99話 Vチューバ―企画・初顔合わせ・前編
放課後、龍鳳学園・地下駐車場奥・面会室――。
今日はVチューバ―『ミア&ミオ』プロジェクトの初回ミーティング日である。
だが、『白鳥プロダクション』組との顔合わせの前に、まずは『雪月華風』内での顔合わせがどうしても必要だった。
現界でメンバー全員が直接会うのは初めてで、お互いの名前も顔も分からない状態だったからだ。
『認識投影装置』の調整だけで帰るリュミエールさんはともかく、ヴェイルさん、わたし、花梨さんは、現界での変身体の姿と名前、役回りを覚えておかないと、『白鳥プロダクション』組に怪しまれること請け合いである。
ということで、まずは『千桜』組の顔合わせと、現界での名前・設定の確認である。
メンバーは予定通り4人。
1人目は、『雪月華風』のマネージャー役である外事部のヴェイルさん――現界名、霧島綾香さん。
伊達メガネにハーフアップの黒髪、秘書風のタイトスーツ姿。
20代後半に見えるが、魔法少女の姿は女子大生のようだったので、巧妙なメイク術なのだろう。
2人目は、技研のリュミエールさん――現界名、灯紗耶さん。
ダークブラウンの一本三つ編み、黒インナーの上に白衣という技研らしい格好。
今日は『認識投影装置』の調整が終わったら帰る予定。
理系の不人気教授のゼミに居そうなタイプ……ノーメイクでも魔法少女なので当然美人なのだが、雰囲気がね?
3人目は、『三枝本家』から派遣された、わたしの|パーソナルアシスタント《PA》役である生活支援課のカリアさん――現界名、白樺花梨さん。
濃茶のウェーブポニーテールにレディース黒スーツという、いつもの花梨さん。
こちらもメイク術で20代中盤の『出来る女執事』っぽく見せている。
そして最後がわたし。
特別クラスの赤セーラーに白リボン、黒髪ツインテール。制服を着ていれば中学生に見えるんじゃないかなぁ……という感じ。
今日は、『雪月華風』所属のタレント『四樹莉里』、そしてVチューバ―としてデビュー予定の『ミオ』という役回りである。
お互いの現界での名前と容姿を覚え、プロフィールを確認し合うという、よく分からない儀式を終えて、ようやく最低限の準備が完了した。
ちなみに、霧島さんは例の狙撃の件などおくびにも出さず、いつものようにノンビリとした態度である。
現界での暗殺が日常茶飯事っぽくて、少し怖い。
魔法少女研修で『現界での暗殺の可能性』を嫌というほど叩き込まれたのは、『千桜』がやっているからでは? などと勘ぐってしまう――。
「では灯りさん、そろそろ『認識投影装置』の実働チェックをお願いできますでしょうか?」
「了解です。少々お待ちください」
伊達メガネがよく似合う霧島さんに、灯さんが待ってましたとばかり応えると、わたしの物質化した『認識投影装置』に持ち込んだ機器を接続していく――。
「はい、では『認識投影装置』の実働チェックを開始します。ええと……理奈さん、『認識投影装置』起動してください」
灯さんは、ディスプレイを確認しながら指示を出す。
「えっと、これでしたよね……」
わたしがハート型の『認識投影装置』を起動すると――。
「あらっ、可愛いっ! うん、うん! 理奈ちゃん、これは間違いなくアイドルだわ! 元から可愛いかったけど、今まで以上に可愛く見える! 見た目は変わってないのに、不思議ね?」
「ほおっ、これが『認識』が投影されているということですか。確かに可愛い女の子……いや、違いますね。これぞアイドル、というオーラを感じます!」
自分ではまったく分からないが、花梨さんも霧島さんも大絶賛だ。
「マナ濃度の変化なし、魔力反応0.96。想定内の数値で問題なく動作していますね!」
灯さんが元気よく数値を読み上げ、動作に太鼓判を押す。
「ほおー、これは大したものですねえ。灯さん、これってまったく別の人物の認識を投影することはできるのでしょうか? 変装とかに使えるといいのですが」
霧島さんが興味津々に尋ねる。
外事部なら、変装や潜入など用途はいくらでもあるのだろう。
「残念ながら、今の技研では『印象』という大まかな『認識』しか投影できません。人間の認識機能は『5感で得た情報』を大脳皮質で統合して形成されます。『認識投影装置』は、その大脳皮質へ『印象』という形で認識を投影する仕組みです。
理奈さんの『認識投影装置』は、『具体的なイメージ』ではなく、『可愛い』という固定された『印象』を投影していますので、誰が見ても同じように『可愛い』と認識されます。
ちなみに、顔の造形が微妙な人が『美人』の『印象』を投影すると、いわゆる『雰囲気美人』になります。何となく美人っぽいのに、よく見ると美人じゃない……という状態ですね。
仮に『具体的なイメージ』レベルの『認識』を投影できたとしても、『目に見える人物とは別の人物がいる気がする』という妙な状態になるだけで、あまり実用性はありません。
別人として認識させたいのであれば、『5感で得た情報』そのものを書き換える必要があります。現状、それが可能なのは『幻惑・幻覚系魔法』だけですね。
ただし『幻惑・幻覚系魔法』は魔法少女には意味がありません。
魔法少女は脳への攻撃的な魔法干渉を感知すると、自動で防御モードに入り、外部からの魔力干渉をシャットアウトします。
このマギドールの機能のため、魔法少女への魔法的な洗脳、幻覚、幻惑などの精神攻撃は、ほぼ100%無効化されます。
『認識阻害』や『認識投影』が魔法少女に対してもある程度効果を発揮するのは、マギドールのボディーに『攻撃』と判断されないレベルの効果だからだと思われます。
元々、メタルチョーカー自体がオーバーテクノロジーの塊で、内部構造の解析は不可能です。
しかし、その機能を理解し、利用することはできます。技研で開発した『認識投影装置』も、メタルチョーカーの『認識阻害機能』を利用し、その機能を変形させているにすぎません。
まだまだ研究中の技術で、どのような『人物』が、どのような『印象』を投影すれば、どのように『認識』されるのか――そのデータを収集中といった段階です」
「な、なるほど?」
霧島さんは、分かったような分からないような相槌を打つ。
ちなみに、わたしはサッパリ分からない!
