85話 カーミラ先輩の贈り物
「今日もリリナしか来ていないのね。まったく志の低い人達には困ったものね……」
何度目かの秘密特訓に呼び出されて来てみれば、今日も来ているのは、わたしとカーミラ先輩の2人だけだ。
ちなみに、毎回パーティー通信で全員に連絡されているはずなのに、今までこの秘密特訓に、わたしとカーミラ先輩以外のメンバーは、1人たりとも参加したことはない……。
え、何で律儀に秘密特訓に参加してるのかって?
だって、一生懸命クリスマスパーティーの準備したのに誰も来なかったら泣いちゃうでしょ!
そういうの嫌なんだよ!
「ところで、コレ、どうかしら?」
「ん? お、おおっ!?」
黒地に赤と銀色の刺繍飾りが施された眼帯をしたカーミラ先輩が、得意げに横ピースしながら自慢してくる!?
「凄い! カーミラ先輩、カッコ良いです!」
カーミラ先輩の中二病全開アクセルベタ踏みフルスロットル状態の眼帯姿に、わたしは素直に感嘆の声を上げた。
いや、やってることはチョー痛いんだけど、本物(?)の悪の女幹部っぽくて、カーミラ先輩の悪女っぽい外見にメチャ似合ってるんだよ!
「フフフ、リリナならそう言ってくれると思っていたわ!」
そう言って眼帯を装着した姿で腕を組むカーミラ先輩は、今すぐ営業開始しても大丈夫なほど、完璧な悪の女幹部である!
「もちろん、リリナの分もあるわよ?」
「え゛っ!?」
カーミラ先輩が取り出したのは――赤地に黒と銀色の刺繍飾りが施された、カーミラ先輩と色違いの眼帯である!
カーミラ先輩に手渡された、チョー手の込んだ造りの眼帯をしげしげと眺める。
まさか、わたしにコレを付けろとか言い出さんだろうな?
「私の眼帯と色違いのお揃いよ? 着けてごらんなさい?」
やっぱり、わたしが着けるのかよ!
中二病系の娘って結構好きなんだけどさぁ、自分がするのはちょっと違うと思うんだよね?
「ええと、凄ーくカッコいいんですけど、わたし別に目悪くないですよ?」
「私だって目は悪くないわよ?」
うん、知ってる!
じゃあどうして眼帯とかするんですかねぇ?
「これは、戦闘で負傷して片目が傷ついてしまった時でも十全に戦えるようにするための訓練なのよ! それに! 突然暗闇になっても、眼帯をしている側の目を使えば、慌てることなくすぐに対処できるわ!」
何か中学生みたいなこと言い出したよ、この人……。
「あの……負傷したらベースで治療した方がいいんじゃないでしょうか。それに、魔法少女は突然暗闇になっても、瞬間的に眼球機能が暗順応して……」
小さく手を挙げてから、カーミラ先輩に反論してみたんだけど……。
「お黙りなさい! 戦っている戦友を残してベースに逃げ帰るなんて、あり得ないわ! それに、魔法少女の能力を制限するような能力を持つ魔塊獣が出現するかもしれない……これは、どんな状況にでも対応できるようにするための訓練なのよ!」
ま、まあ確かに、負傷したからってすぐには後退できないか……。
それに、魔力潮流動乱の事を考えると、そういう突然変異種が出てくる可能性もある……のかなぁ?
眼帯をするのはアレなので、色々言い訳を考えるのだが、咄嗟に良い言い訳が思いつかない。
「分かったら、こっちに来なさい。私が着けてあげるわ!」
「ええと、あの……きょ、今日はお腹が痛くて……なんて?」
「我が儘を言わない! リリナ、こっちに来なさい!」
ミアにしても、カーミラ先輩にしても、なぜかいつもわたしが我が儘言ってることにされる……何か納得いかないんですけど!
と、思ったんだけど、空気が読めるわたしは、口答えできる雰囲気じゃないので黙っていることにした……。
「さあ、早く来なさい!」
ううむ……進退ここに極まれり!
ちょっと説明すると、今、カーミラ先輩と一緒に居るのは、小田原・OD04ベース。
そう、この前の工兵課の人達の護衛任務の時に建設されたベースだ。
開設されて間もないベースなので、わたし達の居る中央ロビーにも、まだ設置されていない機材等が無造作に置かれている状態なのだが、獲物の魔塊獣が豊富なので、すでに結構な魔法少女がこのベースへと拠点を移している。
ということは、つまり、結構な数の魔法少女達が、カーミラ先輩とわたしのやり取りを見ているのである!
