88話 射撃データ収集・後編
ヴェイルさんからターゲットの準備があると申し出があり、しばらく休憩。
クロウさんにマギリングで200万MGを振り込んでもらったわたしは、早速ショップ機能でマガジンを購入――しようと思ったら、ショップに新しいアイテムが追加されてる!?
そういえば、しばらくショップ機能使ってなかったわ!
といっても、今この状況で新アイテムを確認するわけにもいかないので(本当はすぐ確認したいけどさ!)、クロウさんに貰った200万MGでサクっとマガジンを購入し、地獄の殺戮者へ装着する。
これで総マガジン数5個、15発である。
目標としていた8マガジン24発を確保するまで、あと3マガジン。
600万MGを支払えば、無事目標達成である!
今は1760万MGほど貯金があるので、すぐに買えないこともないのだが……追加された新しいアイテムが気になる!
この実験が終わったら、ゆっくりショッピングを楽しもう!
「みなさん、お待たせしました。ターゲットの準備ができました」
楽しいショッピングを想像していたら、ヴェイルさんが声を上げる。
片手を挙げて示した方向へ視線を向けると、海とは反対の陸地側、ビルが建ち並ぶ区画だ。
「いやいや、ビル街に向けてヘルマーダー撃つのは、さすがにマズくないですか?」
ヴェイルさんは地獄の殺戮者の威力を舐めているのかもしれないが、弾道上の1~3mでは衝撃波だけでガラスが割れるレベルの威力がある。
しかも直撃しなくても着弾点周辺には衝撃波の被害が及ぶ。
生来、魔法的な防楯を持つ魔塊獣や魔法少女は、魔力を伴わない単純な物理的衝撃波では大したダメージを受けないが、周囲の物体への影響は甚大である。
ここが鏡界なら気兼ねなく撃っちゃうけど、現界ではマズいでしょ!
「ターゲットまでの距離は800m。ターゲットの設置場所周辺は『千桜』関連企業の所有で、周辺一帯が無人であることを確認し、建物や周囲への被害は織り込み済みです。歩行者、自動車とも交通規制をしており、さらに周辺には遮音結界発生器を配置してありますので、問題になることはありません」
ヴェイルさんがにこやかに説明してくれるが、メチャクチャ入念に事前準備しているのがちょっと怖い……。
でも、まあ、そこまで入念に準備してあるのであれば、ヴェイルさんの言う通り問題はないのだろう。
「それで、ターゲットはどこなんです?」
海の上と違い、方向だけ示されてもターゲットがよく分からない。
深夜だが街灯が煌々と灯り、ビルが建ち並んでいる区画なので、『コレだよ』って指定してもらわないと困る。
「……ライト点けて」
ヴェイルさんがメタルチョーカーに指を当てて呟くと、示した方向のビルの屋上にパっと灯りが灯り、何度か点滅する。
「あのビルの下です」
スコープで覗くと――ビルの前の歩道に、20~30体の直立したマネキンのようなモノが、歩行者が歩いているかのようにバラバラっと配置されている。
「なんかマネキンみたいのがいっぱい設置されてるんですけど、どれを狙えばいいんですか?」
「中央付近に、周囲をマネキンに囲まれるように配置されたターゲットがあるのですが、確認できますか?」
もう一度スコープを覗く――要人警護のような体制でマネキン達に囲まれた、異質なターゲットを発見!
スコープの倍率を上げてよく見ると、金髪をワンサイドアップにし、淡いベージュのロングコートを着た女の子を模したターゲットだ。
良く作り込まれていて、動いていたら人間と見間違えたかもしれない。
これって、どう考えてもSPに警護された要人を狙撃する訓練じゃないの?
要人が女の子を模しているのは、もしかしてターゲットは魔法少女?
これ、現界での魔法少女暗殺の訓練じゃないだろうな?
