83話 代表委員会とかいうヤツ・後編
『女帝』こと、玲華さんを先頭に、代表委員会に参加した学級委員達がズラリと列をなして歩きはじめる。
何とかの巨塔の総回診みたいな有様だが、どうやらこの代表委員会の後に行われる集会(?)は恒例のものらしく、わたしと東雲くん以外のメンバーは普通に談笑している。
「澪さまがご出席なさるとは存じ上げず、先ほどは見苦しい姿をお見せしてしまい、申し訳ございませんでした」
まあ、わたしの学級委員就任は今朝決まったばかりなので(委員長って呼んでもいいよ?)、知らないのは当然だ。
「以後は『三枝本家の姉弟と、祖父に可愛がられている従妹』という設定で対応いたしますので、どうかご容赦くださいませ」
「三枝に敵対するような者は……いませんので、澪さまは、ご安心いただければ……」
さすが『女帝』と呼ばれるだけあって、玲華さんからは、さっきの怯えたような様子は完全に消え去っている。玲於くんの方は、まだちょっと態度がぎこちないけどね。
ちなみに、歩いているうちに、玲華さん・玲於くん・わたしの3人は、玲華さん達の取り巻きっぽい人達に囲まれ、他の学級委員達と分断されてしまっている。
そのため、玲華さん達の言葉は、わたしにしか聞こえない状態だ。
「よろしくお願いします」
何と返事しようか迷ったが、わたしとしては現界の事情、特に上級連中の話にまったく興味がない(だっていつ死ぬか分からんし)ので、玲華さんが良いようにすればいいと丸投げ。
軽く微笑んで頭を下げておく。
すると、玲華さんが明らかに安堵の表情に変わる……『今まで怖いの我慢してましたー』ってのが丸わかりで、地味にショックである。
『愛されるより恐れられろ』ってどっかで読んだ気がするけど、愛された方がいいに決まってるよね!
できればずっとミアに甘やかされながら、余生を過ごしたいものである!
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レストランの奥から、黒服の男達がガードする扉を抜けて向かう先は、いつぞや訪問した(※39話参照)三枝家の個室。広さとしては12人入ってもお釣りがくるレベルなので問題ないだろう。
黒服の男達が『三枝家』とプレートの付いた重厚な扉を開けると、以前の趣味の良い調度品とテーブル&ソファーの談話室ではなく、大きな天然木仕上げのボート型テーブルに重厚なエグゼクティブチェアが並ぶ、まるで会議室のような趣の部屋へと衣替えされていた。
さらに、メイド服を着たメイドさん(!)が6人。
わたしが魔法少女研修で着せられた、仕立ては良いがちょっとアレなメイド服ではなく、実用目的で仕立てられた本物だと一目で分かる立派なメイド服である。
中身の方(メイドさん本体)も、その所作は流麗ながら目立たず、それでいて礼を失することもない、完璧な本物のメイドさんである。
さっきの代表委員会の会議室とは違い、席順が決まっているようで、一番奥の右側に玲華さん、その向かい側に玲於くん。それ以外の生徒は、制服と背丈から察するに学年順に並んでいるらしい。
一番学年が下の、わたしと東雲くんは、一番下座のテーブルに向かい合わせの席に着く。
三枝家ということで特別扱いされたら面倒くさいなあと思っていたので、普通の下級生として扱ってくれるのは助かる。玲華さん、分かっていてくれて助かるわ。
全員が席に着くと、メイドさん達が流れるような所作でコーヒーとお茶菓子を配膳していく。
「それでは、これより懇親会を始めさせていただきます。皆さま、本日は代表委員会・懇親会へのご出席、誠にありがとうございます」
メイドさんの配膳が終わると、玲華さんが凛とした声を上げた。
「まずは、今年度より新たに学級委員に就任されました、中等部1年の三枝理奈さま、そして榊原慧斗さまをご紹介いたします」
龍鳳学園特別クラスでは偽名(白銀澪、東雲怜)を使用するというルールをガン無視しての、本名での紹介である。
