11話 激闘! 魔法少女 vs 魔法騎士
嗅覚は、視覚や聴覚よりも生々しく、そして強烈だ。
周囲には血と臓物、汚物の臭気が重く立ち込め、どこか現実感の乏しかった俺に、これが紛れもなく現実なのだと突きつけてくるかのようだ。
大して時間は経っていない。だが着いた時には、全てが終わっており、立っている者はおろか、動いている者さえ居ない。
そこにあるのは、ちぎれ飛んだ四肢、撒き散らされた臓物、砕かれ半分となった頭部――かつて魔法少女だったものの、無惨な残骸だけだった。
「クソっ、離脱するぞ!」
呆然と立ち尽くす俺とエステラをよそに、リレッタは気持ちを切り替えるように軽く頭を振り、踵を返した。
「俺達も行くぞ……」
気持ちを切り替え、リレッタの後に続こうとした時、エステラの瞳が大きく見開かれた。エステラの視線を追うと、槍を構えた鎧の金髪と青髪が滑るように接近してくる。
「エステラ!」
反射的にエステラの背中をつかんで地面に押し倒す――と同時に前方に着弾! 爆散した瓦礫が降り注ぐ。もう一発、俺たちの後へ飛んでいく。リレッタを狙っているのだろう。
「エステラ、防御魔法!」
「えっ、あっ! 『女王の防壁』」
魔法発動光の煌めきと同時に、一瞬周囲が淡い銀光に包まれる――同時に光の槍が着弾。だが着弾部がわずかな虹色の光を放ち、完全に光の槍を防ぎきる。
「クソっ! 仕方ねぇ。戦るぞ!」
無事だったらしいリレッタが叫ぶが、いやいや、『戦るぞ!』とか言われても、残弾1発で何をどうすんだよ!? コッチは、さっき魔法少女になったばかりの素人だぞ!
次々に光の槍が飛来するが、エステラの防御魔法が全て阻んでくれる。おかげで、少し落ち着いてきたが……。
「姐さん、アレ!」
光の槍が完全に防がれると分かった鎧の2人組は、建物の残骸や瓦礫の山を縫うように、急速にこちらへ接近してくる。
「クソったれ、連中、近接攻撃で仕留めにくるぞ! エステラ、さっき言ってた盾をすぐ出せ! リリナは……これで早く弾を補充しろ!」
リレッタが叫ぶと、自分のマギリングを俺のマギリングに接触させる。と、俺のマギリングに204万8千マギトと表示された。
「おい!?」
「あたしは、こんな所で死ねねぇんだよ! 200万マギト、あたしの全財産くれてやる。早く弾を補充しろ!!」
「くっ! 後で返せって言っても、絶対返さないからな!」
四の五の言ってる暇はない。自分でも大人気ないと思うセリフを叫んでマガジンを購入。すぐに両手に余るほどの大きさのマガジンが、手の中に現れる。
「エステラ、お前の防御魔法は全方位防げるのかか?」
崩れかけた建物や瓦礫の山の隙間から、滑るように移動する鎧の2人組の姿がチラチラ見える鎧の2人組の動きを視線で追いながら、リレッタはエステラの防御魔法の効果を確認する。
「全方向防げるっス」
「よし。一応、そのまま展開しておけ。リリナは、いけるか?」
すでに地獄の殺戮者は、新しい3発装填済みのマガジンに交換している。一応、残弾1発の方のマガジンも、すぐに交換できるように準備済み。
「問題ない。4発あれば、何とかなるだろ、多分」
鎧の連中が移動している方向へ向けて地獄の殺戮者を構える。
「4発か……チャージシールドさえ潰してくれれば、後は、あたしが何とかする」
「分かった――っ!?」
視線で追っていた建物の影から、鎧の青髪が滑るように飛び出してくる……スカイブルーのくせっ毛をポニーテールにして、顔立ちは人形のように整っているが、その表情は凶悪な笑顔を浮かべている。
「来たっス!」
思ったより速い。前に出たエステラが、スパイク付きの大楯を突っ込んでくる鎧の青髪に向けて構え、リレッタはエステラの左後方で抜刀し待機。
俺はエステラの右後方から、地獄の殺戮者を構えて射撃態勢。『フォーサイト』のボンヤリとした光が、最適な目標へ向けて収束していく――
「上っ! 任せろっ!」
リレッタが叫びながら飛び出していく。俺は照門から視線をわずかに上げ――倒壊しかけたビルの上部から、槍を下向きに構えた鎧の金髪が飛び降りてくる!?