何となくきな臭さを感じて、スコープから視線を外してヴェイルさんの顔を見つめる。
「ああ、ターゲットが魔法少女っぽいのは、この実験でターゲットとして有効だと評価されたら、鏡界での訓練用に採用する予定だからです。魔塊獣との戦闘に慣れ切って、いざという時に敵の魔法少女を攻撃できない、なんてことがあるので、ソレっぽく造り込んでいるのですよ」
ああ、人を攻撃するのは心理的に抵抗があるらしいからね。
わたし? いや、わたしを害そうとするヤツは、魔塊獣だろうが、魔法騎士だろうが、魔法少女だろうが、そこいらのチンピラだろうが、みんな平等に撃っちゃうよ?
差別よくない!
「さっきの射撃と比べると距離は比較的短いですが、ビル風がありますので難易度は格段に増していると思います。できれば命中するまで射撃していただきたいのですが、弾数もありますので、当たらなければ弾が無くなるまで射撃をお願いします」
わたしの『フォーサイト』にはビル風とか関係ないと思うんだよね。
ダイレクトに、『この通りに撃てば弱点に命中するよ!』って感じで光のラインが導いてくれるからね。
「分かりました。どうします? すぐ撃ちます?」
「ちょっと待ってください。ターゲットが逆方向なので、計測機器を新しい射撃方向に合わせて設置しなおす必要があります。それに、新しいターゲットにはMT値計測用の機器を設置していないので、MT値は計測できませんが、それでいいのですか?」
わたしの言葉に、リュミエールさんが怪訝そうな声を上げる。
「『フォーサイト』のデータ収取のために、MT値の計測は必要です。計測器の予備があるので、新しいターゲットに設定させていただけますかねぇ?」
さらにルビーさんが待ったをかけた。
「MT値は向こうのビルで計測しています。後でデータをお渡ししようと思っていたのですが……リリナさんの射撃はマナ濃度や魔法反応への影響がほぼないので、スマホで数値データを受け取れますよ。ルビーさんかリュミエールさんはスマホをお持ちですか?」
ルビーさんにリュミエールさんとヴェイルさんが打ち合わせをしている間に、クロウさんが近づいてくる。
「こちらをどうぞ。必要であれば、1発撃つごとにお渡ししますので、遠慮せずに言ってください」
そう言って渡されたのは『マナ結晶』。
さっきのルビーさんとのやり取りがあったので、実験には必須ということで、素直に受け取って魔力を補充する――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
射撃実験準備中――。
わたしは設置し直された観測用の魔法具に周囲を囲まれ、ビル街の方へ向けて伏射姿勢で地獄の殺戮者を構える。
バイポッドで銃身は安定し、射撃体勢も問題なし。計測機器も問題なさそうだ。
そのまま、SPを模したと思われる背の高いマネキン4体に囲まれた、ターゲットの魔法少女っぽい金髪ワンサイドアップをレティクルに収める。
一応、見下ろす形になるが、意外に角度が浅く、SPマネキンの隙間からターゲットを狙うしかない。
でもコレ、多分、衝撃波でターゲット周辺のマネキン全部ぶっ飛ぶよ?
しかも貫通して後ろのビルも大ダメージ……だと思うんだけど。
「一応確認ですが、周囲のマネキンやターゲット周辺の物的被害は容認されるんですよね? 地獄の殺戮者をターゲットだけ撃ち抜く、チャチな狙撃ライフルだと思ってるんでしたら大間違いですよ?」
地獄の殺戮者は、Bランク以上の魔塊獣や魔法騎士を相手にでもしない限り、威力を持て余すような魔法具である。
鏡界だから遠慮なくぶっ放しているが、現界では周囲への被害が大きすぎて発砲するだけで場所を選ぶようなシロモノだ。
今回だって、ターゲットを海上に設定したのは、技研がそれを理解していたからだろう。
「まったく問題ありません。そこら辺は織り込み済みですので、遠慮せずにやっちゃってください」
チラっとルビーさんを見ると、肩をすくめて『知らん』というポーズを取る。
まあ、言質は取ったし、好きにやるか。
「計測機器の設置、動作確認が終わりました。いつでも射撃実験を開始していただいて大丈夫です」
「分かりました。では、追加の射撃実験を開始します。距離800m、リリナさんお願いします」
リュミエールさんの言葉に、ルビーさんが射撃実験の開始を宣言する。
追加の射撃実験はヴェイルさんとクロウさんからの依頼だが、総責任者だからか、仕切るのはルビーさんである。
背の高いSPマネキンの隙間から、金髪ワンサイドアップをレティクルの中央に入れ、『フォーサイト』を発動――ん? 何だ!?