名前を呼ばれると、東雲(榊原慧斗)くんが自然に立ち上がったので、わたしもそれに合わせて立ち上がる。
「まずは、三枝理奈さまから。理奈さまは三枝本家の従妹として、今後も特別クラス・代表委員会の一員としてご活躍されます。祖父・三枝剛造が大層可愛がっている愛孫ですので、皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」
玲華さんは、優雅な所作で手を添え、わたしを示した。
その言葉は、紹介というより『メッセージ』だ。
『三枝理奈は三枝本家の保護下にあり、当主・三枝剛造が特別に目をかけている孫娘である』という、出席メンバーへのメッセージであると同時に、『三枝は最大限の配慮をしています』という、わたし(千桜)へのメッセージだ。
まあ、わたしとしては実際ありがたいし、面倒事に巻き込まれなくなるなら何でもいいので、出席メンバーに対して軽く会釈する。
「玲華さまにご紹介いただきました、三枝理奈です。以後、お見知りおきくださいませ」
三枝家のお嬢さまの1人として振る舞わなくちゃいけない感じだったので、やってみる。
一応、魔法少女研修では『お嬢さまとして振る舞えるように』厳しい訓練を施され、1位で修了した(2人しかいないけど)身。この程度の会合で尻尾を出すことはない! 多分……。
「「はわぁ…………」」
2人程、陶酔したような表情でわたしを見つめてくる。
さすが超上級の猛者、認識阻害をある程度無効化して、わたしのことが凄い美少女にでも見えているのだろう……。
「理奈さん、ありがとうございます。次に、榊原慧斗さまをご紹介いたします。歴代、優秀な財務官僚を輩出してきた榊原家の長男である榊原慧斗さまは、今後、特別クラス・代表委員会の一員としてご活躍されます。皆さま、どうぞよろしくお願いいたします」
玲華さんの紹介に、東雲(榊原慧斗)くんが軽く会釈する。
「玲華さまにご紹介いただきました、榊原慧斗です。今後とも、よろしくお願いいたします」
東雲(榊原慧斗)くん……というか榊原家のことは、この場に居るメンバー全員が知っているようで、皆が肯いている。
ピラミッド構造の上部って狭くて濃い人間関係になるから、みんな知り合いとか縁戚とかになるんだよね……。
今さらだけど、確かアンナも榊原家(現界名:榊原杏)だったよね?
もしかして、東雲(榊原慧斗)くんと縁戚とかじゃないか?
色々言い訳に使ってるから、親交があったりするとちょっと困るんだけど……。
なんてことを思っていると、新しくメンバーになった東雲(榊原慧斗)くんとわたしに向けてだろう、玲華さんの自己紹介が始まる。
次に、玲於くんが自己紹介を行い、その後は最上位学年の生徒から順番に自己紹介が続く。案の定、今の日本の政治・経済を動かしているトップ連中の子息・子女ばかりだ。
どうも、この懇親会では、そんな日本の政治・経済を動かしているトップ連中の子息・子女の先輩方ではなく、玲華さんがリーダーシップを発揮しているようだ。
三枝家の威光なのか、本人のカリスマなのか、はたまたその両方なのか分からないが、超上級の子息・子女を前に堂々と場を仕切る姿は、『女帝』の名に恥じぬ見事なものだ。
とても、わたしの前で震えていたカワイ子ちゃんとは思えぬ化けっぷりである。
その後は、雑談と会議の中間みたいなモード。まあ懇親会だからね。
代表委員会で伝えられた学園の行事についての話から始まって、昨今の国際問題や政治・経済の雑学的な話など、色々話をしたんだけど、みんな頭の回転は速いし知識も豊富、ユーモアもあって凄く優秀!
突然、先輩方の1人に流麗な一般米音(標準的な米語)で話しかけられ、咄嗟に同じ一般米音で応答したのだが……。
それが先輩方の癇に障ったのだろう。
何人かの先輩方が、とても中高生レベルとは思えない流暢さで、北京語、スペイン語、フランス語でそれぞれ話しかけてくる。
いやいや、キミたち、ちょっと大人気ないよ?
