻ってきている。倒れた四人があのあと起き上がったのではないか、誰か一人くらいは生きていたのではないかと考えたこともあったが、それがただ自分に都合のいい願望であることも分かっていた。
それでも岩森の口からはっきりと「死んだ」と告げられると、胸の奥に残っていたわずかな逃げ道まで塞がれたように感じた。
自分が食料を分けた四人。一緒に行こうと声をかけた四人。
少なくともあの時、自分は正しいことをしているつもりだった。
だが、最後に残ったのは四つの死体と、自分だけだった。
黒崎が黙り込んでも、岩森は慰めるような言葉をかけなかった。無理に励ますことも、今は考えるなと言うこともなく、ただ椅子に座って待っている。
どれくらいそうしていたのか分からない。
やがて黒崎は顔を上げた。
「……じゃあ、なんで俺がここにいるんですか?」
「お前に渡したリュック、覚えてるか?」
「リュック?」
「第七号を出る時に渡したやつだ」
忘れるはずがなかった。
食料と最低限の生存用品が入ったリュック。岩森から「その食い物はお前が食え」と言われて渡されたものだ。
「あれにGPSを入れてた」
「……GPS?」
思いもよらなかった言葉に、黒崎は岩森を見つめた。
「なんでそんなものを……俺を監視してたんですか?」
「そう言われても仕方ないな。ただ、勘違いするなよ。どこまで行っても追いかけられるようなもんじゃない。こっちで信号を拾える範囲にも限界がある。お前がそのまま遠くまで移動してたら、それで終わりだった」
「じゃあ、ずっと俺の位置を見てたわけじゃ……」
「俺がお前一人のために一日中画面へ張りついてたと思うか?」
岩森が呆れたように言った。
「近くで動いてる部隊に、信号の動きがおかしくなったら確認するよう伝えてあっただけだ」
「動きが、おかしくなった……?」
「ああ。移動速度が遅いのは最初から分かってた。途中で建物へ入って何時間も動かなくなることもあったが、それも休んでると考えれば不自然じゃない。少なくとも、そこまでは俺たちも何もしてない」
岩森はそこで一度言葉を切った。黒崎の脳裏に、自分たちが歩いてきた数日間が蘇る。確かに移動は遅かった。誰かの足が止まれば休み、身体を冷やさないために建物へ入り、そこで何時間か過ごしてから再び進む。その繰り返しだった。
「だが、途中から明らかに動きが変わった。急に速度が上がったと思ったら、今度は短い間隔で建物を転々とし始めた。入って、しばらくして出る。また次の建物へ向かう。その繰り返しだ」
「……あいつらだ」
黒崎が小さく呟く。
自分たちを襲った男たちは、リュックを奪っていった。
「ああ。たぶんな。ああいう連中の動きはもう何度も見てる。生存者を狙う奴もいれば、建物を一つずつ漁って使えそうなものだけ持って次へ行く奴もいる。経験上、信号を見れば、お前たちとは別の連中がリュックを持って動いてる可能性が高いと判断できた」
そこで岩森は近くにいた部隊へ連絡し、信号の動きが変わる直前、黒崎たちが長く滞在していた建物を確認させた。
その結果、そこで四人の遺体と、辛うじて息の残っていた黒崎が発見された。
もし襲った男たちがリュックを奪わなければ、信号の動きは変わらなかった。もし彼らがその場にリュックを捨てていれば、誰も異変に気づかなかったかもしれない。
自分を殺しかけた男たちが食料欲しさに奪ったリュック。その行動が、結果として自分が発見されるきっかけになった。
「……それで、俺は助かったんですか」
「そういうことだ」
黒崎はしばらく天井を見上げていたが、やがて視線を岩森へ戻した。
「俺が……弟さんに似てるからですか?」
今度は岩森の方が少しだけ黙った。
「まあ、そんなところだ、立て続けに死なれるのがちょっと嫌でな……」
「……ありがとうございます」
「まあ、それについてはもう気にするな」
岩森はそれ以上、その話を続けようとはしなかった。代わりに椅子へ深く座り直すと、先ほどまでとは違う目で黒崎を見る。
「それよりお前、食いもんを分けただろ」
「……はい」
「なんでだ」
黒崎の表情がわずかに固まった。
「第七号を出る時、俺がなんて言ったか覚えてるよな。その食い物はお前が食え。他の奴らに渡すな。まず自分が生きることを考えろって」
「……はい」
「なのに分けた」
責めるような言い方ではなかった。ただ事実を確認しているだけのような口調だったからこそ、黒崎はすぐに答えられなかった。