おいっ、ちょっと待てよ!? 何だこの魔力消費量!?
さっきの射撃実験とは比べ物にならない速度で減っていく魔力に、一旦『フォーサイト』を停止させる。絶対普通じゃない!
「あのターゲット、何か仕込んでいます? アレ普通じゃないでしょ! おかしいですよ!」
わたしが射撃姿勢を解いて抗議の声を上げると、クロウさんとヴェイルさんが驚愕した表情を浮かべる。
「信じられない! 射撃する前から分かるなんて……!?」
「素晴らしい! 素晴らしいです! 『フォーサイト』の力ですか!? 何で分かるんです?」
クロウさんは唸るように叫び、ヴェイルさんは興奮して大喜び状態。
どういうことだよ!?
妙な感覚だった……『六本腕』と対峙した時と似ている? いや違うな。
そう、さっきのターゲットに搭載していた、シールドのように機能する結界発生器を起動した時のような感じ……に、似てたかな?
アレの何倍も強力なヤツを搭載してるんじゃないか?
「クロウさん、ヴェイルさん、説明をお願いします。これでは実験になりません」
「実は、あのターゲットには新型結界発生器を搭載していまして……」
ルビーさんが不機嫌そうな声で2人をたしなめると、ヴェイルさんが答える。
「新型結界発生器ですか? もしかして、エヴァさんが開発した?」
「はい。一般的な魔法騎士のチャージアーマーと同レベルのシールドを展開する想定で造られたものだそうです」
「ほう、それは中々大した性能ですねぇ。少し拝見させて頂いても?」
ヴェイルさんの言葉を聞いたルビーさんが目を爛々と輝かせる。
「あ、いえ。魔力消費量が膨大で実験用以外には使用できないということです。今、起動しているだけで『マナ結晶』を130ユニット以上消費しているので……できれば、切れる前に実験を終了してほしいのですが……」
「『マナ結晶』130ユニット以上!? 開始して3分も経ってないでしょう? さすがに燃費が悪すぎでは?」
ちなみに『マナ結晶』1ユニットとは、さっきの5mmほどのやつ1個のことだ。
3分も経たないうちに『マナ結晶』130ユニットを消費する魔法具とか、普通に考えて起動しようとも思わないレベルのガラクタである。
「ええと、エヴァ部長曰く、『まずは想定された機能通り動作すれば、後は順次改良していけばいい』とのことでして、我々は技術職ではないので、詳しいことは、その……」
「なるほど、エヴァさんらしいですねぇ。そういうことでしたら、いいでしょう。おそらく、リリナさんの射撃を受けること自体が実験の目的なのでしょう。リリナさん、どうします? 嫌なら止めてもいいと思いますよ?」
「それは!? すでに『マナ結晶』を130ユニットも消費してるんですよ!? 続けて頂きたい!」
「情報部としても、継続をお願いしたい! 予算は情報部も出しているんです……」
ルビーさんの言葉に、ヴェイルさんとクロウさんが焦ったように射撃実験の継続を懇願し始める。
まあ、『マナ結晶』を130個も使って成果なしとか報告できないよね。
焦りまくった2人の顔を見て、少し可哀そうになってきた……。
「そうですねぇ、後ででかまいませんので、新型結界発生器を拝見させていただけるのであれば、リリナさんを説得してみますが、どうでしょう?」
ルビーさん、よっぽど新型結界発生器に興味があったのか、わたしの目の前でヴェイルさんにそんな取引を持ち掛けている……。
「分かりました、それでお願いします……」
まあ、わたしとしてはルビーさんに少しでも借りを返すチャンスなので、射撃実験を続けるのはやぶさかではない。
「どうでしょう、リリナさん。射撃実験の継続をお願いできますでしょうか?」
多分ルビーさんも、わたしの気持ちは分かってるのだろう。
ニコニコしながらプレッシャーをかけてくる。
「ええと、とりあえず当てればいいんですよね? それでよければ続けますよ。あー、できれば『マナ結晶』1つ頂けますか? 一旦魔力を回復してから再チャレンジします」
何だかよく分からないが、チャージアーマー並みのバリアがあるターゲットに、とりあえず当てればいいっぽい?