コンマ数秒の逡巡後、俺はすぐ近くに迫ってきている青髪への射撃を選択。『フォーサイト』の光のラインに従い照準――発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
強烈な反動で体勢を崩しながらも、チャージアーマーを破壊。鎧の青髪は、わずかによろめき動きを止めるが、すぐに滑るような移動を再開し突っ込んでくる。
だが、さっきまでスピードはなく、すれ違いざまに放ってきた槍での直接攻撃は、エステラの大楯で難なく防がれる。
「チッ!」
射撃を終えたばかりの俺の傍らを、青髪の鎧の少女が舌打ちをしながら滑るような移動ですり抜けていく。
飛び出していったリレッタは、俺の発砲とほぼ同時に上空へジャンプ。降下中の金髪の槍を日本刀で逆袈裟に斬り上げ、弾く。
「へぇ……」
金髪はバランスを崩しながら着地、槍を手放して地面を転がる。しかしすぐに立ち上がり、滑るような動きでリレッタの追撃をかわしながら逃走。
俺は排莢しながら金髪の背へと銃口を向け……ん、何か落とした? 次の瞬間、強烈な閃光と爆発音!
「んぐっ!?」
何だコレ!? 視界がチカチカ真っ白に点滅し、頭がクラクラする。
「姐さん、大丈夫っスか!?」
真っ白な視界の中、エステラの心配そうな声と共に肩を掴まれる。エステラは大丈夫なようだ。さすが防御特化ってことなのだろうか。
視界がうっすら戻ってくる。だが目を凝らしても周囲は濃い白煙まみれだ。煙幕ってやつだろうか?
「発煙弾!? 撤退したのか……?」
ホッとしたようなリレッタの呟き。だが……何か違和感。
白煙の向こうを確かめるように目を凝らすと、自動的に『フォーサイト』が発動。白煙の向こうに、うっすらと人影が見え、俺に射撃を促すようにボンヤリとした光が灯る。
「エステラ!」
俺の叫びに、エステラが慌てて大楯を構える――直後、白煙の向こうから光の槍が飛来。だが、エステラの防御魔法に当たったのか、白煙の中、淡い虹色の光と共に消滅する。さらに2発目が着弾するが、これも淡い虹色の光と共に消滅。
この煙の中、どうやって撃ってるんだ? 見えてる? いや、見えていたらエステラから離れてるリレッタを狙ったはず。狙って撃ってきてるわけじゃない、狙いは……。
「俺たちが移動しないように牽制してるんだ! また突っ込んでくるぞ!」
「ここで迎え撃つ。エステラの近くに集まれ!」
リレッタの指示で俺たちはエステラの盾の後ろに集まり、背中合わせに周囲を窺がう。
どこだ? 俺は振り向き、さっき見た人影の方向へ視線を凝らす……と、『フォーサイト』が自動的に発動するのと同時に、今まで感じたことがなかった魔力が消費される感覚。
導かれるように視線を移すと、白煙の向こうにうっすらと人影が移動しているのが見えた。白煙の中を一直線に突っ込んでくる。
「見つけた!」
俺は宣言すると、人影の方へ向き直る。
『フォーサイト』の光のラインが収束していく方向に向け地獄の殺戮者を構えるが、フッと光のラインが拡散――槍を投げやがった!
ガシュッン!!
槍はエステラの魔法防御を貫通するが、エステラの構えた盾が銀色に光り、投擲された槍を弾き飛ばした。
「女王の防壁が壊されたっス!」
慌てるエステラの後ろで、俺は『フォーサイト』の光のラインが収束していくのを待つ。白煙の向こうの人影へ向け引き金を絞り……突然、光のラインがフっと拡散した。
無意識に振り返ると、白煙の向こうからヌゥと槍が突き出された。
「なっ!?」
俺の頭が槍に貫かれる寸前、襟首を掴まれ後ろに引き飛ばされる。
「コイツは、あたしがヤる! 金髪の方を頼む!」
白煙の向こうから現れた鎧の青髪ポニテ女へ、刀を構えたリレッタが叫ぶ。
「わたしとサシでヤるって? 生意気っ!」
鎧の青髪が突き出した槍を弾いたリレッタは、そのまま青髪の懐に入ろうと踏み込む。青髪はあっさり槍を手放し、流れるような動作で剣へ持ち替えるとリレッタへ斬りかかった。
ガキィィン!