「自分でも……よく説明できません」
「説明できない?」
「駄目だってことは、頭では分かってるんです。食料に余裕があるわけじゃないことも、この世界で他人を簡単に信用しちゃいけないことも。でも……目の前に困ってる人がいると、つい……」
「後悔してるか?」
黒崎の言葉が止まった。
あの四人へ食料を渡したことを後悔しているのか。もしあの瞬間へ戻れるなら、今度は彼らを見捨てて一人で立ち去るのか。
答えようとすればするほど、自分でも分からなくなった。
「正直……自分でもよく分かりません」
「じゃあ聞き方を変えるぞ」
岩森は黒崎から目を逸らさなかった。
「もしあそこに現れたのが、あの強奪者たちじゃなくて、お前たちよりもっと困ってる連中だったらどうしてた?」
「もっと……?」
「子供を連れた家族が何組もいて、全員腹を空かせてる。何日もまともに食ってなくて、このまま放っておけば死ぬ。そんな奴らがお前の前に現れたら、どうしてた?」
「……分かりません」
「いや、お前ならきっとまた分けただろうな」
黒崎は否定できなかった。
「じゃあ、そいつらに分けたせいで食料が残り少なくなった。そのあとに、もっと飢えた人間が現れたらどうする?」
「……」
「それでも分けるのか? じゃあ最後の食い物まで全部配ったあとに、さらに困ってる奴が現れたら? もうお前には何もない。先に渡した連中から取り上げて、今度はそいつに渡すのか?」
黒崎は答えを探した。
だが、何を言っても間違っている気がした。
「……分かりません」
「お前、いい加減にしろよ」
岩森の声が低くなった。
これまで淡々と話していた男の雰囲気が明らかに変わり、黒崎は無意識に身体を強張らせる。
「俺……やっぱり間違ってたんですね……」
「甘ったれるな!」
「っ……!」
突然の怒声に黒崎の身体が反応し、その瞬間、頭の傷に鋭い痛みが走った。思わず顔をしかめて頭へ手をやると、岩森もようやく怪我人相手に怒鳴ったことを思い出したらしく、わずかに表情を崩した。
「……すまん」
「い、いえ……大丈夫です」
しばらく妙な沈黙が流れたが、岩森は咳払いを一つすると、改めて黒崎へ向き直った。
「お前はヒーローにでもなったつもりか」
「……」
「第七号にいた時にも話しただろ。全員を救うことなんてできないんだよ。政府だって、できることなら全員救いたい。外で凍えてる人間も、腹を空かせてる人間も、好きで見捨ててるわけじゃない」
岩森の声から先ほどの怒りは消えていた。それでも、一つ一つの言葉は黒崎へ突きつけるように重かった。
「だが食いもんも資源もエネルギーも無限じゃない。収容できる人数にも限界がある。だから優先順位を決めて、救える人間を選んで救ってる。そうしなきゃ、今守ってる人間まで全員死ぬからだ。国ですらどうしようもないことを、お前一人で何ができる」
黒崎は何も言わなかった。
言い返せなかったのではない。
今まで自分が考えようとしてこなかったことを、初めて真正面から考えていた。
「誰かを救いたいって気持ちは分かる。俺だって、できることなら一人でも多く助けたい」
岩森は少しだけ間をおいた。
「だが今の世界じゃ、誰かを救うってことは、他の誰かを見捨てるってことでもある」
一人へ食料を渡せば、その食料はもう別の誰かには渡せない。薬を一人へ使えば、次に必要とする者へ使えないかもしれない。安全な場所へ一人を入れれば、その一人分だけ残された場所は狭くなる。
すべてが足りない世界では、何かを与えることそのものが選択になる。
「誰かを見捨てる覚悟もないなら、お前に誰かを救う資格なんてない」
黒崎は視線を落とした。
その言葉が正しいのか、間違っているのか。今の自分にはまだ分からない。
だが以前のように、困っている人がいるなら全員を助ければいいと簡単に言えるほど、もう何も知らない自分ではなかった。
「お前一人の力じゃ誰も救えない。かといって、組織になったからってそれが全部解決できるわけでもない。俺たちだって助けられない人間はいくらでもいる」
黒崎は何も答えることができなかった。
「なぁ、黒崎」
そこで岩森の声が少しだけ和らいだ。
「お前、保護地域にも戻れんし、うちに来い」
黒崎が顔を上げる。
「え? どういうことですか?」
「俺の部隊に入れ」
思ってもいなかった言葉だった。
「……部隊?」
黒崎は岩森の顔を見つめ、ようやく別の疑問に気づいた。
「え?……先輩って軍人だったんですか?」
