97話 狙撃依頼・前編
夜、鏡界、新宿ベース、外事部区画内・会議室――。
目の前には2人の魔法少女。
1人は外事部のセピア色の髪をハーフアップにし、くノ一っぽい衣装を纏ったヴェイルさん。
もう1人は情報部の黒スーツ風の衣装に、アッシュブラックの髪をローポニーテールにしたクロウさん。
「実は、リリナさんに狙撃をお願いしたいと思っておりまして。なに、先日の射撃実験で拝見したリリナさんの腕前であれば、簡単なお仕事です」
そう言ったのは、微笑を浮かべるクロウさん。
「ええ! 2000mオーバーの超長距離射撃を1発も外さず命中させるリリナさんであれば、先日の射撃実験より簡単です!」
ニコニコしながらそう言うのはヴェイルさん。
2人が揃うと、思い出すのはこの前の射撃実験。
特に、金髪ワンサイドアップの『いかにも怪しい』ターゲットのことだ。
「現界で金髪のワンサイドアップの魔法少女を狙撃しろ……とかいう話ですかね?」
思い当たるのはそれしかないので、ズバリ聞いてみる。
個人的にやりたい仕事ではないが、やれと言われれば是非もなし。
黒い男に『何でもするから金を……』と頼んだのは、誰でもないわたし自身。自ら望んだ契約を反故にすることはできない。
契約は守られるべきなのだ。
「依頼を受けて頂ければ詳細をお話しますが、断るのでしたら、ここまでしかお話できません」
わずかに左眉を上げ、クロウさんはじっとわたしを見つめてくる。
「なるほど」
てっきり強制任務で狙撃させられるのかと思いきや、意外にも自由契約らしい。
何というか、千桜ってホワイトなんだよねー。
組織に所属するメンバーのインセンティブ(やる気)を重視しているというか、大きな組織にのみ許される余裕のようなものを感じる。
強制任務ならやるしかないと諦めもつくが、自由契約だと色々悩んでしまう……。
「この任務ではMGをお支払いできますので、先ほど『心もとない』とおっしゃっていたリリナさんの懐を潤すことができると思いますよ。どうです、悪い話ではないと思いますが?」
ヴェイルさんはニコニコしている。
さっき、わたしにMGのことを聞いてきたのは、このためか。
その晴れやかな笑顔は、わたしがMG欲しさに引き受けると確信している顔だ。
ちょっと腹が立つ。
しかし、MGか……MG、MG、MG、うーん……。
たしかシャドースカウトの『装備1』が450万MGだったな。
ほら、マンガやラノベでよくあるでしょ? ゴミスキルとみんなにバカにされていたのに、レベル上げたら神スキルになるとかさ!
よわよわシャドースカウトが驚異のパワーアップで、つよつよシャドースカウトに大変身するかもしれない……よね!?
「ええと、報酬はいかほどになるのでしょう? それも受けないと聞けない感じですか?」
「すいませんが……」
「まあ、いいじゃないですか、それくらいは」
「はあ……」
本来は禁止されていたのだろう。
口を開きかけたクロウさんを、ヴェイルさんがニコニコしながら宥めると、クロウさんは仕方がないというように軽く肯く。
「報酬ですが、2パターンありまして、少なければ300万MG、多ければ1200万MGとなります。こちらの詳しい説明は依頼を受けて頂いてからとなりますが、最低でも300万MGのお支払いは補償できますよ」
そう言うと、ヴェイルさんはまたニコニコしている。
300万MG――『装備1』は買えないものの、『心の余裕』を取り戻すには十分な金額である。
もし1200万MGなら、『装備1』も買えてしまう大金である!
「それで、具体的にわたしは何をすればいいのでしょう?」
わたしの言葉に、ヴェイルさんとクロウさんは視線を合わせてニヤリと笑う。
少し腹が立つが、300万MG稼げるなら、引きけてやるよ!
うむ、契約は守られるべき!
