82話 代表委員会とかいうヤツ・前編
「本日の授業は終了です。東雲さんと白銀さんは、この後の代表委員会への出席をお願いしますね。それではみなさん、放課後もルールを守って過ごしてください」
「起立!」
帰りのHR。
黒縁メガネの近衛先生が落ち着いた声でHRの修了を告げると、真面目系イケメンの東雲くんが号令をかける。
転入当初は、起立するのはわたしと東雲くんだけだったのだが、今はわたしのファンだと言ってくれている純情不良の真壁くんが、一緒に立ってくれるようになった。
わたしに気を使ってくれているんだと思うけど、まあそれって普通だよね!
ちなみにミアを始め他のメンツは、相変わらず担任の近衛先生をガン無視である……。
「礼! 着席!」
東雲くん、わたし、真壁くんの3人が近衛先生に礼をして着席する。
「澪は本当に学校ゴッコ好きよね?」
隣の席のミアが、呆れたような声を上げる。
「えへへ。マンガでずっと憧れてたから楽しいよ?」
いや、『学校ゴッコ』じゃなくて本物の『学校』だから! と思ったが、ツッコまない。
なぜなら相手はミアだからだ!
「澪、今日は代表委員会に行くんでしょ?」
そう、龍鳳学園特別クラスも一応教育機関であるため、代表委員会みたいなものがあるらしいのだ。
毎月1度、各学年の男女の学級委員が出席して開催され、中等部の1年生は5月から参加する決まり……らしい。
そしてなんと、わたしと東雲くんが学級委員として代表委員会へ出席することになったのだ!
何ともビックリであるが、突然の学級委員就任である!
実際は、誰も学級委員をやりたがらないので、今朝のHRで近衛先生が決めた結果なのだが……。
「うん! 凄いでしょ! わたし学級委員だよ! 委員長って呼んでもいいよ?」
「はぁ……そんな面倒なモノになって喜んでるのは澪とアレくらいよ?」
ミアと東雲くんは犬猿の仲で、お互い名前を呼んだのを聞いたことがない。
ミアは東雲くんを『アレ』扱いだし、東雲くんはミアに直接話しかけられてもガン無視である……。
「えー、委員長だよ? 委員長! マンガみたいで凄くない?」
リアル中学時代は、たしかロッカー管理委員(え、何するのかって? 何かした記憶はないな……)だったので、学級委員とかってちょっと憧れてたんだよね!
「澪、マンガもほどほどにしておきなさい。委員長なんていっても、結局クラスの雑用じゃない。あたしなら、放課後の貴重な時間をクラスの雑用に使われるなんて、ギャラを貰っても絶対お断りだわ!」
いやいや、学校活動にギャラは出ないから……。
まあ、忙しいミアなら分からないでもないけどさ。
「でも、代表委員会って何か凄そうじゃない? 『特別クラス』の中等部から高等部までの学級委員が一堂に会して会議するんだよ!?」
ポイントは『特別クラスの学級委員』というところだ。
家の格は『特殊クラス』の連中の方が上っぽいけど、今の日本の政治・経済を動かしてるのは、間違いなく『特別クラス』の親族連中。
今は学生とはいえ、将来的には確実に日本の政財界に影響を与える人間たち11人(わたしを除く)が一堂に会して会議だ。
マンガみたいに、学園側も手を出せない強大な権力を持った生徒会とかがあるかもしれないし、是非とも見物しておきたい!
「はぁ……澪の夢を壊すみたいだけど、特別クラスには生徒会なんてないんだから、会議っていっても、学園側から決まったことを聞いてくるだけよ?」
「えっ、そうなの!? 凄っごい力のある生徒会が学園を牛耳ってるとかじゃないの!?」
日本を動かす超上級の子息・子女が通う特別クラス……当然そういう組織が出来てると思ったんだけど違うの!?
「マンガ好きはいいけど、マンガ脳って言われちゃうわよ。いい? 特別クラスの生徒って、みんな相応の家の人間なのよ。ちょっとした事でも、将来まで禍根を残す可能性だってあるわ。そんなリスク、誰も負いたくないわよ!」
ああ、なるほど。
ちょっとしたいざこざでも、将来的には日本の政治経済まで影響を及ぼす可能性があるのか……そら、リスクしかないわ。
「はぁ、澪ってどっかヌケてるから心配なのよね……」
し、失礼な!