「あぁ、そういや言ってなかったっけか?」
「聞いてませんよ!」
黒崎は思わず声を上げたが、頭へ響くのを感じてすぐに声量を落とした。
「やたら体つきがごついと思ってたら、そういうことだったんですね。あ、だからあのバーにも……」
「いや、あそこは軍関係者だからって誰でも行けるわけじゃないぞ」
「じゃあ先輩、結構偉い人なんですね?」
「まあ、そのうち分かる」
岩森がさらりと流す。
黒崎はしばらく呆れたように見ていた。
「先輩……めちゃくちゃ嘘つきですね」
「はははは、そう言うな。このご時世だ。簡単に人を信用するなってこったな」
その言葉を聞いた瞬間、黒崎の中に別の男の声が蘇った。
神崎蓮。
蓮にも、似たようなことを言われたことがある。
以前の黒崎なら、そんな生き方では誰も信用できなくなると反発したかもしれない。疑うことから始めれば、助けられる相手まで見捨てることになる。そう思っていたし、今でも蓮のように生きたいとは思っていない。
ただ、もう簡単に笑い飛ばすこともできなかった。
自分は他人を信じることばかり考えて、疑うことを知らなすぎたのかもしれない。何も知らず、何も見抜けないまま、それでも誰かを守れると思っていた。
四人を失った今、その事実だけは認めるしかなかった。
「それで……俺が先輩の部隊に入ったとして、何をするんですか?」
「今の俺たちにとって一番重要な任務は、この訳の分からん寒波の原因を調べることだ。それと、生き残った人間を維持するために、各地に残っている物資を探して回収すること。お前にもできることは多い」
「でも俺……一般人ですよ?」
「ははは、別にお前に銃を撃てとか、どこかを制圧してこいなんて要求するつもりはない」
岩森は笑いながら言ったが、すぐに少しだけ真面目な表情へ戻った。
「仕事はいくらでもある。できることをやればいいし、分からんことは覚えればいい。ただ外へ出る任務は危険だ。自分が生き残る方法も、仲間を生かす方法も覚えてもらう。それは必要になる」
保護地域では、ただ生存者を収容しているだけではない。受け入れた人間が何をできるのかを調べ、今の社会を維持するために必要な能力を持つ者を探している。軍も同じだった。この寒波で多くの人員が失われ、任務へ出たまま戻れなくなった部隊もあれば、別地域へ取り残されて合流できなくなった隊員もいる。生き残った組織を維持するためにも、今は一人でも多くの人間が必要だった。
黒崎はすぐには答えなかった。
昨日までの自分なら、「人を助けられる」と聞いただけで飛びついていたかもしれない。
だが、善意だけでは人を守れない。
そのことを、四人の死によって嫌というほど思い知らされた。
それでも、人を助けたいという気持ちまで捨てられたわけではなかった。
「はい」
黒崎は岩森を見る。
「今の俺では誰も救えません。だから……自分にできることを見つけたいです」
「そうか。なら回復したら俺のところへ来い。その時は案内役をつける」
「分かりました」
そこで話は一度途切れた。
岩森もそろそろ帰るつもりなのかと思ったが、黒崎には一つだけ、先ほどから引っかかっていることがあった。
「あの、先輩。この寒波の原因って何か分かってるんですか?」
「いや、全く。今の気象科学では一切説明ができない。だから原因を調査してる」
「一切……ですか?」
「ああ。保護地域じゃ民間人を受け入れる前から、各分野の専門家を優先的に保護して分析を続けてる。だが、調べれば調べるほど分からなくなってるらしい」
現在では従来の気象や地球科学だけではなく、それまでなら政府が相手にもしなかったような分野の研究者まで保護対象として探しているという。
「変人扱いされてた学者や研究家までな」
「変人……ですか?」
「あぁ、全ての可能性を考慮してな。科学で説明できないならオカルトでも神話でもなんでもだ。それほど今、国も追い詰められてるってこった」
「オカルトですか……」
「笑いたきゃ笑えばいい。俺だって少し前なら笑ってた。ただ、七十日以上こんな天気が続いてる時点で、今までの常識がどこまで役に立つか分からんからな。指定された研究者や学者を探して保護するのも、俺たちの任務の一つになってる」
黒崎は何とも言えない表情を浮かべた。
確かに、この寒波そのものが常識では説明できない。
今さらオカルトや神話を調べていると聞いても、完全に馬鹿げた話だと言い切ることはできなかった。
