10話 リレッタ先輩の戦闘講習
「そういえば、金髪の魔法具は凄いな。魔法騎士のチャージアーマーを正面から1発で破壊するのなんか初めて見たわ。あたし達が連中を相手にする時は、後方に回り込んで攻撃するか、近接攻撃しかないんだけど、金髪の魔法具なら……」
「リリナだ。コッチがエステラ」
移動しながらリレッタが話しかけてくる。普通に答えてもよかったが、他にも金髪やら銀髪やらが居たと思うので、もう一度名前を言っておくことにする。
「ああ、リリナとエステラな。まあとにかく、連中もチャージアーマーを破壊されれば、無理攻めはしてこないだろう。万が一遭遇しちまったら、頼むぞ」
チャージアーマーというのは鎧の連中のバリアみたいなヤツだろう。確かに1発で破壊できたが、残弾が1発ってことをリレッタに言っといた方が良いよな……。
「あー、それなんだが、弾が後1発しかないんだ。つまり後1回しか撃てない」
「は? さすがに2、3発で魔力切れってことはないだろ?」
俺の言葉に足を止めたリレッタが怪訝そうな表情を浮かべる。
「俺の地獄の殺戮者は1マガジン3発しか弾がないんだよ。さっき2発使ったから後1発。時間がたてば再構築されるが、そんな余裕はなさそうだしな……」
「アイテムタイプの魔法具なら、ショップで買えるだろ」
「ああ、確かにマガジンはショップで売ってるんだが……」
1マガジン200万マギト。
200万マギトの価値がイマイチよく分からないが、最初に支給されてたのが5万マギトで中和剤が2千マギトだったから、200万マギトというと、俺的にはかなり高額のイメージ。
だが常識的に考えれば、たかがマガジン1個。リレッタなら普通に出せる金額かもしれない……が、何となくリレッタにたかるような感じになってしまうので言うのを躊躇してしまう。
「何だよ?」
続きを促すように待つリレッタに言葉を続ける。
「あー、1マガジン200万マギトなんだよ。現状手持ちのマギトが無くて買いたくても買えないって訳だ」
「冗談だろ!? アイテム1個で200万マギトってのは、さすがに高すぎ……」
マギリングを操作しマガジン販売の画面を表示するとリレッタに見せる。
「うわっ、マジで200万かよ! 高っか!」
リレッタにマガジン購入画面を見せると吐き捨てるように言う。やっぱり200万マギトってのは大金だったか。
「マジで200万か……200万……」
リレッタは真面目な顔で悩み始めた。悪いが、俺にはどうしようもない。
「あの、姐さん、少ないですけどオレのマギトを使ってください……」
いやいや、ちょっと。何言ってんだよ。エステラ良い奴過ぎだろ。詐欺にあわないな心配になるレベルだ。俺と違って、黒い男にダマされて魔法少女にされちゃったパターンかもしれないな。
「あ、いや、大丈夫だ。大事なマギトだ、それはエステラが自分で使え」
「でも、姐さんにはナントカ剤とか使ってもらっちゃってるし、オレ、姐さんにずっと世話になりっぱなしで……」
いや、お前と会ってから3時間も経ってねーからな。
「じゃあ、いざって時はエステラの防御魔法で俺を守ってくれ。それでチャラだ」
「分かったっス! 守るっス! オレ、姐さんのこと絶対守るっス!」
こぶしを握り締めてキラキラした瞳で見つめてくるエステラは、ブンブンと尻尾を振る犬みたいで、顔はキツ目だけどちょっと可愛い。
「おいリリナ、あたしの全財産200万マギト貸してやる。戦闘は避けるつもりだけど、万が一って時はあるから弾薬を買っとけ」
黙り込んでいたリレッタが、突然予想外のことを言い出した。
マギトを貸すから弾を買えってことだろうが、いやいや……ダメだ、絶対にダメ! 金を借りるのは絶対にダメだ! 絶対に金は借りない!
「悪いな、金は借りないことにしてるんだ」
「はぁ? 仕掛けるつもりはないが、戦闘になる可能性は十分ある。1発じゃまともに戦えないだろ」
「いらない」
「おいおい、戦闘になれば死ぬかもしれねえっては理解してるんだろうな?」
死にたいわけじゃないが、借金なんか死んでもごめんだ。死んでもだ!