「これを」
クロウさんが1冊のファイルを差し出す。
昔のスパイ映画に出てくるようなマニラフォルダーで、表には千桜の紋章が印刷されている。
中に詳細な説明の記載された書類と、女子大生風のラフな服装で、金髪をワンサイドアップにした碧眼美少女の写真が入っている。
この前の射撃実験のターゲットにそっくりだ。
「ターゲットは元黒狼同盟のAAAランク魔法少女・セバスティアナ。固有魔法具はアーク・ランスと呼ばれる長槍です。常時展開可能な強力な全周囲防御魔法に、遠距離戦闘では連射可能な自動追尾型の光槍射出魔法、近接戦闘ではアーク・ランスによる絶大な威力の刺突攻撃能力を持ちます。横須賀ベース攻略戦で撃破されたと思われていましたが……」
クロウさんが視線をヴェイルさんへ向ける。
「先日、現界の横須賀で生存が確認されました。今は魔法少女の姿で逢沢・セレーナと名乗り、横須賀にある黒狼同盟と関連があると思しき企業が所有するビルに潜伏しています」
ヴェイルさんがニッコリ微笑む。現界の情報はヴェイルさんの担当らしい。
「一応、リリナさんに事情を説明しておきます。黒狼戦終結後、千桜は未制圧エリアの元黒狼の無所属魔法少女……いわゆる野良魔法少女を放置していました。千桜としては、未制圧エリアで何をしようと脅威ではありませんし、使い道もありますので」
クロウさんの言葉に、FJ01ベースで会った元黒狼のグラウさんを思い出す。
「使い道ですか?」
「組織に所属している証付の魔法少女が他組織の支配エリアに入れば問題になりますが、無所属魔法少女なら問題になりません。契約を結んで他組織エリアの偵察をしてもらう、といった使い方です。命がけではありますが、相応の報酬を支払いますので、お互いの利益になる契約です」
なるほど、情報部がどうやって他組織エリアの情報を入手しているのか分かった。
野良魔法少女って、忍者みたいな扱いなのね。
「情報部は、『桜華乱舞』作戦で未制圧エリアが無くなり、生命維持のためのMGが賄えなくなった元黒狼の魔法少女達が千桜に接触してくると想定していました。しかし、60ユニット以上が残存していると見られる元黒狼の魔法少女の内、千桜に接触してきたのは2ユニットだけでした」
グラウさんと、グラウさんが言ってたもう1人ね。
「これがどういうことか分かりますか?」
「うーん、人の少ない地域から鏡界へ入っているか、別の未制圧エリアへ移動したとかですかね?」
「組織の支配エリアへの単独潜界は自殺行為ですのであり得ません。未制圧エリアへの移動の可能性はありますが、生活基盤が現界にある以上、簡単に移動できないと情報部は結論付けました。つまり、魔塊獣狩り以外の何らかの方法で、生命維持に必要なMGを得ているということです」
魔法少女は生命維持のためにMGが必要。
逆に言えば、MGさえあれば魔塊獣狩りをしなくても生きていける。
「情報部としては、大量のMGを所持した高ランク魔法少女が、現界で他の魔法少女達に生命維持のためのMGを供給している可能性があると分析しました。現界の調査が必要と判断し、外事部のヴェイルさんに相談したという次第です」
クロウさんがヴェイルさんへ視線を投げる。
「クロウさん……情報部から相談を受けた外事部は調査を開始しました。本来、現界の組織に察知されるリスクを避けるため、現界での活動は控えているのですが、60ユニット以上の無所属魔法少女を放置するリスクの方が高いと判断したのです」
自分の支配エリア内に60人以上の所在不明の野良魔法少女がいるとか、普通に怖い。
「魔法少女が現界で生活するためには、現界への影響力を確保する必要があります。それは千桜も黒狼も同じ。外事部は怪しい企業をピックアップして調査しましたが、黒狼の外事もちゃんと仕事していたようで、黒狼との関係を示す証拠はまったく出てきませんでした」
どの組織も、現界への影響力を秘密裏に保持しているのだろう。組織が滅んだ後も。
