81話 小田原ベース建設計画・後編
深夜の鏡界、OD04エリア、小田原駅周辺――。
『六本腕』達に徹底的に破壊されていたはずの小田原駅周辺も、鏡界の謎の復元力(?)で、今ではすっかり元通りにビルが立ち並ぶ景色へと戻っている。
ちなみに、この辺りは『六本腕』の襲撃を受けた場所とは少し距離があるので、トラウマ的な嫌な思い出はない。
「はーい、ではベースの建設を始めますので、『ブルーライン』のみなさんは襲ってきた魔塊獣の迎撃を、『血の宣誓』のみなさんは、我々工兵課メンバーの護衛をお願いしまーす!」
この任務のリーダーである、工兵課のボーイッシュな魔法少女が宣言し、移動が始まる。
普通の魔塊獣は扉のある建物には入ってこないのだが、地上から地下街を通じて扉なしで入れるような場所だと、ゴブリン級やマイナービースト級(全高1m、全長2mの獣タイプ)の小型魔塊獣が居る可能性もあるため、護衛は継続。
先頭が『ブルーライン』の4人、続いて『血の宣誓』の前衛2人、その後ろに工兵課の魔法少女6人、最後尾に、わたし達『血の宣誓』の後衛3人という順番で、地下街を通り、小田原駅近くの商業ビルの地下へと向かって出発する。
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「あの、リーダーさん、ベースができるまで2時間くらいなんですよね? 工兵課の人達が魔法で作るんですか?」
出撃前のミーティングでは、基地の建設にかかる時間しか聞いていなかった。
どうやってベースを建設するのか気になり、階段を降りながら工兵課のリーダーさん――中性的な雰囲気の、ホストっぽいショートカットの魔法少女に話しかけてみる。
「ああ、ツインテールちゃんは今期の新造だったっけ。私達はコレを組み立てて操作するだけ。あとは勝手にベースが出来上がるの。私も原理なんか知らないから、魔法だって思っておけばいいんじゃない?」
工兵課のリーダーさんは、自分達の背負う荷物を指差して爽やかに笑う。
「はあ。ベース製造用の魔法具……みたいなものなんですか?」
「うーん、コレを組み立てると『オラクルデバイス』ってのになるの。それを操作すると、入力した通りのベースを作ってくれる。『オラクルデバイス』って新しく購入すると凄っごく高いから、別のベースのを分解して運んできたってわけ」
「えっ!? 持ってきちゃって大丈夫なんですか!?」
「戦略再配備で廃止予定のベースからだから大丈夫」
千桜って、戦略再配備(戦力・装備の移動・再編)なんかやってるんだ……。
「『オラクルデバイス』でベースが出来たら、それで任務は終わりですか?」
「いやいや、ベースができたら、あの娘達が持ってきてる『転移装置』と『マギト炉』を設置するんだよ」
リーダーさんが、前を歩く工兵課の魔法少女の背中を示す。
「ここまでで2時間ってとこ。ツインテールちゃん達の任務はそれまでだね。『転移装置』が起動した後は、転移で他の設備を持ってきて設置していくって感じだね。これも大体24時間もあれば終わるかな」
なるほど、『転移装置』が稼働すれば、わざわざ歩いて運んでくる必要はないもんな。
「建設っていうより、引っ越しみたいな感じですね」
「うん、ココのは引っ越しだね。普通は建設予定地で『オラクルデバイス』含めて全部新しく購入するんだけど、凄い額のMGがかかるからね。今回は静岡まで沢山ベースを建設するみたいだから、MGを節約してるんじゃないか?」
結構大規模な戦略再配備みたいだ。
黒狼戦に聖導連盟の奇襲、さらに魔力潮流動乱で、千桜の戦力はかなり減っているはずだ。
アンナも魔法少女の製造が始まるみたいなことを言っていたので、本格的に戦力の補充をするのだろう。
「今回みたいに、『オラクルデバイス』の移動の任務は他にもあると思うから、また一緒になったらよろしくね」
リーダーさんが、そう言って微笑んだ――。
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地下3階、設備室の奥まった壁際。
組み立て作業に入った工兵課の6人の周囲を『血の宣誓』の5人で守り、設備室の入り口を『ブルーライン』の4人が守るという配置。