「すまんな。死んでも借金だけはしないことにしてるんだ」
「死んでもって、お前なぁ……。はぁ、そういうことか。チっ、分かったよ。はぐれてる連中を正気に戻せれば、何とかならないでもないか……」
俺の頑な態度に、リレッタは一瞬怜悧な美貌を不機嫌そうに歪ませるが、何かを察したように溜息をついた。リレッタも俺と同じような経験があるのかもしれない。
「よし、まず手分けしてラリってる連中を正気に戻す。その後は、全員で何とかベースまで撤退する。それでいいか?」
「分かった、リレッタに従うよ」
「了解っス」
「じゃあ、敵についての説明しとく。いいか、連中のチャージアーマーは前方に半円状に展開されてる」
諦めたらしいリレッタは、対策を話し始めた。リレッタが指先で地面に敵のバリアの範囲を描く。だいたい視界と同じくらい、前方200度といったところだろう。
「つまり、後ろから攻撃すりゃあいい。チャージアーマーの内側に全周囲のナイトアーマーってのを展開してるけど、コレはあたしの『黒薙』で破壊できるレベルだから、数が居れば何とでもなる」
「後ろから攻撃するのって、結構大変じゃないか?」
簡単そうに言うリレッタに思わず突っ込みを入れる。
「まあな。誰かが囮になって引き付けてる間に後ろからって感じになるから、あたし達だけじゃ無理な作戦だな。正面から戦う方法も、ないわけじゃないが……」
「どうするんだ?」
何か対処法があるなら聞いておきたい。
「うーん、まあ単純に近づいて直接ぶった斬ればいいだけだ。遠距離からの攻撃は弾かれるが、直接ぶった斬る分には問題ねぇ」
思ったより、単純な方法だった。ラリった連中が突撃していったのも、無意味って訳じゃなかったんだな。
だけど、連中相手に近接戦闘とかできるのか? ラリった連中がアホみたいに突撃していって、片っ端からやられていた光景を思い出す。
近づいてって所から無理っぽい気がするんだが……。
「実際に鎧の連中を斬ったことがあるのか?」
「いや。でも防御魔法なら、いくつか斬ったことがある。みんな同じようなもんだった」
「えっ、防御魔法って斬れるんっスか!?」
エステラが突然声をあげた。防御魔法使いとしては気になるのだろう。エステラが思っててたよりちゃんと考えているようで、ちょっと安心。
「ああ。ありゃ、粘性のある……何て言うか油? みたいな感じで多少の抵抗はあるけどな。あ、防御魔法を斬れるわけじゃなくて、防御魔法が発動してても本体を斬れるって意味な」
「あぅ、姐さん、オレの女王の防壁じゃ守れないみたいっス……」
近接戦闘では防御魔法が役に立たないと聞いたエステラが慌て始める。いや、お前は普通にでかい盾があるだろ。
「エステラは魔法具の盾があるだろ。近接戦闘になったら、アレで防御すればいい」
「魔法具の盾があるなら、それで遠距離攻撃も近接攻撃も防げるはずだぞ。さっきのは、あくまで防御魔法の話だからな」
「そ、そうなんスか! そういえば白銀の盾があったっス! すっかり忘れてたっス!」
アホの子は放っておいて、話を本題へと戻す。
「で、接近すれば防御魔法を無効化できるのは分かったが、連中に近づけるのか?」
「ああ、そりゃ簡単だ。待ってれば連中の方が突っ込んでくるはずだ」
「え、何で?」
「遠距離攻撃は、エステラの防御魔法があるからな。近接戦闘で手早く片づけにくるはずだ」
なるほど。なら、待ってればいいのか……って、片づけられちゃうのかよ!
「おい、片づけられちゃったらダメだろ」
「正面から戦う方法を聞かれたから答えただけだ。だから回り込んで後方から攻撃するんだよ」
ごもっともで。
「つーことで、万一、戦闘になったらリリナとエステラは連中の前方に出て適当に囮になれ。その間に、あたしと他の魔法少女達が後ろに回り込んで連中を倒す。嫌とはいうなよ」
囮か……まあ弾がなくなったら、囮くらいしかできないか。
「俺はそれでいいが、エステラはいいのか?」
「大丈夫っス! オレの『女王の防壁』……と、白銀の盾で姐さんを守るっス!」
大楯は斬られないと分かったエステラが、張り切っている。さっきの戦闘では、エステラの防御魔法は連中の攻撃を完全に無効化していたし、大盾もある。エステラと一緒なら、何とかなるだろう。
「あっ、ちなみに、さっき話した近接戦闘だけど、魔法騎士は近接戦闘技術も強いから絶対やめとけよ」
リレッタの言葉に、俺とエステラがうなずく。
リレッタの話からすると、魔法騎士ってのは、魔法少女の上位互換ぽい感じだな。本来、少人数の魔法少女が戦うような相手じゃないんだろう。
「よし、まずは合流して、ラリってる連中を正気に戻すぞ」