「ですが、成果はありました。ピックアップした企業所有の不動産を監視していたところ、魔法少女の姿のまま外出するセバスティアナを発見しました。防御魔法を維持するために変身体を使用しなかったのでしょうが、少々迂闊でしたね。認識阻害なしでの魔法少女の外見は、目立つことこの上ない。服を変えた程度では、隠しようがありませんよ」
組織が消滅すればメタルチョーカーも消滅し、認識阻害機能も使えなくなる。
「監視を続けたところ、セバスティアナが魔法少女らしき人物達と接触するのを確認しました。彼女達を通じて生命維持に必要なMGを他の黒狼の残党に供給していたのでしょう」
ヴェイルさんがニコニコしながら説明する。
「ですが、いくらMGを持っていたとしても個人では限度があります。60ユニット以上の魔法少女を長期間生存させることは不可能。近いうちに蜂起することは確実です。我々としては、黒狼残党が蜂起する前にセバスティアナを処理したい。指揮官であり、MGの供給者であるセバスティアナさえ処理できれば、残りは千桜に取り込めるでしょう」
生命維持に必要なMGの供給源がなくなれば、残党は千桜の言いなりになるしかない。
千桜としては、黒狼の残党が蜂起する前に頭を潰し、残りは手駒として取り込みたい――ということだろう。
「事情は分かりましたが……どうしてわたしがこの任務に選ばれたんです?」
事情が分からないよりは分かったほうがいいけど、正直あまり興味はない。
おそらくセバスティアナの全周囲防御魔法の防御力は、この前の射撃実験のターゲットと同程度。あの実験は、アレを貫通できるかどうかのテストだったと考えるのが妥当だ。
でも、他にも候補は居そうなのに、何でわたしなんだろう?
「今回の任務に適性があると思しき魔法少女は全て調べました。そうですね、リリナさんとお知り合いですと、まず、ラティーナさんやミレイユさん。彼女達の『矢』は、現界の組織に不必要に怪しまれますので候補から外れました。候補に残ったのは、シルヴァさんとエルフィーネさんですかね」
おっ、シルヴァさんとエルフィーネさん、候補挙がってたんだ。
「シルヴァさんの射撃技術は申し分ないのですが、彼女の虚空貫槍は今回の狙撃任務に使用するには強力過ぎるので候補から外れました。エルフィーネさんの方は逆ですね。防御魔法を貫通できないと判断され、候補から外れました」
確かにシルヴァさんの虚空貫槍を限界で撃ったらヤバそうだし、エルフィーネさんの審光祝砲だっけ? あのマスケット銃みたいなのは、多彩だけど威力はイマイチだったな。
「他の候補も居るにはいるのですが、この前の射撃実験での命中精度と威力から、リリナさんが最適だと判断されたという訳です」
「なるほど。それで、少なければ300万MG、多ければ1200万MGというのは、どういうことでしょう?」
まあ、そう言われると悪い気はしない。
後は、いくらMGを稼げるのかが重要である。
「それなのですが……」
ヴェイルさんが言いにくそうに口を濁し、クロウさんへ視線を投げる。
「今回は、リリナさんには、メインスナイパーがターゲットを外した時に確実に仕留めるサブスナイパー役をお願いしたいのです」
「ああ、なるほど!」
クロウさんの言葉に納得する。
別方向からターゲットを狙い、片方が外して逃げようとしても確実に仕留める――いわゆるクロスファイヤーってやつだ。
絶対に外せないターゲットだから、サブスナイパーを配置して万全を期す。スナイパー界隈ではよくあるやり方だと動画で見た。
「つまり、メインスナイパーの射撃が当たれば、わたしは撃たずに300万MG。メインスナイパーが外せば、わたしが撃って1200万MG……そういうことですね?」
「その通りです。ご理解が早く助かります……」
クロウさんがホっとしたような表情を浮かべる。
もしかして、わたしが『わたしに撃たせろ』とか言い出すとでも思っていたのだろうか?