リレッタが青髪の剣を刀で受け、鍔迫り合いになる。俺はリレッタの指示に従い、金髪が居るだろう方へ向き直ろうとするが……。
「何だ、この馬鹿力は!?」
「粗悪品の魔法少女と一緒にするなっつーの!」
互角の鍔迫り合いだったのは一瞬で、すぐに獰猛な笑顔を浮かべた青髪にグイグイと力で押し込まれ、リレッタは膝をついて何とか耐えている。
完全にリレッタが力負けしてる。このままだと青髪に、文字通り押し斬られるだろう。
俺は地獄の殺戮者を構えながら、後ろに居るエステラに声をかける。
「エステラ、金髪が来てるはずだ。少しだけ持たせてくれ!」
「えっ、りょ、了解っス!」
エステラには金髪に備えてもらい、俺は膝射の姿勢でリレッタと交戦中の青髪へ銃口を向けると、『フォーサイト』の光のラインが収束しはじめるが、収束するまで待っている時間はない。
俺は地獄の殺戮者を青髪の頭部へ照準、即、発砲!
ガァァァァァーーーーーーン!
地獄の殺戮者は、青髪のナイトアーマーを破壊。青髪はフラつきながら後ろに下がる。
このまま青髪を仕留める!
俺は遊底を操作、排莢口からどでかい薬莢を排出し、次弾を装填……。
ガンッ! ガッガッガッガッガッガッガッッ!
後方で大きな衝突音。両手で大楯を構えたまま、地面をえぐるようにして押されてきたエステラが、俺の背中にぶち当たる。
「くっ!?」
態勢が崩れた俺に、剣を構えた金髪がエステラの大楯を踏み台にして飛び掛かってくる。
『黒薙!』
リレッタの放った黒い斬撃は防御魔法に弾かれるが、金髪をエステラの盾の向こうに撃墜。だが、振り向きかけたリレッタに、青髪が斬りかかる!
ザンッ!
リレッタの刀を握ったままの右腕が血飛沫と共に宙を舞い、さらに一直線に切り裂かれた額から左胸元にかけて盛大に出血。
血を吹き出しながら膝から崩れ落ちていくリレッタに、とどめを刺すべく青髪が剣を振り上げる。
「リレッタ!」
ろくに照準もできぬまま、青髪に向け地獄の殺戮者の引き金を引く。
ガァァァァァーーーーーーン!
マガジン内の最後の1発が発射され、青髪の胸部に大穴が空く。血飛沫が飛び周囲が血煙に覆われる中、青髪の上半身と下半身が別々に別れ、血を吹き出しながら崩れ落ちる。
「よくも!」
怒りを込めた叫びを上げた金髪が、射撃による強烈な反動でよろける俺の後ろから斬りかかってくる。
「薔薇の抱擁!」
俺を守るように金髪の前に飛び出したエステラが魔法を発動。エステラの大楯から、光の薔薇と棘のある蔓が、金髪の防御魔法を包み込むように伸びていく。
光の薔薇は金髪のチャージアーマーを突破できないようだが、金髪の動きを止めることに成功。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
エステラが吠えるような叫び声を上げ、光の薔薇と蔓が巻き付いた大楯で金髪に突っ込んでいく。俺は地獄の殺戮者のマガジンを外し、残弾1発のマガジンを装填……。
「邪魔だ!」
エステラの突進に、金髪は身体をわずかにかがめると、盾の下から覗くエステラの両足を一振り斬り飛ばす。
「ぎゃあああああああああああああっっっっっ!!」
両足首を失ったエステラは、叫び声を上げながら地面に突っ込み、後ろに2本の赤いラインを作りながら地面を転がっていく。
地獄の殺戮者の残弾は1発。金髪の2重の防御魔法は両方とも健在。リレッタもエステラも戦闘不能。どうすんだ、コレ……。
いや、0距離から撃ち込めば1発で十分。
契約は守られるべきだ……契約通り、せめて次に死ぬまでは、このクソろくでもない簡単な作業とやらを続けてやる。
「うぉおおおおおおおおおおおおお!」
無意識のうちに咆哮を上げながら、地獄の殺戮者を腰だめに構えて、金髪に向かって突っ込んだ。
「このっ!」
射撃を警戒していたのだろう。俺の突撃に金髪の反応が一瞬遅れる。
地面すれすれまで身を沈めて突進。首筋に振り下ろされた金髪の剣をギリギリ避けるが、肩に灼けるような痛み。
「なにっ!?」
なに、死ぬまでに1発撃てばいいだけだ。
吹き出す血と痛みは無視。銃口を金髪の顎に押し当て……一瞬、目が合う。乱れた金髪に驚愕の表情――それでも、美人は下から見上げても美人なんだな。
「や……」
零距離から発砲、金髪の頭部が消失する。血煙と共に、頭部を失った首から鮮血がほとばしる。そして、頭部を失った鎧の身体は、ゆっくりと地面へと崩れ落ちた。
俺の息遣いだけが妙に大きく聞こえる。
「終わった……のか?」
俺は血だまりの中、地獄の殺戮者を支えにガックリ膝をついて座り込んだ――。
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