しかも、さっきから、かなりの注目度で!
クスクス……。
周囲から聞こえるクスクス笑いに顔が火照ってくるが、カーミラ先輩に逆らうこともできず、右目に眼帯を付けられてしまう……。
「あら! 思った通り、良く似合うわ!」
うーん、わたしとしては、似合う似合わない以前の問題のような気がするんですけどね!
眼帯だよ、眼帯? まあ、良くできてるけどさ!
などと思っていると、カーミラ先輩がコンパクトミラーを取り出して、わたしの眼帯姿を見せてくる――。
ん? おっ、おおっ……!?
むむ、悪くはない……か? いや、結構良いんじゃない?
丁寧な造りの眼帯と金髪ツインテール……フム、中二可愛いじゃん!
これはこれで……アリ、なのでは!?
「フフ、その顔だと、どうやら気に入ってくれたようね! リリナなら気に入ってくれると思ったわ! プレゼントするから、大事にするのよ?」
カーミラ先輩がわたしの両手を握って、今まで見たことがないような満面の笑顔を浮かべている……。
初めて中二病仲間を見つけた(違うけど!)のだろう……カーミラ先輩、目をキラキラ輝かせてニッコニコだ……もうこれ、喜ぶしかないじゃん!
「う、嬉しいなー! 大事にしますね、カーミラ先輩! こんな素敵な眼帯、本当に貰っちゃっていいんですか?」
「いいのよリリナ。2人でお揃いよ! 今後、特訓の時は必ず着けてきなさい、いいわね?」
カーミラ先輩に、中二病認定されてしまっている……。
セラ先輩は、中二病に興味ないタイプっぽいからな。
『血の宣誓』の缶バッチも、カーミラ先輩が作ったことは尊重してたけど、カッコ良いとは言ってなかったし……常識人なんだろう。
鏡で見た限りでは、確かに中二可愛いので、あまり深く考えないで喜んでおこう……。
「あのぉカーミラ先輩、凄くカッコいいんですけど、実戦で使うのは危なくないですか?」
カーミラ先輩の熱意(?)と、意外な中二可愛いさに負けたわたしは、実際に眼帯を装着しての実戦を想定してみたのだが……正直、片目での戦闘は危険な気がする。
「大丈夫よ、こっちに来なさい!」
カーミラ先輩がわたしの眼帯をペロっとめくると、眼帯から裏地をはがして再装着してくれる――。
「あっ、透けて見える!」
向こうが透けて見えるようになった!
「フフフ、ちゃんと実用性も考えて作ってあるのよ? これなら大丈夫でしょう?」
確かに! 透けて見えるからコレなら大丈夫……って、眼帯するのって訓練じゃなかったの!?
カーミラ先輩、魔法少女の能力を制限するような能力を持つ魔塊獣が出現した時のための訓練……とか何とか言ってたよね?
これじゃあただのコスプレ……あ、いやまあ、戦うなら、片目が見えない状態より、コレのほうがいいか? うん、危ないからね!
「さすがカーミラ先輩! これなら大丈夫ですね!」
カーミラ先輩の気が変わらないように、すかさず褒め称える!
えっ、それでいいのかって?
片目が見えなくなる眼帯して実戦なんて嫌だよ! コレでいいよもう!
と、カーミラ先輩とそんなやり取りをしていると、背後から強烈なプレッシャーを感じる!?
「ああ、あそこに居ました。探しましたよ、リリナさん……おやぁ? フヒヒヒ、よく似合ってますねぇ、その眼帯」
名前を呼ばれたわたしは、背筋が震えるような強烈なプレッシャーを感じながらゆっくり振り向く……と、そこには、なぜかルビーさんが!?
さらにその後ろには、いつぞや倉庫みたいな部屋で文庫本を読んでた技研の金髪一本おさげの魔法少女に、どこかで見たような黒灰色のローポニーの魔法少女と……多分、初対面のセピア色髪をハーフアップにした魔法少女!?
合計4人の魔法少女達が、ジーーっとわたし(眼帯付)を見つめている……。
な、なに、この辱め!?
イジめ!? 新手の新造ユニット、イジめなの!?
知り合いに痴態を見られたわたしは、中二可愛いと高揚していた気分が一気に消え去り、一瞬で耳まで真っ赤になる。
耳まで赤くなってるのが自分で分かるって……以下略!
