09話 先輩魔法少女・リレッタ登場!
もう少し!
あと少しで無傷の住宅街へ逃げ込めるという時に、後方から魔法光と衝撃音! 直撃はしなかったが爆風に吹き飛ばされ、俺とエステラは別方向にゴロゴロと地面を転がる。
ガスンっとビルの残骸に身体を打ちつけられ、ようやく身体が止まる。俺が振り向くと、ふっ飛ばされたエステラが少し離れた場所でノロノロと立ち上がる。エステラとは離されてしまった。
「えっ!?」
エステラの後ろから攻撃をしたと思われる鎧の赤髪が滑るように近づいてくる。青髪の次は赤髪かよ。赤髪は距離の近いエステラをターゲットに定めたようで、エステラの方へ視線を向けている。
「エステラ、魔法だ! 防御魔法を使え!」
「えっ、あっ! 『ク、女王の防壁』」
赤髪が光の槍を射出するのとほぼ同時に、エステラの防御魔法が発動。一瞬、周囲が淡い銀色に光る――と、光の槍が着弾。着弾部が一瞬虹色の光を放ち、光の槍は消失。鎧の赤髪が驚いた表情を浮かべる。
「姐さん! コッチへ!」
鎧の赤髪がエステラから俺へと視線を移している。防御魔法を使う面倒なエステラより俺の方を先に排除しようとでも思ったのだろう。
「間に合わない、エステラはそのままガードしてろ!」
鎧の赤髪はエステラを迂回して俺の方へ高速で接近してくる。エステラのバリアのような防御魔法の範囲に入る前に、間違いなく攻撃される。
鎧の赤髪の攻撃から逃げられないと判断した俺は、地獄の殺戮者での攻撃を選択し射撃体勢へ移行。
「姐さん!」
エステラが心配そうな叫び声を上げるのを他人事のように聞きながしながら、『フォーサイト』の光が収束していき、バリアを破壊するための最適な弾道を描くのを見つめる。
光のラインに導かれるように照星と照門を合わせ照準――発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
爆発音にも似た発砲音と同時に地獄の殺戮者の弾頭が赤髪のバリアへ直撃――バリアを完全に粉砕したことが分かる。が、赤髪は無傷。
2重バリア!? 赤髪は、内側にもう1つ防御魔法を展開している、早く次弾を……!
俺はマギドールの強靭な肉体でも制御できない地獄の殺戮者の強烈な反動にたたらを踏みながら、強引に体勢を立て直す。
もう1発……!
鎧の赤髪のバリアを破壊する最適な弾道へと光が収束していく。
早く! 早く!
遊底を操作し、20cm程もあるどでかい薬莢が排出されると、淀みなく次弾を装填――だが、すでに鎧の赤髪は槍先を俺の方へ向けていた。槍の先端が魔法の発動光を放ち始める。
これは、間に合わない――
「『黒薙』!」
凛とした声が響くと同時に、黒い光をまとった斬撃が飛び、鎧の赤髪を襲った。衝撃音と共に赤髪のバリアは破壊され、吹き飛ばされた身体が地面を転がっていく。
「っ!」
赤髪は地面を転がりながらも体制を立て直そうとするが……次弾の装填を終えた俺は、地面を転がっていく赤髪に照準、発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
強烈な反動と爆発のような発砲音。同時に一瞬前まで赤髪だったものの頭部が消失、赤い霧へと変わる。
自分が引き起こしたにも関わらす、その非現実的な光景にスプラッター映画を見ているようだと他人事のように思う。
「姐さん!」
心配そうな表情で駆け寄ってくるエステラの姿を見ながら、凄まじい疲労感にガクンと崩れ落ち地面に膝をついた。
「大丈夫っスか!?」
「大丈夫だ……」
初めて人を撃ったが心理的な衝撃はない。ただただ疲労感しか感じない。そもそも現実感がなく、まるで夢の中にいるようだ。
「こっちだ!」
鎧の赤髪を吹き飛ばした、セーラー服をイメージさせる黒い衣装に日本刀を携えた凛とした雰囲気の美少女に呼び掛けられる。
艶やかな長い黒髪に、ルビーのように紅い瞳の怜悧な美少女……なのだが、どっかで見たことのあるような黒髪ロングで日本刀を振り回すテンプレ美少女キャラだなぁ、というのが第一印象。
「おい、早くしろ!」
容姿に似合わぬ乱暴な口調で怒鳴りつけられ、俺達は黒髪の少女の後に続き近くの半壊したビルへと転がり込む。崩れた開口部以外はそのまま建物として残っており、隠れるには丁度良さそうな場所。
「おい金髪、どうなってんだ! ライナはどうした!」
開口部から見えぬように物陰に隠れながら、黒髪が見た目に似合わぬ粗暴な言葉遣いで俺達を怒鳴りつけてくる。
「助けてもらったのは感謝するが……アンタは誰なんだよ?」
「あ、ああ。あたしは指導教官のリレッタだ」
名前を聞いて思い出した。地下の部屋でライナがまだ来ないのかって文句言ってた奴だ。コイツ遅刻しやがったな。
「俺はリリナ、こっちのがエステラだ。状況だが……」
遅刻について一言、言ってやりたかったが、遅刻しなかったらライナと一緒に死んでたかもしれないと考え直す。
