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魔法少女ダイアリー♡  作者: 鈴森京也


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98話 狙撃依頼・後編

「それは、先の第5次黒狼戦役の前、第4次黒狼戦役で黒狼同盟の強襲攻撃を受けた直後のことです……」


 黒狼戦って5次まであったの!?

 川中島かよ!

(※戦国武将の武田信玄と上杉謙信が合戦した場所、『第5次川中島の戦い』まであった)


 しかし、ずいぶん長いこと戦ってたんだな。

 元黒狼のグラウが、千桜の魔法少女は黒狼を恨んでるー、みたいなこと言ってて意味がよく分からなかったけど、それだけ長く戦ってたなら怨恨のある魔法少女もいるかもしれないな。


 そう言えばグラウは、銀狼隊にいたとか言ってたけど、ターゲットと顔見知りとかじゃないよな? 恨まれるの嫌なんだけど……。


 などと考えてるわたしを横目に、クロウさんは淡々と言葉を続けていく。


「複数の陽動攻撃を受ける中、統合参謀本部は黒狼同盟の主攻が神奈川北部方面と判断し、相模大野方面へ主力を展開。特殊作戦部と航空機動部が黒狼同盟の金狼隊・銀狼隊と交戦中でした。


 その最中、情報部は黒狼同盟のAAA(トリプルエー)ランク魔法少女が保土ヶ谷のY06ベース方面へ移動中という情報を入手したのです。


 Y06ベースへ向かった黒狼同盟の部隊は、Aランク以上の魔法少女で編成された最精鋭の金狼轟牙(ごうが)隊・7ユニット、そして今回のターゲットである金狼隊隊長AAA(トリプルエー)ランク魔法少女・セバスティアナでした。


 対するY06ベースの戦力は、ほとんどが一般魔法少女。しかも半数以上が戦闘経験のない新造魔法少女で、まともに対応できるのは特殊作戦部から派遣されていた3ユニットのみという状況でした。


 千桜の主戦力を相模大野方面へ拘束し、少数精鋭でY06ベース方面の戦力を漸減(ざんげん)する――黒狼同盟の両面作戦だったのでしょう。

 セバスティアナ率いる金狼轟牙(ごうが)隊に襲撃されれば、Y06ベース方面の魔法少女は壊滅的被害を受けると予想されました。


 埼玉方面では銀翼社の動きが活性化しており、戦略予備を動かすのは危険。相模大野方面から戦力を抽出するには時間的余裕がありません。


 そこで統合参謀本部は、Y06ベースに派遣され、狙撃の名手として名高かったエリスに、特殊作戦部、情報部と協力しての、セバスティアナ狙撃を命じました。

 AAA(トリプルエー)ランクのセバスティアナを撃破、もしくは負傷させられれば、数で勝る一般魔法少女で持ちこたえられると判断したのです。


 エリスを含む特殊作戦部3ユニットと、情報部の私の合計4ユニットで、金狼轟牙隊の侵攻ルートである黒狼同盟の支配エリアへ潜入し、セバスティアナを待ち受けました。


 作戦は単純で、先ほどリリナさんがおっしゃったクロスファイアです。

 まずエリスがセバスティアナを狙撃し、セバスティアナを撃破するか、防御魔法を破壊する。エリスが仕留め損ねても、もう1ユニットの遠距離攻撃でセバスティアナを確実に仕留める――という流れでした。


 私とエリス、そして遠距離攻撃魔法を持つ魔法少女ともう1ユニットという2チームで配置につきました。セバスティアナと金狼轟牙(ごうが)隊は想定通りのルートで進んできます。

 狙撃のチャンスは1度ですが、勝算は十分にありました。


 そこでアクシデントが起きます。

 エリスの狙撃後に攻撃する予定だった魔法少女――彼女は遠距離攻撃魔法を保有していましたが、狙撃に習熟していた訳ではありません。ターゲットとの距離を過信した不用意な動きから、敵に発見されてしまったのです。