「コ、コ、コ、コ、コ、コレは……」
「あら、あなたは分かってるようね! この眼帯、リリナによく似合っているでしょう? フフッ、私とお揃いなの!」
ニワトリのようにキョドってるわたしを尻目に、眼帯を装着済みのカーミラ先輩が、初対面のはずのルビーさんを相手に自慢げに胸を張る……さすが、(色々な意味で)ホンモノは格が違う!
「はい、お2人共、とてもよくお似合いですぅ。フヒヒ、リリナさんは、そのようなお年頃でしたか」
ルビーさん、違います! 誤解です! もう『そのようなお年頃』はとっくに卒業してます!
「さすがネコミミ着ぐるみ装着者は面構えが違いますね。この衆人環視の中、その恰好で平然としていられるとは……まさに中二病全開アクセルベタ踏みフルスロットル! 私にはとても真似できない豪胆さです」
金髪一本おさげの技研の魔法少女さん、心がえぐられるからやめて!
アクセル踏んだのわたしじゃないから! 隣に立ってる赤髪の眼帯娘だから! 誤解だから!
「先日はどうも、いや、その……よくお似合いですよ、リリナさん」
どっかで会った黒灰色のローポニーの魔法少女さん……って、思い出した!
情報部のクロウさんだ! って、違うんです! わたしの意思じゃないんです! 誤解なんです!
「お噂はかねがね……」
初対面のセピア色ハーフアップ魔法少女さん、どんな噂!?
ねえ、わたしのどんな噂聞いてるの!?
あと、そのコメントに困ったような顔すんのやめて!
得意満面な笑顔で胸を張るカーミラ先輩の手前、下手な言い訳をすることもできず、心の中で泣き言を言うしかないわたしであった……。
「ところで、貴女は、リリナさんと同じパーティーの方でしょうか?」
微妙な空気が流れる中、ルビーさんがカーミラ先輩に話しかける。
ちなみにルビーさんもカーミラ先輩も同じ赤・紅の髪なのだが、ルビーさんの方はワインレッドな感じである。
「ええ、『血の宣誓』のカーミラよ。リリナは私の後輩になるわ」
「なるほど、なるほど。わたくし、技術研究部のルビーと申します。よろしくお願いしますぅ」
ルビーさんはそう言うと、慇懃にカーミラ先輩に頭を下げる。
「それで、技研の方が、『血の宣誓』のリリナに何の用なのかしら?」
「はい。実は、リリナさんをご指名で強制任務が発行されましたので、お迎えに上がりました。パーティー活動中でしたら申し訳ありませんが、今日は戻れないと思います。ああ、戦闘任務ではありませんのでご安心ください」
戦闘ではない強制任務?
ルビーさんと、金髪一本おさげの娘が来ているってことは、技研絡みだとは思うが、この謎のメンバーだとどんな任務なのか想像できない。
「リリナに指名で強制任務が? そう……リリナは優秀だから仕方がないわね……」
カーミラ先輩は、わたしとルビーさん達を交互に見ながら、考え込むように仕草をする。
「分かったわ。リリナ、今日の特訓は中止よ。魔法少女としての義務を果たしてきなさい。戦闘任務でないなら大丈夫だとは思うけど、くれぐれも気をつけるのよ?」
「はい、カーミラ先輩!」
少し心配そうな表情になったのは、この前の魔力潮流動乱での強制任務のことを思い出したからだろう。
カーミラ先輩は、後輩思いの良い先輩なのだ! 中二病だけど……。
「じゃあ私は先に失礼させてもらうわ……あっ! 大事なことを言い忘れていたわ!」
帰りかけたカーミラ先輩が踵を返し、真剣な表情でわたしの目の前にやってくる。
「リリナ、眼帯を洗う時は、洗面器にぬるま湯を張って中性洗剤を溶かしてから、優しく手で押し洗いするのよ! 乱暴に洗うと型崩れするから、気を付けなさい!」
カーミラ先輩はそう言い残すと、眼帯を付けたままの姿で中央ロビーの魔法少女達の注目を物ともせず颯爽と歩いていく……。
さすがカーミラ先輩! これが『ホンンモノ』の貫禄である!
そんなこんなで、残されたわたし(眼帯付)と謎の4人組魔法少女達は、中央ロビーの魔法少女達の熱い視線とクスクス笑いを背中に受けながら、移動し始めるのである――。
えっと、この眼帯、もう取っちゃってもいいんだよね?
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