「あと、さっき物資捜索の話を少ししたが、どうやら外にはとんでもない組織もいるみたいだ」
「組織……ですか?」
「ああ。物資捜索隊は比較的早い段階から、倉庫や大規模物流拠点なんかも確認してる。ところが、その中に妙な場所があってな」
岩森の表情がわずかに険しくなる。
「とんでもなく大きな物流拠点だったんだが、中にあった物資が丸ごとなくなってた」
「丸ごと?」
「ああ。食料や燃料みたいな価値の高いものだけじゃない。役に立ちそうなものも、そうじゃないものも全部だ。文字通り、中身が丸ごと消えてたらしい」
「誰かが忍び込んで物資を持ち出したんじゃないんですか?」
「普通ならそう考える。だが規模がでかすぎる。全部運び出そうと思えば相当な人数と車両が必要になるし、時間もかかる。それなのに、どうやって持ち出したのか説明がつかないことが多すぎる」
だから政府側では、極めて大規模な組織が関与している可能性を疑っている。一部では寒波との関連まで調べるべきだという意見が出ているらしく、ただでさえ原因不明の災害に追われている現場へ、さらに説明のつかない問題が増えた格好だった。
「本当、大変な仕事だぜ」
「不可解なこともあるんですね……」
「ああ。この寒波そのものがもう不可解だからな」
「確かにそうですね」
黒崎が少しだけ笑うと、岩森もわずかに口元を緩めた。
岩森は椅子から立ち上がった。
「もういいだろ。今はしっかり休め。もう何も考えるな、自分も責めるな。まず身体を治せ。その後のことは、またその時にでも考えろ」
「ありがとうございます」
岩森は軽く片手を上げ、そのまま部屋を出ていった。
黒崎は閉じていく扉をベッドの上から見つめていた。
厳しいことを言われた。怒鳴られもした。
自分がこれまでやってきたことも、考えようとしなかったことも、すべて真正面から突きつけられた。
それでも岩森は、自分を見捨てなかった。
保護地域には戻れない。外へ出てから自分がやろうとしたことが正しかったのかさえ、今は分からない。それでも、何もかもを失ったと思っていた自分に、もう一度進むことのできる場所を与えてくれた。
扉が完全に閉じたあとも、黒崎はしばらくそこを見つめていた。
「ありがとうございます……先輩」
◇
その朝も、朝霧は蓮より先に目を覚ました。
洗面所で顔を洗ってリビングへ戻ったが、今日は監視モニターの前へ座ろうとは思わなかった。ここ最近は、目を覚ませばまずマンションの様子を確認することがいつの間にか習慣になっていたが、今朝はソファへ腰を下ろすと、テーブルに置いてあったノートを手に取った。
あの日をきっかけに書き始め、それからほとんど毎日のように記録を残している。
最初は自分の頭の中を整理するためだった。
何が起きたのか。自分はその時、何を考え、何を選んだのか。
書いておかなければ、いつかこの異常な日々に慣れきってしまい、何を異常だと思っていたのかさえ忘れてしまう気がした。
朝霧はペンを持ち、今日の日付を書き込んだ。
寒波が始まってから、七十二日目。
その数字を見つめているうちに、自然と昨日のことが頭に浮かんだ。
昨日のグループチャットは、寒波が始まって以来、最も荒れていた。
『お願いします、どうか食べ物を分けてください』
『うちにはもう何もないんです』
『なんでもしますから食料を分けてください!』
書き込んでいたのは、ほとんどが一階で食料を確保できなかった住民たちだった。
最初は一つ、二つだった書き込みが、時間が経つにつれて増えていった。
それに対して、食料を確保した側から返ってきた言葉はわずかだった。
『自分でなんとかしろ! 俺たちだってほとんどないんだ!』
『こっちだって家族がいる。分けられる余裕なんてない』
そんな返事が数件続いたあと、食料を持っている住民たちは一切返事をしなくなった。
それでも諦められなかったのだろう。
監視モニターには、何人もの住民が再び一階へ下りていく姿が映っていた。
床に残された空の段ボールを一つずつひっくり返し、捨てられていた袋の中へ手を入れる。誰かが落とした食料はないか、箱の隅に何か残っていないかと、同じ場所を何度も探していた。
何も見つからなかった。
それからマンションは、驚くほど静かになった。
誰も部屋から出ようとしない。廊下を歩く姿もほとんどなくなり、あれほど激しく言葉が飛び交っていたグループチャットへの書き込みも、時間が経つにつれて減っていった。
つい前日まで人が殺し合い、食料を奪い合っていた場所とは思えない静けさだった。