 セバスティアナと金狼轟牙(ごうが)隊が攻撃を開始しようとしているのを見たエリスは、まだ狙撃予定地点には達していませんでしたが、セバスティアナを狙撃。

 そして、それは外れました……。


 結果、エリスと私はかろうじて逃亡に成功しましたが、もう1チームの特殊作戦部の2ユニットは撃破されました。


 セバスティアナと金狼轟牙(ごうが)隊に襲撃されたY06ベースは、一般魔法少女達に少なからぬ損害を出しつつも頑強に抵抗。

 統合参謀本部は急遽戦略予備の一部をY06ベースへ派遣し、セバスティアナと金狼轟牙(ごうが)隊を撤退させることに成功しました。


 しかし、その結果として戦略予備の不足を銀翼社に突かれ、複数のエリアで奇襲を許すこととなります……。


 その後、南北から挟撃される形となった千桜は神奈川のいくつかのベースを放棄し戦線を整理。黒狼同盟方面は防御に徹し、銀翼社へ戦力を集中することになりました……」


 結構重い話だな……。


「それ以降、エリスは狙撃任務では必ず単独行動をとるようになり、重要な任務に限って射撃を外すようになりました。イップス……過去のトラウマで、普段なら当たり前にできるはずの動作が突然できなくなる、あれです。


 もちろん、成功した任務の方が圧倒的に多いのですが、よりによって『ここぞ』という場面で外すことが続いたため、心無い魔法少女達から、一番大事な時にターゲットを外す無能な狩人という意味で『魔弾の射手』と揶揄(やゆ)されるようになったのです……」


 事情はだいたい分かったけど、そんな魔法少女に今回の狙撃を任せていいのだろうか?

 しかもターゲットは、イップスの原因になったセバスティアナ。

 どう考えても失敗する未来しか見えない。


「事情は分かりました。ハッキリ言わせていただきますが、今回の任務、エリスさんは外した方がいいんじゃないですかね? ターゲットはイップスの原因になったセバスティアナなのでしょう? 絶対失敗しますって」


 わたしが口を出すべきことじゃないかもしれないが、予想される失敗を指摘しないのも気持ちが悪い。


「リリナさんのおっしゃる通りですが……これはエリス本人の強い希望なのです。

 『セバスティアナを撃破できれば、元の自分に戻れる。本当の自分を取り戻せる。今回失敗したら狙撃任務を辞めるから、どうか頼む……』と。

 エリスとは長い付き合いです。できることなら、その願いをかなえてあげたいのです。

 ですが絶対にセバスティアナを取り逃がすわけにはいきません。彼女達が蜂起した場合、黒狼戦役を生き延びた精鋭魔法少女60ユニット以上と戦闘になる可能性があります……。

 リリナさんにご無理をお願いしていることは重々承知していますが……どうか、お願いします」

 クロウさんが深々と頭を下げる……。


 エリスさんとチームを組んで狙撃したって言ってたし、気持ちは分かるけど……。

 ああ、もう!

 そんなこと言われたら何も言えないじゃない!


「分かりました。でも、わたしが狙撃して、後でエリスさんに恨まれるのは嫌なんですけど」


 ここだけは譲れない!

 人間関係は大事。知らない間に恨まれてるとか嫌だから! 狙撃されそうだし!


「ああ、そこは、エリスさんの狙撃の邪魔をしなければ大丈夫だと思いますよ。単独行動をするようになったのも、狙撃時に邪魔されたくないという理由でしょうからね。エリスさんが何か言ってきたら、クロウさんが撃ったってことにすればいいでしょう? ねえ、クロウさん?」


 ヴェイルさんが、何てことはないという表情でクロウさんに笑いかける。


「はぁ……それが一番平和的な解決方法なのかもしれませんね。 分かりました、何かあれば、私が撃ったことにしてください……。

 これでエリスが立ち直ってくれればそれでよし。ダメなら……仕方ありません。エリスは十分働きましたし、本来の任務に専念してもらいましょう。

 リリナさん、サブスナイパー、よろしくお願いします」


 クロウさんが再び頭を下げる。


「ということで、リリナさん。エリスさんに恨まれる心配はなくなりました。これで問題はありませんね?」


 ヴェイルさんがニッコリ微笑む。


 防御魔法とやらが、この前の射撃実験のターゲットと同程度なら、『フォーサイト』を使えば問題なく貫通できるはずだ。

 エリスさんに恨まれないなら、確かに問題はない……かな?