ぶっちゃけ、建物の中に入ってからは1匹の魔塊獣も見ていないので、一応の警戒だ。
そして、工兵課の6人が『オラクルデバイス』を組み立て始めてから小一時間――。
中央部のクリスタルっぽい部分が薄っすら光を放つ、全高120cm・全幅70cmほどの、こじんまりとしていながら何ともファンタジーっぽい魔法具(?)が出来上がる。
「よしっ! 完成~!」
リーダーさんが声を上げる。
ちなみに、3mほど離れた場所から見ていたんだけど、組み立てはプラモより簡単そうで、ネジを締めることもなく、部品同士を近づけると勝手にくっついていくという謎のシステムであった。
「なんだか、結構簡単なもんなんですね?」
「はぁぁ、これだから素人は……」
思わず率直な感想を呟くと、リーダーさんが大きなため息交じりに説明を始める。
「あのね、本来『オラクルデバイス』ってのは、分解したり組み立てたりするものじゃないの! 高ランク魔法少女の権限で購入して、その場で使用するってのが前提の、オーバーテクノロジーの塊みたいな魔法具なの!」
多分、エリカさんに『これ以上掘り下げないほうが賢明』と注意された『黒い男』絡みの技術なんだろう。
「そんなデリケートな魔法具を分解するには、1つ1つの部品に合った固有波長で魔力共鳴させなくちゃいけないわけ。まあ、これは概略図を提供してもらったからできたんだけど……そして、組み立てる時は逆。全部の部品に、分解した時とは反対ベクトルの固有波長で魔力共鳴させながら、1つ1つ組み立てていかないといけない。これがどれだけ大変なことなのかは、魔力を扱う魔法少女なら分かるでしょ?」
すいません、さっぱり分からないです!
だってわたしの『フォーサイト』って、発動すると適当に魔力消費していくだけだもの。
魔力共鳴とかもよく知らんし……。
だが、そんなことを言える雰囲気ではないので、日和見主義で温厚な日本人であるわたしは、無条件に謝罪することにしたのであった。
「そんな凄いことをやってたんですね! 何も知らない素人が失礼なことを言ってしまい、大変申し訳ありませんでした!」
『ふんす』と腰に手を当てて説明してくれたリーダーさんに、平身低頭謝っておく。
説明の内容も凄さもまったく理解できてないけど、頭を下げるのはタダなので、とりあえず謝っておくのだ!
「そう言えばツインテールちゃんは、この前生まれたばっかりだったね……ゴメン、ちょっと頭に血が上っちゃったみたい。悪かったわ」
わたしの誠心誠意(?)の謝罪に落ち着きを取り戻したのか、リーダーさんが謝ってくれる。
「前線組の連中って、工兵課ってだけで後方組扱いしてバカにする連中が多くてさ、仕事のことバカにされるとカッとなっちゃうんだ。工兵課だって前線に出てるってのに、アイツ等ときたら……あっ! ゴメン、ゴメン、一般魔法少女には関係ない話ね」
前線組と後方組の確執って、現場レベルであるんだな。
一般魔法少女のわたしには関係なさそうだけど、運営所属の魔法少女達は色々大変そうだ。
「じゃあ、そろそろベースの建設を始めるよ」
わたしが『オラクルデバイス』をどうなるんだろうと注視していると、他の『血の宣誓』の面々も興味津々といった顔で見つめていた。
魔法少女達が見守る(?)中、リーダーさんがしゃがんで、立体モニターのようなキーボードデバイスを表示させ、『オラクルデバイス』を操作する――。
「おお!」
『オラクルデバイス』が一瞬点滅すると、中空に、この建物とベースのワイヤーフレームの立体映像が映し出される。
「完成したところから、このワイヤーフレームが埋まっていくんだ。じゃあスタート!」
わたし達が見ているのに気づいたリーダーさんが説明しながら操作すると、『オラクルデバイス』が輝き始め――目の前の壁がグニャリと歪み、一瞬でエレベーターの入り口が形作られる!?
「おおおーーっ!?」
その後、立体映像として映し出されたワイヤーフレームが、エレベーター部分から猛烈な勢いで立体的でリアルな画像へと書き換えられていく。
立体的でリアルな画像になった箇所が、ベースとして建設された部分なのだろう。
「はい、完成―!」
時間にして1分も経っていないだろう。
本当にこんなので、基地ができあがっているのだろうか?