マップを表示したまま移動していくリレッタに続いて、俺達も遮蔽物から遮蔽物へ這うように移動する。
「しかし、リリナは新兵のくせに、ずいぶん落ち着いてるな」
落ち着いているというより、現実感が乏しく夢の中にいるいるような感覚ってだけなんだけどな。
「そうか? リレッタほどじゃないだろ」
「当たり前だ。あたしは2年近く魔法少女やってるからな」
2年か、長いのか短いのか分からないな。そうだ、2年、魔法少女をやっているなら知ってるかもしれない。
「なあ、リレッタは『過去の話』のことについて何か聞いたことないか?」
「っ!」
俺の言葉に、レッタは動きを止め真剣な表情を浮かべる。
「あたし達は『前』って呼んでるけど、ソレを知ってるってことは、どうなるか、知ってるんだな?」
どうやらリレッタもあのことを知っているらしい。
「突然人が変わるっていうか、別の人格になるっってうか、それで合ってるか?」
「まあ、そんなトコだ。『前』の記憶が消えて、ガキみたいになっちまう。小さな女の子が変身するアニメの魔法少女みたいになるから、あたし達はホンモノになるって言ってる」
そこまで言うと、チラリと俺達に視線を投げる。
「いいか、ホンモノになりたくなければ、『前』のことは絶対に話すな、書くな、録音も録画も、独り言もダメ。とにかく頭の中から外部に出すようなことは全部ダメだ。『前』の知り合いにあっても無視しろ、記憶は自分の頭の中だけに留めとけ」
独り言もダメとなると結構難しいな……だが、明確な条件が分かったのは僥倖だ。前のことなんぞ思い出したくもないが、記憶を消されて自分が自分でなくなるのも嫌だ。
「ホンモノになる条件を教えるのは一応禁止されてるから、あたしから聞いたってことはナイショにしといてくれよ」
「分かった。しかし、記憶がなくて戦えるもんなのか?」
「完全に記憶がなくなるんじゃなくて、『前』の記憶を基に適当に記憶を再構成してるらしい」
「なんだそりゃ」
「んー、そうだな。例えば、ごく普通の女子中学生が、悪い敵と戦う使命を与えられて魔法少女になった――なんて風に記憶を改竄されて、今の置かれた状況に辻褄を合わせるって感じだな」
エステラにイチャモンつけてきた三つ編みの緑色の様子を思い出し納得する。
「頭の中は小、中学生レベルになっちまうが、魔法能力は強化されるし、戦闘意欲がアホみたいに旺盛になるから、戦うのに問題ない」
「なるほど。だけど、こんなに簡単に教えちまっていいのか? 一応、禁止されてるんだろ?」
「ハッ! あいつら、引くこと知らねえから、放っておくとバンバン死んでくんだよ。戦闘中に勝手に死なれると迷惑だから、みんな普通に教えてる」
リレッタは俺からエステラへと視線を移す。
「リリナは大丈夫だろうが、エステラ。お前は、ちょっとヌけてるみたいだから絶対に忘れんなよ。ホンモノになったら戻れねえからな」
「オレっスか? 分かったっス!」
本当に分かってるかどうか怪しいエステラが元気よく返事をすると、リレッタはマップに視線を落としつつ移動を再開した。
身をかがめての移動は窮屈なうえ移動速度は遅いが、奇襲されるよりはマシと我慢する。
エステラの防御魔法なら、あのビームも防げるみたいだが、防御魔法を発動した状態だと移動できないらしいのでしょうがない。
3人共スカートの裾が捲れあがることを気にすることなく、太ももを大胆に晒しながら移動を続け、ゆっくりとだが着実に他の魔法少女達の方へと近づいていく。
「マズい! 新兵共が連中と遭遇しちまった!」
突然叫びだしたリレッタのマップを覗くと、真っ赤に点滅した2つの光点が、11の青い光点の方へ凄い速度で近づいていく。交戦寸前といった状況。
「おい、新兵共! 指導教官のリレッタだ、今すぐ散開しろて逃げろ!」
リレッタがチョーカーへ指を当てると大声で叫んだ。通信機能ってやつだろう。どういう仕組みか分からないが、リレッタの叫びがチョーカーを通じて頭の中に響いてくる。
ラリってる連中に何を言っても無駄だとは思うが……予想通り、バラけていた青い光点は、2つの赤い光点へ真っ直ぐに突っ込んで行く。うん、まあそうなるな。
「クソっ! 急ぐぞ!」
リレッタは短く言い放つと走り出した。俺とエステラは顔を見合わせると、立ち上がりリレッタの後へと続く。走ればすぐに合流できるだろう。
あの……で、できればでいいんですけど、ブックマークとか、評価ポイントとか、感想とか、頂けると、凄っごく嬉しいかなって……あ、いえ、面倒くさいなら全然いいですから! でも……できればでいいんで、お願いします!