「分かりました。そういうことであれば、大丈夫だと思います」


「よかった。では、早速ですが実行までの段階をご説明いたします。まず、リリナさんは現在、Eランクだと思いますが……」


「えっ!?」


「ん?」


「わたし、Fランだったような気が……」


「いえいえ、小田原ベースの建設任務を終了した時にEランクへランクアップされていますよ。確認してみてください」


 マギリングで確認すると、確かにEランクになっていた。

 勲章授与でEランクに上がれなかったので、ふてくされてしばらく確認していなかったが、いつの間にかFランを脱出していたらしい。


 ランクアップで報酬と運営費(税金)が上がっていたはずなのだが、給与明細が出るわけでもないので全然気づかなかった。

 魔法少女なんぞになってまで帳簿付けなんて心の底からやりたくないが、これはちゃんと付けないとダメだな。うむ、これからはちゃんとMG(マギト)の管理をしよう。


 ちなみに、ランクアップしても低ランク魔塊獣(マゴル)討伐の報酬アップは微々たるものなので、運営費(税金)が上がる分、高ランク魔塊獣(マゴル)を狩る必要が出てくる。

 おそらく高ランク魔塊獣(マゴル)狩りのインセンティブ(動機付け)のためのシステムだろう。

 あと、高ランク魔法少女を運営に取り込むため、という意図もありそうだ。運営に入れば運営費(税金)を支払わなくていいのは大きいからな。


「ええと、お話を続けてよろしいでしょうか?」


 ヴェイルさんの言葉に、現実へ引き戻される。


「あ、はい、お願いします」


「現界で魔法少女の能力を発揮できるように、リリナさんには準Aランクが発行されます。これでベースの許可を必要とせず、現界で変身解除《リリース・トランスボディー》することができます。もちろん、原則的に任務で必要とされる場合のみで、乱用は分解処分となりますが」


 えっ、なにそれ!?

 現界で勝手に魔法少女に戻っていいの!?


「本来は外事部の、現界で活動する特別なユニットに発行されるもので、今回は特例となります。実はリリナさんに外事部に所属して頂こうと思っていたのですが……上の方から強硬な反対がありまして、今回のような特例措置となった次第です」


 上の方?

 あー、アレだな! ステラさん!

 濃紺のサイドポニーで金色の星型の瞳が特徴的な、AAA(トリプル・エー)ランク魔法少女を思い出す。

 かな~り熱心に内務部に勧誘されたからな。自分が唾をつけていた人材を横取りされないようにしたんだろう、多分。


 ここは素直にステラさんに感謝!

 ステラさんのところみたいな内勤(内務部)ならまだしも、外事部で暗殺者としてコキ使われるとか絶対嫌だ!


 しかし、準Aランクか……準Aランク、準Aランク……んっ!?


「あ! 準Aランクって運営費(税金)いくらなんですか? ハッキリ言って高い運営費(税金)とか払えないんですけど!」


 準Aランクなんてものを付けられたら、高い運営費(税金)を払うために1日中魔塊獣(マゴル)狩りするか、暗殺者のバイトをするしかなくなるんじゃないの!?


「え、ああ。別にランクが変わるわけではありませんよ。準Aランクというのは、現界で必要な時に変身解除《リリース・トランスボディー》するためのライセンスだと思ってください。報酬や運営費はEランクの条件が適用されますので、ご安心を」


 そうなの!?

 それ先に言ってよねー! 心配しちゃったよ!


「では、作戦の概要から説明しますね」


 ヴェイルさんがそう言うと、立体モニターにどこかの街が映し出される。


「これは横須賀、若松町近隣のマップです。ターゲットは、このビルに潜伏しています」


 ヴェイルさんが示したのは、裏通りに面した5階建てのオフィスビルだ。


「現界での諜報活動には制限がありますので、現状確認できているのは、ターゲットが定期的に外出し、元黒狼と思(おぼ)しき3名と接触しているということだけです。その3名は警戒されるのを避けるため放置しています。今回はセバスティアナを仕留めれば全て終わる案件ですので」


 ヴェイルさんがそう言って微笑むと、続いてクロウさんが作戦の内容の説明に入る。


「セバスティアナは狙撃を警戒し、外出時はビルの前に車を呼びます。外に身体を露出させているのは数秒ほどです。しかも常時展開型の全周囲防御魔法を使用しているため、生半可な攻撃は通用しません」


 セバスティアナが潜伏している裏通りのビルの入り口付近は、周囲の高いビルからは死角になっており、正面から狙うのは不可能。狙うなら通り沿いの位置からだろうか……。


「近接戦闘を挑もうにも、腐ってもAAA(トリプル・エー)ランク魔法少女。セバスティアナを近接戦闘で倒せる魔法少女を送り込めば、この周辺一帯が瓦礫の山になるでしょう」