「私達工兵課は中で、『転移装置』と『マギト炉』を設置してきますので、『血の宣誓』のみなさんは、ここで待機しててくださーい」
リーダーさんは、エレベーターパネルを操作する。
「『マギト炉』がなくても、エレベーターって動くんですね」
「うん。『マギト炉』がなくても基本的な機能は動作するよ。『転移装置』とか、動かない設備もあるけどね。じゃあ、後1時間くらいだから待ってて。帰りは『転移装置』ですぐ帰れるからね」
そう言うと、リーダーさんは工兵課のメンバーと一緒にエレベーターへ乗り込み、ベースの奥へと向かっていった――。
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1時間後――。
『血の宣誓』の5人で周囲を警戒しつつ適当に雑談しているうちに作業が終わったようで、工兵課の魔法少女が呼びに来てくれた。
その後は簡単。
エリカさん達『ブルーライン』のメンバーと一緒に、設置の終わった『転移装置』に登録し、Y08ベースまで転移して任務報酬を受け取ってお終い。
行きの苦労が何だったんだろうと思うほど楽チンな帰路であった。
「みんな、今日はお疲れさま!」
任務の清算を終え、Y08ベースの中央ロビーに集まっていた『血の宣誓』のメンバーに、リーダーであるリレッタが声をかける。
「報酬の20%はパーティー貯金として預かってる。各自マギリングで確認しておいてくれ!」
ここら辺は不正ができないように、メタルチョーカーと連動したマギリングのパーティー機能で入出MGの履歴が確認できる。
魔法少女なんて外見は可愛らしい美少女だけど、中身はみんな魔法少女にされたようなクズ連中。
報酬で不正なんかしたら、魔法を撃ち合う血みどろの殺し合いが始まってもおかしくないので、必須の機能だろう。
「エステラを加えての実戦でのコンビネーションも確認できたし、今回の任務は大成功ね。これからは本気で千桜のトップパーティーを目指すわよ。気合いを入れなさい!」
「はいはい。でも、エステラちゃんは大活躍でしたね! 偉い、偉い!」
エリカさんの言葉に触発されたのか、カーミラ先輩は覇気に満ちた表情で天にこぶしを突き上げて『トップパーティー目指す宣言』をした――したのだが、セラ先輩はサクっと流してエステラの頭をなでなでしている……。
いや、今、セラ先輩、カーミラ先輩渾身の『トップパーティー目指す宣言』をサクっと流したよね、サクっと……。
こぶしを突き上げたまま固まっているカーミラ先輩、無言であらぬ方向を見ているリレッタ、ニコニコしながらエステラの頭をなでなでしているセラ先輩、そしてエステラは気持ちよさそうに撫でられるままになっている……。
いや、完スルーって、カーミラ先輩が可哀そうじゃない!?
「カーミラさんて、漲るといつもあんな風になっちゃうの。真面目に相手にすると、ホントに、ホント~~に面倒くさいことになるから、サクっとスルーするのが正解なのよ。大丈夫、しばらく放っておけば元に戻るわ。うふふふ」
妙な雰囲気にオロオロしていたわたしの耳元で、セラ先輩が小声で呟く。
うわぁ! セラ先輩、意外に黒い。
いや、口ぶりからすると、カーミラ先輩のせいで『ホントに、ホント~~に面倒くさい』ことに何度も巻き込まれたみたいな感じだけど……。
嗚呼、可哀そうなカーミラ先輩……。
「カ、カーミラ先輩、わたし頑張ります! トップパーティー目指して頑張りましょう!」
その場の凍り付いた空気に、何とも居たたまれなくなった心の弱いわたしは、固まったままのカーミラ先輩に声をかける。
いや、だって、居心地悪いじゃん!
「リ、リリナ……リリナは良い子ね……」
こぶしを突き上げたまま、ちょっと涙目で固まっていたカーミラ先輩がギギギと動きだし、ギュっとわたしを抱きしめる!?
おおっ、さすが何度も『強化』した身体、中2とは思えぬ何とも豊満な……って違う!
「いいわ、リリナ。2人だけでも頑張って千桜のトップパーティーを目指すわよ!」
「は、はい、カーミラ先輩?」
とりあえず2人だけでも、盛り上がっておく!
「はぁ、リリナちゃんたら、余計なことを……」
小さくセラ先輩の呟きが聞こえたような気がしないでもないが、何も聞こえなかったことにしよう――。
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その後、毎日のように、カーミラ先輩との2人っきり(他のメンバーは、なぜか全員欠席)の秘密のレッスン(魔塊獣狩り)♡ に呼び出されるようになるとは、まったく予想だにしていなかったのであった――。
教訓、先輩の忠告は真面目に聞こう!
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