どこもヌケてないよ? 多分……。
確かに、超上級の連中のことなんか全然知らんけどさぁ……。
「今日は東雲と一緒なんでしょ? 何かあると大変だから、コレを持っていきなさい!」
そう言ってミアが渡してきたのは、防犯ブザーだ。
紐を引っ張ると大音量で警報音が鳴り響く、よく小学生が持たされてるヤツ。
いやいや、コレをどこでどう使うんだよ!?
「さ、さすがに防犯ブザーとかはいらないんじゃないかなぁ……」
「はぁ、澪は本当にのんきねぇ! 真面目ぶってるけど東雲は危険な野獣よ! 澪は可愛いから、ちょっとでも隙を見せたら襲ってくる可能性が高いわ!」
いやいや、どんな確率計算したのよ? さすがにないでしょ!
自分で言うのもなんだが、色々スッキリした身体だし!
と、思ったものの、ミアに逆らえる訳もなく……。
「あ、ありがとう、ミアお姉ちゃん! 危なくなったら使うからね!」
「本当は、あたしが一緒に行ければいいんだけど、さっき近衛に『白銀さんに着いていかないように』って釘刺されちゃったのよ……」
さすがに、学級委員がお姉ちゃん(?)同伴で代表委員会に出席とか謎イベント過ぎる……。
近衛先生、グッジョブ! である。
「そ、そうなんだ……。大丈夫だよミアお姉ちゃん、何かあったら、防犯ブザー引っ張るね!」
と、とりあえず言っておくことにしたのであった――。
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「お待たせ! ごめんなさい!」
教室の外の廊下で、待っていてくれた東雲くんに頭を下げる。
「いえ、問題ありません。白銀さんが、アレと仕事をご一緒にするという話を伺いました。無碍にもできないでしょう。色々気苦労が多いご様子、お察しします」
ミアとVチューバ―デビューするかもしれないという話のことだろう。
真壁くんと水無瀬くんには話していたが、東雲くんが知っているとは思わなかった。
クラスメイトとお喋りしている様子もないのだが、東雲くん、意外に情報通である。
「それは、まだ決まったって訳じゃないんだけど…………っ!?」
突然、後ろから強烈なプレッシャーを感じ振り返ると、ミアが東雲くんを睨んでいる、凄い眼力で……。
「………………」
「フンっ!」
気配を察知したのか、わたしと同じように後ろを振り向いた東雲くんが、威圧するように鼻を鳴らすミアと睨み合う……犬と猿(どっちがどっちとは言わないけど)が一触即発状態である!
「し、東雲くん、そろそろ行こうか?」
ミアと東雲くんが物理的に衝突する前に移動した方がいいだろう……。
「いい澪? 危なくなったら、躊躇しないで引っ張るのよ!」
「わ、分かったよー!」
ミアにバイバイと手を振って、わたしと東雲くんは会議室へと向かったのであった――。
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初めて訪れた会議室は、特別クラス校舎の最上階にある、やや広めの4方に入口のある円形ホールのような部屋だ。
穏やかな音楽が静かに流れる部屋は、淡いクリーム色の壁に落ち着いた木目の床。
中央には円卓が置かれ、12の椅子が均等に配置されている。
円卓の12騎士みたいでカッコ良い! と思ったんだけど……。
学園側で生徒に順列をつけて、後から生徒の実家から抗議されたりしないように円卓にしたんじゃない? と勘ぐってしまう。多分正解だろう。
各々の席には埋め込み式のモニターが設置されており、それで資料などを見ながら会議ができるっぽい。豪奢な造りの円卓もそうだが、色々無駄に金がかかってるなぁという印象。
座り心地の良さそうな椅子は高ポイントだけどね!
結構早めに来たはずなのだが、すでに男女2組、4人が席に着いている。
1組は赤いブレザーなので高等部の生徒だろう。
もう1組は赤いセーラー服に赤い学ランなので中等部……って男子の方は、王子ちゃまこと三枝玲於くんだわ。ええと、学園の偽名の方は忘れちゃった!
玲於くんは、コッチをチラっと見て、慌てて目を逸らせガタガタ震え始める!?
いや、ええと、そんなに怖がられるのは、かなり心外なんだけど……千桜、どんな非道な脅しかけたのよ!?