監視モニターだけを眺めていれば、まるでこのマンションには最初から誰も住んでいなかったようにさえ見えた。
そんな状態が何時間か続いた頃、一つのモニターに見覚えのある女性が映った。
そこに映っていたのは、以前二十五階まで来た母親だった。病気になった子供のために薬を求め、朝霧に診てほしいと頼んできた女性が、誰もいない廊下を一人で歩き、そのまま地下駐車場へ向かっていく。
朝霧は最初、こんな時間に何をするのだろうと思ったが、隣で同じ画面を見ていた蓮は何も言わなかった。ただしばらくその姿を見つめたあと、静かに手を伸ばし、そのモニターの映像だけを消した。
朝霧も理由を尋ねなかった。そういえば、あの日からあの母親が配給に姿を見せたことは一度もない。そこまで思い至ったところで、胸の奥に浮かびかけた考えを、朝霧はそれ以上追わないことにした。
今朝のノートへ視線を戻す。
七十二日。
数字にすれば、それだけだった。
それなのに、この七十二日間で世界は本当に変わってしまった。
人が人を殺すことも、食料を奪い合うことも、助けを求める声に誰も答えないことも、いつの間にかこのマンションでは珍しい出来事ではなくなった。
そして同時に、朝霧は改めて自分のいる部屋を見回した。
暖かい。
電気がつく。水が出る。食べるものにも困らない。夜になれば暖かなベッドで眠ることができ、明日の朝、自分が生きているかどうかを心配する必要もない。
壁と扉を隔てた同じ建物の中では、食料を失った人々が飢えている。
外では今も雪が降り続き、このマンションよりさらに過酷な場所で生きている人間がどれだけいるのかも分からない。
そんな世界の中で、この2501号室だけはあまりにも違っていた。
外の世界が異常なのは、もう嫌というほど分かっている。
だが改めて考えれば、今の自分が暮らしているこの場所もまた、同じくらい異常だった。
その時、寝室の扉が開いた。
朝霧が顔を上げると、起きてきた蓮がリビングへ入り、ソファに座る彼女と、その前に開かれているノートを交互に見た。
「また記録をつけてるのか。最近は時間を見つけては書いてるな」
「うん。書いてると落ち着くし、あとで振り返りたいから。それにあなた、健康そのものだし、今は医者としてあんまり役に立たないでしょ?」
「……なんか俺に病気になれって言ってるように聞こえるぞ」
「あら、そう? それはきっと勘違いよ」
「きっとってなんだよ」
蓮がわずかに眉を寄せると、朝霧は思わず笑った。
そして笑ってから、自分でも少し不思議に思った。
外では今日を生き延びるための食料さえ手に入らない人がいる。同じマンションの中でも、昨日だけでさらに四人が死んだ。寒波が始まってから世界は悪くなる一方で、以前なら想像すらできなかった出来事を、この七十二日間でいくつも見てきた。
それなのに自分は今、笑っている。
それどころか、寒波が来る前よりも、ずっと肩の力が抜けた自分でいられるような気さえしていた。
昔から人付き合いは得意ではなかった。
病院では医師として振る舞い、患者の前では医師として話し、同僚の前でも必要以上に自分を見せることはなかった。それを窮屈だと思ったことさえなかったし、自分はそういう人間なのだと思っていた。
なのに今は、世界がこんなことになってから逃げ込んだ2501号室で、寒波が来る前よりも自然に笑い、くだらないことを言える。
外の世界が壊れていくほど、ここで過ごす時間だけが日常になっていった。
「……昨日言ってた希望と絶望」
「ん? どうした?」
「うまく説明できないんだけどね」
朝霧は手にしていたペンをノートの上へ置き、少し考えてから口を開いた。
「昨日は一ノ瀬さんのことを聞いたばかりだけど……今、このマンションの中も、たぶん世界中も、絶望みたいなもので溢れてるでしょ?」
「まあ、そうだな」
「でも、ここだけは別世界みたい」
朝霧は暖かな部屋を見回した。
「ここには外にないものが全部ある。明日食べるものがあるかとか、夜のうちに凍え死ぬんじゃないかとか、そんなことを心配しなくていい。こんな世界になったのに、まだこうやって笑うことだってできる」
そして蓮へ視線を戻した。
「それも全部、あなたのその不思議な力が原因だよね」
「……」
「あ、別にこのマンションで起きたことがあなたのせいだって言いたいわけじゃないのよ」
「じゃあ何が言いたいんだ」
「それが自分でもうまくまとまらないのよ」