 確かに、AAA(トリプル・エー)ランク同士が戦えば、周辺一帯が壊滅するのは目に見えているか。


「我々は、この北側のビルを狙撃ポイントとして選びました。セバスティアナがビルを出て車に乗り込む位置まではおよそ400m。露出している時間は5~6秒と想定され、本来のエリスの技量であれば狙撃可能です」


 距離400m、歩行するターゲットを5~6秒で照準し、防御魔法を貫通して撃破できるってのは、相当良い腕だ。

 だが……クロウさんが示したビルは、狙撃ポイントとして優秀すぎる。

 このビルからの狙撃は当然警戒してるんじゃないかな。


「もちろん相手も警戒しています。南側の墓地、その他、有力な狙撃ポイントになりそうな場所には全て監視カメラが設置されていました。この北側のビルも黒狼同盟関係と思しき企業が所有し、屋内、屋上ともに監視カメラが設置されています」


 狙撃されそうな地点は全て監視している、ということか。

 まあ、それくらいは当然だろう。


「ですが、このビルに魔法少女が常駐しているわけではありません。一時的に鏡界から帰界(リターン)し、倉庫として使用されている部屋の監視カメラに映らない一角を確保し、そこから狙撃します」


 なるほど、灯台下暗しの発想か。

 自分達が監視しているビルから狙撃されるとは普通思わない。

 ただし、バレたら即終了だ。大丈夫なのだろうか?


「バレないですかね?」


「はい。少し前に確保して、今までセバスティアナの行動はそこから監視していましたので大丈夫です。それより、リリナさんの狙撃ポイントです」


 クロウさんが示したのは、セバスティアナが潜伏しているビルの正面から直線距離で150mほど離れたビル。


「いや、あの、ここって前の建物が邪魔で射線が通らないのでは?」


 そう、セバスティアナが潜伏しているビルの向かいには2つのビルがあり、わたしの狙撃ポイントだと言われたビルからは射線が……ん? まさか!?


「そうです。ビルとビルの間に、ちょうどセバスティアナが車に乗る時だけ通る射線があるのです。リリナさんにはそこから狙撃していただきます……といいますか、そこ以外に監視の目を潜り抜ける場所が存在しないのです」


 いやいやいやいや、某13(サーティーン)じゃないんだから、ムチャ言うなよ!

 ターゲットとの間に車(障害物)があるから、ターゲットが視界に入ってるのって1~2秒じゃないか?


「セバスティアナはいつもビルの出入り口から車まで最短ルートを取ります。車の停車位置から通過ルートが確実に読めますので、そのポイントに入った瞬間を撃てばよいのです。

 長距離で十分に照準時間を取れる狙撃と、短距離で一瞬しか照準できない狙撃はまったく別物だということは理解していますが、リリナさんの技術であれば問題なく対応できるはずです」


 なるほど……理屈は分かる。

 距離150m、移動ルートが固定なら当てるだけなら難しくない。

 問題は、防御魔法を破壊できるかどうかだ。

 1~2秒で『フォーサイト』の収束が間に合うのか?


「うーん、150mなら当てるだけなら何とでもなりそうですが、防御魔法を貫通できるかどうか……」


「エリスが少々外しても、半径2.5mの球形に展開される全周囲防御魔法に当たりさえすれば防御魔法を破壊できるはずです。防御魔法さえ破壊すれば、リリナさんの地獄の殺戮者(ヘルマーダー)で、セバスティアナの魔法防楯(シールド)(※07話参照)を貫通できるでしょう」


 防御魔法が解除されていて、本当に当てればいいのであれば、問題ない……のかな?


「エリスの初弾が着弾する時には、すでにセバスティアナがリリナさんの視界に入っているはずです。エリスが外した場合は、リリナさんが処理してください」


 こうして、MG(マギト)に釣られたわたしは機密保持契約にサインし、やっかいな任務を引き受けることになったのである――。


・グラウ   :灰銀色の外にハネたボブカットヘアーの魔法少女

        元、黒狼同盟、銀狼隊所属

        ※58話『黒狼から来た魔法少女』参照

・ステラ   :濃紺のサイドポニーに金の星瞳の魔法少女、内務部長

        ※創設メンバー

        リリナを内務部にスカウト中

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 Vチューバ―企画・初顔合わせ・前編 へ続く!

 ※9月22日(火)19時投稿予定


 はい、そうです! 連休中、どこにも行かずに書いてます!

 楽しいです! 楽しいです、楽しいです……。

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