そりゃあ1200万MGは欲しいけど、正直、暗殺任務は気乗りしない。
わたしとしては、見ているだけで300万MGも貰えるなら文句はない。
「クロスファイヤーは、スナイパー同士が連携して確実にターゲットを仕留めるために有効な戦術です。わたしとしては、その条件で問題ないですよ」
「はあ、その連携なのですが……実はメインスナイパーが、何と言いますか……」
「?」
クロウさんとヴェイルさんは困ったように顔を見合わせる。
「何なんですか? ハッキリ言って頂きたいのですが?」
「実はですね……メインスナイパーのエリスなのですが、この手の狙撃任務では単独行動を好む傾向がありまして、その……リリナさんが、今回の任務に参加することは秘密にしているのです」
クロウさんが言いにくそうに告げる。
そのエリスって人、某13氏みたいな孤高のスナイパーって感じなのかねぇ?
うーん、わたしが撃つハメになって後から恨まれたりしないだろうな?
「あの、わたしが撃つことになって、後で恨まれるとかないでしょうね?」
「「………………」」
わたしの問いに、クロウさんとヴェイルさんが顔を見合わせて黙り込む。
……って、オイ、恨まれるのかよ!
「エリスは一部の魔法少女から『魔弾の射手』と呼ばれておりまして……」
お、二つ名ってヤツ!?
『魔弾の射手』とか凄腕スナイパーっぽくてカッコいいじゃん!
わたしも何かカッコイイ二つ名を……あっ、いや、最近カーミラ先輩と狩りに行くことが多いから精神汚染が始まってる!?
妙な眼帯をして歩き回るようになってしまうかもしれん……猛省せねば。
「なんか凄そうな魔法少女ですね。そんな魔法少女に恨まれるのは……」
「ええと、リリナさんは『魔弾の射手』をご存じですか?」
クロウさんがおずおずとした態度で尋ねてくる。
ん? マンガとかに名前は出てくるけど、原作みたいなのあったんだっけ?
詳しくは知らないな……。
「『魔弾の射手』というのは、狩人が悪魔と契約して百発百中の『魔弾』を手に入れるのですが、一番重要なターゲットを撃つ弾だけは狙ったところに当たらないという話なんですよ」
ん?
一番重要なターゲットを撃つ弾が狙ったところに当たらないって……それ、一番重要なところで外すヘタクソ……みたいな意味じゃないの?
「ええと、もしかして悪口ですか?」
「ええ、まあ……。エリスは特殊作戦部所属のAランク魔法少女で、狙撃成功率がずば抜けて高い千桜最高のスナイパーです。あらゆる狙撃任務でターゲットを外したことがなかったのですが……」
クロウさんは少し遠い目をしながら、言葉を続ける。
「それは、先の第5次黒狼戦役の前、第4次黒狼戦役で黒狼同盟の強襲攻撃を受けた直後のことです……」
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狙撃依頼・後編 へ続く! ※9/21(月)19時投稿予定!
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『魔弾の射手』:狩人が恋人との結婚を賭けた大会で勝利するため、悪魔の『百発百中の弾(魔弾)』を使うが、最後の1発には悪魔の狙った場所に飛ぶという『呪い』がかかっており、撃った弾が恋人へ飛んでいく。だが隠者の奇跡により助かり、最終的に悪魔を撃退して愛を手に入れ幸せに暮らしましたーっていうお話。
※本文章は鈴森京也によってテキトーに書かれたものです。最新かつ正確な情報については一次情報をご確認ください。
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・エルフィーネ:金髪の王冠編みの魔法少女、魔法のマスケット銃を使用
魔力潮流動乱時にリリナとチームを組む
・シルヴァ :白銀のポニテの魔法少女、魔法の超電磁砲を使用
魔力潮流動乱時にリリナとチームを組む
・ミレイユ :赤茶のショートボブの魔法少女、魔法のクロスボウを使用
魔力潮流動乱時にリリナとチームを組む
・ラティーナ :浅緑のショートヘアに褐色肌の魔法少女、使い魔、ロングボウを使用
魔力潮流動乱時にリリナとチームを組む