朝霧は困ったように眉を寄せた。
しばらく考えていたが、やがて何かを思いついたように顔を上げる。
「ねえ、パンドラの箱の話って聞いたことある?」
「ああ。有名だからな」
「パンドラが箱を開けたら、そこからいろんな災いが飛び出して世界中に広がった。病気とか争いとか、いろんなものが世の中へ出てしまって、世界は絶望で満たされた。でも最後に、箱の中には希望が残っていた」
朝霧は少し笑った。
「すてきなお話だよね」
「どうだろうな」
「……え?」
予想していなかった返事に、朝霧が蓮を見る。
「なんか違うの?」
「災いだけ全部外に出して、希望だけ箱の中に閉じ込めたとも言えるだろ」
朝霧はしばらく蓮を見つめた。
「もう、屁理屈ね……」
「そうか?」
「そうよ」
呆れながら答えた朝霧だったが、ふと何かに気づいたように部屋を見回した。
外には寒さも、飢えも、死も、人間同士の争いもある。
そしてこの部屋には、世界から失われていったものが残されている。
「……なんだかあなたの能力に似てるわね」
「俺の?」
「うん。ねえ、その能力って何か名前あるの?」
「いや、特に決めてないけど」
「じゃあ、《パンドラ》なんてどう?」
蓮は少しだけ考えた。
「適当な決め方だな……でも、まあ悪くないか」
「でしょ?」
朝霧が満足そうに笑った、その時だった。テーブルの上に置かれていた蓮のスマートフォンが突然震え、静かなリビングに短い振動音が響く。蓮が何気なく画面へ目を向けると、そこにはしばらく連絡を取っていなかった男の名前が表示されていた。
――黒崎恒一。
「もしもし」
『……蓮か?』
「ああ。何日かぶりだな。そっちはどうだ?」
すぐには返事がなかった。
蓮が黙って待っていると、やがて黒崎は、この数日の間に自分の身に起きたことを少しずつ話し始めた。
保護地域を出たこと。
その途中で四人の生存者と出会い、食料を分け、一緒に行動するようになったこと。
別の生存者たちに襲われ、四人が殺されたこと。
自分も殺されかけたが、以前から世話になっていた先輩に助けられ、今は安全な場所で治療を受けていること。
黒崎はすべてを細かく説明したわけではなかった。それでも声を聞いていれば、この数日間で何かが大きく変わったことくらいは蓮にも分かった。
「そっちも大変だったんだな。でも無事でよかった」
「黒崎さん?」
名前を聞き取ったらしく、朝霧が小さな声で尋ねた。
蓮が頷くと、朝霧は立ち上がった。
「ならお邪魔ね。今日は私が朝食を作ってあげるわ」
「……」
蓮は一瞬だけ黙った。
何か言いたそうな顔をしたものの、結局はそのまま頷いた。
『蓮? 聞いてるか?』
「ああ、悪い。なんでもない」
『それで、俺、入隊することにしたよ』
「入隊?」
『ああ。俺一人の力じゃ誰も救えない。別に世界を救いたいとか、そんな大それたことを言ってるわけじゃないけど……自分にできることをしてみたい』
蓮は何も言わず、キッチンへ向かった朝霧の背中へ一度だけ視線を向けた。
「いいんじゃないか。お前にぴったりだと思う」
『そうかな。またお前に甘いとか言われるかと思った』
「甘いのは否定しないが……お前はお前でいいんじゃないか」
『なんだよ、それ』
「そのままの意味だ」
蓮と黒崎は違う。
これからも、おそらく同じ考え方にはならない。
それでも今の蓮は、黒崎が自分と同じように生きる必要があるとは思っていなかった。
「それで今後、お前は入隊して何をするんだ?」
『まだ何も決まってないけど、多分物資の捜索だな。保護地域を維持するために、各地から物資を探して届ける仕事になると思う』
「そっか。気をつけろよ」
『ああ、お前もな。あ、気をつけろで思い出したけど、お前も気をつけろよ』
黒崎の声が少し真面目になった。
「何をだ?」
『どうも今、外でかなり大きな組織が物資を奪ってるらしい』
「……」
『まだ調査中みたいなんだけど、大規模物流拠点にあった物資が丸ごとなくなってたらしいんだ。どう考えても少人数でできる規模じゃないから、相当でかい組織が動いてるんじゃないかって』
蓮は黙って聞いていた。
『しかも、お前のところからそんなに遠くないだろ。だから変な事件に巻き込まれるなよ』
しばらく返事がなかったため、黒崎が不思議そうに名前を呼んだ。
『蓮?』
「……ああ、分かった」
『ならいいけど。俺、今まだ怪我人だからもう切るわ。見つかったらまた注意されてしまう』
「そうだな。ゆっくり休め」