幸い、『刷り込まれた知識』で主要言語はネイティブレベルで使いこなせる。
ちょっとチートだが、新入生イジめっぽいので反撃することにし、先輩方以上に流暢に各言語で応答する――嫌味の一つでも言われると思ったら、みんな盛り上がり、ユーモアたっぷりに、それぞれ得意の言語で大絶賛されてしまった!
ただ、優秀は優秀なんだけど、全員、どっかブレーキがぶっ壊れてるっていうか、片側に突き抜けててどっか抜けているというか、『特別クラス』送りになった理由が分かるようなエキセントリックな人達なんだよね。
例えば、資金を自分達で調達して学園側から独立した自治組織をつくり、学校行事は外部からも人を呼んで大規模な商業イベントにしよう――とかね。
このメンバーが主導するなら可能だし、学園側の提示した企画より断然面白くなるのは間違いない。全国的なイベントにすることも可能だろう。
結構良さそうでしょ?
でもさ、ここ、一般社会に置いておくのがマズいと判断された問題児が送り込まれる『特別クラス』だよ? 許可されるわけないじゃん!
わたしが『学園側が扱いに困って家に連絡されるよー』って言ったら、一瞬『?』という空気が漂った後……何かを思い出したように黙った。
全員、特別クラスが隔離施設で、自分達が実家の指示で一般社会から隔離されてるってことを失念してたらしい……。
何ていうか、才気溢れる変人より、凡夫の方がまだマシなんじゃね? と思わせるエキセントリックさなんだよ。『特別クラス』の『特別さ』を、あらためて思い知らされたわ!
ちなみに、東雲(榊原慧斗)くんは、ここのメンバーに馴染んでいた。
東雲(榊原慧斗)くんも、かなーり極端な性格だから話が合うのかなぁ。
このメンバーと話が合うのって……ちょっと東雲(榊原慧斗)くんとの関係は、考えなおしたほうがいいかも、と思ったのは秘密。
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あまり深入りするつもりはなかったんだけど、何だかんだ雑談しているうちに、エキセントリックな先輩達と結構仲良くなって……というか、雑談会議が終わり、席の移動が解禁された直後に、強制的に仲良くさせられてしまっていた。
否応なくお近づきになってきたのは、高等部1年の三宅寿々さんと、高等部3年の橘菫さん(偽名の方は知らん!)である。
そう、自己紹介の時に、わたしのことを陶酔した表情でジロジロ見ていた2人だ。
三宅寿々さんは、淡い茶色の外ハネしたセミロングの髪に、杏色の瞳の、表情は柔らかいのに目つきだけ妙に鋭い娘で、地方銀行・本家のご令嬢。
橘菫さんは、黒紫のストレートロングの左側を編み込んだ髪型に紫紺色の瞳の、優しいお姉さんタイプの娘で、大っきな商社の社長令嬢。
2人共、席の移動が解禁された途端に、わたしの左右へ自分のイスを強引に移動させてきた猛者で、今は、左右の掌を片側ずつ握られ、なでなでされているという、男子がやったら完全にセクハラ事案な状態である。
「はぁぁ、理奈さま、とても、とても、とても、とても、とても、とても、とても、可愛いですわぁ♡ ずっとずっと……ああ、永遠に眺めていたくなってしまいます♡」
左に座った寿々さんは、わたしの左手を両手でなでなでしながら、ウットリした表情でわたしの顔をガン見してくる。
「ああ、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い……理奈ちゃん、理奈ちゃん、理奈ちゃん、理奈ちゃん、理奈ちゃん……ああ、わたしの天使ちゃん♡」
右側の菫さんはというと、わたしの右手を両手でにぎにぎしながら、熱に浮かされたような表情で背筋がゾゾっとするようなことを呟いている……。
2人が女子でよかった。
男子だったら多分反射的にぶん殴ってたわ!
えっ、差別じゃないよ、区別だよ?