「ライナは、敵の最初の攻撃の、デカいビームみたいなやつにやられた。その直後に俺達もビームで攻撃されて、みんなバラバラに吹き飛んだ」
「そうか……さっきの赤髪の他に、敵は見たか?」
「俺が見たのはさっきの赤髪に、青髪と金髪の3人だ。3人共、鎧みたいなのを着ていて、槍を持ってる。滑るように移動しながら、槍先から光の槍みたいなのを撃ってくる」
とりあえず俺の見たことを端的に伝える。
「魔法騎士だな。黒狼戦役が終わったばかりだってのに、次は聖導連盟とかよ……で、他の連中はどうした?」
リレッタは苛立ったような表情で俺の顔を睨みつけながら凄んでくる。正直、遅刻野郎に偉そうにされるのは不愉快極まりないが、揉めてもしょうがない。
「最初の攻撃に生き残った連中も、あんたらのクスリのせいでバカみたいに敵に突っ込んで、今まさに殺されてる真っ最中ってところじゃないか」
俺が首のメタルチョーカーを指さしながら言うと、リレッタは顔をしかめる。
「クスリ? 最初は回復剤が入ってるはずだ。負傷したら傷ふさぐやつ」
「回復剤? なんだそりゃ? 俺が言ってるのは、突然、猛烈な殺意が湧いてくる興奮剤みたいなヤツだよ。俺とエステラは中和剤を使って正気に戻ったんだ」
「殺意が湧いてくるって……マジで上の連中戦意高揚剤なんか使ったのか!?」
驚いたように叫ぶ。どうやら本当に知らなかったようだ。
上の連中ってことは、ライナやコイツより上がいる……まあ当然か。組織である以上、危険な現場に出るのは下っ端と決まってる。コイツに文句を言ってもしょうがないか……。
「で、どうする? 俺達は隙を見て逃げるつもりなんだが……」
「逃げるっていってもなぁ……ベースに状況を確認してみる」
リレッタが首元のチョーカーへ指を当てると、何か話し始める。
「リレッタより、Y08ベースへ。リレッタより、Y08ベースへ……」
しばらくモゴモゴ言っているが、どうやらベースとやらかの返信はないようだ。
「通信の中継器が、やられたみたいだな……ちょっと待ってろよ」
リレッタがマギリングを操作すると、中空にマップのような画面が表示される。青いエリアの周囲が、あちこちで赤く点滅していた。
「マギリングのデータリンクは生きてるな……こりゃ、マジで聖導連盟の全面攻勢だな。千桜の通信網は寸断されてる」
「おい、どうなってんだ?」
「聖導連盟が全面攻勢をかけてきてる。赤い所が中継器が機能していない所だな。ベースに戻るにしても、途中で聖導連盟の連中とやり合うハメになりそうだ」
よく分らんが『敵』は聖導連盟という連中らしい。そいつらが全面攻勢をかけてきている、ということらしい。戦争が始まったってところだろうか?
「このエリアの状況は、と……」
リレッタがマップの中央部に触れると、拡大表示される。よく見ると、いくつかの青い光点と2つの薄い赤い光点が表示されている。
「40ユニット居たはずなのに、残ってるのは、お前等含めて13ユニットだけか。酷いもんだな……」
青い光点が魔法少女なのだろう。数えたら全部で14の青い光点が表示されている。
3つ集まっているのが俺とエステラとリレッタだろう。残りの11の青い光点は、一塊となってゆっくり移動している。
敵と思われる2つの薄い赤い光点は、俺達から少し離れた左側と右側で動いていない。
「レーダーみたいなものか? それがあれば、敵を避けて逃げられるんじゃないか?」
俺の言葉にリレッタが難しそうな顔をする。
「そんなに便利なもんじゃねえよ。この敵の位置だって、最後に確認された場所がここってだけで、今も同じ場所に居る訳じゃねえ」
敵の位置が分かれば安全に逃げられると思ったのだが、それほど甘くはないようだ。
「それに、さっきも言った通り、ベースに戻るにしても、多分、途中のエリアで別の敵と鉢合わせになるぞ」
正直、リレッタが言ってることの半分も分からない。俺とエステラは黙って考え込んでいるリレッタを待つ。
「まず、残ってる連中と合流して、正気に戻すか」
「そうだな、正気に戻せば、戦力になるからな……」
「おい、間違っても戦おうなんて思うな。さっきの赤髪を倒せたのは、アイツがあたし達を舐めてたからだ」
俺の戦力という言葉に、リレッタが焦ったような表情を浮かべる。
「相手は聖導連盟の魔法騎士だ。まともに戦ったら、お前達みたいな新兵じゃ命がいくらあっても足りねえ。とにかくお前達は、自分が死なないことだけ考えてろ」
正気に戻った魔法少女13人に、ベテランっぽいリレッタが居れば何とかなるかもと思ったのだが、そうでもないらしい。
「分かった」
「了解っス」
俺たちはリレッタを先頭に、敵に見つからないよう姿勢を低く保ち、遮蔽物と遮蔽物とを伝いながら、残っている魔法少女たちとの合流を目指して移動を開始した。
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