『ああ。じゃあな』
「じゃあな」
通話が切れた。
蓮はスマートフォンを耳から離したあとも、しばらく画面を見つめていた。
大きな組織が物資を奪っている。
考えてみれば当然だった。
あの時は寒波が来る前に必要な物資を確保することしか考えていなかったが、自分がやったことを外から見れば異常そのものだ。大規模物流拠点に保管されていた大量の物資を、文字通り丸ごと持っていった。
さすがにあれだけ派手に取れば、政府も気づくわな。
もっとも、たった一人の人間がやったなどと思うはずもない。常識の範囲で考えれば、あれだけの物資を運び出すには相当な人数と車両が必要になる。大規模な組織を疑うのは当然だった。
今すぐ自分へ辿り着くとは思えない。
それでも、いつか何かのきっかけで勘づかれる可能性まで否定することはできなかった。
ここもいつまでも安全とは言えなくなってきたのかもしれない。
「できたわよ」
考え込んでいた蓮が顔を上げた。
朝霧が二人分の皿を持ってキッチンから戻ってくると、そのうち一つを蓮の前へ置いた。蓮は何気なく皿へ目を落としたものの、そこに載っているものを見た途端、何も言わなくなる。皿の中央には、ところどころ焼き色のついた黄色い卵の塊が鎮座していた。
スクランブルエッグ。
おそらく、スクランブルエッグだ。
少なくとも朝霧本人は、そのつもりで作ったのだと思う。
その横にはソーセージが数本並んでいた。フライパンの上で転がしながら炒めるだけでも、それなりに食べられるはずのお手軽な食材なのだが、なぜか裏側だけが見事なまでに黒く焦げている。
蓮は目の前の皿をしばらく見つめたあと、何も言わずに朝霧へ視線を移した。すると朝霧もまた、何か言いたげな顔で蓮を見返している。互いに言葉を発しないまま見つめ合い、二人の間にはなんとも言えない沈黙が流れた。
「まあ……見た目はアレだけど、味は問題ないわよ」
蓮は不安そうに朝霧を見つめた。
「何よ、その顔」
「いや……」
「食べられるから」
「まだ食べてないだろ」
朝霧は少しむっとした顔になると、何も言わずに自分の皿からスクランブルエッグらしきものを取って口へ運んだ。そのままゆっくりと噛みながら味を確かめる朝霧を、蓮はどこか疑わしそうな目でじっと見つめていた。
「……うん。まあまあかな」
「……」
「食べてみて」
本人が食べた以上、さすがに危険なものではないらしい。
蓮はまだ疑わしそうに皿を見ていたが、フォークを伸ばしてスクランブルエッグを一口だけ口へ運んだ。
「……」
「どう?」
次の瞬間、蓮の目の前に置かれていた朝食が皿ごと消えた。
「ちょっと! どういう意味よそれ!」
「いや、今日はご飯な気分だった」
「もう! なら、そういうことは先に言ってよ!」
「あ、ああ……」
なぜ自分が怒られているのか少し納得できないまま、蓮は《パンドラ》から白米の入った茶碗と焼き鮭、それに海苔を取り出した。
向かいから刺さるような視線を感じる。
「……」
「なんだよ」
「……別に」
どう見ても別にではなかったが、蓮はそれ以上触れないことにした。
そのまま白米を口へ運び、焼き鮭を食べ、海苔でご飯を巻く。朝霧も不満そうな顔をしながら自分で作った朝食を食べ続けていたが、結局最後まで蓮の皿を戻せとは言わなかった。
外では食料を求めて人が殺し合い、同じマンションの中でさえ今日食べるものがない人間がいる。
そんな世界で、朝食の好みを理由に言い合っている。
それがどれほど贅沢なことなのか、二人とも分かっていた。
食事を終えると、朝霧が二人分の食器を片づけている間に、蓮は自分のコーヒーを淹れてソファへ戻った。
朝霧も片づけを済ませると再び向かいに腰を下ろし、先ほどのノートを開いて続きを書き始める。蓮は淹れたばかりのコーヒーを一口飲みながら、黙々とペンを走らせる朝霧の姿をしばらく眺めていた。
「また日記を書くのか?」
「これはこれで、なかなかハマるのよ。あなたも書いてみれば?」
「いや、俺は遠慮しとく」
「意外と楽しいわよ。頭の中も整理できるし」
「お前、ここ数日だけでも随分書いたな」
「そうね。書き始めると、意外と止まらないのよ」
蓮は朝霧の手元へ目を向けた。
最初は数ページしか使われていなかったノートも、いつの間にかかなりの量が埋まっている。出来事だけではなく、その時に朝霧が考えたことまで書いているらしく、今の調子なら一冊を使い切るのもそう遠くはなさそうだった。