「ああ……理奈さまぁ♡」
「わたしの天使ちゃん♡」
わたしの掌を左右からなでなでしていた2人は、お互いに目を合わせると、何かを分かり合ったかのようにうなずき合う。
「理奈さま♡ わたくし達の天使さま♡」
「天使ちゃん♡ わたし達の理奈さま♡」
左右を挟まれ、逃げるに逃げられず、左右の2人に愛想笑いを浮かべていたわたしは、助けを求めようと三枝姉弟へ視線を向けたのだが――2人に、スゥーっと視線を逸らされてしまった!?
えっ、助けてよ!
わたしの学生生活に協力してくれるんじゃないの!?
「ええと、ふ、2人とも落ち着いて……逃げないから! え、ええと、そうだ! ID交換しましょ! ID! ね?」
「「する!!」」
仕方がないので、自分で解決しようと2人に話しかけると、コンマ1秒でスマホを取りだした……怖いよ、この2人。
とりあえず両手が空いたと思ったのもつかの間、ID交換が終わると、2人共さっきと同じ状態に……。
「ああ、理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡」
「天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡」
わたしの手を握って、完全にイっちゃってる目でブツブツ呟く2人にガン見されていたが、しばらくして耐性(?)がついたのか、段々と落ち着いてくる。
どうどう……。
両手は2人に握られたままだが、何とかなだめすかして話ができる状態まで持っていく……。
「んんっ。お許しください、わたくし少々取り乱してしまったようです。理奈さまを拝見した時、雷に打たれるような衝撃でしたの……このような事、初めてで我を忘れてしまいました。ああ、理奈さま♡ 理奈さま♡ 理奈さま♡」
寿々さんは反省した表情で謝罪してくる。わたしの左の掌をなでなでしながら……。
「わたしも同じです! 理奈さんを一目みた時、一瞬で世界が色づいたような衝撃を感じました! 天啓……そう天啓を感じたんです! ああ、わたしの可愛い天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡ 天使ちゃん♡」
菫さんは、瞳をキラキラ輝かせてカルトじみたことを言い始める。わたしの右の掌をなでなでしながら……。
どうもメタルチョーカーの効果に、問題があるようだ。
故障しているのかもしれないので、ルビーさんにチェックしてもらおう……。
とにかく、しばらくすれば耐性(?)がつくっぽいことは分かったので、わたしの顔を眺めていれば、そのうち落ち着くだろう。多分……。
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左右から掌をなでなでされながら、2人の強烈な自己アピールを聞かされ、わたしの方も当たり障りのない身の上話(三枝理奈のカバーストーリー)をし終わったくらいになって、ようやく普通の(?)カルトの信者、くらいのノリに落ち着いてくる。
「――それで三枝の御当主さまの配慮で、理奈さまは特別クラスへ転入してこられたのですね! 理奈さまと、このような所で巡り合えるなんて、ああ、わたくし達は、なんて幸運なのでしょう!ねえ、菫さま!」
「はい、寿々さん! 何でこんな忌まわしい隔離施設へ追いやられなくてはいけないのだろうと思っていましたが、全てはわたし達と天使ちゃんが巡り合うためだったのですね! 嗚呼、これは間違いなく天啓です!」
いや、これでもマシになった方なんだよ?
さっきまでは、何を話しても最後は賛辞ループで会話にならなかったんだから!
ちなみに他のメンバーが近づこうとすると、左右から寿々さんと菫さんがシャーと毛を逆立てて威嚇するので、わたし達3人周りには誰も居ない。
東雲(榊原慧斗)くんは他のメンバーと楽しそうに歓談しているのに……。
寿々さんと菫さんの2人以外のメンバーとは、ろくに話をすることもなく、ダラダラと2人と雑談しながら時間が過ぎていったのであった――。
・橘 菫(本名)/相馬 華音(偽名)
黒紫ストレートロングを左側で編み込んだ髪、紫紺色の瞳、優しいお姉さんタイプ
新興の大手商社・橘トレーディングの社長令嬢
・三宅 寿々(本名)/天城 香奈(偽名)
淡い茶色のセミロングの髪、杏色の瞳、目つきが鋭い娘
大手地方銀行・三宅銀行の本家の令嬢
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