破壊しなくてもいいなら、何とかなるだろう。
最悪、『フォーサイト』が収束しないような強者が相手でも、当てるだけなら何とかなることは『六本腕』戦で分かってるからね。
ヴェイルさんから『マナ結晶』を受け取り、魔力を満タンまで回復させ、再び射撃体勢へと戻る――。
ビル街の方へ向けて伏射姿勢で地獄の殺戮者を構え、ターゲットの金髪ワンサイドアップをレティクルに収めると『フォーサイト』を発動……どうせ1発と割り切って、グングン減っていく魔力を気にせずに集中!
魔力消費は激しいが、スウゥーーっと光のラインが頭部へと収束していく……。
体感では、すでに全魔力の3分の1以上を消費しているが、さらに意識を深く沈める……光のラインが頭部へ収束する……だが、まだだ。もっと……もっと先へ行ける!
どうせ1発。まだ魔力も残っている……さらに深く深く意識を集中。
音が段々と遠ざかり、風も空気もゆっくりと粘りつくような感覚……レティクルの中のターゲットが大きくなり、細部がクッキリと浮かび上がっていく。
光のラインはさらに細く鋭く収束し、世界の色合いが段々と薄れていく。
わたしの世界は、拡大され解像度の上がったモノクロのターゲットと、その頭部の1点へと収束した『フォーサイト』の光のラインだけになり――『フォーサイト』の導きに従い照準。
静かに引き金を絞り、発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
命中!
瞬間、世界は色と音を取り戻す――。
「命中です。ターゲット粉砕」
1発で、新型の結界発生器とやらを搭載したターゲットを粉砕することに成功!
魔力はほとんど残っていないが、爽快感と達成感!
「魔法発動光なし、マナ濃度変化なし、魔力反応0.84……MT値11.2」
ターゲットは完全に粉砕したものの、結界が周囲への衝撃波を吸収したのだろうか、SPマネキンは倒れはしたが吹き飛びはせず、ターゲットの周囲や後方も無傷という不思議な状態。
まあ、狙撃として考えれば、ターゲットのみを撃ち抜くという快挙(?)である。
「これは……!?」
「素晴らしい! 本当にアレを1発で破壊した上に、MT値まで上がっている!」
まあ、魔力をタップリつぎ込んだからね、と自慢げに後ろを見ると、クロウさんは絶句、ヴェイルさんは目をまん丸にして歓喜の表情である。
「では、早速ですが、新型の結界発生器を拝見させていただきましょう!」
本当に早速のルビーさんが、ニッコニコでヴェイルさんに新型の結界発生器を催促したのだが……。
「すいません、お約束の新型の結界発生器ですが、粉砕されたターゲットの頭部に装備されていたので、残念ですが……」
「!? 予備は? 当然予備があるはずですよねぇ?」
「ええと、こういう言い方はアレなのですが、3分の起動に『マナ結晶』130ユニットを消費するようなモノを2台も造ると思いますか?」
ヴェイルさんの言葉に、ルビーさんが珍しくガックリと肩を落とした……。
そんなこんなで、わたしは報酬の3万MGと、追加のマガジンを1個手に入れ、無事、強制任務が終了したのであった――。
・ヴェイル :セピアのハーフアップ髪の魔法少女
外事部・交渉工作課
・クロウ :黒灰色ローポニーテール、黒のタイトスーツ風の衣装
情報部
・リュミエール:アッシュゴールドの一本の三つ編みに白衣の魔法少女
技術研究部・技術研究課
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