まあ、わたしのせいじゃないので放置……というか、何もできん。
「これって、どこに座ればいいんですかねえ?」
「事前に調べた限りでは、到着順に好きな席に座ればいいらしいですよ。学園側が下手に席順を決めるのはよくない、という判断のようですね」
ほほう、さすが真面目系イケメン東雲くん。事前に調べてたんだ。
そういうことなら好きに座らせてもらおう。
そう言えば、教室の席も自由だったな。学園側としては、リスクヘッジという面から、これくらいの配慮はしておかないとマズいのかねぇ。
上級面倒臭いなぁ……。
結局、先着2組の中間あたりに座る。
不安そうな表情でチラチラこちらを窺う玲於くんに、ニッコリ笑って会釈してみたんだけど……今度は完全に目を逸らせて、さらにガクガク震えだした!?
いや、なんか、結構不愉快というか、こんな怖がられちゃうと『じゃあ、もうちょっと脅かしちゃおうかなー!』って気分になっちゃうよね。
ホラーに出てくる怪人の気持ちが少し分かったわ(脅かさないけども!)。
しばらく東雲くんと昨今の当たり障りのない国際問題や政治経済、新技術の話などしながらダベる。
東雲くんは、オッサンリーマンの世間話が普通にできるので話題に困らなくていいなぁ、などと思っていると、ゾロゾロと赤服達が入ってくる。と言っても6人だけど。
赤セーラーの1人は、『女帝』こと、玲於くんのお姉ちゃん、三枝玲華さん(玲華さんの方の偽名も、綺麗サッパリ忘れちゃった!)だった。
上級生まで玲華さんを取り囲んで、お喋りしている。仲良しそうでちょっと羨ましい。
この後、懇親会とかあるのかしら?
一瞬目が合ったので、玲華さんにも笑顔で会釈する。
さすがにお姉ちゃんだけあって、目を逸らせて震え出すようなことはなかったが……あからさまに顔を引きつらせて強張った笑顔で会釈し返してくる。
仲良くしたいのに、ここまで怖がられるのはちょっと悲しい。
そろそろ開始時間という時に、黒髪ショートにスーツ姿の30代前半と思しき教員らしい女性が会議室へと入ってくる。結構な美人さんで、秘書っぽい感じ。
彼女が部屋の隅にある独立したスペースに座ると、音楽が消える。
「私は司会を務める特別クラス監督教員の御影綾女と申します。よろしくお願いします。それでは、代表委員会を始めます」
こうして、学級委員として(委員長って呼んでいいよ?)、初の代表委員会が開始されたのであった――。
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「――それでは、代表委員会を終了します。紙資料は各自お持ち帰りください」
こうして、学級委員として(委員長って呼んでいいよ?)、初の代表委員会が終わったのであった――。
いや、なんつーの、ミアの言う通り、本当にただのクラスの雑用だったわ。
何かこう、新しい案を出して検討したり、新案の質疑応答をしたり、多数決を取ったり……そんな『会議っぽいこと』をするのかと思っていたんだけど、実際は会議なんてなくて、御影先生の説明を聞いて、質問がある人が手を挙げるだけ。それで終わり。
多分だけど、学園側は『特別クラス』に自治をさせない方針なんだと思う。
日本の政治・経済を動かしている超上級の子息子女が集まる『特別クラス』。
しかも、その子息子女達は、世間から隔離しなくちゃいけないレベルの、導火線に火がついてるような問題児ばかり。
そんな連中に自治なんかさせて、万が一にも問題が起きたら……と考えるのは、まあ普通だろう。
結局、代表委員会では、遠足や社会見学、体育祭や文化祭など、学校の年間行事の説明を一通り受けただけ。帰りに紙資料(脱デジタル教育らしい)を貰ってお終いである。
しかも、全ての『特別クラス』生徒にはデジタルで資料が送られる(もう、どこが脱デジタル教育なのかよく分からんな)ので、クラスで説明する義務もない……という、完全に『代表委員会を開催しました!』というだけのイベントであった。
何だか拍子抜けしながら、他の学級委員達と一緒に会議室前のロビーへ向かうと――そこには、三枝姉弟を中心に、学級委員の先輩方が待ち構えている!?
「中等部1年生の新しく学級委員になられたお2人に、他の学級委員の皆様をご紹介いたします。場所を変えましょうか?」
先ほどの動揺した様子を完全に消し去った『女帝』こと、玲華さんが、微笑みながらも有無を言わさぬ口調でそう言った。
前も後ろも、各学年の学級委員に囲まれた状態。
とても拒否できる感じではない。
まさか、会議室を出てからが本当の代表委員会だとは、まったく予想していなかったのである――。
代表委員会とかいうヤツ・後編 へ続く!
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