「もう記録じゃなくて本になりそうだな」
「はは、本なんて大袈裟な」
朝霧は笑いながら返した。
だが、何かが引っかかったのか、途中まで走らせていたペンを止める。
「……でも、本か」
「ん?」
「だったら、これにも名前をつけてあげないとね」
蓮はコーヒーカップを手にしたまま、何も言わずに次の言葉を待った。
朝霧はノートを見つめてしばらく考えていたが、やがて何かを思いついたらしく、自信ありげな顔で蓮へ向き直った。
「うん、決めた」
「何を?」
「この記録の名前」
蓮が黙って待っていると、朝霧は手にしたノートを少し持ち上げた。
「――『氷河期ストレージ』」
「……センスないな」
「本当、そういうところよ……」
自信満々だった朝霧の顔が一瞬で呆れたものへ変わったが、蓮はそんな反応など気にした様子もなく、何事もなかったようにコーヒーを口へ運んだ。
朝霧はしばらく恨めしそうにその横顔を見ていたものの、やがて諦めたように小さく息を吐き、再び手元のノートへ視線を戻した。
世界が壊れ始めてから七十二日。
その間に、あまりにも多くのことが起きた。
人が死んだ。
人が人を裏切った。
食料を奪い、支配し、殺し合った。
それでも生き残った人間は今日も目を覚まし、何かを食べ、誰かと言葉を交わし、次の日を迎えようとしている。
2501号室では、朝霧が再びペンを走らせ始め、その向かいでは、蓮が静かにコーヒーを飲んでいる。
そんな他愛もない時間を過ごす二人をよそに、窓の向こうでは、誰にも気づかれないまま一つの変化が起きていた。
寒波が訪れたあの日から、一度として途切れることなく降り続けてきた雪。
街を白く覆い、道路を消し、建物を埋め、人々を部屋の中へ閉じ込め、数え切れないほどの命を奪った雪が、その勢いを少しずつ弱めていた。
空から落ちてくる雪片の数が減っていく。
絶え間なく吹き荒れていた白い世界の向こうに、これまで見えなかった景色が少しずつ姿を現していく。
そして――
七十二日目にして、雪はようやく止んだ。
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Day 72
電力 ▲
ガス ×
水道 ×
通信 ▲
降雪 –
生存確認者 72人
今日のメモ:
「この世界を変えた雪が、今日止まった」
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みなさん、 ここまで『氷河期ストレージ』を読んでいただき、本当にありがとうございました!
これにて第一部「寒波到来編」は完結となります。
第一部では、突然訪れた異常寒波という極限状態の中で、人はどこまで自分を保てるのか。追い詰められた時、人はどこまで倫理を守れるのか。
そして、これまで当たり前だった秩序や社会が失われた時、人と人との間にどんな新しい関係や社会が生まれるのか。
自分なりに、そういったものを描いてきたつもりです。
蓮の考え方を正しいと思った方もいれば、冷たすぎると感じた方もいるかもしれません。黒崎のような生き方に共感した方もいれば、甘いと感じた方もいると思います。
柴田や一ノ瀬、マンションの住民たちについても、きっと皆さんそれぞれに違った見方があったのではないでしょうか。
自分がこの第一部で表現したかったものが、皆さんにはどのように映ったのか、ぜひコメントにて、ご感想や皆さんなりの考えを残していただけたら嬉しいです。
そして、これにて第一部は終了となりますが、蓮たちの物語はまだまだ続きます。
第二部については、本作と同じように連日投稿ができるよう、現在執筆を進めながらストックを作っています。
第二部開始の際には、この作品でも改めてお知らせします。
そして、最後に、作者から一つだけお願いがあります。
これまではなるべくこういったお願いはしないようにしてきましたが、今回は第一部の最終回ということで、一度だけ、自分へのご褒美も兼ねて皆さんにお願いさせてください。
もしここまで読んで、
「少しでも面白かった」
「続きを読んでみたい」
そう思っていただけましたら、作品のフォローと★評価をしていただけると本当に嬉しいです。
皆さんからいただく反応は、第二部を書き続ける大きな力になります。
ここまで七十二日間の物語を見届けてくださり、本当にありがとうございました。
そしてまた第二部で、神崎蓮たちの物語を一緒に見届けていただけたら嬉しいです。