だが、前にカリアさんが言っていた『途中で口を挟めば挟むほど話が無駄に長びく』というのは、よく分かった!
「あと、情報部や外事部の方々が求める『どこにでもいる目立たない雰囲気』は、『認識投影装置』より『認識阻害装置』の方が向いています。『認識能力』の低下幅を増加させる『ブースター』は技研が提供していますよね?」
「はい」
「では、他に質問はありますか?」
「あー、いえ、ないです」
灯さんはニッコリ微笑む。
「理奈さんは、何か質問はありますか?」
「ええと、1つ。『認識阻害装置』を切ったら、可愛く見えなくなるんですよね? 起動していた時と違ってしまって、不審がられないですかね?」
「人間は、『5感の情報』に変化がなく、自分の『印象』だけが変わった場合、『気のせい』としか認識できません。ですので、違和感に気づいても、『さっきはもっと可愛かったような気がする』という程度にしか思わないでしょう。ご心配にはおよびません」
言われてみれば確かに、差異があるのは自分の『印象』だけなので、気のせいとしか言いようがないだろう。
「なるほど。何か言われても『気のせいじゃない?』で何とかなりそうですね……」
「はい、写真と見比べても差異はまったくありませんので、『気のせい』で通してくださって大丈夫です。他に何かありますか?」
「大丈夫だと思います」
まあ、『印象』しか変わっていないなら、見比べても変わらないよね。
「では、理奈さん。用件が終わったら忘れずに『認識投影装置』を切ってくださいね。それでは、私はデータ解析がありますので、今日はこれで失礼いたします! 理奈さん、今日はありがとうございました。またよろしくお願いしますね!」
灯さんは上機嫌な笑顔で、計測機材をジュラルミンケースへとしまい、そそくさと部屋を出ていった。
ちなみに、どうして灯さん――リュミエールさんが上機嫌なのかというと、ここに来る前に射撃データを計測してきたからである。
結局ノーギャラで6発も撃たされたが、技研には色々お世話になっているので文句も言えない。ちょっとした頼み事もしちゃったし。
「ああ、そうでした。これをお渡ししておきますね」
霧島さんに渡されたのは、『株式会社雪月華風』の名刺で、肩書が『Vチューバ―』、芸名が『ミオ』になっている……。
「あの、『四樹莉里』名義で活動するんじゃないんですか?」
正直、わたしとしては『ミオ』の名前で統一した方が分かりやすくて良いのだが、せっかく芸名を考えてくれた|ポンコツの方のお姉ちゃん《杏お姉ちゃん》のことを考えると、申し訳ない気もする……。
「ああ、裏をご覧いただければ」
名刺を裏返すと、裏には肩書が『タレント』、芸名が『四樹莉里』と印刷されている!
「Vチューバ―としては『ミオ』名義で活動し、顔出しの時は今まで通り『四樹莉里』名義で活動する、という設定です。今後は、Vチューバ―『ミオ』としての活動がメインとなるので、両面印刷にしました。Vチューバ―デビューと同時に、『雪月華風』のHPで、両方の名義で活動していく旨の宣伝文句を追加しますのでご安心を」
なるほど、名刺を2種類作るより合理的だ。
「『白鳥プロダクション』の方からは、ミアさんとディレクター兼マネージャーの方、そしてアシスタントマネージャーの3名が来る予定です。
必要な契約等は全て済んでおりますので、今日は、実際にVチューバ―としてデビューするまでの、詳しいスケジュール、段取りの説明があると思います。次から私は来れませんので、白樺さん、対応よろしくお願いしますね」
「はーい、まかせて!」
花梨さんが元気よく返事をする。
人当たりの良い花梨さんなら、筒井さんともすぐに打ち解けるだろう。
しかし、白鳥プロのアシスタントマネージャーっていうのは誰だろう? 富良野さん……ではないか。富良野さんは護衛と言っていたし。
「では、そろそろ行きましょうか」
メタルチョーカーを『非物質化』し、わたし達は、ミアと白鳥プロダクションのメンバーが待つ特別クラスの応接室へと向かったのであった――。
Vチューバ―企画・初顔合わせ・後編 へ続く!
※9月23日(火)19時投稿予定
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